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第四章
第四章第86話 報告をしました
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報告書を書き終えると、今度は使節団長としてガブラス伯爵とクリステア子爵に正式に救援要請をしました。
するとすぐにガブラス伯爵とクリステア子爵が合同の護衛部隊を編成してくれて、ようやくあたしはトレスカに向けて出発することができました。
それからは特にトラブルもなく、無事にトレスカに到着したんですが、お仕事はまだまだ続きます。
公王さまのお手紙を渡して、それから訪問の成果も報告しなくちゃいけないんです。
そんなわけで、あたしは休む間もなくお城にやってきました。やってきたのは謁見の間じゃなくて、会議室の前です。
「マレスティカ公爵令嬢ローザ様、国王陛下が中でお待ちです」
「はい、ありがとうございます」
扉を開けてくれた兵士の人にお礼を言い、中に入ります。するとそこには王様だけでなくお義父さまと、それから知らない人たちがたくさんいます。
……あれ? でも、お披露目会のときに見た人もいるような……?
あれ? お義父さま? 一体何を……え? あ、い、さ、つ……? あっ! 挨拶!
「マレスティカ公爵家の養女ローザが偉大なる国王陛下にご挨拶申し上げます。カルリア公国よりただいま戻りました」
あたしは慌てて王様に向かってカーテシーをします。
「うむ。事情は聞いておるぞ。よくぞ無事に戻った」
「ご心配をお掛けしました……」
あれ? このあとなんて言えばいいんでしたっけ? あ、頭が真っ白に……。
「ふむ。そう緊張するな。ヴィクトルからの親書があるのだろう?」
あっ! そうでした!
「は、はい。えっと、ヴィクトル四世陛下よりの親書をお預かりして参りました」
あたしは収納の中から親書を取り出し、封蝋が見えるように差し出しました。
「ふむ。持ってくるが良い」
「はい」
あたしはドレスの裾を踏まないように気を付けながら王様の前まで歩いて行き、封筒を差し出しました。
「ご苦労」
王様は封筒を開け、中身をさっと読みます。
「……なるほど。公太后陛下の治療は成功したのだな。よくやった」
「あ、ありがとうございます。えっと、その、鉛が原因で――」
あたしは頑張って公太后さまを治療したときのことを説明します。
「……ふむ。そうかそうか。よく分かった」
それから王様はまた手紙に目を通します。
「ああ、なるほどな。タルヴィア子爵は上手くやってくれたようだ。まったく、惜しい男を亡くしたものだ」
王様はそう言って小さくため息をつきました。
「して、襲撃事件のことだが……」
「は、はい。報告書にお書きしたとおり――」
あたしは聖ルクシア教の信者らしい人たちに襲われた件について細かく説明しました。
「なるほど。襲撃者から逃れるためにギガントスノーベアを利用したのか。機転が利くではないか」
「あ、ありがとうございます」
「して、なぜガブラス伯爵だけでなくクリステア子爵までおるのだ?」
「はい。実は――」
あたしは魔の森を通り抜けたらランスカ男爵領に着いたこと、そしてクリステア子爵とたまたま会ったことを伝えました。
「……」
王様は険しい表情になり、それから隣に座っている宰相さんとひそひそ話をし始めました。すると表情がみるみるうちに険しくなります。
えっ?
「ローザよ。お前が魔の森を出て最初に着いた場所はどこだ?」
「えっ? えっと……ぱ、パドゥレ・ランスカ自治領って言っていました」
「そうか。お前は無事だったのか?」
「え? 無事? って、なんのことですか?」
「……ふむ。そうか。ならばよい。皆の者、聞いていたな? 無事であると」
すると集まっている人たちが一斉に頷きました。
あれ? お義父さままで? 心配してくれていたのは嬉しいですけど……あ! でもそういえばパドゥレ・ランスカの話、ちゃんとしてませんでした。
「あ、あの……」
「む? どうした? 言ってみろ」
「実はその、パドゥレ・ランスカはゴブリンの大群に襲われたんです」
「ゴブリンの大群だと?」
「はい。その、ものすごいいっぱい来て、その、頑張って全部やっつけたんですけど、ただ、あたしが出て行ったあとにギガントスノーベアまで来ちゃったらしくって……」
「ほう?」
王様はまた、隣の宰相さんとひそひそ話を始めました。
「分かった。では、その居座ったというギガントスノーベアについてはランスカ男爵に対応を任せると伝えておこう」
「えっ? だ、大丈夫……なんですか?」
「我が国の外交使節団を襲って公爵令嬢の誘拐を試み、外務卿夫妻を殺害した連中への対応のほうがはるかに優先度が高い。最悪、ルクシアやハプルッセンとの戦争も覚悟せねばならんだろう。辺境の田舎に居座った魔物ごとき、自分たちでどうにかするべきだ」
それは……そうかもしれません。
「それと、パドゥレ・ランスカで働かれたであろう無礼についてはマレスティカ公爵を通じてなんとかしておけ。お前はまだ子供だ」
あれ? もしかして王様、あいつらのこと知っていたりするんですか?
「はっ。私のほうから正式に抗議をしておきます」
えっ? お義父さまもですか!?
「ではパドゥレ・ランスカの件は終わりだ。話題を戻すぞ。聖ルクシア教会については今後、取締を強化せよ。疑わしい場合は教会内への強制捜査も許可する。徹底的に犯罪を取り締まるように。結果次第では禁教令を出す」
「はっ!」
「さて、次の議題に移るが、その前にローザよ。お前はこれにて下がるが良い」
「はい。失礼します」
あたしは王様にカーテシーをしてから退室するのでした。
ふう。すごく緊張しました。それに、ちょっと失敗もしちゃいました。
……はぁ。お義姉さまならこんな失敗、しなかったですよね?
