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第四章
第四章第92話 状況を報告しました
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あたしたちは観客席に移動したコンラートさんたちと別れ、裏の控室にやってきました。そこにはゲラシム先生のほかに何人かの先生がいて、さらに生徒会の人たちまで全員揃っています。
「ゲラシム先生」
「む? ラダ卿、どうしたのかね? おや? ローザ君まで? 何か質問かね?」
「いえ、どうやらお嬢様が――」
ラダさんが状況をかいつまんで説明してくれました。
「……ふむ。なるほど。では私が現場に向かおう。生徒諸君はこの場に残りたまえ。この場は……生徒の治療をしてくださっているツェツィーリエ先生に任せよう。ラダ卿、ツェツィーリエ先生に状況をお伝え願えるかね?」
「お任せください」
「うむ」
「では生徒会の諸君、生徒たちをまとめてくれたまえ」
ゲラシム先生はそう言うと、颯爽と控室を出て行きました。するとお義姉さまが心配そうにあたしに声を掛けてきます。
「ローザ、怪我はないんですの?」
「はい。大丈夫です」
すると横からラダさんが割って入ってきます。
「レジーナお嬢様、ローザお嬢様をツェツィーリエ先生のところにお連れしたく思いますが、今ツェツィーリエ先生はどちらに?」
「ええ、そうですわね。ツェツィーリエ先生はっ!?」
「いてっ!」
「え?」
突然お義姉さまが隣にいる王太子さまの足を踏みました。
「まだ何もしていないだろう!」
「まだ? やはりローザの胸を見ようとしていましたのね!?」
「うっ……それは……」
王太子さまはバツが悪そうに視線を逸らしました。
あの……えっと……。
「ローザ嬢、ツェツィーリエ先生のところにご案内しますよ」
「あ、公子様。はい。お願いします」
「ではこちらへ」
あたしはお義姉さまに悪いとは思いつつもその場を離れ、臨時の医務室になっているという控え室に移動しました。
「ツェツィーリエ先生、レフ・カルリアです」
「どうぞ」
公子さまがノックしてから声を掛けると、すぐにツェツィーリエ先生が入室を許可してくれたので中に入ります。するとそこには何人かの生徒がベッドに横たわっていて、リリアちゃんが治癒魔術で治療していました。
「公子殿下、どうしましたか? それにラダ卿とローザちゃんまで」
「はい。実は――」
ラダさんが事情を説明するとツェツィーリエ先生は深刻そうな表情を浮かべ、大きなため息をつきました。
「そうですか。わかりました。侵入者の目的が分からない以上、生徒を移動させるわけにはいきませんね。ラダ卿、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
すると突然ツェツィーリエ先生があたしのほうに話を振ってきました。
「ローザちゃん、ラダ卿から離れてはダメよ?」
「は、はい。あの……」
あたしはリリアちゃんのほうを見ます。
「ああ、ローザちゃんは手伝わないでちょうだい」
「えっ?」
「ローザちゃんが使うのは魔術ではなくて魔法だもの。もう私が教えられることは何もないわ。でもリリアちゃんは別よ。魔術はしっかり詠唱を覚えて、繰り返し練習することが大切なの。でも、怪我人を治療できる機会がそう何度もあるわけじゃないわ。特に、彼らはローザちゃんの魔法がなくても治せるでしょう?」
「……はい」
そうですね。ただ、ずっと痛いのは可哀想な気もしますけど……。
「さ、そうと分かったら出て行ってちょうだい。それと公子殿下」
「なんでしょう?」
「生徒たちに、闘技場の外に出ないように伝えてきてちょうだい」
「承知しました。お任せください。さ、ローザ嬢。ここに留まっていては治療の邪魔になってしまいますよ」
「は、はい」
こうしてあたしは医務室を後にしたのでした。
◆◇◆
それからあたしは公子様の指示で観客席に移動しました。闘技場の中ではヴィーシャさんたちもいて、他の剣術部の人たちと一緒に身振り手振りで何かをやっています。他にもあちこちでグループができていて、何かを話し合っているようです。
「ラダさん、あれって……」
「反省会をしているのでしょう。今回は実戦魔術部の作戦にすっかりやられてしまいましたから」
「そ、そうだったんですね……」
でも実戦魔術部って、去年の学園祭のときに部長さんが公子様にあっという間にやられていた印象しかないんですけど……。
そんなことを考えていると生徒会の皆さんが出てきて、闘技場の舞台にいるグループに次々と話しかけていきます。
話を聞いたグループは次々と解散し、やがてヴィーシャさんたちも解散しました。
それからしばらくすると、観客席にヴィーシャさんたちがやってきました。
「やあ、ローザ」
「ヴィーシャさん、こんにちは」
「うん。今日はユキとピーちゃんも一緒なんだね。こんにちは!」
「ミャー」
「ピッ」
「あれ? ホーちゃんは?」
「え? えっと、多分その辺の高いところにいると思うんですけど……」
あたしは周囲をキョロキョロと見回します。
あ、あれ? あれれ? いません! どうしましょう! もしかしてホーちゃん、迷子になっちゃったんじゃ!
