82 / 208
第82話 女王からの依頼
しおりを挟む
「影が現れたのです」
「影?」
「はい。まるで影のような黒いモンスターです」
ブラウエルデ・クロニクルで影のような黒いモンスターというと、真っ先に魔界の影が思い浮かぶ。こいつは次元の裂け目から現れる特殊なモンスターで、決まった形は持たない。そして周囲にモンスターを発生させ続けるうえ、倒しても次元の裂け目を塞がなければ無限に湧き続けるという厄介なモンスターだ。
ちなみにブラウエルデ・クロニクルにおいて魔界は未実装だったので、魔界がどんなところなのかはおろか、本当に存在するのかといったことすらも不明だ。ネットでは魔界には強力なモンスターがたくさんいるという割とありがちな説から、そもそも魔界なんかなくてそう呼んでいるだけだという説まで、様々な真偽不明の噂が存在していた。だが俺の知る限り、公式からの発表は一度もない。
「それで、そのモンスターはどういったモンスターなんですか?」
「ええ、ですから影のような黒いモンスターです」
「それは分かったんですが、形とかはどんななんですか?」
「形は決まっていません。動くわけではないのですが、自由自在に形を変えるのです」
「なるほど……」
ますます魔界の影っぽいが……。
「残念ながらわたくしたちではその影のモンスターを倒すことができず、多大な損害を出してしまいました。そこで、光属性の魔法をお使いになる救世主を探そうということになったのです」
「救世主ですか?」
「はい。わたくしたちの里には、黒き影によって危機が訪れたとき、光の使い手たる救世主が現れ、お救いくださるという言い伝えがあるのです」
なるほど。それで俺が使ったホーリーを見て救世主だと言っていたのか。
「それで俺がホーリーでモンスターを駆除しているのをどこかで見ていたマリンが……」
「はい。もしや、無理やり連れてくるような真似をしたのですか?」
「えっ? あ、それは……」
「ああ、やはり! 拉致してきたのですね。申し訳ございません」
「ちょっと! 違うし! あーしとレクちんはズッと――」
「お黙りなさい!」
「ひっ」
女王様に叱られ、マリンは震えて縮こまる。
さて、どうしたものか。魔界の影は聖女の首飾りの力があるので勝算はある。次元の裂け目も三つ目の【光属性魔法】であるサンクチュアリで塞ぐことができるので問題ない。
だが、別にここでモンスター退治をしても……ん? ちょっと待てよ? 魔界の影が出るってことは、もしかしてアレが手に入るんじゃないか?
「いいですよ。ただ、条件があります」
「条件? それはどのよう――」
「やっだー! レクちんったら、あーしとレクちんはズッ友だから~、そんないくらあーしが可愛いからってそん――」
「お黙りなさい! このバカ娘!」
女王様がものすごい剣幕でマリンのところに行き、頭に拳骨を落とした。
「いったーい! ちょっと! 何すん痛い! 痛い! 痛い! ごめんなさい! お母さまごめんなさい!」
ものすごく痛そうなお仕置きをされたマリンは何人かの人魚に両手とヒレを捕まれ、そのまま退出させられる。
それを見送った女王様は大きなため息をついた。
「お見苦しいところをお見せし、申し訳ございません」
「いえ。心中お察しします」
「恐縮です。はぁ」
女王様はもう一度大きなため息をつくと、話を戻す。
「して、条件とは?」
「あ、はい。ええと……ああ、そうだ。モンスターを倒したときに手に入る素材をください」
「え? 素材、ですか?」
「はい」
「それだけでよろしいのですか?」
「はい。十分ですから」
「そのようなことでよろしければ」
「では、引き受けさせていただきますね」
こうして俺は人魚たちの神殿に出るというモンスターの駆除を行うこととなったのだった。
◆◇◆
俺は再び洞窟の入口に戻ってきた。案内役として人魚の里のベテラン戦士たちが一緒に来てくれている。それとなぜかマリンまで一緒に来ているのだが、それを問い詰めても話が進まないので放っておこう。
「ほら、レクちん! あそこだよ!」
