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第86話 再会する家族
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「えっ?」
「人魚?」
海から顔を出すマリンに気付き、村人たちの表情に恐怖の色が浮かぶ。
「ど、どいうことじゃ!」
「どういうことも何も、人魚は誘拐なんてしたこと、一度も無いんですケド」
ダウト! 証人は俺だ! とツッコミを入れたくなったが、事態がややこしくなるので黙っておく。
「じゃが! 兄さんはいきなり消えたんじゃぞ! そういうのは人魚の仕業じゃと代々!」
「ん~、もしかして、その人の名前ってボナベントゥーラだったり~?」
すると村長は目を見開き、あんぐりと大口を開けて驚いている。
「な、なぜその名を……」
「だって~、あーしのパパだし」
はっ!?
マリンは人魚じゃないのか?
「んっふっふ~。あーしのパパは、お母さんを熱烈に口説いたんですケド?」
マリンはニヤニヤ笑いながら村長を見ている。
「はっ? 兄さんが、口説いた?」
「そだよ~」
「そ、そんな……」
「そんで、チョーラブラブ夫婦になって、あーしが生まれたってワケ」
マリンはドヤ顔で胸を張る。
しょ、衝撃的だ。こんなことが……。
「ほ、本当に?」
「そだよー。ほら、これ」
マリンはそう言うと、首にぶら下げていたペンダントを俺に渡してきた。
「これは?」
「パパの」
すると村長が濡れるのも気にせず近付いてきて、食い入るようにそのペンダントを見つめる。
「あああああ! これは兄さんの!」
村長はそう叫ぶと、マリンに詰め寄る。
「に、兄さんは、君のパパはどうしてるのじゃ?」
「え? パパは人間だし~? もうだいぶ前に天国でしょ。ジョーシキ的に考えて」
「そ、そうか……」
村長はがっくりとうなだれた。
「あ、ほ、ほら、村長。お兄さんの娘ってことは、村長の姪御さんですよね?」
俺がそうフォローすると、村長はカッと目を見開いた。
「おおおおお! まさかそんな! おお! おお! よくぞ!」
村長はそう言いながらボロボロと涙を流す。俺と村人たちは困惑しつつ、その様子を見守るのだった。
◆◇◆
それから村長はマリンを自分の姪だと認め、村で暮らすことを提案したものの、マリンは自分は人魚だと言ってそれを拒否した。
だがあとでみんなで会いに来ると言って海へと消えていった。
村長はかなりがっかりしていたが、マリンには人間の足がないのだから仕方がないと思う。
だがこの話は瞬く間に村中に広まり、村長はその場にいなかった村人たちから質問攻めにあっていた。
村人たちがいつマリンが来るのかとワクワクしていたのだが、それはなんとその日の夕方に訪れた。
俺はトスカさんから村の港に人魚たちが大挙して押し寄せてきたという報せを聞き、大慌てでそちらへと向かった。するとそこにはすでにほぼ全員の村人が集まっている。
「あっ! レクちーん! おーい!」
俺の姿を見つけたマリンが大きく手を振ってきた。
「マリン! どうしてこんなところまで!」
「え? みんなでレクちんの素材を届けに来たんですケド? 全部レクちんが倒したモンスターなんですケド?」
「え? 素材?」
言われてみてみると、人魚たちの手には魔石や毛皮などの素材が握られている。
「もしかして、解体までしてくれたのか?」
「そうですケド?」
「あ、ああ。ありがとう」
「そのくらいトーゼンなんですケド?」
するとそれを聞いた村人たちがざわめいた。
「あの量を一人で倒した?」
「たった一日で?」
などと言った声が聞こえてくるが、定点狩りをした手前上、なんとも後ろめたい。
「そのくらい倒すの、レクちんならトーゼンだし」
俺は恥ずかしいのでそれを無視し、人魚たちから素材を受け取っていく。
「そーいえば、あーしのおじさんの姿が見えないんですケド?」
すると遠巻きに見ていた村人たちの中から、ノーラちゃんが駆け寄ってきた。
