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第69話 カネロの冒険者たち
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そんなこんなで下見をしつつ、俺は遺跡へと到着した。遺跡は通路のような形で石畳が敷かれており、その左右には崩れた柱のようなものがいくつか残っている。そんな通路の先の岩には、見るからに人工的な形状の洞窟が口を開けていた。
さて、どうしよう?
ここまでに襲ってきたのはホーンラビットが一匹だけなので、さすがにもう少し狩って成果が欲しいところだ。
よし。少しだけ覗いてみよう。
俺はランプに明かりを灯し、遺跡の中へと足を踏み入れてみる。
おっと!
なんと洞窟の入口にジャイアントラットの群れがおり、俺の姿を見るなり襲い掛かってきた。
俺は冷静にホーリーを撃ち込み、そいつらを駆除した。
一、二、三、……合計九匹か。
こんな入口に群れがいるということは、どうやら遺跡の中のモンスターの駆除はまったく進んでいないらしい。
これは気を引き締めなければ。
そう思ったのだが、ここでふと疑問が頭に浮かぶ。
嫌な予感が頭をよぎる。
こんなところにモンスターがいるということは、もしかして今遺跡の中に入った冒険者たちはモンスターに囲まれているのではないだろうか?
これはまずい事態な気がする。
助けに行くべきか?
いや、やめておこう。俺一人で行くのは危険だし、そもそも冒険者は自己責任だ。戻ったらギルド職員に報告するだけで十分だ。
そう考えた俺は手早くジャイアントラットを解体して獲物袋に入れると、前線基地へと戻るのだった。
◆◇◆
前線基地に戻った俺はギルド職員のところへ行き、毛皮と角を売るついでに遺跡の状況を説明した。
するとギルド職員からは予想外の反応が返ってきた。
「ええ、そうなんですよ。地上部分は駆除しているのですが、巣穴となっている遺跡には中々手が出せずにおりまして……」
「え? じゃあバンパイアバットやブラックコックローチの話はどうやって?」
「ああ、それはですね。四年前にとあるCランク冒険者の方がいらして、遺跡の中まで駆除してくださったんですよ。そのときはすっかり安全になったのですが去年から少しずつモンスターが増えまして。ですのでご案内したモンスターはそのときに確認されていたものとなります」
「ええっ!? 安全だった場所をモンスターに占領されたってことですか?」
「まあ、そうなりますね」
いやいや、それはちょっと酷いのではないだろうか?
「そんなわけですので、今は冒険者たちが遺跡の周辺のモンスターの駆除を終えつつあるところとなります」
「そうですか」
「それよりも納品いただいた素材ですが、すべて査定はAとなります。こちらが査定の証明書となりますが、ギルドのほうでもきちんと記録しておりますので、冒険者カードをコナ領総本部にお持ちいただければお支払いできます」
「わかりました」
「それでは、本日はお疲れ様でした。あと一時間ほどで夕食の準備が整うと思いますので、それまではご自由にお過ごしください」
◆◇◆
それから一時間後、前線基地内の食堂にやってきた。二十人ほどの男たちでごった返しており、その中にはロベルトさんの姿もあった。食事を受け取り、どこで食べようかと空いている席を探していると、ロベルトさんが手を振って声を掛けて来た。
「おーい! レクス! こっちだこっちだ!」
あえて無視する必要もないので、俺はロベルトさんのところへと向かう。するとロベルトさんは五人ほどの男たちとテーブルを囲んでおり、彼らのグラスには並々とワインが注がれていた。
「お前ら、こいつはレクスっちゅう新入りだ。この年でもうDランクらしいぞ!」
「レクスです。よろしくお願いします」
「おお! よろしくな!」
挨拶もそこそこに、ロベルトさんがいきなりカネロジョークで俺をいじり始めた。
「お前ら驚け! レクスはな。なんと遺跡で何か見つけてくるらしいぜ!」
「マジか! ぎゃははははは」
男たちは大笑いし始めた。相変わらず笑いのツボが理解不能なわけだが、このネタに適当に合わせておけばいいというのはある意味気楽だ。