「ユキ! ピーちゃん! ホーちゃんがいません!」
「ミャー」
「ピー」
「え? ……心配ない、ですか?」
「ミャー」
「ピピー」
……えっと、はい。そうでした。そうですよね。ホーちゃんは飛べるんですし、大丈夫なはずです。
「えっと、たぶん安全なところに避難しているんだと思います」
「え? そうなの?」
「ミャー」
「ピピー」
「はい。そうですよ。ユキもピーちゃんもそうだって言っています」
「そうなの? うーん、まあいっか。そうかもね」
「はい」
そうですよ。そうに決まっています。
……でも、やっぱり心配です。怖い目に遭っていなければいいんですけど。
================
次回更新は通常どおり、2024/09/07 (土) 20:00 を予定しております。
「ゲラシム先生」
「む? ラダ卿、どうしたのかね? おや? ローザ君まで? 何か質問かね?」
「いえ、どうやらお嬢様が――」
ラダさんが状況をかいつまんで説明してくれました。
「……ふむ。なるほど。では私が現場に向かおう。生徒諸君はこの場に残りたまえ。この場は……生徒の治療をしてくださっているツェツィーリエ先生に任せよう。ラダ卿、ツェツィーリエ先生に状況をお伝え願えるかね?」
「お任せください」
「うむ」
「では生徒会の諸君、生徒たちをまとめてくれたまえ」
ゲラシム先生はそう言うと、颯爽と控室を出て行きました。するとお義姉さまが心配そうにあたしに声を掛けてきます。
「ローザ、怪我はないんですの?」
「はい。大丈夫です」
すると横からラダさんが割って入ってきます。
「レジーナお嬢様、ローザお嬢様をツェツィーリエ先生のところにお連れしたく思いますが、今ツェツィーリエ先生はどちらに?」
「ええ、そうですわね。ツェツィーリエ先生はっ!?」
「いてっ!」
「え?」
突然お義姉さまが隣にいる王太子さまの足を踏みました。
「まだ何もしていないだろう!」
「まだ? やはりローザの胸を見ようとしていましたのね!?」
「うっ……それは……」
王太子さまはバツが悪そうに視線を逸らしました。
あの……えっと……。
「ローザ嬢、ツェツィーリエ先生のところにご案内しますよ」
「あ、公子様。はい。お願いします」
「ではこちらへ」
あたしはお義姉さまに悪いとは思いつつもその場を離れ、臨時の医務室になっているという控え室に移動しました。
「ツェツィーリエ先生、レフ・カルリアです」
「どうぞ」
公子さまがノックしてから声を掛けると、すぐにツェツィーリエ先生が入室を許可してくれたので中に入ります。するとそこには何人かの生徒がベッドに横たわっていて、リリアちゃんが治癒魔術で治療していました。
「公子殿下、どうしましたか? それにラダ卿とローザちゃんまで」
「はい。実は――」
ラダさんが事情を説明するとツェツィーリエ先生は深刻そうな表情を浮かべ、大きなため息をつきました。
「そうですか。わかりました。侵入者の目的が分からない以上、生徒を移動させるわけにはいきませんね。ラダ卿、ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
すると突然ツェツィーリエ先生があたしのほうに話を振ってきました。
「ローザちゃん、ラダ卿から離れてはダメよ?」
「は、はい。あの……」
あたしはリリアちゃんのほうを見ます。
「ああ、ローザちゃんは手伝わないでちょうだい」
「えっ?」
「ローザちゃんが使うのは魔術ではなくて魔法だもの。もう私が教えられることは何もないわ。でもリリアちゃんは別よ。魔術はしっかり詠唱を覚えて、繰り返し練習することが大切なの。でも、怪我人を治療できる機会がそう何度もあるわけじゃないわ。特に、彼らはローザちゃんの魔法がなくても治せるでしょう?」
「……はい」
そうですね。ただ、ずっと痛いのは可哀想な気もしますけど……。
「さ、そうと分かったら出て行ってちょうだい。それと公子殿下」
「なんでしょう?」
「生徒たちに、闘技場の外に出ないように伝えてきてちょうだい」
「承知しました。お任せください。さ、ローザ嬢。ここに留まっていては治療の邪魔になってしまいますよ」
「は、はい」
こうしてあたしは医務室を後にしたのでした。
◆◇◆
それからあたしは公子様の指示で観客席に移動しました。闘技場の中ではヴィーシャさんたちもいて、他の剣術部の人たちと一緒に身振り手振りで何かをやっています。他にもあちこちでグループができていて、何かを話し合っているようです。
「ラダさん、あれって……」
「反省会をしているのでしょう。今回は実戦魔術部の作戦にすっかりやられてしまいましたから」
「そ、そうだったんですね……」
でも実戦魔術部って、去年の学園祭のときに部長さんが公子様にあっという間にやられていた印象しかないんですけど……。
そんなことを考えていると生徒会の皆さんが出てきて、闘技場の舞台にいるグループに次々と話しかけていきます。
話を聞いたグループは次々と解散し、やがてヴィーシャさんたちも解散しました。
それからしばらくすると、観客席にヴィーシャさんたちがやってきました。
「やあ、ローザ」
「ヴィーシャさん、こんにちは」
「うん。今日はユキとピーちゃんも一緒なんだね。こんにちは!」
「ミャー」
「ピッ」
「あれ? ホーちゃんは?」
「え? えっと、多分その辺の高いところにいると思うんですけど……」
あたしは周囲をキョロキョロと見回します。
あ、あれ? あれれ? いません! どうしましょう! もしかしてホーちゃん、迷子になっちゃったんじゃ!
「ユキ! ピーちゃん! ホーちゃんがいません!」
「ミャー」
「ピー」
「え? ……心配ない、ですか?」
「ミャー」
「ピピー」
……えっと、はい。そうでした。そうですよね。ホーちゃんは飛べるんですし、大丈夫なはずです。
「えっと、たぶん安全なところに避難しているんだと思います」
「え? そうなの?」
「ミャー」
「ピピー」
「はい。そうですよ。ユキもピーちゃんもそうだって言っています」
「そうなの? うーん、まあいっか。そうかもね」
「はい」
そうですよ。そうに決まっています。
……でも、やっぱり心配です。怖い目に遭っていなければいいんですけど。
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