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第92話 王太子到着
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俺たちが前線で防衛をはじめて二週間後、交代で町に戻った俺たちは支部長の呼び出しを受けて冒険者ギルドの会議室にやってきた。
だがなんと! 向かった先の会議室には王太子殿下がいたではないか!
俺たちは慌てて跪く。
「お前たちのパーティーが二週間にわたり、一人も欠けることなく守り抜いていることについて殿下が関心を寄せていらっしゃる。リーダーは誰だ?」
「俺です」
リエトさんが手を挙げたが、キアーラさんは怖い目でリエトさんのほうを見た。だが支部長は気にした素振りもなく、リエトさんに命令を下す。
「では説明しなさい。どのようにして戦っているのか、なぜ怪我人が出ていないのかを」
「はっ! 我々は適材適所で人員を配置し、モンスターどもが塚に近付かないようにして弓使いを守っているのです。それにより、我々は犠牲者を出すこともなく、突破を許すこともなく防衛し続けております」
なるほど。間違ってはいないが、王太子殿下への説明がそれでいいのか?
だが支部長に気にした様子はなく、次々と質問してくる。
「配置を決めたのは?」
「俺です」
「では戦闘指揮は?」
「俺が出しますが、細かいところは個人の判断です」
「ふむ。なるほど。連携はどうしている?」
「それも個人の判断ですが、弓使い以外はあまり連携しません」
「なぜだ?」
「問題の発生を防ぐためです。臨時で結成したパーティーですので」
「なるほど。それはつまり、同士討ちを防ぐためだな?」
「はい。それぞれが倒せる範囲の敵を倒すことで、結果的に同士討ちが防げます」
リエトさん、中々やるな。何一つ嘘を言っていないのに、支部長はすっかり勘違いさせられている。
「殿下、この者たちはどうやら個人の能力も高いようです。また、リーダーのこの男は状況を見極める能力もあるようです」
支部長は満足げな表情で太鼓判を押したが、王太子殿下は真剣な表情でリエトさんの目を見据えた。やがて王太子殿下は小さく笑い、支部長に質問を返す。
「ベリザリオ、本当にそう思うのか?」
「は?」
「お前は、本当にこの者が有能なリーダーだと私に薦めているのかと聞いているんだ」
「殿下、一体どういう……」
支部長は言葉に詰まり、それを見た王太子殿下はふっと小さく笑う。
「では、そちらのレディに聞いてみよう」
王太子殿下はやたらとキラキラした笑顔を浮かべ、キアーラさんの目をじっと見た。
「レディ、お名前は?」
「え? は、はい。キアーラです」
キアーラさんは恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、なんとか返事をした。
「ではキアーラ嬢、率直な感想を教えてほしい。貴女のパーティーはどうだい? リーダーの彼の言うとおり、彼は適切に人を配置し、適格な指示の下でそれぞれが能動的に動くいいパーティーと心から思うかい?」
「え? そ、それは……」
それを見た王太子殿下はフッと小さく笑った。
「ベリザリオ、これが答えだよ」
「……はい」
それから王太子殿下はキアーラさんに近付き、跪いているキアーラさんの手をそっと握った。
「えっ?」
「キアーラ嬢、立ってください」
「えっ? えっ?」
王太子殿下はまるで魔法のようにキアーラさんを自然に立ち上がらせた。そして柔らかな笑みを浮かべ、キアーラさんの目をじっと見つめる。
キラキラした王子様スマイルに、キアーラさんの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「キアーラ嬢」
「は、はいぃ」
「教えてくれるかい? このパーティーがこの二週間無事でいられた本当の理由はなんだい?」
「そ、それは……」
「それは?」
キアーラさんは半分パニックになっているのだろう。普段では見ないような早口でしゃべり始める。
「レ、レクスですぅ。レクスは魔法を使えるから! 一人で前に出て全部倒してくれるんです! でも私はレクスだけを前に行かせるのは――」
「キアーラ嬢」
王太子殿下は流れるような動作でキアーラさんの口に人差し指を当て、その言葉を遮った。
すごい。あれを平然とやって、しかも様になっているだなんて!
本当は王太子殿下にアピールすべき場面なのだが、あまりの信じられない光景についそんな感想を抱いてしまった。
「レクスというのは?」
「はい。俺、あ、私です」
「ふ、俺でいい。慣れていないのだろう?」
「は、はい。ありがとうございます」
「ではレクス、君が魔法を使えるというのは本当かい?」
王太子殿下の金色の瞳が俺をじっと見据えてくる。
「はい。事実です」
「では、属性は?」
「……光です」
俺がそう言った瞬間、この場にいる全員が同時に空気を呑んだ。
しばしの沈黙ののち、王太子殿下がそれを破る。
「それは本当か?」
「はい。本当です。今、この場で使って見せましょうか」
「モンスターもいないのに、か? どうやって?」
「このように使います」
俺は天井に向かって手を突き上げ、ホーリーを放った。
「これは!」
王太子殿下が目を輝かせ、ものすごい勢いで俺の手を握ってきた。
「君のような男を探していたんだ! レクス、私の騎士団に入らないか?」
================
次回更新は通常どおり、2024/02/16 (金) 18:00 を予定しております。
だがなんと! 向かった先の会議室には王太子殿下がいたではないか!
