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第63話 裏切り
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翌朝、朝食を食べ終えるとティティがやってきた。
ティティは俺に静かにするようにとジェスチャーをし、手際よく手枷を外していく。
「早くこれに着替えて」
俺は服を手渡されたので急いで着替える。
これは……庭師か何かの服だろうか?
よく分からないが、動きやすそうではある。
着替え終わると、今度は金属製のプレートを差し出してきた。
「あとこれ。あなたのものなんでしょう?」
え? 俺の冒険者カード!?
「ありがとう、ティティ」
「ええ」
お礼を言い、冒険者カードを内ポケットに入れる。すると最後にティティは小ぶりの剣と小さなナイフを差し出してきた。
……かなりしっかりした代物だ。俺が今まで使っていた物とは比べ物にならないほどで、普通に買ったらいったいいくらくらいするのだろうか?
「さあ、行くわよ。ついてらっしゃい」
「ああ」
ティティの後ろを追いかけ、そのまま別荘を抜け出すのだった。
◆◇◆
俺たちは誰にも邪魔されることなく、魔の森に足を踏み入れた。ここまではマッツィアーノ側が把握している計画とも同じなので、怪しまれる要素は何もない。
数センチの雪が積もった森の中を俺たちは奥へ奥へと進んでいく。
ただ、襲ってくるわけではないものの、フォレストウルフやスノーディアが遠巻きにこちらの様子を窺っているのは見かけている。
きっと、じきにあいつらは襲い掛かってくるはずだ。
果たしてそのとき、ずっと監禁されて鈍った体できちんと戦えるのだろうか?
きちんと逃げ切れるのだろうか?
そんな不安に駆られるが、やるしかないのだ。あれだけの大見得を切った以上、必ず逃げ切ってティティとマリア先生を救い出すんだ!
そんな決意を固めていると、突然先を歩いていたティティがピタリと立ち止まった。
「そろそろいいかしら」
ティティはそう言うと、くるりと俺のほうを振り返った。そしてニタァと見たこともないような邪悪な笑みを浮かべる。
「え? ティティ?」
「ねえ、イヌ。お前、本当に私が逃がしてあげるとでも思っていたわけ?」
ティティがすっと手を挙げると、十匹ほどのフォレストウルフが現れた。進行方向からはワイルドボアが現れ、さらにスノーディアがやってきてティティの前でしゃがんだ。
ティティはそのスノーディアの背にまたがる。
「ああ、お父さまの仰っていたとおりだわ。その間抜けな表情が見たかったの。お母さまがお父さまに監禁されただなんて話、本当に信じていたわけ? 馬鹿じゃないの?」
ティティの口から次々と発せられる罵声に俺は頭が真っ白になる。
「ティティ……まさか騙したのか?」
「騙す? あはは、何を言っているの? ペットごとき、どう扱おうと私の勝手でしょう? ちょっと群れの仲間が標本にされたくらいでショックを受けちゃって、やっぱり孤児って欠陥品なのかしら?」
そう言ってあざ笑うティティの表情は、俺の知っているティティとはまるで別人のようだ。
そう、それはまさにマッツィアーノの……。
「あはは、本当に面白いわ。ねえ、イヌ。お前は死ぬときどんな悲鳴を上げるのかしら? 今から楽しみだわ」
「ティティ……」
俺は……一体どうして……。
「あ! そうだ! いいこと思いついたわ。あなたが死んだら、ロザリナお姉さまに標本にしてもらいましょう。ちょうど欲しがってらしたし、あなたも群れの仲間と同じ場所に飾ってもらえば寂しくないんじゃないかしら?」
「っ!?」
あまりの罵倒に耐えられなくなり、俺は森の奥へと駆け出した。
「あら? 逃げるの? ふふ、いいわ。お前たち、狩りの時間よ。できるだけ長く追い回しなさい」
背後からそんな声が聞こえ、それと同時にいくつもの足音が追いかけてくる。
「ほらほら、どうしたの? モンスターなら倒せるんじゃなかったのかしら?」
嘲るティティの声が俺の心にグサリと突き刺さる。
俺は振り返ることもできず、ただただその声から逃れるために全力で森の中を駆け抜けるのだった。
◆◇◆
どこをどう走ってきたのかわからない。気付けばかなり森の奥深くにやってきており、俺を追いかけまわしていたはずのフォレストウルフはいつの間にかどこかにいなくなっていた。
「……ティティ。どうしてあんな酷いことを言ったんだ。ティティは、ティティはそんな女の子じゃなかったじゃないか」
目に涙が滲む。
ティティは、マッツィアーノに染まってしまったんだろうか?
俺が今まで努力したのはなんだったんだろうか?
ティティを信じたいのに、先ほどの言葉が胸をえぐる。
このまま大声で泣いてしまいたい気分だが、ワイルドボアはまだ俺を追いかけてきている。
「くそっ!」
俺の口から思わずそんな悪態が突いて出た。
それは泣こうとしたところを邪魔されたからか、それともティティに対してか、はたまた自分自身に対してか。
自分でもよく分からない怒りを覚え、俺は剣を構える。そして俺を見つけて突っ込んでくるワイルドボアにカウンターの一撃を与えるのだった。
◆◇◆
一方、スノーディアにまたがったセレスティアは無表情のまま、レクスが消えた森の奥をじっと見つめていた。
すると、セレスティアは何かを小声で呟いた。それと同時に彼女の頬を一筋の涙が伝い、ぽろりとこぼれ落ちるのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/01/18 (木) 18:00 を予定しております。
ティティは俺に静かにするようにとジェスチャーをし、手際よく手枷を外していく。
「早くこれに着替えて」
俺は服を手渡されたので急いで着替える。
これは……庭師か何かの服だろうか?
