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第2話 精霊の祝福

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 俺は気力を振り絞り、なんとか立ち上がった。いつの間にか礼拝堂は完全に炎に包まれており、このままここにいては死んでしまう。

「おい! ガイオ! しっかりしろ!」

 近くに横たわる一歳年下のガイオに声をかけるが、ピクリとも動かない。

「フランコ! マヌエラ! リディア! リコ! サマンサ!」

 他のみんなにも声をかけるが、やはり反応がない。いや、これは、もう……。

「……ごめん。みんな」

 申し訳なさと悲しさと悔しさと、そして脇腹の痛みに涙がこぼれそうになる。だがそれを必死にこらえ、まだ火の回っていない裏口から礼拝堂を脱出した。

 すると俺の目に飛び込んできたのは完全に炎に包まれた孤児院だった。

「そんな……あいつら! うっ」

 怒りに震えるが、余計なことをすると脇腹から激痛が走る。

 そうだ。焦るな。冷静に考えろ。まずはこの怪我を手当てしなければ。

 だが、包帯がある孤児院に入るのは無理だ。それに村の人たちが清潔な布を孤児院の子供である俺にわけてくれるとは思えない。

 となると、裏山にある不思議な泉に行くしかないな。

 というのも、その泉は浸かるとなぜか怪我が治る不思議な泉なのだ。この深い刺し傷に効果があるかは分からないが、前に木から落ちて大怪我をしたときはたった一日で治った。

 よし! 行くぞ!

 俺は痛みをなんとか堪えつつ、ゆっくりと裏山へ向かって歩きだすのだった。

◆◇◆

 激痛をこらえ、フラフラになりながらも俺はなんとか不思議な泉にやってきた。普段であればここまで一時間とかからない。だが今はもうすでに日が暮れ、あたりはすっかり暗くなっている。ただそれでもこの泉にたどり着けたのは今日が満月で、月明かりが行く道を照らしてくれていたおかげだ。

 泉の水面にも満月が映り込んでおり、なんとも幻想的な雰囲気だ。そんな美しい光景を堪能したいところだが、まずは脇腹の傷をなんとかするのが先決だ。

 俺はべっとりと血の付いた服を脱ぎ、泉の岸辺のギリギリに立つと水をすくうためにかがもうとした。

 だが無理な姿勢をしたのが仇となって激痛が走り、バランスを崩してそのまま泉の中に顔面からダイブしてしまう。

 冷たい泉の水が脇腹の傷にしみ、更なる激痛に俺は声も出せずに悶絶した。

 そのままなんとか耐えて歯を食いしばっていると、少しずつ痛みが引いてきた。

 ちらりと脇腹を確認してみると傷口が小さくなってきている。そのままそうして待っていると、なんと完全に塞がったではないか!

 え? この泉、こんなにすぐに治るものだっけ?

 そう疑問に思ったが、体を動かすと刺された部分から激痛が走る。

 なるほど。どうやら体の中まで完全に治ったわけではないようだ。

 さて、どうしよう?

 戻ったところでもう孤児院は燃えてしまっているから寝床はない。かといって村人が俺たちを泊めてくれるとも思えない。

 ……となるとこの不思議な泉に少しでも長く浸かり、傷を癒したほうが得策だろう。

 そう考えた俺は立ち上がり、刺された箇所がしっかりと水に浸かる深さの場所まで移動した。

 と、次の瞬間、不思議な声が聞こえてくる。

『汝の在り様を答えよ』
「っ!?」

 俺は思わず周囲を見回すが、人の気配は一切ない。

 ……幻聴か?

 そう思った瞬間、再び不思議な声が聞こえてくる。

『汝の在り様を答えよ』

 ……これは……あ! これは!

「我が名はレクス。剣をもって道を切り拓く者なり。我が意思は雷となり、必ずや我が敵を打ち倒さん。願わくば、我が道に光を!」

 俺は反射的にそう叫んだ。すると再び不思議な声が聞こえてくる。

『汝に精霊の祝福を』

 すると泉からは紫と白の光の粒子が湧きあがり、やがてそれらは俺の体を包み込んだ。光の粒子はその輝きを増していき、あまりのまぶしさに目を開けていられなくなる。

 やがて体がポカポカと暖かくなり、全身から力が抜けていく。

「う……」

 ふと気付けば光の粒子は消えていた。だが体の中には暖かい何かが存在しており、肌から感じる水の冷たさのおかげでその暖かさがよりはっきり感じられる。

「今のは、ブラウエルデ・クロニクルのキャラメイクのときの才能選択、だよな?」

 ちなみに先ほど咄嗟に選択したのは俺が、いや、大学生だった俺が愛用していたタイプだ。剣を得意とし、第一属性に雷、第二属性に光を選び、成長が攻撃に特化するというものだ。

 何も考えずに選んだわけだが、ブラウエルデ・クロニクルでは光属性に適性を持つキャラは最初からヒールが使える。

 ということは今の俺だって……!

 俺はまだ痛みの残る脇腹に右手を当て、回復するように念じてみた。すると体の中の暖かい何かがぐっと右の手のひらに集まってくる。

 すぐに手のひらから柔らかな光が発せられ、脇腹の痛みが徐々に引いていく。そうしていると、刺されたことなどまるで嘘のようにすっかり痛みが消えてなくなった。

「……マジか」

 あまりのことに思わずそうつぶやいてしまった。

「やっぱりここはブラウエルデ・クロニクルの世界で、原作小説の時代ってことか。たしかブラウエルデ・クロニクルは原作小説の百年後だか二百年後だか、そんな感じだったよな」

 と、そんな独り言を呟いたところで、体が冷えてきていることに気が付いた。

 ……あの暖かいものが半分くらいまで減っているような?

 ということは、あの暖かいのが魔力、ということでいいんだよな?

 ともあれ、このままでは風邪をひいてしまう。

 俺は急いで水から上がるのだった。
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