俺たちは慌てて跪く。
「お前たちのパーティーが二週間にわたり、一人も欠けることなく守り抜いていることについて殿下が関心を寄せていらっしゃる。リーダーは誰だ?」
「俺です」
リエトさんが手を挙げたが、キアーラさんは怖い目でリエトさんのほうを見た。だが支部長は気にした素振りもなく、リエトさんに命令を下す。
「では説明しなさい。どのようにして戦っているのか、なぜ怪我人が出ていないのかを」
「はっ! 我々は適材適所で人員を配置し、モンスターどもが塚に近付かないようにして弓使いを守っているのです。それにより、我々は犠牲者を出すこともなく、突破を許すこともなく防衛し続けております」
なるほど。間違ってはいないが、王太子殿下への説明がそれでいいのか?
だが支部長に気にした様子はなく、次々と質問してくる。
「配置を決めたのは?」
「俺です」
「では戦闘指揮は?」
「俺が出しますが、細かいところは個人の判断です」
「ふむ。なるほど。連携はどうしている?」
「それも個人の判断ですが、弓使い以外はあまり連携しません」
「なぜだ?」
「問題の発生を防ぐためです。臨時で結成したパーティーですので」
「なるほど。それはつまり、同士討ちを防ぐためだな?」
「はい。それぞれが倒せる範囲の敵を倒すことで、結果的に同士討ちが防げます」
リエトさん、中々やるな。何一つ嘘を言っていないのに、支部長はすっかり勘違いさせられている。
「殿下、この者たちはどうやら個人の能力も高いようです。また、リーダーのこの男は状況を見極める能力もあるようです」
支部長は満足げな表情で太鼓判を押したが、王太子殿下は真剣な表情でリエトさんの目を見据えた。やがて王太子殿下は小さく笑い、支部長に質問を返す。
「ベリザリオ、本当にそう思うのか?」
「は?」
「お前は、本当にこの者が有能なリーダーだと私に薦めているのかと聞いているんだ」
「殿下、一体どういう……」
支部長は言葉に詰まり、それを見た王太子殿下はふっと小さく笑う。
「では、そちらのレディに聞いてみよう」
王太子殿下はやたらとキラキラした笑顔を浮かべ、キアーラさんの目をじっと見た。
「レディ、お名前は?」
「え? は、はい。キアーラです」
キアーラさんは恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、なんとか返事をした。
「ではキアーラ嬢、率直な感想を教えてほしい。貴女のパーティーはどうだい? リーダーの彼の言うとおり、彼は適切に人を配置し、適格な指示の下でそれぞれが能動的に動くいいパーティーと心から思うかい?」
「え? そ、それは……」
それを見た王太子殿下はフッと小さく笑った。
「ベリザリオ、これが答えだよ」
「……はい」
それから王太子殿下はキアーラさんに近付き、跪いているキアーラさんの手をそっと握った。
「えっ?」
「キアーラ嬢、立ってください」
「えっ? えっ?」
王太子殿下はまるで魔法のようにキアーラさんを自然に立ち上がらせた。そして柔らかな笑みを浮かべ、キアーラさんの目をじっと見つめる。
キラキラした王子様スマイルに、キアーラさんの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「キアーラ嬢」
「は、はいぃ」
「教えてくれるかい? このパーティーがこの二週間無事でいられた本当の理由はなんだい?」
「そ、それは……」
「それは?」
キアーラさんは半分パニックになっているのだろう。普段では見ないような早口でしゃべり始める。
「レ、レクスですぅ。レクスは魔法を使えるから! 一人で前に出て全部倒してくれるんです! でも私はレクスだけを前に行かせるのは――」
「キアーラ嬢」
王太子殿下は流れるような動作でキアーラさんの口に人差し指を当て、その言葉を遮った。
すごい。あれを平然とやって、しかも様になっているだなんて!
本当は王太子殿下にアピールすべき場面なのだが、あまりの信じられない光景についそんな感想を抱いてしまった。
「レクスというのは?」
「はい。俺、あ、私です」
「ふ、俺でいい。慣れていないのだろう?」
「は、はい。ありがとうございます」
「ではレクス、君が魔法を使えるというのは本当かい?」
王太子殿下の金色の瞳が俺をじっと見据えてくる。
「はい。事実です」
「では、属性は?」
「……光です」
俺がそう言った瞬間、この場にいる全員が同時に空気を呑んだ。
しばしの沈黙ののち、王太子殿下がそれを破る。
「それは本当か?」
「はい。本当です。今、この場で使って見せましょうか」
「モンスターもいないのに、か? どうやって?」
「このように使います」
俺は天井に向かって手を突き上げ、ホーリーを放った。
「これは!」
王太子殿下が目を輝かせ、ものすごい勢いで俺の手を握ってきた。
「君のような男を探していたんだ! レクス、私の騎士団に入らないか?」
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