「ああ」
適当に話を合わせつつ、俺は洞窟の中に突入する。出てくるモンスターはとにかくホーリーで叩き落とし、ひたすらに洞窟の奥を目指して進んでいくと、すぐに広い空間に出た。
その空間にはエジプトではなくマヤのほうのピラミッドのような形をした神殿が建っており、その周囲をたくさんの魚や海獣のモンスターたちが取り囲んでいる。
「じゃあ、おびき寄せますね。下がっててください」
通ってきた洞窟のところまで戻ると、洞窟の壁を剣で叩いて音を出した。するとその音で俺たちに気付いたモンスターたちが一斉にこちらへと向かってくる。
「レ、レクちん! 来てるよ!」
「大丈夫だから」
十分に引き付けたところでホーリーを放った。直撃を受けたモンスターたちは海底へと沈んでいく。
「お! すっごーい! さすがレクちんだね!」
「はいはい。危ないから下がっててくれよ」
マリンを適当にあしらい、続いて迫ってくるモンスターたちにホーリーを放つ。
と、後ろからまたしても気の抜ける会話が聞こえてきた。
「わぁお! ねえねえ聞いた? レクちんがあたしのこと命懸けで守ってくれるって!」
「マリン様、レクス様はそのようなことは仰っていません」
「えぇ~? でもあーしとレクちんはズッ友だからね。あーしのほうが正しいもん!」
それから小さなため息が聞こえてくる。
そうこうしているうちに、俺は神殿の周囲を泳いでいたモンスターたちを全滅させたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/06 (火) 18:00 を予定しております。
「影?」
「はい。まるで影のような黒いモンスターです」
ブラウエルデ・クロニクルで影のような黒いモンスターというと、真っ先に魔界の影が思い浮かぶ。こいつは次元の裂け目から現れる特殊なモンスターで、決まった形は持たない。そして周囲にモンスターを発生させ続けるうえ、倒しても次元の裂け目を塞がなければ無限に湧き続けるという厄介なモンスターだ。
ちなみにブラウエルデ・クロニクルにおいて魔界は未実装だったので、魔界がどんなところなのかはおろか、本当に存在するのかといったことすらも不明だ。ネットでは魔界には強力なモンスターがたくさんいるという割とありがちな説から、そもそも魔界なんかなくてそう呼んでいるだけだという説まで、様々な真偽不明の噂が存在していた。だが俺の知る限り、公式からの発表は一度もない。
「それで、そのモンスターはどういったモンスターなんですか?」
「ええ、ですから影のような黒いモンスターです」
「それは分かったんですが、形とかはどんななんですか?」
「形は決まっていません。動くわけではないのですが、自由自在に形を変えるのです」
「なるほど……」
ますます魔界の影っぽいが……。
「残念ながらわたくしたちではその影のモンスターを倒すことができず、多大な損害を出してしまいました。そこで、光属性の魔法をお使いになる救世主を探そうということになったのです」
「救世主ですか?」
「はい。わたくしたちの里には、黒き影によって危機が訪れたとき、光の使い手たる救世主が現れ、お救いくださるという言い伝えがあるのです」
なるほど。それで俺が使ったホーリーを見て救世主だと言っていたのか。
「それで俺がホーリーでモンスターを駆除しているのをどこかで見ていたマリンが……」
「はい。もしや、無理やり連れてくるような真似をしたのですか?」
「えっ? あ、それは……」
「ああ、やはり! 拉致してきたのですね。申し訳ございません」
「ちょっと! 違うし! あーしとレクちんはズッと――」
「お黙りなさい!」
「ひっ」
女王様に叱られ、マリンは震えて縮こまる。
さて、どうしたものか。魔界の影は聖女の首飾りの力があるので勝算はある。次元の裂け目も三つ目の【光属性魔法】であるサンクチュアリで塞ぐことができるので問題ない。
だが、別にここでモンスター退治をしても……ん? ちょっと待てよ? 魔界の影が出るってことは、もしかしてアレが手に入るんじゃないか?