「ん? 誰?」
「あ、あのっ! おばちゃんなんですか?」
「は? あーしはお姉ちゃんなんですケド?」
「えっ?」
マリンは少し嫌そうに答えたが、ノーラちゃんが聞きたかったのはそういうことじゃないだろう。
「マリン、この子はマリンのおじさんの孫娘だよ。だからおばちゃんっていうのは……」
「え? なーんだ! そーならそーと早く言ってよ~。そうだよー! でも、あーしは若いから、お姉ちゃんだからね」
「え? あ、はい。じゃあ、マリンお姉ちゃん?」
「そーそー。よろしい。あーしがマリンお姉ちゃんだよ。名前は?」
「ノーラです」
「そっかー。ノーラちゃんね。よろしく~」
マリンのノリは相変わらず軽い。
「それで、おじいちゃんはどこにいるの?」
「え? えっと……」
と、村長がゆっくりと向こうから歩いてきた。その周囲の村長の家族が支えている。
「あ! やっほ~!」
マリンは軽いノリで村長に手を振った。村長は嬉しそうな表情を浮かべ、ゆっくりと波打ち際までやってきた。
「待たせたかのう」
「んーん。もうおじいちゃんなんだから、無理しないでよね~」
「うむ」
村長は満足げに頷いた。そして村人たちのほうに向き直り、大声で宣言する。
「いいか? 皆の者! このマリンは儂の姪じゃ。そしてマリンは人魚の里の姫じゃ! 故に、ガルポーレと人魚の里は家族のようなものじゃ!」
「でしょでしょ~」
やはりマリンの反応は軽いが、それでも村人たちは納得したような表情で頷いている。
こうしてガルポーレ村と人魚の里の間に新たな絆が生まれたのだった。
◆◇◆
その夜、他の人魚たちは帰っていったがマリンだけは入り江に残っていた。そこには村長とその家族もいるので、きっと心ゆくまで語り合っているのだろう。
浜辺からは時おりマリンの歌声が聞こえてくる。行動は色々とぶっ飛んでいるが、この歌声だけは本当に素晴らしい。
俺はその美しい歌声に耳を澄ませつつ、ベッドに横になるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/10 (土) 18:00 を予定しております。
「人魚?」
海から顔を出すマリンに気付き、村人たちの表情に恐怖の色が浮かぶ。
「ど、どいうことじゃ!」
「どういうことも何も、人魚は誘拐なんてしたこと、一度も無いんですケド」
ダウト! 証人は俺だ! とツッコミを入れたくなったが、事態がややこしくなるので黙っておく。
「じゃが! 兄さんはいきなり消えたんじゃぞ! そういうのは人魚の仕業じゃと代々!」
「ん~、もしかして、その人の名前ってボナベントゥーラだったり~?」
すると村長は目を見開き、あんぐりと大口を開けて驚いている。
「な、なぜその名を……」
「だって~、あーしのパパだし」
はっ!?
マリンは人魚じゃないのか?
「んっふっふ~。あーしのパパは、お母さんを熱烈に口説いたんですケド?」
マリンはニヤニヤ笑いながら村長を見ている。
「はっ? 兄さんが、口説いた?」
「そだよ~」
「そ、そんな……」
「そんで、チョーラブラブ夫婦になって、あーしが生まれたってワケ」
マリンはドヤ顔で胸を張る。
しょ、衝撃的だ。こんなことが……。
「ほ、本当に?」
「そだよー。ほら、これ」
マリンはそう言うと、首にぶら下げていたペンダントを俺に渡してきた。
「これは?」
「パパの」
すると村長が濡れるのも気にせず近付いてきて、食い入るようにそのペンダントを見つめる。
「あああああ! これは兄さんの!」
村長はそう叫ぶと、マリンに詰め寄る。
「に、兄さんは、君のパパはどうしてるのじゃ?」
「え? パパは人間だし~? もうだいぶ前に天国でしょ。ジョーシキ的に考えて」
「そ、そうか……」
村長はがっくりとうなだれた。
「あ、ほ、ほら、村長。お兄さんの娘ってことは、村長の姪御さんですよね?」
俺がそうフォローすると、村長はカッと目を見開いた。
「おおおおお! まさかそんな! おお! おお! よくぞ!」
