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第37話 窓口でのアルバイト

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 その後、俺たちはルールについていくつか口頭で問題を出され、俺は今日から窓口に立つことになった。テオは残念ながらまだ理解が足りないということで、また後日となってしまった。

「んんーん、レクスちゃんはお勉強、得意なのねぇ」
「え? そうですか?」
「そうよぉ。ちゃあんとお勉強をしてきた子じゃないと、こんなにすぐにはできないもの」
「はぁ」
「レクスちゃんはきっと、将来グラハムちゃんみたいになるわねぇ」
「グラハムさんですか?」
「そうよぉ。彼、とっても頭がいいの。小さいころのことは知らないけど、冒険者登録に来たときから違っていたわぁ」
「はぁ。そうなんですね」
「そうよぉ。何せね。グラハムちゃんったら……」

 クレオパトラさんはそれから延々とグラハムさんと黒狼のあぎとに関するエピソードを一時間くらい話してくれた。それによるとグラハムさんは父親に連れられて十二歳のときにコーザに移住してきたそうで、冒険者登録をしたときにケヴィンさんと出会ったのだそうだ。

 なんでも直感的に判断するケヴィンさんと冷静で頭の切れるグラハムさんは最初こそ対立していたそうだが、同じ依頼で一緒になったときにお互いを認め合い、それからはずっと一緒に冒険者として活動しているのだそうだ。

 一時期はコーザを離れていたが、Cランク冒険者に昇格し、さらに黒狼の顎を設立するほどにまで出世した。そうして有名になったところで領主様の要請を受け、今年になってコーザへ戻ってきたのだそうだ。

「あら、戻ってきたわね。バルナバちゃーん、お帰りなさぁい。どうだったかしらぁ?」

 途切れることなく延々としゃべり続けていたのに周りのことはよく見ているようで、入口から入ってきた中年の男性冒険者の三人組に声を掛けた。

「ああ、クレオパトラさん。ただいま帰りました。討伐に成功したので査定をお願いします」
「分かったわぁ。さ、レクスちゃん。依頼番号371よ」
「はい。ええと……」

 俺は受付にある依頼書の束の中から371の書類を探す。

「はい。ええと、ホーンラビット五体の討伐依頼ですね」
「ああ。これだ」

 そう言って彼らはホーンラビットの角と毛皮を五セット差し出してきた。

「はい。確認します」

 俺は角と毛皮の状態をぱっと確認する。

 角は……二本は先が折れており、残る三本はひびが入っていたり途中の部分が欠けたりしている。

 毛皮のほうはというと、ちょっとこれはかなり状態が悪い。刃物でめった刺しにされており、あちこちが傷だらけになっている。大型の毛皮ならまだしも、ウサギのサイズでこれだとほとんど価値がないのではないだろうか?

「さあ、どうかしらぁ?」
「はい。ええと、まず角についてですが、こちらの二本はB、残る三本はDです」
「その理由は何かしらぁ?」
「こちらの二本は先が折れているのでAとはなりませんが、ひびは入っていません。これであれば様々な加工品の材料とすることができますし、大きさも十分に規定を満たしているのでBです。ですが残る三本はあちこちにひびが入っており、これでは薬の材料としてしか使い道がありません。そのためDとなります」
「いいわぁ。正解よぉ。毛皮はどうかしらぁ?」
「はい。毛皮はどれも買い取り不可です」
「なっ!?」
「おい!」
「ちょっとぉ、黙ってなさぁい?」
「う……」
「は、はい」

 文句を言ってきた冒険者たちだったが、クレオパトラさんに一にらみされ、すぐに大人しくなった。

「さあ、理由は何かしらぁ?」
「は、はい。毛皮の大きさに対し、かなりの数の傷がついています。それに毛もかなり抜けてしまっており、これだと素材として使うことができません」
「んー、そうねぇ……」

 クレオパトラさんはそう言うと毛皮を一つ一つ丁寧に確認していく。

「うん、そうね。ただ、これだけはDで買い取れるわぁ。理由は分かるかしら?」
「ええと……わかりません」
「ほら、ここからここのところ。この部分を切って張り合わせれば使えるわぁ。ただ、加工の手間もかかるし、大きさも小さくなっちゃうから、DといってもギリギリのDねぇ。覚えておいてぇ。これがDにできるボーダーラインよぉ」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいのよぉ」

 そう言ってクレオパトラさんは体をくねらせる。

「それよりバルナバちゃんたち、魔石は?」
「それが出なかったんだ……」
「そう。それは残念だったわねぇ」
「え? 魔石がないなんてことがあるんですか?」
「うーん、そうねぇ。ホーンラビットの魔石ってものすごく小さいじゃない? だから、見つからないことも結構あるのよぉ」
「あ、そうなんですね」

 言われてみれば、テオがホーンラビットを倒したときに出てきた魔石は砂粒ほどで、よく見つけられるなと驚いたものだ。

「あなたたち、残念なのは分かるけど、無理しちゃダメよぉ」
「はい……」

 それから俺は規定どおりの報酬を彼らに支払い、重たい足取りで酒場のほうへと向かう彼らを見送るのだった。 

 こうしてひと月ほど窓口でアルバイトを続け、俺はDランク昇格に必要な筆記試験に合格したのだった。

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 次回更新は通常どおり、2023/12/23 (土) 18:00 を予定しております。
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