「そうなんです。実は今日、下見に行って来まして……」
「お? お? 早速なんか手に入れたか?」
「いやあ、いきなりジャイアントラットに襲われちゃいました」
「あー、そうだよなぁ。入口にジャイアントラットが群れでいやがるから入れねぇんだよな」
彼らはうんうんと大げさに頷いてみせる。
「でも、そのジャイアントラットをちょっと倒してきたので、今回の遺跡の戦利品はそれですね」
すると再び彼らは大爆笑した。
よかった。どうやらジョークの使い方はこれで合っているらしい。
「おいおいおい。俺らを笑い死にさせる気か? あー、ウケる。ヒーヒー」
ついに一人の男が笑いすぎて引き笑いを始めた。
それからしばらく爆笑を続けているとロベルトさんの仲間の一人がいきなり立ち上がる。そしてふらふらと怪しい足取りでどこかへ行くと、すぐに新しいワインのボトルを持って戻ってきた。
すると彼らは並々とグラスにワインを注ぎ、俺のほうにもワインを差し出してきた。
「あ、すみません。俺はちょっと……」
「そうかぁ。飲めねぇのかぁ。ジョークがうまぁのぃ、さけぁだぇかぁ」
すで呂律が回っていない。いくらなんでも飲みすぎだろう。
「あの、もうそれくらいにしておいたほうが……」
「ぁぁ~? 俺ぁ酔ってねーよ! こんなん、飲んだうちにはいらぇぇ!」
どうやらこの男は、ここがモンスター駆除の前線基地だということを理解していないようだ。ロベルトさんたちも止める様子がないし、彼ら自身もかなり真っ赤な顔をしている。
いくら冒険者が自己責任とはいえ、これはちょっと危機意識がなさすぎる。
俺は適当に話を合わせて食事を終えると、深く関わり合いになる前に席を立った。
食堂から出るときに周囲の冒険者たちの様子をざっと観察してみたが、なんとすべての冒険者たちが酒を飲んで騒いでいたことに愕然とした。
これは無理だ。こんな奴らに背中を預けたら、間違いなく足をすくわれる。
俺はなるべく早くこの依頼を終えることを決意し、自分の寝床へと向かうのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/01/24 (水) 18:00 を予定しております。
さて、どうしよう?
ここまでに襲ってきたのはホーンラビットが一匹だけなので、さすがにもう少し狩って成果が欲しいところだ。
よし。少しだけ覗いてみよう。
俺はランプに明かりを灯し、遺跡の中へと足を踏み入れてみる。
おっと!
なんと洞窟の入口にジャイアントラットの群れがおり、俺の姿を見るなり襲い掛かってきた。
俺は冷静にホーリーを撃ち込み、そいつらを駆除した。
一、二、三、……合計九匹か。
こんな入口に群れがいるということは、どうやら遺跡の中のモンスターの駆除はまったく進んでいないらしい。
これは気を引き締めなければ。
そう思ったのだが、ここでふと疑問が頭に浮かぶ。
嫌な予感が頭をよぎる。
こんなところにモンスターがいるということは、もしかして今遺跡の中に入った冒険者たちはモンスターに囲まれているのではないだろうか?
これはまずい事態な気がする。
助けに行くべきか?
いや、やめておこう。俺一人で行くのは危険だし、そもそも冒険者は自己責任だ。戻ったらギルド職員に報告するだけで十分だ。
そう考えた俺は手早くジャイアントラットを解体して獲物袋に入れると、前線基地へと戻るのだった。
◆◇◆
前線基地に戻った俺はギルド職員のところへ行き、毛皮と角を売るついでに遺跡の状況を説明した。
するとギルド職員からは予想外の反応が返ってきた。
「ええ、そうなんですよ。地上部分は駆除しているのですが、巣穴となっている遺跡には中々手が出せずにおりまして……」
「え? じゃあバンパイアバットやブラックコックローチの話はどうやって?」
「ああ、それはですね。四年前にとあるCランク冒険者の方がいらして、遺跡の中まで駆除してくださったんですよ。そのときはすっかり安全になったのですが去年から少しずつモンスターが増えまして。ですのでご案内したモンスターはそのときに確認されていたものとなります」
「ええっ!? 安全だった場所をモンスターに占領されたってことですか?」
「まあ、そうなりますね」
いやいや、それはちょっと酷いのではないだろうか?
