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第39話 強制依頼
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2023/12/25 予約投稿に失敗しておりまして申し訳ございません。本日は二回更新を行います。
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その依頼は年が明けると共に舞い込んできた。本当は冬の間にしっかり訓練し、雪解けのころに湧いてくるモンスターに備えたかったのだが、残念ながら今回の依頼は断れなかった。
なぜかというと依頼主がコーザ男爵、つまり領主様だったからだ。
依頼内容は、ここから南にあるピエンテ公爵領の領都トリネラとの間を往復する商隊の護衛だ。この商隊は男爵のお抱えらしく、本来であれば男爵家の騎士たちが護衛をするべき話だ。
にもかかわらず、どういうわけか俺たちに直接依頼が回ってきた。
当初、グラハムさんは受ける理由がないと必死に抵抗したそうだ。しかし領主の権力には逆らえずに押しきられてしまい、結局護衛依頼を受けることになってしまったというわけだ。
さて、そんなわけで俺たちはまだ雪が降りしきる中、商隊に指定された広場にやってきた。するとそこにはすでに、十台ほどのシンプルな幌つきの二頭立ての荷馬車が並んでいた。
「君たちが黒狼の顎だね? 俺はこの商隊を率いるラニエロだ。ちょっと領主様の命令でね。トリネラとの往復の道中、よろしく頼むよ」
「俺はケヴィン、黒狼の顎のリーダーだ。こっちがサブリーダーのグラハムだ」
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そう言ってラニエロさんとケヴィンさんたちはがっちりと握手をした。ラニエロさんは厚手の毛皮の手袋をしているため、なんとなく握手しづらそうだなと思っていると、そんな俺の視線に気付いたのかラニエロさんが俺のほうを指さしてきた。
「おたくには子供もいるんだね」
「クランはよく、ギルドから新人の世話を任されるんでね。まあ、あいつらはまだ見習いみたいなもんだ。戦闘には参加させないつもりだから安心してくれ」
「へぇ、冒険者にはそんな仕組みもあるのか。知らなかったな」
「誰かが面倒を見ないと無駄死にするだけだからな」
「なるほどね」
するとラニエロさんは俺たちのほうに近付いてきた。
「やあ、君たち。俺がこの商隊のリーダーのラニエロだ。見習いなんだって?」
「はい。Eランク冒険者のレクスです」
「同じく、テオです」
「そうかそうか。元気がいいね。寒くはないかい?」
「はい、大丈夫です」
するとラニエロさんは満足げに頷いた。
「よし。じゃあ、風邪をひかないように、それから怪我をしないように。ああ、あとそうだ」
「はい、なんでしょう?」
「分かっているとは思うけど、勝手に荷台を覗いちゃダメだからね」
ラニエロさんは突然真顔になり、そんなことを言ってきた。
「もちろんです。冒険者ギルドのルールで、勝手に依頼主の荷物には触れてはいけないとなっています」
気圧されつつも平然を装って返事をすると、ラニエロさんは再び満足げに頷いた。
「うんうん、しっかりしているね。それじゃあ出発しようか」
こうして俺たちは予定外の依頼を受け、雪の積もった街道をゆっくりと進み始めるのだった。
◆◇◆
「ようし。今日はここまでにしよう」
夕方になって俺たちは野営することとなったのだが、ここまでの道のりは決して順調とはいえないものだった。
それもこれも、すべては膝まで積もった雪のせいだ。新雪の積もった場所では馬車がスタックし、アイスバーンとなった場所ではスリップして脱輪し、とにかくトラブル続きだった。しかもその度に護衛である俺たちまで馬車を押すのを手伝わされたのだ。
しかもこの先は峠越えが待っている。はっきり言ってこんな状況で峠越えをするなんていくらなんでも無謀だと思う。
それにだ。そもそも雪が積もっているのは分かっていたはずだというのに、なぜ領主様お抱えの商隊の仕事がこんなお粗末なのだろうか?
