83 / 201
第83話 魔界の影
しおりを挟む
「すっごーい! レクちんさっすー!」
「はいはい、マリン様。レクス様のお仕事の邪魔をされてはいけませんよ」
年配の戦士がそう言ってマリンを宥めている。
「邪魔してないしー! レクちんもあーしの応援で元気出ているしー」
「ではマリン様、レクス様の倒されたモンスターの死体を集めましょう。レクス様はそれを欲しいと仰っていましたので、きっと喜ばれることでしょう」
「え? マジ!? レクちん! あーしに任せて!」
マリンはそう言って海底へと向かってものすごいスピードで泳いでいった。それを何人かの戦士たちが追いかける。
「ああ、上手いあしらい方ですね」
「我々はもう慣れておりますので」
俺たちはお互いに苦笑いを浮かべ合った。
「さて、それじゃあ黒い影のモンスターを倒しに行きましょう。案内をお願いします」
「はい」
こうしてマリンを追い払っ……大事な仕事をお願いした俺たちは神殿の中へと足を踏み入れる。
入り口はピラミッドの一番上にあり、そこから泳いで入るという仕組みになっていた。階段などが一切ないあたりは人魚の神殿らしい。もしこの神殿が地上にあれば、間違いなくほとんどの人が参拝できないだろう。
そんな神殿内を泳いで進んでいくと、大きな部屋に出た。正面の壁には何か亀裂のようなものがあり、その前に黒い影のようなモンスターがふらふらと漂っている。
ああ、間違いない。アレは魔界の影だ。
「下がっていてください」
「ああ、頼むぞ」
戦士たちに下がってもらうが、少し下がった後ろで待機している。
「すみません。部屋から出てもらえますか?」
「何?」
「多分、邪魔になってしまうと思いますので」
するとやや若い一人の戦士の顔がさっと歪んだ。
「おい、こう仰っているんだ。下がるぞ」
「ぐ……」
他の戦士たちにそう言われ、渋々といった様子で下がっていった。
それから彼ら全員が部屋を出たのを確認し、行動を開始する。まず壁際に行き、身体強化を使いながら壁を思い切り蹴って魔界の影に向かって突撃した。
それでようやく魔界の影は俺の存在に気付いたのか、ぐにゃりと蠢く。すると魔界の影の周囲に次々とモンスターが発生した。
魚、イカ、サメなどのモンスターが次々と俺に向かって攻撃してくるが、正面に放ったホーリーによって力を失い、床へと落下していく。
俺はそのままの勢いで魔界の影に剣で一撃を加えた。エンチャントしたホーリーが発動する。
だが、いや、やはりというべきか。魔界の影は倒れていない。
斬った場所の周辺がボロボロと崩れ落ちたものの、それもすぐに止まってしまった。
やはりブラウエルデ・クロニクルと同じで、こいつは簡単には倒せない。
ブラウエルデ・クロニクルでもこいつはタフで、倒れるまで何発でもぶち込んでやる必要があった。しかもこいつは厄介な攻撃を持っているため、張り付いて殴り続けると確実に負けてしまう。
魔界の影は再び蠢き、モンスターを発生させると、そのモンスターたちはすぐに俺に向かって突撃してくる。それと同時に魔界の影は一瞬小さくなり、次の瞬間全方位に黒い波動が放たれた。
瘴気だ!
俺は三つ目の【光属性魔法】、サンクチュアリを発動した。サンクチュアリはすべてのデバフを無効化することができるため、魔界の影が放った瘴気の効果を打ち消すことができる。もしこれをせずに瘴気をもろに受けてしまうと様々な状態異常を受けてしまう。
毒や行動不能程度ならまだいいが、場合によっては幻覚という味方がモンスターに見えてしまう恐ろしい状態異常に陥ってしまうこともある。
人魚の戦士たちに下がってもらったのはこのためだ。ただでさえ水中で動きが大きく鈍っているのに、人魚の戦士たちからも攻撃されては命にかかわる。
黒い波動をサンクチュアリでやり過ごすと、近寄ってきたモンスターたちをホーリーで倒す。そして再び身体強化を掛けながら思い切り床を蹴り、魔界の影に突進する。
またホーリーをエンチャントした剣での一撃を当てることができ、魔界の影の一部が崩れ落ちる。
壁際まで移動したところで、再び魔界の影が黒い波動を放ってきた。もちろん今回もサンクチュアリでやり過ごし、そして反撃をしようとしたそのときだった。
「おい! 何をしている! しっかりしろ!」
「おい! ぐあっ!?」
部屋の入口のほうからそんな声が聞こえてきた。
見てみると、あのとき不服そうにしていた人魚の戦士が仲間の戦士たちを相手に大暴れしている。
……どうやら結局こっちに来てしまい、ちょうど黒い波動を受けて幻覚状態になってしまったらしい。
どうする? ヒールで治療することはできるが……。
だがそうこうしているうちにモンスターたちが俺のほうへと向かってきた。一部は彼らのほうにも向かっている。
無理だ。そんな余裕はない。
モンスターたちを倒しつつタイミングを見て魔界の影に攻撃を加え、そしてそのまま離脱する。
それを繰り返しているうちに、魔界の影はだいぶ小さくなってきた。
人魚の戦士たちはというと、残念ながら同士討ちでもうボロボロだ。だが俺のほうも助けている余裕はない。
倒しきるまでなんとか耐えてくれよ。
そう願いつつ、俺は魔界の影の隙を窺うのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/07 (水) 18:00 を予定しております。
「はいはい、マリン様。レクス様のお仕事の邪魔をされてはいけませんよ」
