32 / 208
第32話 カミングアウト(前編)
しおりを挟む
気が付くと、真っ暗な場所で横になっていた。
正面には暖かく柔らかい感触があり、何かに包まれているような気がする。
寝袋の中か? いや、だとするとこの柔らかい感触は一体なんだろう?
体を動かそうとしてみるが、どうやら背中を固定されているようで……。
「あ、目が覚めたのね。良かった」
頭の上の方からニーナさんの優しい声が聞こえてきた。
ああ、よかった。助かったんだ。
うん? この状況ってもしかして……?
「あ、ほら。動かないの。レクスくん、体が冷えきっちゃってたのよ。だからこのままもう少し、お姉さんと一緒に寝てなさい」
やっぱりそうか!
雪山で遭難したら裸で体をくっつけて寝るといいとは聞いていたが、まさか自分が体験することになるとは……。
さすがにこの状況は少し恥ずかしいが、一方で暖かく安心感もあり、このまま包まれていたいような気もする。
そんな相反する気持ちに葛藤していると、ニーナさんが話しかけてきた。
「ねえ、レクスくん」
「はい。なんですか?」
「あのさ。私、スノーディアにやられた、よね?」
「っ!」
思わず角に刺さったままスノーディアに掲げられたニーナさんの姿を思い出してしまい、思わず息を呑んだ。
「そう、やっぱりそうだよね。それでさ。レクスくん」
「……はい」
「あのスノーディア、レクスくんが倒してくれたよね? 私、なんとなく記憶があるんだ」
「……はい」
「そっか……そっか。うん。ありがとう、レクスくん。おかげで助かったわ」
「いえ」
ニーナさんはそう言うと、俺の頭を優しく撫でてくれた。その手つきはとても優しく、なぜかマリア先生のことを思い出してしまってなんとも切ない気持ちになる。
そのまま身を任せていると、ニーナさんがおずおずと切り出してきた。
「……ねぇ、レクスくん。あのさ」
「なんですか?」
「スノーディア、一撃だった、よね?」
「はい」
「じゃあさ。あのときフォレストウルフをあんなに綺麗に倒せたのも、偶然じゃないよね?」
「……そうですね」
「うん。そっか。そっか」
ニーナさんは意味深にそう言うと、再び俺の頭を優しく撫でてくれた。それが心地よくてされるがままにしていると、ニーナさんが今度は小さな声で囁く。
「じゃあさ。私が生きてるのも、レクスくんの魔法のおかげ?」
「っ!」
覚悟していたことだが、やはりニーナさんは感づいているようだ。
どう答えようか思案していると、ニーナさんはもう一度俺の頭を優しく撫でてきた。
「レクスくん、私は、ううん、私たちはレクスくんをどこかに売り飛ばしたりしない。だから安心していいよ。レクスくんは私たち黒狼の顎の仲間だもの。仲間を売り飛ばすような人間は黒狼の顎にはいないわ」
「……はい」
「それにね。もうみんな大体感づいているわ。テオくんのことを助けてくれたのも、レクスくんでしょう?」
そうか。テオも助かったのか。ああ、良かった。
「それと、リーダーがね。遠くから、私がスノーディアにやられた瞬間を見たみたいなのよ。だから、こんな風に傷一つ残ってなかったら嫌でも気付くわ」
「え? ケヴィンさんが? でもあのとき周りには誰も……」
するとニーナさんがクスリと笑った。
「リーダーはね。ずっと私を守りながら戦ってくれてたんだけど、最後の一頭になったところでやられかけていたサブリーダーのところに応援に行ったの。それでサブリーダーの代わりにスノーディアの吹雪を体で防いで、動けなくなっちゃったらしいわ」
「え? どういう状況ですか? 最後の一頭って、それならニーナさんはどうしてスノーディアに……」
「だって、相手はモンスターよ? モンスターといえば、普通は人間を見たら一直線に襲ってくるでしょう? だからまさか最初からずっと息をひそめて私を狙ってるやつがいるなんて、思いもしなかったわ。それで最後の一頭だって思っていたのよ。私も、リーダーも、他の誰もがね」
「……そうだったんですね」
そういえばブラウエルデ・クロニクルでもボスとして登場したスノーディアの群れの各個体にはそれぞれ役割があり、ヒーラーや魔法使いなどの後衛を狙ってくるものも存在していた。そいつらは物陰や茂みの中を通って見つからないように移動していたし、それが現実だとこうなるということなのだろう。
ということは、もしかすると俺が最初に倒したスノーディアも後衛を狙う役割の個体だったのかもしれない。
「あの、みんなは……」
「なんとか無事よ」
「そうですか」
俺はほっと胸をなでおろした。すると外からケヴィンさんの声が聞こえてくる。
「おーい! ニーナ、開けるぞー!」
「どうぞ!」
「おう!」
シャッとテントの入口が空いた音がし、人が入ってきたような気配がした。それからすぐにドンと何かを床に置いたようだ。
「失礼しますよ」
「はい。サブリーダーもどうぞ。それから、さっきレクスくんが起きましたよ」
「何っ!? 本当か!? おい! 坊主! おま――」
「ちょっと! リーダー!」
「ケヴィン!」
「おっと、すまんすまん」
ええと、なんとなく雰囲気から察するに、ケヴィンさんが俺の状況を確認しようとニーナさんの寝袋に手を掛けて、ニーナさんとグラハムさんに怒られたってことかな?
なら、とりあえず俺から声を掛けるべきだろう。
「ケヴィンさん、グラハムさん、ご心配をおかけしました」
「お、おう。坊主、起きれるか?」
「え? ……はい。多分」
俺はニーナさんから抜け出そうとするが、力が入らないせいか上手くいかない。
「レクスくん、まだ無理しなくていいよ。ほら、こうすれば顔だけ出るでしょ?」
「はい」
ニーナさんに手伝ってもらい、俺は寝袋から顔だけ出した。
「リーダー、レクスくんに話があるんですよね?」
「おう。じゃあ坊主、そのまま聞いてくれ」
================
次回更新は通常どおり、2023/12/18 (月) 18:00 を予定しております。
正面には暖かく柔らかい感触があり、何かに包まれているような気がする。
寝袋の中か? いや、だとするとこの柔らかい感触は一体なんだろう?
体を動かそうとしてみるが、どうやら背中を固定されているようで……。
「あ、目が覚めたのね。良かった」
頭の上の方からニーナさんの優しい声が聞こえてきた。
ああ、よかった。助かったんだ。
うん? この状況ってもしかして……?
「あ、ほら。動かないの。レクスくん、体が冷えきっちゃってたのよ。だからこのままもう少し、お姉さんと一緒に寝てなさい」
やっぱりそうか!
雪山で遭難したら裸で体をくっつけて寝るといいとは聞いていたが、まさか自分が体験することになるとは……。
さすがにこの状況は少し恥ずかしいが、一方で暖かく安心感もあり、このまま包まれていたいような気もする。
そんな相反する気持ちに葛藤していると、ニーナさんが話しかけてきた。
「ねえ、レクスくん」
「はい。なんですか?」
「あのさ。私、スノーディアにやられた、よね?」
「っ!」
思わず角に刺さったままスノーディアに掲げられたニーナさんの姿を思い出してしまい、思わず息を呑んだ。
「そう、やっぱりそうだよね。それでさ。レクスくん」
「……はい」
「あのスノーディア、レクスくんが倒してくれたよね? 私、なんとなく記憶があるんだ」
「……はい」
「そっか……そっか。うん。ありがとう、レクスくん。おかげで助かったわ」
「いえ」
ニーナさんはそう言うと、俺の頭を優しく撫でてくれた。その手つきはとても優しく、なぜかマリア先生のことを思い出してしまってなんとも切ない気持ちになる。
そのまま身を任せていると、ニーナさんがおずおずと切り出してきた。
「……ねぇ、レクスくん。あのさ」
「なんですか?」
「スノーディア、一撃だった、よね?」
「はい」
「じゃあさ。あのときフォレストウルフをあんなに綺麗に倒せたのも、偶然じゃないよね?」
「……そうですね」
「うん。そっか。そっか」
ニーナさんは意味深にそう言うと、再び俺の頭を優しく撫でてくれた。それが心地よくてされるがままにしていると、ニーナさんが今度は小さな声で囁く。
「じゃあさ。私が生きてるのも、レクスくんの魔法のおかげ?」
「っ!」
覚悟していたことだが、やはりニーナさんは感づいているようだ。
どう答えようか思案していると、ニーナさんはもう一度俺の頭を優しく撫でてきた。
「レクスくん、私は、ううん、私たちはレクスくんをどこかに売り飛ばしたりしない。だから安心していいよ。レクスくんは私たち黒狼の顎の仲間だもの。仲間を売り飛ばすような人間は黒狼の顎にはいないわ」
「……はい」
「それにね。もうみんな大体感づいているわ。テオくんのことを助けてくれたのも、レクスくんでしょう?」
そうか。テオも助かったのか。ああ、良かった。
「それと、リーダーがね。遠くから、私がスノーディアにやられた瞬間を見たみたいなのよ。だから、こんな風に傷一つ残ってなかったら嫌でも気付くわ」
「え? ケヴィンさんが? でもあのとき周りには誰も……」
するとニーナさんがクスリと笑った。
「リーダーはね。ずっと私を守りながら戦ってくれてたんだけど、最後の一頭になったところでやられかけていたサブリーダーのところに応援に行ったの。それでサブリーダーの代わりにスノーディアの吹雪を体で防いで、動けなくなっちゃったらしいわ」
「え? どういう状況ですか? 最後の一頭って、それならニーナさんはどうしてスノーディアに……」
「だって、相手はモンスターよ? モンスターといえば、普通は人間を見たら一直線に襲ってくるでしょう? だからまさか最初からずっと息をひそめて私を狙ってるやつがいるなんて、思いもしなかったわ。それで最後の一頭だって思っていたのよ。私も、リーダーも、他の誰もがね」
「……そうだったんですね」
そういえばブラウエルデ・クロニクルでもボスとして登場したスノーディアの群れの各個体にはそれぞれ役割があり、ヒーラーや魔法使いなどの後衛を狙ってくるものも存在していた。そいつらは物陰や茂みの中を通って見つからないように移動していたし、それが現実だとこうなるということなのだろう。
ということは、もしかすると俺が最初に倒したスノーディアも後衛を狙う役割の個体だったのかもしれない。
「あの、みんなは……」
「なんとか無事よ」
「そうですか」
俺はほっと胸をなでおろした。すると外からケヴィンさんの声が聞こえてくる。
「おーい! ニーナ、開けるぞー!」
「どうぞ!」
「おう!」
シャッとテントの入口が空いた音がし、人が入ってきたような気配がした。それからすぐにドンと何かを床に置いたようだ。
「失礼しますよ」
「はい。サブリーダーもどうぞ。それから、さっきレクスくんが起きましたよ」
「何っ!? 本当か!? おい! 坊主! おま――」
「ちょっと! リーダー!」
「ケヴィン!」
「おっと、すまんすまん」
ええと、なんとなく雰囲気から察するに、ケヴィンさんが俺の状況を確認しようとニーナさんの寝袋に手を掛けて、ニーナさんとグラハムさんに怒られたってことかな?
なら、とりあえず俺から声を掛けるべきだろう。
「ケヴィンさん、グラハムさん、ご心配をおかけしました」
「お、おう。坊主、起きれるか?」
「え? ……はい。多分」
俺はニーナさんから抜け出そうとするが、力が入らないせいか上手くいかない。
「レクスくん、まだ無理しなくていいよ。ほら、こうすれば顔だけ出るでしょ?」
「はい」
ニーナさんに手伝ってもらい、俺は寝袋から顔だけ出した。
「リーダー、レクスくんに話があるんですよね?」
「おう。じゃあ坊主、そのまま聞いてくれ」
================
次回更新は通常どおり、2023/12/18 (月) 18:00 を予定しております。
20
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️


スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる