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第50話 合同作戦(後編)
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ブオー!
作戦開始を告げる角笛の音が森に響き渡る。
俺たちは細心の注意を払いながら、ゆっくりと川の方へと進んでいく。
それからしばらくすると、ホーンラビットが突撃してきた。今日はいつものようにホーリーをエンチャントした剣で倒すのではなく、テオがやっていたようにジャンプして飛んできた角を手でつかみ、後頭部を剣の柄で殴打して失神させた。
というのも、まだDランクの俺が騎士に光属性の魔法を見られると不測の事態が生じかねないからだ。いくらカミロ様が立派な貴族だとはいえ、権力を使って無理やり囲い込もうとする可能性は否定できない。
そうなれば黒狼の顎に迷惑を掛けることは確実だし、俺の目的を果たせなくなる可能性だってある。
だから、今はまだ隠しておくべきなのだ。
さて、俺は失神させたホーンラビットにトドメを刺すと、随伴してくれている騎士見習いの少年に手渡した。
「これをお願いします」
すると彼は無言で頷きホーンラビットの死体を持っていた袋に入れた。
それから俺たちは再び川へと向かって歩きだすのだった。
◆◇◆
その後、俺たちは川に到達した。結局ディノウルフに出会うことはなく、駆除したモンスターもホーンラビット七匹だけと想像以上に少なかった。
これからはそのまま川沿いをゆっくり移動して手前の騎士と合流し、再び移動して合流する。こうすることで隣の部隊に何もなかったことを確認でき、最終的には全員で同時に森を抜けることができるというわけだ。
しばらく待っていると、俺たちの隣を担当していた騎士たちが森から出てきた。すかさずグラハムさんが話しかける。
「黒狼の顎です。全員無事です」
「お、無事だったか。それは良かった。成果はどうだ?」
「はい。ホーンラビット七匹だけでした」
「そうか。そちらもか。こちらは三匹だ」
「三匹……少ないですね」
「ああ。だがここはスピネーゼだ。きっとたまたまだろう」
「そうでしょうね」
そんな会話をしていると次々と騎士たちが川沿いに姿を現した。こうして俺たちは騎士たちと合流し、ベースキャンプへと帰還するのだった。
◆◇◆
ベースキャンプではギルドの職員と手分けをして解体を行ってくれているのだが、そこで聞かされた結果は驚くべきものだった。
というのも、今回駆除されたモンスターはなんと三十七匹のホーンラビットと二匹のアサシンラットだけだったのだ。
三百人もの騎士を投入して行ったローラー作戦でこれははっきり言って異常だ。
「聞いていたよりもモンスターの数が少ないな。黒狼の顎、お前たちが狩りつくしたのか?」
カミロ様が困惑した様子でケヴィンさんに質問してきた。
「いえ、そんなはずは……」
ケヴィンさんも困惑した表情で答える。
「……まあいい。モンスターの数が減っているのはいいことだからな。明日からも気を抜かず、作戦を進めるぞ」
「はっ!」
こうして俺たちはやや不完全燃焼ではあるものの、作戦の初日を無事に終えたのだった。
◆◇◆
作戦四日目の夜となった。俺たちは今、森の奥に設営した第二のベースキャンプで明日に備えて休養を取っているところだ。
さて、作戦はまだ四日目なのだが、なんと俺たちはD区域で予定していたほとんどのエリアを掃討し終えてしまった。
順調すぎると言っていいほどの状況ではあるのだが、一つどうにも引っかかることがある。それは襲ってくるのがホーンラビットのみで、ディノウルフはおろかフォレストウルフやワイルドボアも、さらにはあれほど大量にいたアサシンラットですらまったく姿を見かけていないということだ。
もちろん姿を見かけないということはモンスターがいなくなったことを意味しているのだから、望ましいことではある。
だが、なぜ駆除したわけでもないエリアからもホーンラビット以外のモンスターがいなくなったのだろうか?
何か重要なことを見逃している気がするのだが……。
そんな不安を覚えつつも就寝の準備をしていると、なんとカミロ様が俺たちのテントに近付いてきた。
カミロ様は出発時に言っていた言葉を違えず、きちんと最前線で戦っている。そのうえ平民である俺たちのことをきちんと人間として扱ってくれているのだ。
カミロ様はコーザ男爵とは違い、本当に尊敬できる人だと思う。
「ケヴィン、少しいいか? お前たちも一緒に聞いてくれ」
「はい」
俺たちは手を止め、カミロ様の前に集まる。
「この四日間、本当によくやってくれた。お前たちの働きで誰一人欠けることなく作戦を遂行できている。まずはそのことに感謝を伝えたい」
カミロ様はそう言うと、俺たち一人一人に視線を送った。
「お前たちも分かっているだろうが、作戦は予定よりもかなり早く進んでいる。そこで明日はD区域の残るエリアをすべて掃討し、前倒しで作戦を完了するつもりだ。何か異論のある者はいるか?」
「いえ、ございません」
ケヴィンさんが間髪入れずにそう返事をする。
「そうか。ならば明日に備えてしっかり体を休めるといい」
「はっ! ありがとうございます」
「ああ、そうだ。それと、この作戦が終わったら黒狼の顎の担当区域を見直すように指示しておこう。モンスターがこれしか出ないというのは俺も想定外だ。これではお前たちの討伐目標が達成できないだろう?」
カミロ様はそう言ってニカッと笑った。それにつられるかのように、緊張していた俺たちの空気もふわりと軽くなったような気がする。
だが、俺はこのとき想像だにしなかった。
まさかこれがカミロ様と話す最後の機会になるだなんて。
まさかあんなことになるだなんて。