村長はそう言いながらボロボロと涙を流す。俺と村人たちは困惑しつつ、その様子を見守るのだった。
◆◇◆
それから村長はマリンを自分の姪だと認め、村で暮らすことを提案したものの、マリンは自分は人魚だと言ってそれを拒否した。
だがあとでみんなで会いに来ると言って海へと消えていった。
村長はかなりがっかりしていたが、マリンには人間の足がないのだから仕方がないと思う。
だがこの話は瞬く間に村中に広まり、村長はその場にいなかった村人たちから質問攻めにあっていた。
村人たちがいつマリンが来るのかとワクワクしていたのだが、それはなんとその日の夕方に訪れた。
俺はトスカさんから村の港に人魚たちが大挙して押し寄せてきたという報せを聞き、大慌てでそちらへと向かった。するとそこにはすでにほぼ全員の村人が集まっている。
「あっ! レクちーん! おーい!」
俺の姿を見つけたマリンが大きく手を振ってきた。
「マリン! どうしてこんなところまで!」
「え? みんなでレクちんの素材を届けに来たんですケド? 全部レクちんが倒したモンスターなんですケド?」
「え? 素材?」
言われてみてみると、人魚たちの手には魔石や毛皮などの素材が握られている。
「もしかして、解体までしてくれたのか?」
「そうですケド?」
「あ、ああ。ありがとう」
「そのくらいトーゼンなんですケド?」
するとそれを聞いた村人たちがざわめいた。
「あの量を一人で倒した?」
「たった一日で?」
などと言った声が聞こえてくるが、定点狩りをした手前上、なんとも後ろめたい。
「そのくらい倒すの、レクちんならトーゼンだし」
俺は恥ずかしいのでそれを無視し、人魚たちから素材を受け取っていく。
「そーいえば、あーしのおじさんの姿が見えないんですケド?」
すると遠巻きに見ていた村人たちの中から、ノーラちゃんが駆け寄ってきた。
「ん? 誰?」
「あ、あのっ! おばちゃんなんですか?」
「は? あーしはお姉ちゃんなんですケド?」
「えっ?」
マリンは少し嫌そうに答えたが、ノーラちゃんが聞きたかったのはそういうことじゃないだろう。
「マリン、この子はマリンのおじさんの孫娘だよ。だからおばちゃんっていうのは……」
「え? なーんだ! そーならそーと早く言ってよ~。そうだよー! でも、あーしは若いから、お姉ちゃんだからね」
「え? あ、はい。じゃあ、マリンお姉ちゃん?」
「そーそー。よろしい。あーしがマリンお姉ちゃんだよ。名前は?」
「ノーラです」
「そっかー。ノーラちゃんね。よろしく~」
マリンのノリは相変わらず軽い。
「それで、おじいちゃんはどこにいるの?」
「え? えっと……」
と、村長がゆっくりと向こうから歩いてきた。その周囲の村長の家族が支えている。
「あ! やっほ~!」
マリンは軽いノリで村長に手を振った。村長は嬉しそうな表情を浮かべ、ゆっくりと波打ち際までやってきた。
「待たせたかのう」
「んーん。もうおじいちゃんなんだから、無理しないでよね~」
「うむ」
村長は満足げに頷いた。そして村人たちのほうに向き直り、大声で宣言する。
「いいか? 皆の者! このマリンは儂の姪じゃ。そしてマリンは人魚の里の姫じゃ! 故に、ガルポーレと人魚の里は家族のようなものじゃ!」
「でしょでしょ~」
やはりマリンの反応は軽いが、それでも村人たちは納得したような表情で頷いている。
こうしてガルポーレ村と人魚の里の間に新たな絆が生まれたのだった。
◆◇◆
その夜、他の人魚たちは帰っていったがマリンだけは入り江に残っていた。そこには村長とその家族もいるので、きっと心ゆくまで語り合っているのだろう。
浜辺からは時おりマリンの歌声が聞こえてくる。行動は色々とぶっ飛んでいるが、この歌声だけは本当に素晴らしい。
俺はその美しい歌声に耳を澄ませつつ、ベッドに横になるのだった。
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