年配の戦士がそう言ってマリンを宥めている。
「邪魔してないしー! レクちんもあーしの応援で元気出ているしー」
「ではマリン様、レクス様の倒されたモンスターの死体を集めましょう。レクス様はそれを欲しいと仰っていましたので、きっと喜ばれることでしょう」
「え? マジ!? レクちん! あーしに任せて!」
マリンはそう言って海底へと向かってものすごいスピードで泳いでいった。それを何人かの戦士たちが追いかける。
「ああ、上手いあしらい方ですね」
「我々はもう慣れておりますので」
俺たちはお互いに苦笑いを浮かべ合った。
「さて、それじゃあ黒い影のモンスターを倒しに行きましょう。案内をお願いします」
「はい」
こうしてマリンを追い払っ……大事な仕事をお願いした俺たちは神殿の中へと足を踏み入れる。
入り口はピラミッドの一番上にあり、そこから泳いで入るという仕組みになっていた。階段などが一切ないあたりは人魚の神殿らしい。もしこの神殿が地上にあれば、間違いなくほとんどの人が参拝できないだろう。
そんな神殿内を泳いで進んでいくと、大きな部屋に出た。正面の壁には何か亀裂のようなものがあり、その前に黒い影のようなモンスターがふらふらと漂っている。
ああ、間違いない。アレは魔界の影だ。
「下がっていてください」
「ああ、頼むぞ」
戦士たちに下がってもらうが、少し下がった後ろで待機している。
「すみません。部屋から出てもらえますか?」
「何?」
「多分、邪魔になってしまうと思いますので」
するとやや若い一人の戦士の顔がさっと歪んだ。
「おい、こう仰っているんだ。下がるぞ」
「ぐ……」
他の戦士たちにそう言われ、渋々といった様子で下がっていった。
それから彼ら全員が部屋を出たのを確認し、行動を開始する。まず壁際に行き、身体強化を使いながら壁を思い切り蹴って魔界の影に向かって突撃した。
それでようやく魔界の影は俺の存在に気付いたのか、ぐにゃりと蠢く。すると魔界の影の周囲に次々とモンスターが発生した。
魚、イカ、サメなどのモンスターが次々と俺に向かって攻撃してくるが、正面に放ったホーリーによって力を失い、床へと落下していく。
俺はそのままの勢いで魔界の影に剣で一撃を加えた。エンチャントしたホーリーが発動する。
だが、いや、やはりというべきか。魔界の影は倒れていない。
斬った場所の周辺がボロボロと崩れ落ちたものの、それもすぐに止まってしまった。
やはりブラウエルデ・クロニクルと同じで、こいつは簡単には倒せない。
ブラウエルデ・クロニクルでもこいつはタフで、倒れるまで何発でもぶち込んでやる必要があった。しかもこいつは厄介な攻撃を持っているため、張り付いて殴り続けると確実に負けてしまう。
魔界の影は再び蠢き、モンスターを発生させると、そのモンスターたちはすぐに俺に向かって突撃してくる。それと同時に魔界の影は一瞬小さくなり、次の瞬間全方位に黒い波動が放たれた。
瘴気だ!
俺は三つ目の【光属性魔法】、サンクチュアリを発動した。サンクチュアリはすべてのデバフを無効化することができるため、魔界の影が放った瘴気の効果を打ち消すことができる。もしこれをせずに瘴気をもろに受けてしまうと様々な状態異常を受けてしまう。
毒や行動不能程度ならまだいいが、場合によっては幻覚という味方がモンスターに見えてしまう恐ろしい状態異常に陥ってしまうこともある。
人魚の戦士たちに下がってもらったのはこのためだ。ただでさえ水中で動きが大きく鈍っているのに、人魚の戦士たちからも攻撃されては命にかかわる。
黒い波動をサンクチュアリでやり過ごすと、近寄ってきたモンスターたちをホーリーで倒す。そして再び身体強化を掛けながら思い切り床を蹴り、魔界の影に突進する。
またホーリーをエンチャントした剣での一撃を当てることができ、魔界の影の一部が崩れ落ちる。
壁際まで移動したところで、再び魔界の影が黒い波動を放ってきた。もちろん今回もサンクチュアリでやり過ごし、そして反撃をしようとしたそのときだった。
「おい! 何をしている! しっかりしろ!」
「おい! ぐあっ!?」
部屋の入口のほうからそんな声が聞こえてきた。
見てみると、あのとき不服そうにしていた人魚の戦士が仲間の戦士たちを相手に大暴れしている。
……どうやら結局こっちに来てしまい、ちょうど黒い波動を受けて幻覚状態になってしまったらしい。
どうする? ヒールで治療することはできるが……。
だがそうこうしているうちにモンスターたちが俺のほうへと向かってきた。一部は彼らのほうにも向かっている。
無理だ。そんな余裕はない。
モンスターたちを倒しつつタイミングを見て魔界の影に攻撃を加え、そしてそのまま離脱する。
それを繰り返しているうちに、魔界の影はだいぶ小さくなってきた。
人魚の戦士たちはというと、残念ながら同士討ちでもうボロボロだ。だが俺のほうも助けている余裕はない。
倒しきるまでなんとか耐えてくれよ。
そう願いつつ、俺は魔界の影の隙を窺うのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/07 (水) 18:00 を予定しております。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
122
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる