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第34話 三つの方法
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「一つはその娘が後継者になることだよ。そうすればその娘は生き延びられる。ただ、元からマッツィアーノで育った後継者候補に勝てるとは思えないけれど」
……それは、難しそうだ。優しくて泣き虫のティティに他人を蹴落とすようなことができるとは思えない。
「もう一つは、その娘をなんとか連れ出して、そのまま外国に駆け落ちすることかな。後継者候補はモンスターを従えていることもあってか割と自由に動き回れるらしいし、その娘が一人でいるところに近づけば説得するというのも可能かもしれない。もっとも、成功したとしても一生その娘を連れてマッツィアーノから逃げ回ることになるけどね。あとは、その娘のお母さんを見捨てることになるのがネックかな」
「う……」
それは無理だろう。ティティがマリア先生を見捨てるはずがないし、俺にとってもマリア先生はティティと同じくらいどうしても助けたい相手なのだ。
「最後は、マッツィアーノ公爵家を没落させることかな。レクスくんには王太子殿下と同じ光の魔法がある。だからその力でモンスター軍団を役に立たない状態にまで弱体化させられれば、パワーバランスは王家に傾く。そのうえで王家とマッツィアーノ公爵家を戦わせて、戦後処理でその娘とそのお母さんの身柄の引き渡しを呑ませれば、目的は達成できるね。まあ……現実的にはかなり難しいけれど」
たしかに難しそうではある。だが、可能性がないというわけではないだろう。
「グラハムさん、マッツィアーノ公爵家を没落させるにはどうすればいいですか?」
「……レクスくん、本気かい?」
「はい」
するとグラハムさんは小さくため息をついた。
「おい、グラハム。教えてやれよ。方法があるんだろう?」
「ケヴィン、これは黒狼の顎を危うくする行為ですよ?」
「仕方ねぇだろ。それによ。知ってて秘密にし続けるのは酷じゃねぇか?」
「……そうですね。分かりました。レクスくん、この道は本当に大変な道だよ。何を失ってでも、やり切る覚悟はあるかい?」
「はい」
俺は即答した。
「いい返事だね。分かったよ。当面の目標は、黒狼の顎を強力なクランに育て上げることだね。これは黒狼の顎の今の目的と同じだから問題はないと思う。あとは、王太子殿下と共闘できる体勢を作ること。これにはレクスくんが鍵になる」
「【光属性魔法】を使えるから、ですよね?」
「そのとおり。そうすればいずれ、王家とマッツィアーノ公爵家の間の交流を深めるために毎年開かれる交流会に参加できるようになる。そこでレクスくんがその娘に近付いて、内通者になってもらうんだ。あとはモンスターをとにかく減らし、時期を見て王太子殿下を旗印にマッツィアーノ公爵家に攻め込む。これが大まかな流れかな」
なるほど。そのためには戦力の拡充が必要だろう。
「わかりました。でも、そんな簡単に行くんでしょうか?」
「さあ、どうだろう。細かいことはなんとも言えないし、臨機応変に対応するしかないね。ただ、今の戦力じゃ不十分だってことは間違いないかな。そうですよね? ケヴィン」
「ん? ああ、そうだな。だがないものねだりをしても仕方ねぇ。坊主もいるんだし、俺らがベストを尽くせば結果はそのうちついてくるぜ」
ケヴィンさんはそう言うと、ガハハと豪快に笑った。
ああ、うん。この人たちなら信用してもいい気がする。
「……わかりました。じゃあ、もし俺のこの魔法が、生まれつきじゃないって言ったらどうしますか?」
「えっ?」
「は?」
「レクスくん、どういうことだい?」
「ですから、俺の魔法は生まれつき使えたものじゃないんです。魔力を感じられるようになったのは、マッツィアーノの奴らに殺されかけた日の夜なんです」
「……詳しく教えてくれるかい?」
「はい。なので、ティティとマリア先生を助けるのを手伝ってください」
「ちょっと、レクスくん。私たちはそんなことしなくても、ティティちゃんとマリア先生を助けるの、手伝うよ。ね? リーダー? サブリーダー?」
「当たり前だ」
「……まあ、そうですね」
「ほらね? だから、交換条件だなんて思わなくていいんだよ」
「はい。ありがとうございます。でも、やっぱり皆さんも魔法を使えるようになったほうが戦力はアップしますよね?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「分かりました。実は――」
俺は精霊の祝福を受けたときのことを伝えた。
「そんなことが……」
「聞いたことないわね……」
「まあ、坊主がこんなことで嘘を言う理由がねぇ。とりあえず行って試して見りゃいいんじゃねぇか?」
「……それもそうですね。上手くいけば儲けものでしょう。まあ、僕は殺されたかけたことが原因で能力が覚醒したのではないかと思いますがね」
「ったく、グラハムは相変わらず素直じゃねぇな」
「ケヴィンが考えなしなだけですよ。そのせいで僕が色々と考えなきゃいけないんですから」
「おう! 頼りにしてるぜ」
