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第84話 定点狩り
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それから三回攻撃を当てた後だった。今までと同じように距離を取って魔界の影の様子を確認しているのだが、今回は少し様子が違う。
……これは、アレが来るのか!?
俺は最大限の警戒をしつつ、魔界の影の次の動きに備える。
プルプルと震えたかと思うと、黒い弾丸のようなものを四方八方に撒き散らす。
来た!
これはブラウエルデ・クロニクルにおいて、無差別モードと呼ばれていたものだ。
この黒い弾丸一つ一つが闇属性の魔法攻撃となっており、この弾丸は敵味方関係なく命中する。これをくらったプレイヤーはダメージを受け、さらに一発ごとに攻撃力ダウン、守備力ダウン、魔力ダウンという三つのデバフを受けることになる。
これが魔界の影の一番厄介な攻撃だ。しかもプレイヤーが張り付いて攻撃していると魔界の影はすぐにこの攻撃を仕掛けてくる。
いくら熟練のプレイヤーといえども、至近距離で全方位に放たれるこの攻撃を防ぐことはできない。そのため対魔界の影戦では一撃を与えたら離脱するのが定石で、俺もこの攻撃を警戒してずっと一撃離脱を繰り返していたわけだ。
また、なんとこの攻撃はモンスターにも命中する。もちろんこれで勝手に周囲のモンスターを倒してくれるなどということはない。
ではどうなるかというと、なんと能力が強化されるのだ。しかも強化されたモンスターは、倒しても魔石や光の欠片が落ちず、闇の欠片だけを落とすようになる。
ブラウエルデ・クロニクルにおいて闇属性魔法はプレイヤーに解禁されていなかったため、この仕様はとにかく不評だったのは言うまでもない。
俺は剣で致命傷になりそうな弾丸を弾いて無差別モードをやり過ごした。そしてすぐにデバフをヒールで解除し、周囲を確認する。
どうやら人魚の戦士たちは幻覚が解けたようで、よろよろと部屋の外に逃げていくのが見えた。死者が出ていないことを祈ろう。
他のモンスターたちはというと、かなりの数のモンスターたちが黒いオーラを身に纏っている。あれが強化された証拠だ。
だが、やることは変わらない。
壁を背にして突っ込んでくるモンスターたちをホーリーで返り討ちにし、タイミングを見計らって魔界の影を斬りつける。
それから何度も無差別モードをやり過ごして同じことを続けていると、ついに魔界の影の大きさがサッカーボールくらいにまで小さくなった。
本来であればそろそろトドメを刺すべきだが、俺は敢えてそれをせずに見守る。
すると魔界の影は壁の割れ目に向かって触手のようなものを伸ばした。そのままそれを見守っていると、徐々に魔界の影の大きさが元に戻っていく。
ブラウエルデ・クロニクルでは、一定時間攻撃せずに放置していると魔界の影が自動回復するという仕様があるのだが、きっとこれがそれに相当するものだろう。
俺は急いで距離を詰めるとその触手を切り捨てた。魔界の影の再生は止まり、周囲にモンスターを大量に生み出した。そしてすぐに無差別モードで攻撃してくる。
おっと! こうなるのか。
すでに十分に距離は取れていたが、油断も隙もあったものじゃない。
だが、これでお目当てのモンスターを大量に湧かせることができた。要するに、素材のために定点狩りをしようというわけだ。
こうして俺は再びモンスターを倒してはちくちくと魔界の影を削るというルーチンに戻るのだった。
◆◇◆
それからかなり長時間戦い続け、部屋中がびっしりとモンスターの死体で埋めつくされたので俺は小さくなった魔界の影にトドメを刺した。
ホーリーによって影は完全に消滅し、ゴルフボール大の黒い宝石だけが残る。
これは黒の欠片だ。これほどの大きさのものはないだろうが、床に散乱しているモンスターたちからも小さなものは取れるだろう。
あとは、あの割れ目を閉じれば任務完了だ。
俺はすぐさま魔界の影が復活するときに触手を伸ばしていた割れ目に手を伸ばし、サンクチュアリを発動した。
すると徐々に割れ目が薄くなっていき、やがて綺麗に塞がるのだった。
「ようし。これで任務完了だ。あとは回収……あ! しまった!」
人魚の戦士たちのことをすっかり忘れていた。
俺は急いで部屋の入口へと向かう。するとそこには息も絶え絶えな人魚の戦士たちが身を寄せ合っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。なんとか」
「すまない。まさかあんな……」
口々に謝られるが、狩りに夢中になってすっかり忘れていたのでなんとも後ろめたい。
「とりあえず、治療しますね」
俺は彼らの怪我をすぐさま治療するのだった。
◆◇◆
「なんと!」
「まさかこれほどの数のモンスターを倒されるとは!」
「さすが救世主様!」
「あ、いや、これは、その……」
治療を終えた彼らに退治し、割れ目も塞いだのでもう大丈夫だと伝えたところ、確認したいと言って部屋の中に入った彼らは口々に俺のことを称賛してくる。
だが、これは単に素材のドロップを狙ってわざとトドメを刺さず、延々と定点狩りを続けた結果だ。彼らが想像しているような激戦があったわけではない。
「そうだ! 救世主様はモンスターの死体もご所望でしたな」
「我々が一匹残らずお運びしましょう!」
「さあさあ、救世主様はお疲れでしょうから、ぜひ里にお戻りください」
「え? あ、それは……」
俺はそのまま彼らに押し切られ、先に里へと戻るのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/08 (木) 18:00 を予定しております。
……これは、アレが来るのか!?
