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第17話 魔石
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「いってぇ!」
テオの絶叫が森に響き渡る。
「ほぉら! 我慢しなさい。男の子でしょ?」
ニーナさんは絶叫するテオを宥めつつ、フォレストウルフにのしかかられたときにできた傷に一応薬らしい何かを塗り込んでいく。
「痛い! 痛い! 痛いぃぃぃぃ!」
テオは涙を流しながら絶叫し続ける。 どうやら相当しみるようだ。
ちなみにあの緑色の何かはその辺で見つけた草をすり潰したものだ。一応薬草だと言っていたが……。
「はい、終わり! よく我慢しました。偉いねぇ」
ニーナさんはテオの頭を優しく撫でるが、テオは痛みのせいか心ここにあらずといった様子だ。
その様子を眺めていると、ケヴィンさんが近付いてきた。
「坊主、これ、お前がやったんだってな」
「はい。なんとか……」
「ようし。ならこいつはお前の獲物だ。坊主、やり方を教えてやるからよく見ておけよ」
ケヴィンさんは俺が仕留めたフォレストウルフを片手でひょいと持ち上げ、お腹が見えるようにひっくり返した。
「いいか? 大抵のモンスターは肉も内臓も食えねぇ。食ったら腹を壊すし、最悪死ぬ。だから獣みてぇにいろいろ気を遣う必要はねぇんだ。もちろん血抜きもしねぇ」
「でも、血抜きをしないと毛皮が汚れちゃいませんか?」
「ああ、そうだな。だが、血抜きをしたって汚れるのは一緒だ。それに付いた血は洗えば大体なんとかなるからな」
「なるほど」
「それに、ここはモンスターどもの領域だからな。悠長に血抜きなんてしてる暇はねぇ。命あっての物種だ」
「分かりました」
「ようし! じゃあまずはここに刃を当てて、こっちに引くんだ。それから――」
ケヴィンさんは鮮やかな手つきでフォレストウルフのお腹を裂き、あっという間に内臓を取り出した。
「これが心臓だ。モンスターはな。心臓の近くに魔石っちゅう宝石があるんだ。魔石は俺ら冒険者の主な収入源だ。これさえ取れれば、ぶっちゃけ毛皮なんざなくてもいい」
そう説明しながら、ケヴィンさんはフォレストウルフの心臓の近くを慎重に探っている。
ちなみにブラウエルデ・クロニクルにおいて、魔石は身体強化などといった誰でも使える【無属性魔法】の経験値獲得に使えるアイテムだ。それに光の欠片と同様に【錬金術】の素材としても使えるのだが、通常ドロップということもあってすぐに余ってしまい、NPCに売却してお金にするというのが主な使い道だった。
どうやらここでも魔石が収入源というのは変わらないらしい。
そんなことを思い出しつつもケヴィンさんの作業を観察していると、どうやら魔石を見つけたようだ。
「お! あったあった。これが……うおっ!? なんだこの魔石は!?」
ケヴィンさんはフォレストウルフの心臓から取り出したが、その魔石を見て驚いている。
「どうしたんですか?」
「いや、見たこともねぇ魔石が出てきてな」
そう言ってケヴィンさんは取り出したばかりの魔石を見せてきた。それは米粒ほどの大きさのダイヤモンドのような宝石で、俺には光の欠片のように見える。
「おかしいな。おーい! 誰か魔石を一個持ってきてくれ」
「へい!」
ラウロさんが素早く反応し、駆け寄ってきた。
「これでいいっすか?」
「ああ。ちょっと坊主に見せてやれ」
「へい」
ラウロさんが差し出したそれは米粒ほどの大きさの真珠のような宝石だ。
「ラウロ、見ろ。これは坊主が倒した獲物の魔石だ」
「うおっ!? なんすかこれ!?」
ラウロさんも見たことがないようだ。
うーん。これは一体どういうことだ?
「どうしましたか?」
今度はグラハムさんがやってきた。
「ああ、グラハム。坊主が倒した獲物の魔石がおかしいんだ」
「おかしい?」
怪訝そうな表情を浮かべ、グラハムさんはケヴィンさんの手のひらに乗った光の欠片へと視線を落とした。
「ああ、なるほど。これはいわゆる当たりというやつですね」
「当たり?」
「ええ、そうです。ごくごくまれに、魔石のかわりに別の宝石が見つかることがあるのです。とても珍しいものですし、これはきっと高く売れるはずです」
「そうか。坊主、だそうだ」
「わかりました。ありがとうございます」
うーん。要するに俺が光属性で倒したからレアドロップの光の欠片が落ちた、ということでいいのだろうか?
