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第93話 テスト(前編)
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「なっ!? で、殿下!?」
支部長が目をまん丸にして驚いている。
「どうした? 驚くようなことではないだろう」
「で、ですが、どこの馬の骨としれぬ者を……」
すると王太子殿下はそれを軽く笑い飛ばした。
「彼は私の民だ。それだけで十分ではないか? それとも私は自分の騎士団のメンバーを選ぶのにベリザリオ、お前の許可を得なければいけないのか?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「ならば、問題ないだろう。レクス、どうだ? 共に力なき民を守ろうではないか」
王太子殿下はそう言ってくれた。ありがたい申し出ではあるが、簡単には首を縦に振れない。
「殿下、大変光栄に思っておりますが、しばらく考えさせてください。突然のことで驚いていて、まだ決心ができません」
「なんだと!? 殿下のお誘いを――」
「ベリザリオ、黙っていろ」
「う……」
割り込んできた支部長を王太子殿下は一瞬で黙らせる。
「ああ、そうだな。たしかに突然だったな。その気持ちも理解できる。わかった。まずは目の前の問題に注力し、共にヴァリエーゼを守ろうではないか」
「はい」
俺は王太子殿下に立ち上がるように促され、そして握手を交わす。
「ベリザリオ、彼らのパーティーは私の部隊に同行させる。いいな?」
「もちろんでございます!」
「ではお前たち、二週間損害を出さずに守り切った実力をまずは見せてもらうぞ」
「ははっ!」
こうして俺たちの持ち場は変更となり、王太子殿下の直属となったのだった。
◆◇◆
俺たちは北の防衛から西へと転属となった。まずは西側の街道を解放し、町が包囲される危険性を減らしたいのだという。
そして翌日、俺たちは王太子殿下の騎士団である銀狼騎士団の指揮下に入り、西の森へと向かった。
ここにいる銀狼騎士団の騎士はおよそ百人だが、これは王太子殿下について各地を転戦する部隊なのだそうだ。騎士団全体としてはもっと人数が多いものの、彼らは別の場所に派遣されているのだという。
さて、西側にも塚が点々と築かれており、北と同じやり方で守っている。俺たちは銀狼騎士団の隊列の王太子殿下の隣に配置されており、一見すると護衛されているようですらある。
塚の脇を通り過ぎるときに防衛に当たっている冒険者たちの様子をちらりと確認していたが、みな一様に疲れた様子だった。だが銀狼騎士団を見て勇気が湧いてきたのか、その表情はすぐに希望に満ちたものに変わる。
そんな彼らの様子に心を奮わせつつ、俺たちは森の入口付近までやってきた。するとすぐに森の奥にワイルドボアの群れを発見した。
「リエト隊、前に出ろ。まずはお前たちの実力を見せてもらう」
「は、ははっ!」
引き続きパーティーのリーダーをしているリエトさんは緊張した面持ちながらも、すぐさま指示を飛ばす。
「レクス! 突っ込め! 俺たちは後ろに続く。キアーラ! 銀狼騎士団を背にして弓で援護だ。危なくなったら騎士団に助けを求めろ!」
最初から他力本願なのはどうなのかと思うが、指示を受けたので俺は前に出た。キアーラさんの射線にはいらないように迂回しつつワイルドボアの群れに近付いていくが、この森は結構藪が深い。
となると、アサシンラットも考慮に入れるべきだ。
俺が慎重に進んでいると、後ろからリエトさんの罵声が飛んできた。
「おい! どうした! さっさと突っ込め!」
反論しようとしたがちょうど俺たちの間をキアーラさんの矢が抜けていき、木々の間を縫って森の奥にいるワイルドボアに命中した。
「おい! 何やってる!」
リエトさんはそう怒鳴ったが、キアーラさんはすでに次の矢を番えていた。そして矢を受けたワイルドボアはこちらに気付き、俺たちのほうへと向かって突撃しかけてくる。
一方、俺は慎重に藪をクリアーしていき、さっそく一匹目のアサシンラットを駆除した。
「げっ? アサシンラットだと? どうしてだ! 事前情報にはなかったじゃないか!」
「それよりリエト! 早く指示を出せ!」
リエトさんの指示が遅れたのをウーゴさんが責めているが、もうそんなことを言っている場合ではない。
ワイルドボアは今にも森から出て来ようとしている。
俺は身体強化を使いながら、落ちている石を投げつけた。
ゴツン!