俺は最大限の警戒をしつつ、魔界の影の次の動きに備える。
プルプルと震えたかと思うと、黒い弾丸のようなものを四方八方に撒き散らす。
来た!
これはブラウエルデ・クロニクルにおいて、無差別モードと呼ばれていたものだ。
この黒い弾丸一つ一つが闇属性の魔法攻撃となっており、この弾丸は敵味方関係なく命中する。これをくらったプレイヤーはダメージを受け、さらに一発ごとに攻撃力ダウン、守備力ダウン、魔力ダウンという三つのデバフを受けることになる。
これが魔界の影の一番厄介な攻撃だ。しかもプレイヤーが張り付いて攻撃していると魔界の影はすぐにこの攻撃を仕掛けてくる。
いくら熟練のプレイヤーといえども、至近距離で全方位に放たれるこの攻撃を防ぐことはできない。そのため対魔界の影戦では一撃を与えたら離脱するのが定石で、俺もこの攻撃を警戒してずっと一撃離脱を繰り返していたわけだ。
また、なんとこの攻撃はモンスターにも命中する。もちろんこれで勝手に周囲のモンスターを倒してくれるなどということはない。
ではどうなるかというと、なんと能力が強化されるのだ。しかも強化されたモンスターは、倒しても魔石や光の欠片が落ちず、闇の欠片だけを落とすようになる。
ブラウエルデ・クロニクルにおいて闇属性魔法はプレイヤーに解禁されていなかったため、この仕様はとにかく不評だったのは言うまでもない。
俺は剣で致命傷になりそうな弾丸を弾いて無差別モードをやり過ごした。そしてすぐにデバフをヒールで解除し、周囲を確認する。
どうやら人魚の戦士たちは幻覚が解けたようで、よろよろと部屋の外に逃げていくのが見えた。死者が出ていないことを祈ろう。
他のモンスターたちはというと、かなりの数のモンスターたちが黒いオーラを身に纏っている。あれが強化された証拠だ。
だが、やることは変わらない。
壁を背にして突っ込んでくるモンスターたちをホーリーで返り討ちにし、タイミングを見計らって魔界の影を斬りつける。
それから何度も無差別モードをやり過ごして同じことを続けていると、ついに魔界の影の大きさがサッカーボールくらいにまで小さくなった。
本来であればそろそろトドメを刺すべきだが、俺は敢えてそれをせずに見守る。
すると魔界の影は壁の割れ目に向かって触手のようなものを伸ばした。そのままそれを見守っていると、徐々に魔界の影の大きさが元に戻っていく。
ブラウエルデ・クロニクルでは、一定時間攻撃せずに放置していると魔界の影が自動回復するという仕様があるのだが、きっとこれがそれに相当するものだろう。
俺は急いで距離を詰めるとその触手を切り捨てた。魔界の影の再生は止まり、周囲にモンスターを大量に生み出した。そしてすぐに無差別モードで攻撃してくる。
おっと! こうなるのか。
すでに十分に距離は取れていたが、油断も隙もあったものじゃない。
だが、これでお目当てのモンスターを大量に湧かせることができた。要するに、素材のために定点狩りをしようというわけだ。
こうして俺は再びモンスターを倒してはちくちくと魔界の影を削るというルーチンに戻るのだった。
◆◇◆
それからかなり長時間戦い続け、部屋中がびっしりとモンスターの死体で埋めつくされたので俺は小さくなった魔界の影にトドメを刺した。
ホーリーによって影は完全に消滅し、ゴルフボール大の黒い宝石だけが残る。
これは黒の欠片だ。これほどの大きさのものはないだろうが、床に散乱しているモンスターたちからも小さなものは取れるだろう。
あとは、あの割れ目を閉じれば任務完了だ。
俺はすぐさま魔界の影が復活するときに触手を伸ばしていた割れ目に手を伸ばし、サンクチュアリを発動した。
すると徐々に割れ目が薄くなっていき、やがて綺麗に塞がるのだった。
「ようし。これで任務完了だ。あとは回収……あ! しまった!」
人魚の戦士たちのことをすっかり忘れていた。
俺は急いで部屋の入口へと向かう。するとそこには息も絶え絶えな人魚の戦士たちが身を寄せ合っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。なんとか」
「すまない。まさかあんな……」
口々に謝られるが、狩りに夢中になってすっかり忘れていたのでなんとも後ろめたい。
「とりあえず、治療しますね」
俺は彼らの怪我をすぐさま治療するのだった。
◆◇◆
「なんと!」
「まさかこれほどの数のモンスターを倒されるとは!」
「さすが救世主様!」
「あ、いや、これは、その……」
治療を終えた彼らに退治し、割れ目も塞いだのでもう大丈夫だと伝えたところ、確認したいと言って部屋の中に入った彼らは口々に俺のことを称賛してくる。
だが、これは単に素材のドロップを狙ってわざとトドメを刺さず、延々と定点狩りを続けた結果だ。彼らが想像しているような激戦があったわけではない。
「そうだ! 救世主様はモンスターの死体もご所望でしたな」
「我々が一匹残らずお運びしましょう!」
「さあさあ、救世主様はお疲れでしょうから、ぜひ里にお戻りください」
「え? あ、それは……」
俺はそのまま彼らに押し切られ、先に里へと戻るのだった。
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