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第100話 まさかの再会
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銀狼騎士団に入団して以来、午前中は戦闘や行進などの訓練を、午後は騎士として必要な知識の勉強に乗馬の練習という生活を送っていた。
そんなある日、Bランクの冒険者カードの準備ができたという報せが届いたので、午後の予定をスキップさせてもらって冒険者ギルドの総本部にやってきた。
さすが王都の総本部だ。これまでに訪れたどのギルドよりも大きい。だが時間帯もあって人はまばらで、これならばすぐに用事を済ませられそうだ。
俺は空いている受付に行き、声を掛ける。
「すみません」
「いらっしゃいませ、騎士様。冒険者ギルド王都総本部にようこそ」
「え……?」
その声を聞き、俺は思わず固まってしまった。
「ニーナさん?」
「え? もしかして、レクスくん? え? え? 嘘っ!?」
ニーナさんだ! やっぱりニーナさんだ! よかった! 無事だったんだ!
「はい! はい! ニーナさん! よかった! 無事で……」
するとニーナさんは曖昧な笑みを浮かべた。
「無事、じゃないんだけどね。でもまあ、なんとか生きてるってところかな」
そう言ってニーナさんは受付カウンターの下に隠れていた右手を上げた。
その腕は……なんと肘から先が……!
「あの……それって……」
「これ? スピネーゼでフォレストウルフに噛み千切られちゃったの」
ニーナさんはそう言って寂しそうに笑った。
「こんな腕じゃもう弓は使えないし、それに利き手だったからね。それで冒険者は引退して、今は二年間の期限付きだけど冒険者ギルドで働かせてもらってるんだ」
「そうなんですね」
「うん。それで? なんの用?」
「はい。冒険者カードができたって連絡を受けたので受け取りに来ました」
「そう。じゃあ今のカードをくれる?」
「はい」
俺はCランクの冒険者カードを手渡した。
「おっ! そっかぁ。すごいね。じゃあ、ちょっと待ってて」
ニーナさんはそう言って立ち上がると、右足を引きずりながら奥へと歩いていった。
……きっと、あの足もスピネーゼでやられたんだろうな。
それからすぐにニーナさんは冒険者カードを持って戻ってきた。
「はい、これ。Bランク昇格、おめでとう」
「ありがとうございます」
「レクスくん、銀狼騎士団に入るなんてすごいね。目標に一歩近づいたかな?」
「そうですね。まだまだですけど」
するとニーナさんは嬉しそうに目を細めた。
「まさか二人とも銀狼騎士団に入るなんて思わなかったなぁ」
「え? なんの話ですか?」
「えっ? テオくんも今銀狼騎士団にいるはずだよ? 見かけなかった?」
「えええっ!? 初耳ですよ?」
「そうなの? テオくん、入団試験を受けて合格したって喜んでいたからいるはずだよ? 今は寮に入ってるって話だし」
「そうなんですね。俺の寮では見かけてないですけど、探してみますね」
「うん」
「そうしたら二人で会いに来ます。そのときはご馳走させてください」
するとニーナさんはくしゃりと表情を崩した。
「あの小さい子供がこんなことを言うようになるなんてね~」
それからニーナさんは残った左手で目じりを拭う。
「でも、今回は私が奢るよ。入団祝い」
「ニーナさん……」
「せっかく目標に一歩近づいたんだからさ。私にお礼なんて言うのは全部成し遂げてからにしなさい」
「はい。ありがとうございます」
するとニーナさんはクスリと笑い、こう言った。
「ふふ。がんばれ、男の子」
◆◇◆
それから寮に戻ってくると、ちょうどメルクリオ卿が歩いていたので話しかける。
「メルクリオ卿」
「おお、レクス卿。こんなところでばったり会うとは奇遇ですな。今日の午後は休暇でしたかな?」
「はい。冒険者ギルドに用事がありまして」
「ああ、そういうことでしたか。おめでとうございます、でよろしいのですな?」
「はい。ありがとうございます。お陰様で昇格しました」
「それはそれは」
メルクリオ卿は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「それでですね。知り合いが銀狼騎士団に入ったと聞いたのですが、訓練で見かけていないんです。どうやって探せばいいかって分かりますか?」
「むむ? こちらの訓練に参加していないとなると、その者はおそらく入団試験で入団し、まだ一年経っていないのでしょう。一年経つまでは仮入団という扱いですからな」
「なるほど、そうなんですね。試験で入団したって聞きました」
「やはり。であればその者は今、マリノにある若葉寮にいるはずです」
「マリノ?」
「ええ。マリノはご存じで?」
「いえ」
「マリノは、テレゼ川の河口にある港町です」
テレゼ川というのはここレムロスを流れている川の名前だ。
「なるほど。どうしてマリノにあるんですか?」
「マリノのほうが広いですからな」
ん? どういうことだ? この訓練場は午後は使っていないんだし、ここで訓練すればいいんじゃないか?
