テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
250 / 268
第四章

第四章第100話 話が通じません

しおりを挟む
 ダメです。どうしたらいいかさっぱり分かりません。

 そうしている間に男はさらに泡を吹きました。呼吸は今にも止まりそうです。

「ど、どうしたら……」
「ピ?」

 ピーちゃんが男の顔の横にやってきて、あたしに何かを聞いてきました。

「ピピ? ピ?」
「えっと……もしかして治せるんですか?」
「ピ!」
「じゃ、じゃあお願いします。この男にリリアちゃんの居場所を聞かないといけないんです!」
「ピピッ!」

 ピーちゃんはピョーンとジャンプして男の顔面に張り付きました。それからうごうごして泡を吸い取り……あれ? もしかして口の中に体を突っ込んでるんですか?

 しばらく様子を見守っていると、ピーちゃんが何かの液体をピューっと吹きました。それからすぐにピーちゃんは男から離れます。

「ピーちゃん?」
「ピ」

 なんだか、ピーちゃんがもう大丈夫と言っているみたいです。

 多分大丈夫だと思うんですけど、少し様子を見守ってみましょう。

 呼吸は相変わらず弱いですけど……あれ? なんだか少しずつしっかりしてきたような?

「ゴホッゴホッ」

 あ! 男がむせ始めました!

 もう大丈夫そうです。

「ローザ嬢、治療は?」
「え? あ、はい。ピーちゃんが治してくれたのでもう大丈夫です」
「なるほど。すごいですね。ピーちゃんは」
「はい! そうなんです!」

 すると公子さまはにっこりと微笑みましたが、すぐに真顔に戻ります。

「では、この男を縛っても? また自害されてはたまりませんので」
「え? あ、はい。そうですね。大丈夫です」

 すると公子さまはどこからかロープを取り出すと手際よく後ろ手に縛り、さらに歩けないように足も縛りました。

 すると男のまぶたが動き、ゆっくりと目を開けます。

「う……ここは神の……え!?」

 男は目を見開きました。

「な、なぜ……」
「どうでもいいだろう。それよりもお前は何を知っている?」

 普段の優しい口調とは違い、公子さまはゾッとするほど冷たい表情と声で男を問い詰めます。

「くっ」
「さっさとは吐け。さもないと――」
「誰が! ごほっ」
「え?」

 男は公子さまに啖呵を切ると、すぐに咳き込み始めました。しかも今度は血を吐いています。

「ローザ嬢、どうやら舌をんで自害しようとしたようです」
「そんな! ダメです!」

 あたしはすぐに男を治療しました。舌を噛んだって分かっていれば簡単です。

「な? ぐ……そういうことか」
「ちょっと! なんでそんなことをするんですか! それよりリリアちゃんは!」

 すると男はなぜかあたしをあわれむような表情であたしを見てきます。

「な、なんですか?」
「あなたがオーデルラーヴァの聖女ローザ様ですね。お可哀想かわいそうに。このように邪教の徒にちておてしまわれるなんて」
「え?」
「聖女ローザ様、このような場所にいてはいけません! 貴女もルクシアに来るべきなのです! さあ! 今すぐに!」

 な、なんなんですか? この人の目、おかしいです。とても正気とは思えません。

「リリア嬢をどこへやった?」
「ん? リリア?」
「あ、あたしのお友達を誘拐したんですよね?」
「ああ、聖女リリア様のことですか。ベルーシの公子ごときが聖女様になんと無礼な」

 え? 公子さまになんて失礼な! でも、今はそれよりリリアちゃんのことが優先です。

「あたしのお友達のリリアちゃんはどこですか! あたしが聖女だって言うなら答えなさい!」
「それはもちろんです。聖女リリア様には本来いるべき場所にお移り頂いただけです。このような場所にいては邪教に染まり切ってしまいますからね」
「……光属性の人を集めているんですよね?」
「集める? そのような無礼なことをするはずがないでしょう。聖女様には本来いるべき場所にお移り頂いているだけです。聖女様には然るべき場所にいらっしゃるべきなのです」
「……ならなんで、なんでツェツィーリエ先生を!」
「ツェツィーリエ? ああ、あの女は邪教に染まり切ってしまい、もはや手遅れです。であれば救済して差し上げることこそが神の御心でしょう」
「はあっ!? ふざけないでください! 人をなんだと思って――」
「聖女ローザ様! 貴女にはオーデルラーヴァの聖女としてなすべきことがあるのです。さあ、ルクシアに行くのです。聖女リリア様や他の聖女様がたと共にルクシアの教えをよく学び、聖女としての務めを果たすのです!」

 男は熱っぽくそう語りました。

「ふざけないでください! そんなことより! リリアちゃんを返してください!」
「聖女リリア様は然るべき場所に赴かれたのです。ルクシアに行き、聖女としての務めを果たせばいずれお会いになられることも可能でしょう」
「だからリリアちゃんを――」
「ローザ嬢、これ以上は無駄でしょう。狂信者に問答は無用です」

 そう言って公子さまはラダさんが地下でやったように、男の首を叩いて気絶させるのでした。

================
 次回更新は通常どおり、2024/11/02 (土) 20:00 を予定しております。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

精霊王の愛し子

百合咲 桜凜
ファンタジー
家族からいないものとして扱われてきたリト。 魔法騎士団の副団長となりやっと居場所ができたと思ったら… この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...