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第26話 冬前の大仕事

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 季節は移ろい、時おり小雪の舞う季節となった。今はまだ積もっていないが、年が明けるころには膝くらいまで積もっていることだろう。

 そうなると山へ入ってのモンスター退治は困難になる。そのまま放っておくと来年の春にはモンスターが増えすぎて大変なことになるため、今のうちにモンスターの数を減らしておく必要があり、おかげでこの季節は冒険者たちにとって一番の書き入れ時となるのだ。

 もちろん、俺たち黒狼のあぎとにとってもそれは例外ではない。

 というわけで俺たちは今、厄介なモンスターとして有名なワイルドボアの目撃情報があった北西の森へ調査にやってきている。

 ワイルドボアは、普通の個体で体高二メートル、大きな個体になると三メートルほどにまでなる巨大なイノシシのモンスターだ。皮膚は硬く、並大抵の攻撃は通らない。しかも意外と素早く、人間を見かけるとその巨体で突進を仕掛けてくる。

 イノシシの突進など避けてしまえばいいと思うかもしれない。だがワイルドボアの体高が二~三メートルもあるということを考えると、それはもはや軽トラックが猛スピードで突っ込んでくるようなものだ。避けるのだって簡単ではないし、ましてやそれを正面から受け止めるなど現実的ではない。

 さらに厄介なことに、ワイルドボアは群れで行動することも多い。一匹でさえ厄介なワイルドボアが複数いるとなると、とてもではないが無事ではすまないだろう。

 そんなわけで俺たちはまず、目撃されたイノシシのモンスターが単独なのか群れなのかを確認するところから始めることにした。単独であればその場で狩ってしまう予定だが、群れであれば一旦戻って応援を呼ぶことになる。

 そのため俺たちは比較的見通しのいい場所をベースキャンプとし、斥候スカウトであるニーナさんとリカルドさんに偵察に出てもらった。その間、俺たちはベースキャンプの整備をして討伐に備えている。

 ちなみにブラウエルデ・クロニクルでのワイルドボアは序盤に登場するタフな無限湧きのモンスターで、その突進によって多くの初心者を苦しめてきた。しかし落とし穴に落としてタコ殴りにするというハメ技が発見されて以来、簡単に狩れて経験値の美味しいただの大イノシシと成り果ててしまった。

 さて、そうして待っているとニーナさんが戻ってきた。それを見つけたケヴィンさんがすかさず近寄っていく。

「おう、ニーナ。どうだった?」
「足跡を見つけました」
「そうか。群れか?」
「いえ、単独です。足跡もあまり大きくないので、それほど大きな個体ではなさそうです。このまま倒してしまったほうがいいと思います」
「そうか。じゃあ、あとはリカルド待ちだな」
「はい」

 短い報告を終え、ニーナさんはたき火の近くに腰を下ろした。声を掛けようと思ったのだが、テオが猛スピードでニーナさんに近付いていく。

 ちなみにテオはこの前ホーンラビットというウサギに角が生えたモンスターを倒し、無事にEランク冒険者へと昇格した。本来はこれでお別れになるはずだったのだが、ニーナさんがもう少し面倒をみてあげると言ってくれたこともあり、正式メンバーではないものの引き続きうちで見習いを続けている。

 俺としても、せっかく仲良くなったテオとお別れにならずに済んだのはありがたい。

「ニーナさん、お疲れ様でした。これをどうぞ」

 ニーナさんに駆け寄ったテオはすぐに水を差し出した。

「え? うん。ありがと。どうしたの?」

 そう言いながらもニーナさんは笑顔で受け取り、水に口をつけた。

「え、いえ。その、疲れてるかなって……」
「ふふ、そう。ありがと」

 ニーナさんはそう言って立ち上がると、テオの頭を優しくでた。するとテオは顔を赤くしながらも、デレデレとした表情を浮かべるのだった。

◆◇◆

 その後リカルドさんの持ち帰った情報もニーナさんと同じだったため、このままワイルドボアを仕留めてしまうことにした。

 俺たちは二人が見つけた足跡をたどり、ワイルドボアのねぐらにやってきた。だがそこにワイルドボアの姿はない。

 ワイルドボアのねぐらを見るのは初めてだが、遠目に見てもはっきり分かるほど地面がきれいにならされている。きっと寝心地を良くするために地面を掘り起こし、柔らかくしたのだろう。

 ただ、問題はその大きさだ。ワイルドボアが大きいとは聞いていたが、ねぐらの大きさも桁違いだ。近付いて測ったわけではないのでなんとも言えないが、優に五メートルはありそうだ。

「よし。今日はこのままここで待機だ。夜になって、戻ってきたところを叩くぞ。この地形なら作戦は……」

 ケヴィンさんが今回の作戦を説明した。だがその中に俺とテオへの指示が含まれていないため、テオが質問をする。

「リーダー、俺たちは?」
「テオ、それと坊主もだが、さすがにまだお前たちはワイルドボアの前に立つには力不足だ。だからここで見つからないように見学してろ。いいな?」

 するとテオは悔し気な表情を浮かべた。

「お、俺だって!」
「いいから言うことを聞け。お前らの体格じゃどうやったって無理だ。はっきり言って、フォレストウルフなんか比べ物にならないくらい危険な相手だぞ? それとも捨て駒になりたいのか?」
「……わかりました」

 テオは悔しそうに言葉を絞り出した。

「坊主も、いいな?」
「はい。わかりました」
「よし。そんじゃあ、休憩だ。しっかり休めよ」
「「はい」」

 こうして俺たちはワイルドボアのねぐらが見える場所で息をひそめ、その主の帰りを待つのだった。

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 次回更新は通常どおり、2023/12/12 (火) 18:00 を予定しております。
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