するとメルクリオ卿はまるで俺の心の中を読んだかのように的確な説明をしてくれる。
「ははは。人数が違いますからな。入団試験で入団した者の九割以上は訓練に耐えきれず、一年以内に脱落するのです。そんな者たちのためにレムロスに広い訓練場を建設するなど無駄ですからな」
「なるほど……」
「もし気になるのでしたら、手紙でも書いてみてはいかがですかな? 事務局に渡せば届けてもらえるでしょう」
「わかりました。そうしてみます」
「うむ。まだ脱落していないといいですな」
「……そうですね。でも、手紙は出してみます」
こうして俺はメルクリオ卿と別れ、手紙を書きに自室へと戻るのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/24 (土) 18:00 を予定しております。
そんなある日、Bランクの冒険者カードの準備ができたという報せが届いたので、午後の予定をスキップさせてもらって冒険者ギルドの総本部にやってきた。
さすが王都の総本部だ。これまでに訪れたどのギルドよりも大きい。だが時間帯もあって人はまばらで、これならばすぐに用事を済ませられそうだ。
俺は空いている受付に行き、声を掛ける。
「すみません」
「いらっしゃいませ、騎士様。冒険者ギルド王都総本部にようこそ」
「え……?」
その声を聞き、俺は思わず固まってしまった。
「ニーナさん?」
「え? もしかして、レクスくん? え? え? 嘘っ!?」
ニーナさんだ! やっぱりニーナさんだ! よかった! 無事だったんだ!
「はい! はい! ニーナさん! よかった! 無事で……」
するとニーナさんは曖昧な笑みを浮かべた。
「無事、じゃないんだけどね。でもまあ、なんとか生きてるってところかな」
そう言ってニーナさんは受付カウンターの下に隠れていた右手を上げた。
その腕は……なんと肘から先が……!
「あの……それって……」
「これ? スピネーゼでフォレストウルフに噛み千切られちゃったの」
ニーナさんはそう言って寂しそうに笑った。
「こんな腕じゃもう弓は使えないし、それに利き手だったからね。それで冒険者は引退して、今は二年間の期限付きだけど冒険者ギルドで働かせてもらってるんだ」
「そうなんですね」
「うん。それで? なんの用?」
「はい。冒険者カードができたって連絡を受けたので受け取りに来ました」
「そう。じゃあ今のカードをくれる?」
「はい」
俺はCランクの冒険者カードを手渡した。
「おっ! そっかぁ。すごいね。じゃあ、ちょっと待ってて」
ニーナさんはそう言って立ち上がると、右足を引きずりながら奥へと歩いていった。
……きっと、あの足もスピネーゼでやられたんだろうな。
それからすぐにニーナさんは冒険者カードを持って戻ってきた。
「はい、これ。Bランク昇格、おめでとう」
「ありがとうございます」
「レクスくん、銀狼騎士団に入るなんてすごいね。目標に一歩近づいたかな?」
「そうですね。まだまだですけど」
するとニーナさんは嬉しそうに目を細めた。
「まさか二人とも銀狼騎士団に入るなんて思わなかったなぁ」
「え? なんの話ですか?」
「えっ? テオくんも今銀狼騎士団にいるはずだよ? 見かけなかった?」
「えええっ!? 初耳ですよ?」
「そうなの? テオくん、入団試験を受けて合格したって喜んでいたからいるはずだよ? 今は寮に入ってるって話だし」
「そうなんですね。俺の寮では見かけてないですけど、探してみますね」
「うん」
「そうしたら二人で会いに来ます。そのときはご馳走させてください」
するとニーナさんはくしゃりと表情を崩した。
「あの小さい子供がこんなことを言うようになるなんてね~」
それからニーナさんは残った左手で目じりを拭う。
「でも、今回は私が奢るよ。入団祝い」
「ニーナさん……」
「せっかく目標に一歩近づいたんだからさ。私にお礼なんて言うのは全部成し遂げてからにしなさい」
「はい。ありがとうございます」
するとニーナさんはクスリと笑い、こう言った。
「ふふ。がんばれ、男の子」
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それから寮に戻ってくると、ちょうどメルクリオ卿が歩いていたので話しかける。
「メルクリオ卿」
「おお、レクス卿。こんなところでばったり会うとは奇遇ですな。今日の午後は休暇でしたかな?」
「はい。冒険者ギルドに用事がありまして」
「ああ、そういうことでしたか。おめでとうございます、でよろしいのですな?」
「はい。ありがとうございます。お陰様で昇格しました」
「それはそれは」
メルクリオ卿は人の良さそうな笑みを浮かべる。
「それでですね。知り合いが銀狼騎士団に入ったと聞いたのですが、訓練で見かけていないんです。どうやって探せばいいかって分かりますか?」
「むむ? こちらの訓練に参加していないとなると、その者はおそらく入団試験で入団し、まだ一年経っていないのでしょう。一年経つまでは仮入団という扱いですからな」
「なるほど、そうなんですね。試験で入団したって聞きました」
「やはり。であればその者は今、マリノにある若葉寮にいるはずです」
「マリノ?」
「ええ。マリノはご存じで?」
「いえ」
「マリノは、テレゼ川の河口にある港町です」
テレゼ川というのはここレムロスを流れている川の名前だ。
「なるほど。どうしてマリノにあるんですか?」
「マリノのほうが広いですからな」
ん? どういうことだ? この訓練場は午後は使っていないんだし、ここで訓練すればいいんじゃないか?
するとメルクリオ卿はまるで俺の心の中を読んだかのように的確な説明をしてくれる。
「ははは。人数が違いますからな。入団試験で入団した者の九割以上は訓練に耐えきれず、一年以内に脱落するのです。そんな者たちのためにレムロスに広い訓練場を建設するなど無駄ですからな」
「なるほど……」
「もし気になるのでしたら、手紙でも書いてみてはいかがですかな? 事務局に渡せば届けてもらえるでしょう」
「わかりました。そうしてみます」
「うむ。まだ脱落していないといいですな」
「……そうですね。でも、手紙は出してみます」
こうして俺はメルクリオ卿と別れ、手紙を書きに自室へと戻るのだった。
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