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第四章
第四章第81話 ひどい状況でした
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「使節団の皆様はこちらの部屋にいらっしゃいます。ただしあまり騒がず、患者の負担にならないようにお願いします」
「……はい」
助祭さんに釘を刺され、あたしたちは静かに部屋の中に入りました。するとそこはまるで病院のようにベッドが所狭しと並んでいて、そのすべてに人が寝かされています。
でも、使節団の人数にしてはかなり少ないです。
「う……」
「あれ? 公爵令嬢? よくぞご無事で……」
「えっ!?」
入口に近いベッドに寝ている男の人がそんなことを呟きました。
えっと……誰でしたっけ?
でも、そう言うってことは使節団の人なんだと思います。
「あの、大丈夫ですか? 治療しますね」
あたしはすぐに治癒魔法をかけようとその人のところに近寄ります。
「お待ちください」
「え?」
「治療いただけるのはありがたいのですが、この部屋の者たちは軽傷です。他の部屋に重傷者がおりますので、どうか彼らを先に」
「えっ? それで軽傷なんですか?」
全身が包帯でぐるぐる巻きで、手や足に添え木をしている人もいます。ということは、骨が折れているってことですよね?
それなのに軽傷だなんて……。
「はい。ご令嬢、どうか彼らを先に! お願いします!」
「わ、わかりました。あの……」
すると助祭さんは真剣な目であたしの目をじっと見てきました。
「本当によろしいのですか? あれは公爵家のお嬢様に決してお見せできるような光景ではありませんよ?」
「はい! 大丈夫です。だから……」
「……かしこまりました。ではこちらへ。決して悲鳴など、お上げになりませんよう」
「はい」
それから何度も念を押されつつ、あたしたちは廊下の突き当りにある部屋に案内されました。
……部屋に近づくだけで異臭が漂ってきます。これってやっぱり!
「絶対に騒いではなりませんよ」
「はい」
「では」
最後にもう一度助祭さんが念を押してから扉を開けました。するとすぐに強烈な異臭が漂ってきます。
部屋の中に並んでいる何台ものベッドのうち五台に患者さんが寝ていて、それを二人で看病しています。
一人は助祭さんで、もう一人は……あれ? あの服って……?
「……え? ローザお嬢様!?」
「メラニアさん!」
なんと看病していたうちの一人はメラニアさんでした!
「よくぞご無事で……」
メラニアさんは目を潤ませながらあたしのほうを見てきます。
「メラニアさん、ご心配をおかけしました」
あたしはそう言って近づきます。
「あの、メラニアさん。ラダさんは? それにイヴァンナさんとタルヴィア子爵は?」
するとメラニアさんはさっと顔を伏せました。
え? まさか……!
「タルヴィア子爵夫妻は、お亡くなりになられました」
「そんな……」
「そしてラダ卿は……」
「……ラダさんは?」
「その……ここに……」
メラニアさんはそう言って自分が看病していたベッドを指さしました。
「えっ!? ラダさん!?」
「お静かに!」
「あ……ご、ごめんなさい」
あたしは思わず大声を出してしまい、助祭の人に叱られてしまいました。
「あの、入ってもいいですか?」
「はい。ですがお静かに。最後くらいは穏やかにさせてあげてください」
「……はい」
つまり、ラダさんはもう……いえ、あたしの魔法なら!
あたしは静かにラダさんが寝かされているというベッドサイドにやってきました。
「あ……これは……」
もう……ダメ、かもしれません。どうして生きているのかが不思議なくらいです。
左腕は肘から先がなく、右足も膝から下がありません。それに全身と、それからあの凛々しいお顔の右半分が包帯で覆われていて、しかもその包帯が黄土色に染まって異臭を放っています。
「あの、メラニアさん。ラダさんの包帯を換えてあげないと……」
「はい。今、それをするところでしたが……」
そう言ってちらりとクリステア子爵たちのほうを見ました。すると助祭さんがすぐにクリステア子爵を追い払います。
「子爵様、これから女性患者の処置を行います。申し訳ありませんが、殿方は外でお待ちください」
「む? そ、そうだな。我々は外で」
そうしてクリステア子爵たちは外に出され、扉が閉じられました。
「お嬢様もお外で……」
「いえ、あたしも手伝います」
「かしこまりました」
メラニアさんはテキパキと包帯を外していきます。
「あ……」
ひどい傷です。
顔はきっと斬られたんだと思います。大きな傷があって、骨まで見えています。それに全身にも切り傷や刺し傷があるうえに傷口は完全に化膿していて、一部は腐り始めているところまであるんです。
これじゃあ、いくらなんでも……。
「ピピッ」
突然ピーちゃんがピョンとラダさんに飛び乗りました。
「えっ? ピーちゃん?」
「ピッ! ピピッ!」
あれ? ピーちゃんが何か言いたいみたいです。
「ピピッ!」
そのままペタンと顔の傷口に張り付きました。
すると膿がしゅわしゅわと泡を出しながら消えていき、さらに黒くなっている部分も溶け始めました。
するとそこから赤黒い血がたくさん染み出してきて……。
「えっ? ピーちゃん!? 何を……?」
================
次回更新は通常どおり、2024/06/22 (土) 20:00 を予定しております。
「……はい」
助祭さんに釘を刺され、あたしたちは静かに部屋の中に入りました。するとそこはまるで病院のようにベッドが所狭しと並んでいて、そのすべてに人が寝かされています。
でも、使節団の人数にしてはかなり少ないです。
「う……」
「あれ? 公爵令嬢? よくぞご無事で……」
「えっ!?」
入口に近いベッドに寝ている男の人がそんなことを呟きました。
えっと……誰でしたっけ?