================
次回更新は通常どおり、2024/01/05 (金) 18:00 を予定しております。
作戦開始を告げる角笛の音が森に響き渡る。
俺たちは細心の注意を払いながら、ゆっくりと川の方へと進んでいく。
それからしばらくすると、ホーンラビットが突撃してきた。今日はいつものようにホーリーをエンチャントした剣で倒すのではなく、テオがやっていたようにジャンプして飛んできた角を手でつかみ、後頭部を剣の柄で殴打して失神させた。
というのも、まだDランクの俺が騎士に光属性の魔法を見られると不測の事態が生じかねないからだ。いくらカミロ様が立派な貴族だとはいえ、権力を使って無理やり囲い込もうとする可能性は否定できない。
そうなれば黒狼の顎に迷惑を掛けることは確実だし、俺の目的を果たせなくなる可能性だってある。
だから、今はまだ隠しておくべきなのだ。
さて、俺は失神させたホーンラビットにトドメを刺すと、随伴してくれている騎士見習いの少年に手渡した。
「これをお願いします」
すると彼は無言で頷きホーンラビットの死体を持っていた袋に入れた。
それから俺たちは再び川へと向かって歩きだすのだった。
◆◇◆
その後、俺たちは川に到達した。結局ディノウルフに出会うことはなく、駆除したモンスターもホーンラビット七匹だけと想像以上に少なかった。
これからはそのまま川沿いをゆっくり移動して手前の騎士と合流し、再び移動して合流する。こうすることで隣の部隊に何もなかったことを確認でき、最終的には全員で同時に森を抜けることができるというわけだ。
しばらく待っていると、俺たちの隣を担当していた騎士たちが森から出てきた。すかさずグラハムさんが話しかける。
「黒狼の顎です。全員無事です」
「お、無事だったか。それは良かった。成果はどうだ?」
「はい。ホーンラビット七匹だけでした」
「そうか。そちらもか。こちらは三匹だ」
「三匹……少ないですね」
「ああ。だがここはスピネーゼだ。きっとたまたまだろう」
「そうでしょうね」
そんな会話をしていると次々と騎士たちが川沿いに姿を現した。こうして俺たちは騎士たちと合流し、ベースキャンプへと帰還するのだった。
◆◇◆
ベースキャンプではギルドの職員と手分けをして解体を行ってくれているのだが、そこで聞かされた結果は驚くべきものだった。
というのも、今回駆除されたモンスターはなんと三十七匹のホーンラビットと二匹のアサシンラットだけだったのだ。
三百人もの騎士を投入して行ったローラー作戦でこれははっきり言って異常だ。
「聞いていたよりもモンスターの数が少ないな。黒狼の顎、お前たちが狩りつくしたのか?」
カミロ様が困惑した様子でケヴィンさんに質問してきた。
「いえ、そんなはずは……」
ケヴィンさんも困惑した表情で答える。
「……まあいい。モンスターの数が減っているのはいいことだからな。明日からも気を抜かず、作戦を進めるぞ」
「はっ!」
こうして俺たちはやや不完全燃焼ではあるものの、作戦の初日を無事に終えたのだった。
◆◇◆
作戦四日目の夜となった。俺たちは今、森の奥に設営した第二のベースキャンプで明日に備えて休養を取っているところだ。
さて、作戦はまだ四日目なのだが、なんと俺たちはD区域で予定していたほとんどのエリアを掃討し終えてしまった。
順調すぎると言っていいほどの状況ではあるのだが、一つどうにも引っかかることがある。それは襲ってくるのがホーンラビットのみで、ディノウルフはおろかフォレストウルフやワイルドボアも、さらにはあれほど大量にいたアサシンラットですらまったく姿を見かけていないということだ。
もちろん姿を見かけないということはモンスターがいなくなったことを意味しているのだから、望ましいことではある。
だが、なぜ駆除したわけでもないエリアからもホーンラビット以外のモンスターがいなくなったのだろうか?
何か重要なことを見逃している気がするのだが……。
そんな不安を覚えつつも就寝の準備をしていると、なんとカミロ様が俺たちのテントに近付いてきた。
カミロ様は出発時に言っていた言葉を違えず、きちんと最前線で戦っている。そのうえ平民である俺たちのことをきちんと人間として扱ってくれているのだ。
カミロ様はコーザ男爵とは違い、本当に尊敬できる人だと思う。
「ケヴィン、少しいいか? お前たちも一緒に聞いてくれ」
「はい」
俺たちは手を止め、カミロ様の前に集まる。
「この四日間、本当によくやってくれた。お前たちの働きで誰一人欠けることなく作戦を遂行できている。まずはそのことに感謝を伝えたい」
カミロ様はそう言うと、俺たち一人一人に視線を送った。
「お前たちも分かっているだろうが、作戦は予定よりもかなり早く進んでいる。そこで明日はD区域の残るエリアをすべて掃討し、前倒しで作戦を完了するつもりだ。何か異論のある者はいるか?」
「いえ、ございません」
ケヴィンさんが間髪入れずにそう返事をする。
「そうか。ならば明日に備えてしっかり体を休めるといい」
「はっ! ありがとうございます」
「ああ、そうだ。それと、この作戦が終わったら黒狼の顎の担当区域を見直すように指示しておこう。モンスターがこれしか出ないというのは俺も想定外だ。これではお前たちの討伐目標が達成できないだろう?」
カミロ様はそう言ってニカッと笑った。それにつられるかのように、緊張していた俺たちの空気もふわりと軽くなったような気がする。
だが、俺はこのとき想像だにしなかった。
まさかこれがカミロ様と話す最後の機会になるだなんて。
まさかあんなことになるだなんて。
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