「そんなわけですので、今は冒険者たちが遺跡の周辺のモンスターの駆除を終えつつあるところとなります」
「そうですか」
「それよりも納品いただいた素材ですが、すべて査定はAとなります。こちらが査定の証明書となりますが、ギルドのほうでもきちんと記録しておりますので、冒険者カードをコナ領総本部にお持ちいただければお支払いできます」
「わかりました」
「それでは、本日はお疲れ様でした。あと一時間ほどで夕食の準備が整うと思いますので、それまではご自由にお過ごしください」
◆◇◆
それから一時間後、前線基地内の食堂にやってきた。二十人ほどの男たちでごった返しており、その中にはロベルトさんの姿もあった。食事を受け取り、どこで食べようかと空いている席を探していると、ロベルトさんが手を振って声を掛けて来た。
「おーい! レクス! こっちだこっちだ!」
あえて無視する必要もないので、俺はロベルトさんのところへと向かう。するとロベルトさんは五人ほどの男たちとテーブルを囲んでおり、彼らのグラスには並々とワインが注がれていた。
「お前ら、こいつはレクスっちゅう新入りだ。この年でもうDランクらしいぞ!」
「レクスです。よろしくお願いします」
「おお! よろしくな!」
挨拶もそこそこに、ロベルトさんがいきなりカネロジョークで俺をいじり始めた。
「お前ら驚け! レクスはな。なんと遺跡で何か見つけてくるらしいぜ!」
「マジか! ぎゃははははは」
男たちは大笑いし始めた。相変わらず笑いのツボが理解不能なわけだが、このネタに適当に合わせておけばいいというのはある意味気楽だ。
「そうなんです。実は今日、下見に行って来まして……」
「お? お? 早速なんか手に入れたか?」
「いやあ、いきなりジャイアントラットに襲われちゃいました」
「あー、そうだよなぁ。入口にジャイアントラットが群れでいやがるから入れねぇんだよな」
彼らはうんうんと大げさに頷いてみせる。
「でも、そのジャイアントラットをちょっと倒してきたので、今回の遺跡の戦利品はそれですね」
すると再び彼らは大爆笑した。
よかった。どうやらジョークの使い方はこれで合っているらしい。
「おいおいおい。俺らを笑い死にさせる気か? あー、ウケる。ヒーヒー」
ついに一人の男が笑いすぎて引き笑いを始めた。
それからしばらく爆笑を続けているとロベルトさんの仲間の一人がいきなり立ち上がる。そしてふらふらと怪しい足取りでどこかへ行くと、すぐに新しいワインのボトルを持って戻ってきた。
すると彼らは並々とグラスにワインを注ぎ、俺のほうにもワインを差し出してきた。
「あ、すみません。俺はちょっと……」
「そうかぁ。飲めねぇのかぁ。ジョークがうまぁのぃ、さけぁだぇかぁ」
すで呂律が回っていない。いくらなんでも飲みすぎだろう。
「あの、もうそれくらいにしておいたほうが……」
「ぁぁ~? 俺ぁ酔ってねーよ! こんなん、飲んだうちにはいらぇぇ!」
どうやらこの男は、ここがモンスター駆除の前線基地だということを理解していないようだ。ロベルトさんたちも止める様子がないし、彼ら自身もかなり真っ赤な顔をしている。
いくら冒険者が自己責任とはいえ、これはちょっと危機意識がなさすぎる。
俺は適当に話を合わせて食事を終えると、深く関わり合いになる前に席を立った。
食堂から出るときに周囲の冒険者たちの様子をざっと観察してみたが、なんとすべての冒険者たちが酒を飲んで騒いでいたことに愕然とした。
これは無理だ。こんな奴らに背中を預けたら、間違いなく足をすくわれる。
俺はなるべく早くこの依頼を終えることを決意し、自分の寝床へと向かうのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/01/24 (水) 18:00 を予定しております。
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