でも、そう言うってことは使節団の人なんだと思います。
「あの、大丈夫ですか? 治療しますね」
あたしはすぐに治癒魔法をかけようとその人のところに近寄ります。
「お待ちください」
「え?」
「治療いただけるのはありがたいのですが、この部屋の者たちは軽傷です。他の部屋に重傷者がおりますので、どうか彼らを先に」
「えっ? それで軽傷なんですか?」
全身が包帯でぐるぐる巻きで、手や足に添え木をしている人もいます。ということは、骨が折れているってことですよね?
それなのに軽傷だなんて……。
「はい。ご令嬢、どうか彼らを先に! お願いします!」
「わ、わかりました。あの……」
すると助祭さんは真剣な目であたしの目をじっと見てきました。
「本当によろしいのですか? あれは公爵家のお嬢様に決してお見せできるような光景ではありませんよ?」
「はい! 大丈夫です。だから……」
「……かしこまりました。ではこちらへ。決して悲鳴など、お上げになりませんよう」
「はい」
それから何度も念を押されつつ、あたしたちは廊下の突き当りにある部屋に案内されました。
……部屋に近づくだけで異臭が漂ってきます。これってやっぱり!
「絶対に騒いではなりませんよ」
「はい」
「では」
最後にもう一度助祭さんが念を押してから扉を開けました。するとすぐに強烈な異臭が漂ってきます。
部屋の中に並んでいる何台ものベッドのうち五台に患者さんが寝ていて、それを二人で看病しています。
一人は助祭さんで、もう一人は……あれ? あの服って……?
「……え? ローザお嬢様!?」
「メラニアさん!」
なんと看病していたうちの一人はメラニアさんでした!
「よくぞご無事で……」
メラニアさんは目を潤ませながらあたしのほうを見てきます。
「メラニアさん、ご心配をおかけしました」
あたしはそう言って近づきます。
「あの、メラニアさん。ラダさんは? それにイヴァンナさんとタルヴィア子爵は?」
するとメラニアさんはさっと顔を伏せました。
え? まさか……!
「タルヴィア子爵夫妻は、お亡くなりになられました」
「そんな……」
「そしてラダ卿は……」
「……ラダさんは?」
「その……ここに……」
メラニアさんはそう言って自分が看病していたベッドを指さしました。
「えっ!? ラダさん!?」
「お静かに!」
「あ……ご、ごめんなさい」
あたしは思わず大声を出してしまい、助祭の人に叱られてしまいました。
「あの、入ってもいいですか?」
「はい。ですがお静かに。最後くらいは穏やかにさせてあげてください」
「……はい」
つまり、ラダさんはもう……いえ、あたしの魔法なら!
あたしは静かにラダさんが寝かされているというベッドサイドにやってきました。
「あ……これは……」
もう……ダメ、かもしれません。どうして生きているのかが不思議なくらいです。
左腕は肘から先がなく、右足も膝から下がありません。それに全身と、それからあの凛々しいお顔の右半分が包帯で覆われていて、しかもその包帯が黄土色に染まって異臭を放っています。
「あの、メラニアさん。ラダさんの包帯を換えてあげないと……」
「はい。今、それをするところでしたが……」
そう言ってちらりとクリステア子爵たちのほうを見ました。すると助祭さんがすぐにクリステア子爵を追い払います。
「子爵様、これから女性患者の処置を行います。申し訳ありませんが、殿方は外でお待ちください」
「む? そ、そうだな。我々は外で」
そうしてクリステア子爵たちは外に出され、扉が閉じられました。
「お嬢様もお外で……」
「いえ、あたしも手伝います」
「かしこまりました」
メラニアさんはテキパキと包帯を外していきます。
「あ……」
ひどい傷です。
顔はきっと斬られたんだと思います。大きな傷があって、骨まで見えています。それに全身にも切り傷や刺し傷があるうえに傷口は完全に化膿していて、一部は腐り始めているところまであるんです。
これじゃあ、いくらなんでも……。
「ピピッ」
突然ピーちゃんがピョンとラダさんに飛び乗りました。
「えっ? ピーちゃん?」
「ピッ! ピピッ!」
あれ? ピーちゃんが何か言いたいみたいです。
「ピピッ!」
そのままペタンと顔の傷口に張り付きました。
すると膿がしゅわしゅわと泡を出しながら消えていき、さらに黒くなっている部分も溶け始めました。
するとそこから赤黒い血がたくさん染み出してきて……。
「えっ? ピーちゃん!? 何を……?」
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次回更新は通常どおり、2024/06/22 (土) 20:00 を予定しております。
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