一方のラニエロさんや御者たちはというと、そんなことはまるで気にしていない様子だ。慣れた手つきでテキパキと野営の準備を終え、今は集まって何かの会議をしている。
このままじゃ無理だから引き返そうという話ならいいんだが……。
「おい、坊主。ボーっとしてないで俺らもさっさと準備をするぞ」
「はい!」
ケヴィンさんにどやされ、俺は急いで野営の準備を始める。だがやはりどうしても気になるので、思い切ってケヴィンさんに質問をぶつけてみることにした。
「あの、ケヴィンさん」
「なんだ?」
「この調子で峠、越えられます?」
するとケヴィンさんは難しい表情になった。怒っているわけではないとは分かっているのだが、超強面のケヴィンさんにこの表情をされると未だにドキッとする。
「おい、坊主。耳を貸せ」
「はい」
するとケヴィンさんはそっと俺に耳打ちをしてきた。
「……難しいだろうな。だが今はまだ依頼を遂行する。いいな?」
「はい」
「それと、勝手な判断で文句を垂れるんじゃねえぞ。俺もグラハムも状況は理解している。俺らの判断を待て。わかったな?」
「わかりました」
やはりケヴィンさんたちもおかしいとは思っているようだ。その点は安心できるのだが、やはり滑る馬車で峠越えというのはあまりにも不安だ。
こうしてなんとももどかしい気持ちを抱えつつ、俺は野営の準備を進めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2023/12/25 (月) 18:00 を予定しております。
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その依頼は年が明けると共に舞い込んできた。本当は冬の間にしっかり訓練し、雪解けのころに湧いてくるモンスターに備えたかったのだが、残念ながら今回の依頼は断れなかった。
なぜかというと依頼主がコーザ男爵、つまり領主様だったからだ。
依頼内容は、ここから南にあるピエンテ公爵領の領都トリネラとの間を往復する商隊の護衛だ。この商隊は男爵のお抱えらしく、本来であれば男爵家の騎士たちが護衛をするべき話だ。
にもかかわらず、どういうわけか俺たちに直接依頼が回ってきた。
当初、グラハムさんは受ける理由がないと必死に抵抗したそうだ。しかし領主の権力には逆らえずに押しきられてしまい、結局護衛依頼を受けることになってしまったというわけだ。
さて、そんなわけで俺たちはまだ雪が降りしきる中、商隊に指定された広場にやってきた。するとそこにはすでに、十台ほどのシンプルな幌つきの二頭立ての荷馬車が並んでいた。
「君たちが黒狼の顎だね? 俺はこの商隊を率いるラニエロだ。ちょっと領主様の命令でね。トリネラとの往復の道中、よろしく頼むよ」
「俺はケヴィン、黒狼の顎のリーダーだ。こっちがサブリーダーのグラハムだ」
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そう言ってラニエロさんとケヴィンさんたちはがっちりと握手をした。ラニエロさんは厚手の毛皮の手袋をしているため、なんとなく握手しづらそうだなと思っていると、そんな俺の視線に気付いたのかラニエロさんが俺のほうを指さしてきた。
「おたくには子供もいるんだね」
「クランはよく、ギルドから新人の世話を任されるんでね。まあ、あいつらはまだ見習いみたいなもんだ。戦闘には参加させないつもりだから安心してくれ」
「へぇ、冒険者にはそんな仕組みもあるのか。知らなかったな」
「誰かが面倒を見ないと無駄死にするだけだからな」
「なるほどね」
するとラニエロさんは俺たちのほうに近付いてきた。
「やあ、君たち。俺がこの商隊のリーダーのラニエロだ。見習いなんだって?」
「はい。Eランク冒険者のレクスです」
「同じく、テオです」
「そうかそうか。元気がいいね。寒くはないかい?」
「はい、大丈夫です」
するとラニエロさんは満足げに頷いた。
「よし。じゃあ、風邪をひかないように、それから怪我をしないように。ああ、あとそうだ」
「はい、なんでしょう?」
「分かっているとは思うけど、勝手に荷台を覗いちゃダメだからね」
ラニエロさんは突然真顔になり、そんなことを言ってきた。
「もちろんです。冒険者ギルドのルールで、勝手に依頼主の荷物には触れてはいけないとなっています」
気圧されつつも平然を装って返事をすると、ラニエロさんは再び満足げに頷いた。
「うんうん、しっかりしているね。それじゃあ出発しようか」
こうして俺たちは予定外の依頼を受け、雪の積もった街道をゆっくりと進み始めるのだった。
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「ようし。今日はここまでにしよう」
夕方になって俺たちは野営することとなったのだが、ここまでの道のりは決して順調とはいえないものだった。
それもこれも、すべては膝まで積もった雪のせいだ。新雪の積もった場所では馬車がスタックし、アイスバーンとなった場所ではスリップして脱輪し、とにかくトラブル続きだった。しかもその度に護衛である俺たちまで馬車を押すのを手伝わされたのだ。
しかもこの先は峠越えが待っている。はっきり言ってこんな状況で峠越えをするなんていくらなんでも無謀だと思う。
それにだ。そもそも雪が積もっているのは分かっていたはずだというのに、なぜ領主様お抱えの商隊の仕事がこんなお粗末なのだろうか?
一方のラニエロさんや御者たちはというと、そんなことはまるで気にしていない様子だ。慣れた手つきでテキパキと野営の準備を終え、今は集まって何かの会議をしている。
このままじゃ無理だから引き返そうという話ならいいんだが……。
「おい、坊主。ボーっとしてないで俺らもさっさと準備をするぞ」
「はい!」
ケヴィンさんにどやされ、俺は急いで野営の準備を始める。だがやはりどうしても気になるので、思い切ってケヴィンさんに質問をぶつけてみることにした。
「あの、ケヴィンさん」
「なんだ?」
「この調子で峠、越えられます?」
するとケヴィンさんは難しい表情になった。怒っているわけではないとは分かっているのだが、超強面のケヴィンさんにこの表情をされると未だにドキッとする。
「おい、坊主。耳を貸せ」
「はい」
するとケヴィンさんはそっと俺に耳打ちをしてきた。
「……難しいだろうな。だが今はまだ依頼を遂行する。いいな?」
「はい」
「それと、勝手な判断で文句を垂れるんじゃねえぞ。俺もグラハムも状況は理解している。俺らの判断を待て。わかったな?」
「わかりました」
やはりケヴィンさんたちもおかしいとは思っているようだ。その点は安心できるのだが、やはり滑る馬車で峠越えというのはあまりにも不安だ。
こうしてなんとももどかしい気持ちを抱えつつ、俺は野営の準備を進めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2023/12/25 (月) 18:00 を予定しております。
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