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第四章
第四章第100話 話が通じません
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ダメです。どうしたらいいかさっぱり分かりません。
そうしている間に男はさらに泡を吹きました。呼吸は今にも止まりそうです。
「ど、どうしたら……」
「ピ?」
ピーちゃんが男の顔の横にやってきて、あたしに何かを聞いてきました。
「ピピ? ピ?」
「えっと……もしかして治せるんですか?」
「ピ!」
「じゃ、じゃあお願いします。この男にリリアちゃんの居場所を聞かないといけないんです!」
「ピピッ!」
ピーちゃんはピョーンとジャンプして男の顔面に張り付きました。それからうごうごして泡を吸い取り……あれ? もしかして口の中に体を突っ込んでるんですか?
しばらく様子を見守っていると、ピーちゃんが何かの液体をピューっと吹きました。それからすぐにピーちゃんは男から離れます。
「ピーちゃん?」
「ピ」
なんだか、ピーちゃんがもう大丈夫と言っているみたいです。
多分大丈夫だと思うんですけど、少し様子を見守ってみましょう。
呼吸は相変わらず弱いですけど……あれ? なんだか少しずつしっかりしてきたような?
「ゴホッゴホッ」
あ! 男がむせ始めました!
もう大丈夫そうです。
「ローザ嬢、治療は?」
「え? あ、はい。ピーちゃんが治してくれたのでもう大丈夫です」
「なるほど。すごいですね。ピーちゃんは」
「はい! そうなんです!」
すると公子さまはにっこりと微笑みましたが、すぐに真顔に戻ります。
「では、この男を縛っても? また自害されてはたまりませんので」
「え? あ、はい。そうですね。大丈夫です」
すると公子さまはどこからかロープを取り出すと手際よく後ろ手に縛り、さらに歩けないように足も縛りました。
すると男の瞼が動き、ゆっくりと目を開けます。
「う……ここは神の……え!?」
男は目を見開きました。
「な、なぜ……」
「どうでもいいだろう。それよりもお前は何を知っている?」
普段の優しい口調とは違い、公子さまはゾッとするほど冷たい表情と声で男を問い詰めます。
「くっ」
「さっさとは吐け。さもないと――」
「誰が! ごほっ」
「え?」
男は公子さまに啖呵を切ると、すぐに咳き込み始めました。しかも今度は血を吐いています。
「ローザ嬢、どうやら舌を噛んで自害しようとしたようです」
「そんな! ダメです!」
あたしはすぐに男を治療しました。舌を噛んだって分かっていれば簡単です。
「な? ぐ……そういうことか」
「ちょっと! なんでそんなことをするんですか! それよりリリアちゃんは!」
すると男はなぜかあたしを憐れむような表情であたしを見てきます。
「な、なんですか?」
「あなたがオーデルラーヴァの聖女ローザ様ですね。お可哀想に。このように邪教の徒に堕ちておてしまわれるなんて」
「え?」
「聖女ローザ様、このような場所にいてはいけません! 貴女もルクシアに来るべきなのです! さあ! 今すぐに!」
な、なんなんですか? この人の目、おかしいです。とても正気とは思えません。
「リリア嬢をどこへやった?」
「ん? リリア?」
「あ、あたしのお友達を誘拐したんですよね?」
「ああ、聖女リリア様のことですか。ベルーシの公子ごときが聖女様になんと無礼な」
え? 公子さまになんて失礼な! でも、今はそれよりリリアちゃんのことが優先です。
「あたしのお友達のリリアちゃんはどこですか! あたしが聖女だって言うなら答えなさい!」
「それはもちろんです。聖女リリア様には本来いるべき場所にお移り頂いただけです。このような場所にいては邪教に染まり切ってしまいますからね」
「……光属性の人を集めているんですよね?」
「集める? そのような無礼なことをするはずがないでしょう。聖女様には本来いるべき場所にお移り頂いているだけです。聖女様には然るべき場所にいらっしゃるべきなのです」
「……ならなんで、なんでツェツィーリエ先生を!」
「ツェツィーリエ? ああ、あの女は邪教に染まり切ってしまい、もはや手遅れです。であれば救済して差し上げることこそが神の御心でしょう」
「はあっ!? ふざけないでください! 人をなんだと思って――」
「聖女ローザ様! 貴女にはオーデルラーヴァの聖女としてなすべきことがあるのです。さあ、ルクシアに行くのです。聖女リリア様や他の聖女様がたと共にルクシアの教えをよく学び、聖女としての務めを果たすのです!」
男は熱っぽくそう語りました。
「ふざけないでください! そんなことより! リリアちゃんを返してください!」
「聖女リリア様は然るべき場所に赴かれたのです。ルクシアに行き、聖女としての務めを果たせばいずれお会いになられることも可能でしょう」
「だからリリアちゃんを――」
「ローザ嬢、これ以上は無駄でしょう。狂信者に問答は無用です」
そう言って公子さまはラダさんが地下でやったように、男の首を叩いて気絶させるのでした。
================
次回更新は通常どおり、2024/11/02 (土) 20:00 を予定しております。
そうしている間に男はさらに泡を吹きました。呼吸は今にも止まりそうです。
「ど、どうしたら……」
「ピ?」
ピーちゃんが男の顔の横にやってきて、あたしに何かを聞いてきました。
「ピピ? ピ?」
「えっと……もしかして治せるんですか?」
「ピ!」
「じゃ、じゃあお願いします。この男にリリアちゃんの居場所を聞かないといけないんです!」
「ピピッ!」
ピーちゃんはピョーンとジャンプして男の顔面に張り付きました。それからうごうごして泡を吸い取り……あれ? もしかして口の中に体を突っ込んでるんですか?