よく分からないが、動きやすそうではある。
着替え終わると、今度は金属製のプレートを差し出してきた。
「あとこれ。あなたのものなんでしょう?」
え? 俺の冒険者カード!?
「ありがとう、ティティ」
「ええ」
お礼を言い、冒険者カードを内ポケットに入れる。すると最後にティティは小ぶりの剣と小さなナイフを差し出してきた。
……かなりしっかりした代物だ。俺が今まで使っていた物とは比べ物にならないほどで、普通に買ったらいったいいくらくらいするのだろうか?
「さあ、行くわよ。ついてらっしゃい」
「ああ」
ティティの後ろを追いかけ、そのまま別荘を抜け出すのだった。
◆◇◆
俺たちは誰にも邪魔されることなく、魔の森に足を踏み入れた。ここまではマッツィアーノ側が把握している計画とも同じなので、怪しまれる要素は何もない。
数センチの雪が積もった森の中を俺たちは奥へ奥へと進んでいく。
ただ、襲ってくるわけではないものの、フォレストウルフやスノーディアが遠巻きにこちらの様子を窺っているのは見かけている。
きっと、じきにあいつらは襲い掛かってくるはずだ。
果たしてそのとき、ずっと監禁されて鈍った体できちんと戦えるのだろうか?
きちんと逃げ切れるのだろうか?
そんな不安に駆られるが、やるしかないのだ。あれだけの大見得を切った以上、必ず逃げ切ってティティとマリア先生を救い出すんだ!
そんな決意を固めていると、突然先を歩いていたティティがピタリと立ち止まった。
「そろそろいいかしら」
ティティはそう言うと、くるりと俺のほうを振り返った。そしてニタァと見たこともないような邪悪な笑みを浮かべる。
「え? ティティ?」
「ねえ、イヌ。お前、本当に私が逃がしてあげるとでも思っていたわけ?」
ティティがすっと手を挙げると、十匹ほどのフォレストウルフが現れた。進行方向からはワイルドボアが現れ、さらにスノーディアがやってきてティティの前でしゃがんだ。
ティティはそのスノーディアの背にまたがる。
「ああ、お父さまの仰っていたとおりだわ。その間抜けな表情が見たかったの。お母さまがお父さまに監禁されただなんて話、本当に信じていたわけ? 馬鹿じゃないの?」
ティティの口から次々と発せられる罵声に俺は頭が真っ白になる。
「ティティ……まさか騙したのか?」
「騙す? あはは、何を言っているの? ペットごとき、どう扱おうと私の勝手でしょう? ちょっと群れの仲間が標本にされたくらいでショックを受けちゃって、やっぱり孤児って欠陥品なのかしら?」
そう言ってあざ笑うティティの表情は、俺の知っているティティとはまるで別人のようだ。
そう、それはまさにマッツィアーノの……。
「あはは、本当に面白いわ。ねえ、イヌ。お前は死ぬときどんな悲鳴を上げるのかしら? 今から楽しみだわ」
「ティティ……」
俺は……一体どうして……。
「あ! そうだ! いいこと思いついたわ。あなたが死んだら、ロザリナお姉さまに標本にしてもらいましょう。ちょうど欲しがってらしたし、あなたも群れの仲間と同じ場所に飾ってもらえば寂しくないんじゃないかしら?」
「っ!?」
あまりの罵倒に耐えられなくなり、俺は森の奥へと駆け出した。
「あら? 逃げるの? ふふ、いいわ。お前たち、狩りの時間よ。できるだけ長く追い回しなさい」
背後からそんな声が聞こえ、それと同時にいくつもの足音が追いかけてくる。
「ほらほら、どうしたの? モンスターなら倒せるんじゃなかったのかしら?」
嘲るティティの声が俺の心にグサリと突き刺さる。
俺は振り返ることもできず、ただただその声から逃れるために全力で森の中を駆け抜けるのだった。
◆◇◆
どこをどう走ってきたのかわからない。気付けばかなり森の奥深くにやってきており、俺を追いかけまわしていたはずのフォレストウルフはいつの間にかどこかにいなくなっていた。
「……ティティ。どうしてあんな酷いことを言ったんだ。ティティは、ティティはそんな女の子じゃなかったじゃないか」
目に涙が滲む。
ティティは、マッツィアーノに染まってしまったんだろうか?
俺が今まで努力したのはなんだったんだろうか?
ティティを信じたいのに、先ほどの言葉が胸をえぐる。
このまま大声で泣いてしまいたい気分だが、ワイルドボアはまだ俺を追いかけてきている。
「くそっ!」
俺の口から思わずそんな悪態が突いて出た。
それは泣こうとしたところを邪魔されたからか、それともティティに対してか、はたまた自分自身に対してか。
自分でもよく分からない怒りを覚え、俺は剣を構える。そして俺を見つけて突っ込んでくるワイルドボアにカウンターの一撃を与えるのだった。
◆◇◆
一方、スノーディアにまたがったセレスティアは無表情のまま、レクスが消えた森の奥をじっと見つめていた。
すると、セレスティアは何かを小声で呟いた。それと同時に彼女の頬を一筋の涙が伝い、ぽろりとこぼれ落ちるのだった。
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