「これは坊主のモンだ。記念にするなり、売り払うなり好きにしろ」
「はい」
俺はケヴィンさんから血まみれの光の欠片を受け取った。
「じゃ、あとはこいつの毛皮を剥げば完了だ。いいか? 毛皮を剥ぐときは……」
そう言ってケヴィンさんは慣れた手つきで毛皮を剥いでいくのだった。
◆◇◆
その後、俺たちは大量の毛皮を背負って帰路に就いた。その道中、テオが隣を歩いていたニーナさんに背中を押され、俺のほうに近付いてきた。
「な、なあ、レクス」
「ん? どうした?」
「その……」
何かを言いたげにしているので、しばらく待ってみる。
「あ、あれだ。その、助けてくれて、あ、あ、ありが……ぅ」
語尾が消えているが、どうやらフォレストウルフに襲われたときの件でお礼を言われているらしい。
「ああ、いいって。当然のことをしただけだから。それに、倒せたのはまぐれみたいなもんだし」
「……ふ、ふん。まぐれかよ。だったら今度は俺がフォレストウルフを倒して、お前もニーナさんも守ってやるからな!」
「え? お、おう」
正直、ニーナさんを守るのはまだまだ早い気はするが、顔を真っ赤にしながらそんなことを言うテオが妙に微笑ましい。
「おい! 何笑ってるんだ!」
おっと、しまった。どうやらつい表情に出てしまっていたらしい。
「だから何を笑って、あいたたた!」
急に動いてフォレストウルフにやられたところが傷んだのか、テオは思わず立ち止まった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ! ふん!」
テオはそう言うと、それを証明しようとするかのようにずんずんと歩きだす。だが……。
「いててて!」
「ほら、テオくん。無理しちゃダメじゃない」
「だ、大丈夫だよ! 無理なんかしてない!」
テオはニーナさんに向かって虚勢を張る。そんなテオの様子を、俺たちは生暖かい目で見守るのだった。
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次回更新は本日 2023/12/06 (水) 18:00 を予定しております。
テオの絶叫が森に響き渡る。
「ほぉら! 我慢しなさい。男の子でしょ?」
ニーナさんは絶叫するテオを宥めつつ、フォレストウルフにのしかかられたときにできた傷に一応薬らしい何かを塗り込んでいく。
「痛い! 痛い! 痛いぃぃぃぃ!」
テオは涙を流しながら絶叫し続ける。 どうやら相当しみるようだ。
ちなみにあの緑色の何かはその辺で見つけた草をすり潰したものだ。一応薬草だと言っていたが……。
「はい、終わり! よく我慢しました。偉いねぇ」
ニーナさんはテオの頭を優しく撫でるが、テオは痛みのせいか心ここにあらずといった様子だ。
その様子を眺めていると、ケヴィンさんが近付いてきた。
「坊主、これ、お前がやったんだってな」
「はい。なんとか……」
「ようし。ならこいつはお前の獲物だ。坊主、やり方を教えてやるからよく見ておけよ」
ケヴィンさんは俺が仕留めたフォレストウルフを片手でひょいと持ち上げ、お腹が見えるようにひっくり返した。
「いいか? 大抵のモンスターは肉も内臓も食えねぇ。食ったら腹を壊すし、最悪死ぬ。だから獣みてぇにいろいろ気を遣う必要はねぇんだ。もちろん血抜きもしねぇ」
「でも、血抜きをしないと毛皮が汚れちゃいませんか?」
「ああ、そうだな。だが、血抜きをしたって汚れるのは一緒だ。それに付いた血は洗えば大体なんとかなるからな」
「なるほど」
「それに、ここはモンスターどもの領域だからな。悠長に血抜きなんてしてる暇はねぇ。命あっての物種だ」
「分かりました」
「ようし! じゃあまずはここに刃を当てて、こっちに引くんだ。それから――」
ケヴィンさんは鮮やかな手つきでフォレストウルフのお腹を裂き、あっという間に内臓を取り出した。
「これが心臓だ。モンスターはな。心臓の近くに魔石っちゅう宝石があるんだ。魔石は俺ら冒険者の主な収入源だ。これさえ取れれば、ぶっちゃけ毛皮なんざなくてもいい」
そう説明しながら、ケヴィンさんはフォレストウルフの心臓の近くを慎重に探っている。