しばらく様子を見守っていると、ピーちゃんが何かの液体をピューっと吹きました。それからすぐにピーちゃんは男から離れます。
「ピーちゃん?」
「ピ」
なんだか、ピーちゃんがもう大丈夫と言っているみたいです。
多分大丈夫だと思うんですけど、少し様子を見守ってみましょう。
呼吸は相変わらず弱いですけど……あれ? なんだか少しずつしっかりしてきたような?
「ゴホッゴホッ」
あ! 男がむせ始めました!
もう大丈夫そうです。
「ローザ嬢、治療は?」
「え? あ、はい。ピーちゃんが治してくれたのでもう大丈夫です」
「なるほど。すごいですね。ピーちゃんは」
「はい! そうなんです!」
すると公子さまはにっこりと微笑みましたが、すぐに真顔に戻ります。
「では、この男を縛っても? また自害されてはたまりませんので」
「え? あ、はい。そうですね。大丈夫です」
すると公子さまはどこからかロープを取り出すと手際よく後ろ手に縛り、さらに歩けないように足も縛りました。
すると男の瞼が動き、ゆっくりと目を開けます。
「う……ここは神の……え!?」
男は目を見開きました。
「な、なぜ……」
「どうでもいいだろう。それよりもお前は何を知っている?」
普段の優しい口調とは違い、公子さまはゾッとするほど冷たい表情と声で男を問い詰めます。
「くっ」
「さっさとは吐け。さもないと――」
「誰が! ごほっ」
「え?」
男は公子さまに啖呵を切ると、すぐに咳き込み始めました。しかも今度は血を吐いています。
「ローザ嬢、どうやら舌を噛んで自害しようとしたようです」
「そんな! ダメです!」
あたしはすぐに男を治療しました。舌を噛んだって分かっていれば簡単です。
「な? ぐ……そういうことか」
「ちょっと! なんでそんなことをするんですか! それよりリリアちゃんは!」
すると男はなぜかあたしを憐れむような表情であたしを見てきます。
「な、なんですか?」
「あなたがオーデルラーヴァの聖女ローザ様ですね。お可哀想に。このように邪教の徒に堕ちておてしまわれるなんて」
「え?」
「聖女ローザ様、このような場所にいてはいけません! 貴女もルクシアに来るべきなのです! さあ! 今すぐに!」
な、なんなんですか? この人の目、おかしいです。とても正気とは思えません。
「リリア嬢をどこへやった?」
「ん? リリア?」
「あ、あたしのお友達を誘拐したんですよね?」
「ああ、聖女リリア様のことですか。ベルーシの公子ごときが聖女様になんと無礼な」
え? 公子さまになんて失礼な! でも、今はそれよりリリアちゃんのことが優先です。
「あたしのお友達のリリアちゃんはどこですか! あたしが聖女だって言うなら答えなさい!」
「それはもちろんです。聖女リリア様には本来いるべき場所にお移り頂いただけです。このような場所にいては邪教に染まり切ってしまいますからね」
「……光属性の人を集めているんですよね?」
「集める? そのような無礼なことをするはずがないでしょう。聖女様には本来いるべき場所にお移り頂いているだけです。聖女様には然るべき場所にいらっしゃるべきなのです」
「……ならなんで、なんでツェツィーリエ先生を!」
「ツェツィーリエ? ああ、あの女は邪教に染まり切ってしまい、もはや手遅れです。であれば救済して差し上げることこそが神の御心でしょう」
「はあっ!? ふざけないでください! 人をなんだと思って――」
「聖女ローザ様! 貴女にはオーデルラーヴァの聖女としてなすべきことがあるのです。さあ、ルクシアに行くのです。聖女リリア様や他の聖女様がたと共にルクシアの教えをよく学び、聖女としての務めを果たすのです!」
男は熱っぽくそう語りました。
「ふざけないでください! そんなことより! リリアちゃんを返してください!」
「聖女リリア様は然るべき場所に赴かれたのです。ルクシアに行き、聖女としての務めを果たせばいずれお会いになられることも可能でしょう」
「だからリリアちゃんを――」
「ローザ嬢、これ以上は無駄でしょう。狂信者に問答は無用です」
そう言って公子さまはラダさんが地下でやったように、男の首を叩いて気絶させるのでした。
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次回更新は通常どおり、2024/11/02 (土) 20:00 を予定しております。
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