「いいですよ。ただ、条件があります」
「条件? それはどのよう――」
「やっだー! レクちんったら、あーしとレクちんはズッ友だから~、そんないくらあーしが可愛いからってそん――」
「お黙りなさい! このバカ娘!」
女王様がものすごい剣幕でマリンのところに行き、頭に拳骨を落とした。
「いったーい! ちょっと! 何すん痛い! 痛い! 痛い! ごめんなさい! お母さまごめんなさい!」
ものすごく痛そうなお仕置きをされたマリンは何人かの人魚に両手とヒレを捕まれ、そのまま退出させられる。
それを見送った女王様は大きなため息をついた。
「お見苦しいところをお見せし、申し訳ございません」
「いえ。心中お察しします」
「恐縮です。はぁ」
女王様はもう一度大きなため息をつくと、話を戻す。
「して、条件とは?」
「あ、はい。ええと……ああ、そうだ。モンスターを倒したときに手に入る素材をください」
「え? 素材、ですか?」
「はい」
「それだけでよろしいのですか?」
「はい。十分ですから」
「そのようなことでよろしければ」
「では、引き受けさせていただきますね」
こうして俺は人魚たちの神殿に出るというモンスターの駆除を行うこととなったのだった。
◆◇◆
俺は再び洞窟の入口に戻ってきた。案内役として人魚の里のベテラン戦士たちが一緒に来てくれている。それとなぜかマリンまで一緒に来ているのだが、それを問い詰めても話が進まないので放っておこう。
「ほら、レクちん! あそこだよ!」
「ああ」
適当に話を合わせつつ、俺は洞窟の中に突入する。出てくるモンスターはとにかくホーリーで叩き落とし、ひたすらに洞窟の奥を目指して進んでいくと、すぐに広い空間に出た。
その空間にはエジプトではなくマヤのほうのピラミッドのような形をした神殿が建っており、その周囲をたくさんの魚や海獣のモンスターたちが取り囲んでいる。
「じゃあ、おびき寄せますね。下がっててください」
通ってきた洞窟のところまで戻ると、洞窟の壁を剣で叩いて音を出した。するとその音で俺たちに気付いたモンスターたちが一斉にこちらへと向かってくる。
「レ、レクちん! 来てるよ!」
「大丈夫だから」
十分に引き付けたところでホーリーを放った。直撃を受けたモンスターたちは海底へと沈んでいく。
「お! すっごーい! さすがレクちんだね!」
「はいはい。危ないから下がっててくれよ」
マリンを適当にあしらい、続いて迫ってくるモンスターたちにホーリーを放つ。
と、後ろからまたしても気の抜ける会話が聞こえてきた。
「わぁお! ねえねえ聞いた? レクちんがあたしのこと命懸けで守ってくれるって!」
「マリン様、レクス様はそのようなことは仰っていません」
「えぇ~? でもあーしとレクちんはズッ友だからね。あーしのほうが正しいもん!」
それから小さなため息が聞こえてくる。
そうこうしているうちに、俺は神殿の周囲を泳いでいたモンスターたちを全滅させたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/06 (火) 18:00 を予定しております。
20
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
転生幼女アイリスと虹の女神
紺野たくみ
ファンタジー
地球末期。パーソナルデータとなって仮想空間で暮らす人類を管理するAI、システム・イリスは、21世紀の女子高生アイドル『月宮アリス』及びニューヨークの営業ウーマン『イリス・マクギリス』としての前世の記憶を持っていた。地球が滅びた後、彼女は『虹の女神』に異世界転生へと誘われる。
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに豪商ラゼル家の一人娘として生まれたアイリスは虹の女神『スゥエ』のお気に入りで『先祖還り』と呼ばれる前世の記憶持ち。優しい父母、叔父エステリオ・アウル、妖精たちに守られている。
三歳の『魔力診』で保有魔力が規格外に大きいと判明。魔導師協会の長『漆黒の魔法使いカルナック』や『深緑のコマラパ』老師に見込まれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる