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第82話 女王からの依頼

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「影が現れたのです」
「影?」
「はい。まるで影のような黒いモンスターです」

 ブラウエルデ・クロニクルで影のような黒いモンスターというと、真っ先に魔界の影が思い浮かぶ。こいつは次元の裂け目から現れる特殊なモンスターで、決まった形は持たない。そして周囲にモンスターを発生させ続けるうえ、倒しても次元の裂け目を塞がなければ無限に湧き続けるという厄介なモンスターだ。

 ちなみにブラウエルデ・クロニクルにおいて魔界は未実装だったので、魔界がどんなところなのかはおろか、本当に存在するのかといったことすらも不明だ。ネットでは魔界には強力なモンスターがたくさんいるという割とありがちな説から、そもそも魔界なんかなくてそう呼んでいるだけだという説まで、様々な真偽不明の噂が存在していた。だが俺の知る限り、公式からの発表は一度もない。

「それで、そのモンスターはどういったモンスターなんですか?」
「ええ、ですから影のような黒いモンスターです」
「それは分かったんですが、形とかはどんななんですか?」
「形は決まっていません。動くわけではないのですが、自由自在に形を変えるのです」
「なるほど……」

 ますます魔界の影っぽいが……。

「残念ながらわたくしたちではその影のモンスターを倒すことができず、多大な損害を出してしまいました。そこで、光属性の魔法をお使いになる救世主を探そうということになったのです」
「救世主ですか?」
「はい。わたくしたちの里には、黒き影によって危機が訪れたとき、光の使い手たる救世主が現れ、お救いくださるという言い伝えがあるのです」

 なるほど。それで俺が使ったホーリーを見て救世主だと言っていたのか。

「それで俺がホーリーでモンスターを駆除しているのをどこかで見ていたマリンが……」
「はい。もしや、無理やり連れてくるような真似をしたのですか?」
「えっ? あ、それは……」
「ああ、やはり! 拉致してきたのですね。申し訳ございません」
「ちょっと! 違うし! あーしとレクちんはズッと――」
「お黙りなさい!」
「ひっ」

 女王様に叱られ、マリンは震えて縮こまる。

 さて、どうしたものか。魔界の影は聖女の首飾りの力があるので勝算はある。次元の裂け目も三つ目の【光属性魔法】であるサンクチュアリで塞ぐことができるので問題ない。

 だが、別にここでモンスター退治をしても……ん? ちょっと待てよ? 魔界の影が出るってことは、もしかしてアレが手に入るんじゃないか?

「いいですよ。ただ、条件があります」
「条件? それはどのよう――」
「やっだー! レクちんったら、あーしとレクちんはズッ友だから~、そんないくらあーしが可愛いからってそん――」
「お黙りなさい! このバカ娘!」

 女王様がものすごい剣幕でマリンのところに行き、頭に拳骨げんこつを落とした。

「いったーい! ちょっと! 何すん痛い! 痛い! 痛い! ごめんなさい! お母さまごめんなさい!」

 ものすごく痛そうなお仕置きをされたマリンは何人かの人魚に両手とヒレを捕まれ、そのまま退出させられる。

 それを見送った女王様は大きなため息をついた。

「お見苦しいところをお見せし、申し訳ございません」
「いえ。心中お察しします」
「恐縮です。はぁ」

 女王様はもう一度大きなため息をつくと、話を戻す。

「して、条件とは?」
「あ、はい。ええと……ああ、そうだ。モンスターを倒したときに手に入る素材をください」
「え? 素材、ですか?」
「はい」
「それだけでよろしいのですか?」
「はい。十分ですから」
「そのようなことでよろしければ」
「では、引き受けさせていただきますね」

 こうして俺は人魚たちの神殿に出るというモンスターの駆除を行うこととなったのだった。

◆◇◆

 俺は再び洞窟の入口に戻ってきた。案内役として人魚の里のベテラン戦士たちが一緒に来てくれている。それとなぜかマリンまで一緒に来ているのだが、それを問い詰めても話が進まないので放っておこう。

「ほら、レクちん! あそこだよ!」
「ああ」

 適当に話を合わせつつ、俺は洞窟の中に突入する。出てくるモンスターはとにかくホーリーで叩き落とし、ひたすらに洞窟の奥を目指して進んでいくと、すぐに広い空間に出た。

 その空間にはエジプトではなくマヤのほうのピラミッドのような形をした神殿が建っており、その周囲をたくさんの魚や海獣のモンスターたちが取り囲んでいる。

「じゃあ、おびき寄せますね。下がっててください」

 通ってきた洞窟のところまで戻ると、洞窟の壁を剣で叩いて音を出した。するとその音で俺たちに気付いたモンスターたちが一斉にこちらへと向かってくる。

「レ、レクちん! 来てるよ!」
「大丈夫だから」

 十分に引き付けたところでホーリーを放った。直撃を受けたモンスターたちは海底へと沈んでいく。

「お! すっごーい! さすがレクちんだね!」
「はいはい。危ないから下がっててくれよ」

 マリンを適当にあしらい、続いて迫ってくるモンスターたちにホーリーを放つ。

 と、後ろからまたしても気の抜ける会話が聞こえてきた。

「わぁお! ねえねえ聞いた? レクちんがあたしのこと命懸けで守ってくれるって!」
「マリン様、レクス様はそのようなことは仰っていません」
「えぇ~? でもあーしとレクちんはズッ友だからね。あーしのほうが正しいもん!」

 それから小さなため息が聞こえてくる。

 そうこうしているうちに、俺は神殿の周囲を泳いでいたモンスターたちを全滅させたのだった。

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 次回更新は通常どおり、2024/02/06 (火) 18:00 を予定しております。
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