================
次回更新は通常どおり、2024/07/27 (土) 20:00 を予定しております。
するとすぐにガブラス伯爵とクリステア子爵が合同の護衛部隊を編成してくれて、ようやくあたしはトレスカに向けて出発することができました。
それからは特にトラブルもなく、無事にトレスカに到着したんですが、お仕事はまだまだ続きます。
公王さまのお手紙を渡して、それから訪問の成果も報告しなくちゃいけないんです。
そんなわけで、あたしは休む間もなくお城にやってきました。やってきたのは謁見の間じゃなくて、会議室の前です。
「マレスティカ公爵令嬢ローザ様、国王陛下が中でお待ちです」
「はい、ありがとうございます」
扉を開けてくれた兵士の人にお礼を言い、中に入ります。するとそこには王様だけでなくお義父さまと、それから知らない人たちがたくさんいます。
……あれ? でも、お披露目会のときに見た人もいるような……?
あれ? お義父さま? 一体何を……え? あ、い、さ、つ……? あっ! 挨拶!
「マレスティカ公爵家の養女ローザが偉大なる国王陛下にご挨拶申し上げます。カルリア公国よりただいま戻りました」
あたしは慌てて王様に向かってカーテシーをします。
「うむ。事情は聞いておるぞ。よくぞ無事に戻った」
「ご心配をお掛けしました……」
あれ? このあとなんて言えばいいんでしたっけ? あ、頭が真っ白に……。
「ふむ。そう緊張するな。ヴィクトルからの親書があるのだろう?」
あっ! そうでした!
「は、はい。えっと、ヴィクトル四世陛下よりの親書をお預かりして参りました」
あたしは収納の中から親書を取り出し、封蝋が見えるように差し出しました。
「ふむ。持ってくるが良い」
「はい」
あたしはドレスの裾を踏まないように気を付けながら王様の前まで歩いて行き、封筒を差し出しました。
「ご苦労」
王様は封筒を開け、中身をさっと読みます。
「……なるほど。公太后陛下の治療は成功したのだな。よくやった」
「あ、ありがとうございます。えっと、その、鉛が原因で――」
あたしは頑張って公太后さまを治療したときのことを説明します。
「……ふむ。そうかそうか。よく分かった」
それから王様はまた手紙に目を通します。
「ああ、なるほどな。タルヴィア子爵は上手くやってくれたようだ。まったく、惜しい男を亡くしたものだ」
王様はそう言って小さくため息をつきました。
「して、襲撃事件のことだが……」
「は、はい。報告書にお書きしたとおり――」
あたしは聖ルクシア教の信者らしい人たちに襲われた件について細かく説明しました。
「なるほど。襲撃者から逃れるためにギガントスノーベアを利用したのか。機転が利くではないか」
「あ、ありがとうございます」
「して、なぜガブラス伯爵だけでなくクリステア子爵までおるのだ?」
「はい。実は――」
あたしは魔の森を通り抜けたらランスカ男爵領に着いたこと、そしてクリステア子爵とたまたま会ったことを伝えました。
「……」
王様は険しい表情になり、それから隣に座っている宰相さんとひそひそ話をし始めました。すると表情がみるみるうちに険しくなります。
えっ?
「ローザよ。お前が魔の森を出て最初に着いた場所はどこだ?」
「えっ? えっと……ぱ、パドゥレ・ランスカ自治領って言っていました」
「そうか。お前は無事だったのか?」
「え? 無事? って、なんのことですか?」
「……ふむ。そうか。ならばよい。皆の者、聞いていたな? 無事であると」
すると集まっている人たちが一斉に頷きました。
あれ? お義父さままで? 心配してくれていたのは嬉しいですけど……あ! でもそういえばパドゥレ・ランスカの話、ちゃんとしてませんでした。
「あ、あの……」
「む? どうした? 言ってみろ」
「実はその、パドゥレ・ランスカはゴブリンの大群に襲われたんです」
「ゴブリンの大群だと?」
「はい。その、ものすごいいっぱい来て、その、頑張って全部やっつけたんですけど、ただ、あたしが出て行ったあとにギガントスノーベアまで来ちゃったらしくって……」
「ほう?」
王様はまた、隣の宰相さんとひそひそ話を始めました。
「分かった。では、その居座ったというギガントスノーベアについてはランスカ男爵に対応を任せると伝えておこう」
「えっ? だ、大丈夫……なんですか?」
「我が国の外交使節団を襲って公爵令嬢の誘拐を試み、外務卿夫妻を殺害した連中への対応のほうがはるかに優先度が高い。最悪、ルクシアやハプルッセンとの戦争も覚悟せねばならんだろう。辺境の田舎に居座った魔物ごとき、自分たちでどうにかするべきだ」
それは……そうかもしれません。
「それと、パドゥレ・ランスカで働かれたであろう無礼についてはマレスティカ公爵を通じてなんとかしておけ。お前はまだ子供だ」
あれ? もしかして王様、あいつらのこと知っていたりするんですか?
「はっ。私のほうから正式に抗議をしておきます」
えっ? お義父さまもですか!?
「ではパドゥレ・ランスカの件は終わりだ。話題を戻すぞ。聖ルクシア教会については今後、取締を強化せよ。疑わしい場合は教会内への強制捜査も許可する。徹底的に犯罪を取り締まるように。結果次第では禁教令を出す」
「はっ!」
「さて、次の議題に移るが、その前にローザよ。お前はこれにて下がるが良い」
「はい。失礼します」
あたしは王様にカーテシーをしてから退室するのでした。
ふう。すごく緊張しました。それに、ちょっと失敗もしちゃいました。
……はぁ。お義姉さまならこんな失敗、しなかったですよね?
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