ケヴィンさんはそう言って豪快に笑った。それにつられてニーナさんもくすくすと笑い、グラハムさんはやれやれと言った表情を浮かべるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2023/12/20 (水) 18:00 を予定しております。
……それは、難しそうだ。優しくて泣き虫のティティに他人を蹴落とすようなことができるとは思えない。
「もう一つは、その娘をなんとか連れ出して、そのまま外国に駆け落ちすることかな。後継者候補はモンスターを従えていることもあってか割と自由に動き回れるらしいし、その娘が一人でいるところに近づけば説得するというのも可能かもしれない。もっとも、成功したとしても一生その娘を連れてマッツィアーノから逃げ回ることになるけどね。あとは、その娘のお母さんを見捨てることになるのがネックかな」
「う……」
それは無理だろう。ティティがマリア先生を見捨てるはずがないし、俺にとってもマリア先生はティティと同じくらいどうしても助けたい相手なのだ。
「最後は、マッツィアーノ公爵家を没落させることかな。レクスくんには王太子殿下と同じ光の魔法がある。だからその力でモンスター軍団を役に立たない状態にまで弱体化させられれば、パワーバランスは王家に傾く。そのうえで王家とマッツィアーノ公爵家を戦わせて、戦後処理でその娘とそのお母さんの身柄の引き渡しを呑ませれば、目的は達成できるね。まあ……現実的にはかなり難しいけれど」
たしかに難しそうではある。だが、可能性がないというわけではないだろう。
「グラハムさん、マッツィアーノ公爵家を没落させるにはどうすればいいですか?」
「……レクスくん、本気かい?」
「はい」
するとグラハムさんは小さくため息をついた。
「おい、グラハム。教えてやれよ。方法があるんだろう?」
「ケヴィン、これは黒狼の顎を危うくする行為ですよ?」
「仕方ねぇだろ。それによ。知ってて秘密にし続けるのは酷じゃねぇか?」
「……そうですね。分かりました。レクスくん、この道は本当に大変な道だよ。何を失ってでも、やり切る覚悟はあるかい?」
「はい」
俺は即答した。
「いい返事だね。分かったよ。当面の目標は、黒狼の顎を強力なクランに育て上げることだね。これは黒狼の顎の今の目的と同じだから問題はないと思う。あとは、王太子殿下と共闘できる体勢を作ること。これにはレクスくんが鍵になる」
「【光属性魔法】を使えるから、ですよね?」
「そのとおり。そうすればいずれ、王家とマッツィアーノ公爵家の間の交流を深めるために毎年開かれる交流会に参加できるようになる。そこでレクスくんがその娘に近付いて、内通者になってもらうんだ。あとはモンスターをとにかく減らし、時期を見て王太子殿下を旗印にマッツィアーノ公爵家に攻め込む。これが大まかな流れかな」
なるほど。そのためには戦力の拡充が必要だろう。
「わかりました。でも、そんな簡単に行くんでしょうか?」
「さあ、どうだろう。細かいことはなんとも言えないし、臨機応変に対応するしかないね。ただ、今の戦力じゃ不十分だってことは間違いないかな。そうですよね? ケヴィン」
「ん? ああ、そうだな。だがないものねだりをしても仕方ねぇ。坊主もいるんだし、俺らがベストを尽くせば結果はそのうちついてくるぜ」
ケヴィンさんはそう言うと、ガハハと豪快に笑った。
ああ、うん。この人たちなら信用してもいい気がする。
「……わかりました。じゃあ、もし俺のこの魔法が、生まれつきじゃないって言ったらどうしますか?」
「えっ?」
「は?」
「レクスくん、どういうことだい?」
「ですから、俺の魔法は生まれつき使えたものじゃないんです。魔力を感じられるようになったのは、マッツィアーノの奴らに殺されかけた日の夜なんです」
「……詳しく教えてくれるかい?」
「はい。なので、ティティとマリア先生を助けるのを手伝ってください」
「ちょっと、レクスくん。私たちはそんなことしなくても、ティティちゃんとマリア先生を助けるの、手伝うよ。ね? リーダー? サブリーダー?」
「当たり前だ」
「……まあ、そうですね」
「ほらね? だから、交換条件だなんて思わなくていいんだよ」
「はい。ありがとうございます。でも、やっぱり皆さんも魔法を使えるようになったほうが戦力はアップしますよね?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「分かりました。実は――」
俺は精霊の祝福を受けたときのことを伝えた。
「そんなことが……」
「聞いたことないわね……」
「まあ、坊主がこんなことで嘘を言う理由がねぇ。とりあえず行って試して見りゃいいんじゃねぇか?」
「……それもそうですね。上手くいけば儲けものでしょう。まあ、僕は殺されたかけたことが原因で能力が覚醒したのではないかと思いますがね」
「ったく、グラハムは相変わらず素直じゃねぇな」
「ケヴィンが考えなしなだけですよ。そのせいで僕が色々と考えなきゃいけないんですから」
「おう! 頼りにしてるぜ」
ケヴィンさんはそう言って豪快に笑った。それにつられてニーナさんもくすくすと笑い、グラハムさんはやれやれと言った表情を浮かべるのだった。
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