ちなみにブラウエルデ・クロニクルにおいて、魔石は身体強化などといった誰でも使える【無属性魔法】の経験値獲得に使えるアイテムだ。それに光の欠片と同様に【錬金術】の素材としても使えるのだが、通常ドロップということもあってすぐに余ってしまい、NPCに売却してお金にするというのが主な使い道だった。
どうやらここでも魔石が収入源というのは変わらないらしい。
そんなことを思い出しつつもケヴィンさんの作業を観察していると、どうやら魔石を見つけたようだ。
「お! あったあった。これが……うおっ!? なんだこの魔石は!?」
ケヴィンさんはフォレストウルフの心臓から取り出したが、その魔石を見て驚いている。
「どうしたんですか?」
「いや、見たこともねぇ魔石が出てきてな」
そう言ってケヴィンさんは取り出したばかりの魔石を見せてきた。それは米粒ほどの大きさのダイヤモンドのような宝石で、俺には光の欠片のように見える。
「おかしいな。おーい! 誰か魔石を一個持ってきてくれ」
「へい!」
ラウロさんが素早く反応し、駆け寄ってきた。
「これでいいっすか?」
「ああ。ちょっと坊主に見せてやれ」
「へい」
ラウロさんが差し出したそれは米粒ほどの大きさの真珠のような宝石だ。
「ラウロ、見ろ。これは坊主が倒した獲物の魔石だ」
「うおっ!? なんすかこれ!?」
ラウロさんも見たことがないようだ。
うーん。これは一体どういうことだ?
「どうしましたか?」
今度はグラハムさんがやってきた。
「ああ、グラハム。坊主が倒した獲物の魔石がおかしいんだ」
「おかしい?」
怪訝そうな表情を浮かべ、グラハムさんはケヴィンさんの手のひらに乗った光の欠片へと視線を落とした。
「ああ、なるほど。これはいわゆる当たりというやつですね」
「当たり?」
「ええ、そうです。ごくごくまれに、魔石のかわりに別の宝石が見つかることがあるのです。とても珍しいものですし、これはきっと高く売れるはずです」
「そうか。坊主、だそうだ」
「わかりました。ありがとうございます」
うーん。要するに俺が光属性で倒したからレアドロップの光の欠片が落ちた、ということでいいのだろうか?
「これは坊主のモンだ。記念にするなり、売り払うなり好きにしろ」
「はい」
俺はケヴィンさんから血まみれの光の欠片を受け取った。
「じゃ、あとはこいつの毛皮を剥げば完了だ。いいか? 毛皮を剥ぐときは……」
そう言ってケヴィンさんは慣れた手つきで毛皮を剥いでいくのだった。
◆◇◆
その後、俺たちは大量の毛皮を背負って帰路に就いた。その道中、テオが隣を歩いていたニーナさんに背中を押され、俺のほうに近付いてきた。
「な、なあ、レクス」
「ん? どうした?」
「その……」
何かを言いたげにしているので、しばらく待ってみる。
「あ、あれだ。その、助けてくれて、あ、あ、ありが……ぅ」
語尾が消えているが、どうやらフォレストウルフに襲われたときの件でお礼を言われているらしい。
「ああ、いいって。当然のことをしただけだから。それに、倒せたのはまぐれみたいなもんだし」
「……ふ、ふん。まぐれかよ。だったら今度は俺がフォレストウルフを倒して、お前もニーナさんも守ってやるからな!」
「え? お、おう」
正直、ニーナさんを守るのはまだまだ早い気はするが、顔を真っ赤にしながらそんなことを言うテオが妙に微笑ましい。
「おい! 何笑ってるんだ!」
おっと、しまった。どうやらつい表情に出てしまっていたらしい。
「だから何を笑って、あいたたた!」
急に動いてフォレストウルフにやられたところが傷んだのか、テオは思わず立ち止まった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ! ふん!」
テオはそう言うと、それを証明しようとするかのようにずんずんと歩きだす。だが……。
「いててて!」
「ほら、テオくん。無理しちゃダメじゃない」
「だ、大丈夫だよ! 無理なんかしてない!」
テオはニーナさんに向かって虚勢を張る。そんなテオの様子を、俺たちは生暖かい目で見守るのだった。
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