重たい音と共に一頭のワイルドボアの顔面に大きな傷がついた。するとワイルドボアは俺のほうに方向転換し、迫ってくる。
俺はそのまま街道へと下がり、アサシンラットのいなそうな場所で迎え撃つ。
ちらりと周囲を確認するが、リエトさんたちのほうに二頭ほどのワイルドボアが向かっており、俺のほうは……六頭か。
俺はホーリーブースターの増幅率を最大にセットし、そして――
ブン!
ギリギリのタイミングで最大射程のホーリーを放ち、六頭のうち四頭をまとめて仕留めた。そのまま身体強化を発動しつつ横っ飛びをし、残る二頭の突撃を回避する。
そのうちの一頭はホーリーを受けて倒れたワイルドボアにつまずいて転んだので、その隙を見逃さずにトドメを刺した。
あと一頭!
ちらりとリエトさんたちを見るが、どうやらそれぞれでワイルドボアに対処しているようだ。
まあ、大丈夫だろう。キアーラさんの援護もあるし、最悪銀狼騎士団がいる。
俺は最後の一頭との距離を一気に詰め、軽い一撃を加える。するとエンチャントしたホーリーが発動し、ワイルドボアは動かなくなった。
リエトさんたちは……まだ戦っているな。だがあの調子ならやられることはないだろう。
そう考え、俺はいそいそとワイルドボアの解体を始めた。すると銀狼騎士団の騎士たちがなぜか驚いたような表情をしている。
あれ? あっ! そうか。そういえば騎士は素材、要らないんだっけ。
まあ、俺には必要だからな。
俺はチラチラとリエトさんたちの様子を横目で確認しつつ、手早くワイルドボアを解体を終えるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/02/17 (土) 18:00 を予定しております。
支部長が目をまん丸にして驚いている。
「どうした? 驚くようなことではないだろう」
「で、ですが、どこの馬の骨としれぬ者を……」
すると王太子殿下はそれを軽く笑い飛ばした。
「彼は私の民だ。それだけで十分ではないか? それとも私は自分の騎士団のメンバーを選ぶのにベリザリオ、お前の許可を得なければいけないのか?」
「い、いえ、そのようなことは……」
「ならば、問題ないだろう。レクス、どうだ? 共に力なき民を守ろうではないか」
王太子殿下はそう言ってくれた。ありがたい申し出ではあるが、簡単には首を縦に振れない。
「殿下、大変光栄に思っておりますが、しばらく考えさせてください。突然のことで驚いていて、まだ決心ができません」
「なんだと!? 殿下のお誘いを――」
「ベリザリオ、黙っていろ」
「う……」
割り込んできた支部長を王太子殿下は一瞬で黙らせる。
「ああ、そうだな。たしかに突然だったな。その気持ちも理解できる。わかった。まずは目の前の問題に注力し、共にヴァリエーゼを守ろうではないか」
「はい」
俺は王太子殿下に立ち上がるように促され、そして握手を交わす。
「ベリザリオ、彼らのパーティーは私の部隊に同行させる。いいな?」
「もちろんでございます!」
「ではお前たち、二週間損害を出さずに守り切った実力をまずは見せてもらうぞ」
「ははっ!」
こうして俺たちの持ち場は変更となり、王太子殿下の直属となったのだった。
◆◇◆
俺たちは北の防衛から西へと転属となった。まずは西側の街道を解放し、町が包囲される危険性を減らしたいのだという。
そして翌日、俺たちは王太子殿下の騎士団である銀狼騎士団の指揮下に入り、西の森へと向かった。
ここにいる銀狼騎士団の騎士はおよそ百人だが、これは王太子殿下について各地を転戦する部隊なのだそうだ。騎士団全体としてはもっと人数が多いものの、彼らは別の場所に派遣されているのだという。
さて、西側にも塚が点々と築かれており、北と同じやり方で守っている。俺たちは銀狼騎士団の隊列の王太子殿下の隣に配置されており、一見すると護衛されているようですらある。
塚の脇を通り過ぎるときに防衛に当たっている冒険者たちの様子をちらりと確認していたが、みな一様に疲れた様子だった。だが銀狼騎士団を見て勇気が湧いてきたのか、その表情はすぐに希望に満ちたものに変わる。
そんな彼らの様子に心を奮わせつつ、俺たちは森の入口付近までやってきた。するとすぐに森の奥にワイルドボアの群れを発見した。
「リエト隊、前に出ろ。まずはお前たちの実力を見せてもらう」
「は、ははっ!」
引き続きパーティーのリーダーをしているリエトさんは緊張した面持ちながらも、すぐさま指示を飛ばす。
「レクス! 突っ込め! 俺たちは後ろに続く。キアーラ! 銀狼騎士団を背にして弓で援護だ。危なくなったら騎士団に助けを求めろ!」
最初から他力本願なのはどうなのかと思うが、指示を受けたので俺は前に出た。キアーラさんの射線にはいらないように迂回しつつワイルドボアの群れに近付いていくが、この森は結構藪が深い。
となると、アサシンラットも考慮に入れるべきだ。
俺が慎重に進んでいると、後ろからリエトさんの罵声が飛んできた。
「おい! どうした! さっさと突っ込め!」
反論しようとしたがちょうど俺たちの間をキアーラさんの矢が抜けていき、木々の間を縫って森の奥にいるワイルドボアに命中した。
「おい! 何やってる!」
リエトさんはそう怒鳴ったが、キアーラさんはすでに次の矢を番えていた。そして矢を受けたワイルドボアはこちらに気付き、俺たちのほうへと向かって突撃しかけてくる。
一方、俺は慎重に藪をクリアーしていき、さっそく一匹目のアサシンラットを駆除した。
「げっ? アサシンラットだと? どうしてだ! 事前情報にはなかったじゃないか!」
「それよりリエト! 早く指示を出せ!」
リエトさんの指示が遅れたのをウーゴさんが責めているが、もうそんなことを言っている場合ではない。
ワイルドボアは今にも森から出て来ようとしている。
俺は身体強化を使いながら、落ちている石を投げつけた。
ゴツン!
重たい音と共に一頭のワイルドボアの顔面に大きな傷がついた。するとワイルドボアは俺のほうに方向転換し、迫ってくる。
俺はそのまま街道へと下がり、アサシンラットのいなそうな場所で迎え撃つ。
ちらりと周囲を確認するが、リエトさんたちのほうに二頭ほどのワイルドボアが向かっており、俺のほうは……六頭か。
俺はホーリーブースターの増幅率を最大にセットし、そして――
ブン!
ギリギリのタイミングで最大射程のホーリーを放ち、六頭のうち四頭をまとめて仕留めた。そのまま身体強化を発動しつつ横っ飛びをし、残る二頭の突撃を回避する。
そのうちの一頭はホーリーを受けて倒れたワイルドボアにつまずいて転んだので、その隙を見逃さずにトドメを刺した。
あと一頭!
ちらりとリエトさんたちを見るが、どうやらそれぞれでワイルドボアに対処しているようだ。
まあ、大丈夫だろう。キアーラさんの援護もあるし、最悪銀狼騎士団がいる。
俺は最後の一頭との距離を一気に詰め、軽い一撃を加える。するとエンチャントしたホーリーが発動し、ワイルドボアは動かなくなった。
リエトさんたちは……まだ戦っているな。だがあの調子ならやられることはないだろう。
そう考え、俺はいそいそとワイルドボアの解体を始めた。すると銀狼騎士団の騎士たちがなぜか驚いたような表情をしている。
あれ? あっ! そうか。そういえば騎士は素材、要らないんだっけ。
まあ、俺には必要だからな。
俺はチラチラとリエトさんたちの様子を横目で確認しつつ、手早くワイルドボアを解体を終えるのだった。
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