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第四章
第四章第69話 脱獄したみたいです
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「領主様! 若様! こんなところに!」
地下牢にやってきたエミールたちが牢屋の中のディミトリエたちに声を掛ける。
「おお! エミールではないか! ヴァシレたちも! おい! 早く俺をここから出せ!」
「はい! ……あ、でも鍵が……」
「鍵はそこの引き出しだ」
「え? ここですか?」
「そうだ」
「ええと……あ! これですね」
エミールは近くの引き出しから鍵を取り出し、地下牢の鍵を開けた。
「ちょっと! なんてことを!」
「アンナ! よくもこの俺を地下牢なんぞに閉じ込めやがったな!」
「あなた! あなたはマレスティカ公爵家のお嬢様にあんなことをしたんですよ! しかも国王――」
「黙れ!」
ディミトリエは大声で怒鳴り、アンナはビクンとなって言葉に詰まる。
「エミール! このバカ女を牢屋に入れろ!」
「はい!」
「ちょ、ちょっと! エミール! やめなさい!」
「うるせぇな! 領主様の命令だ! とっとと牢屋に入りやがれ」
「あっ!?」
エミールは乱暴にアンナを牢屋の中に押し込むと、外から鍵を掛けてしまった。
「ちょっと! 出しなさい! こんなことをしている場合じゃ――」
「女のくせに余計な口出しをするからこうなるんだ。黙ってそこで反省していろ」
「あなた!」
だがディミトリエはアンナを無視し、そのまま牢屋から離れていく。
「ああ、そうだ。ヴィルヘルム」
「はい、なんでしょう? 父上」
「バルバラも地下牢に入れておけ」
「分かりました! あいつも俺たちを馬鹿にしていましたもんね」
「そうだ。女など結婚して子供を産むことだけが仕事だ。それなのに父と兄に逆らうなどバカにもほどがある。しっかりと反省させるように言い聞かせておけ」
「はい!」
「ああ、そうだ。バルバラを地下牢に入れたらあのお嬢様を部屋に軟禁しておけ」
するとヴィルヘルムは先ほどまでの威勢はどこへやら、急に曇った表情になった。
「大の男が女を恐れるなど恥を知れ」
「で、ですが……」
「分かった。何人か連れて行け。それと、あのスライムはきっちり殺しておくんだぞ」
「わ、分かりました」
こうして地下牢から出てきた二人は別れ、ヴィルヘルムはバルバラの部屋へと向かう。
一方、ヴィルヘルムを見送ったディミトリエにエミールがおずおずと切り出す。
「あの、領主様」
「ん? なんだ? 俺を救出した褒美なら弾もう」
「あ、その、そうじゃなくってですね。指示を……」
「指示? なんのだ?」
「は、はい。実はゴブリンが森から大量に出てきたそうでして――」
「何ッ!?」
ディミトリエは目を見開き、大声を上げた。
「何故それを早く言わない!」
「も、申し訳ありません。ただ、アンナさんが仕切ろうとしやがって、それで俺らは領主様じゃないとダメだってなって、それで……」
ディミトリエは眉を顰め、小さく舌打ちをする。
「ええい! 広場には集まっているんだろうな!」
「はい!」
「よし。ならお前たちは正門に直行しろ! 何としてでも正門で食い止めるんだ!」
「は、はい!」
こうしてアンナが指示したヴァシレ、アハロン、ステファンの三名が正門に向かって駆けだした。
「エミール、お前も行け! 三人と一緒に正門の周囲を固めろ」
「分かりました!」
こうしてエミールも駆けだすのだった。
◆◇◆
なんだか窓の外に人が集まってきました。
ただ、集まってきた人たちは剣じゃなくて農具を持っています。
外での会話からするとゴブリンがたくさん来ているみたいなんですが、あんな武器でゴブリンをやっつけられるんでしょうか?
女の人と子供たちも続々とやって来ますが、彼女たちはこの家に避難するみたいです。
そうですよね。ゴブリンが女の人を見たら大変なことになりますしね。
だからきっとバルバラさんもあたしにこの部屋から出ないように言ったんだと思います。
ただ、気になるのはさっきから誰も戦いに行かないことです。もしかして、ゴブリンに入られてもいいからそこの広場で戦う作戦なんでしょうか?
この村の壁は結構しっかりしているので、門のところで退治したほうがいいと思うんですけど……。
そんなことを思って見ていると、突然部屋の扉が開きました。包丁や鎌を持った男の人がぞろぞろと入ってきます。
「えっ? だ、誰ですか?」
「若様、いました! スライムです」
「よし。やれ!」
「はい!」
えっ? この声、もしかしてあいつですか? あいつは牢屋に閉じ込められているはずじゃ?
「死ね!」
「ミャッ!」
ユキが小さく鳴くと、押し入ってきた男の人たちが一瞬で氷漬けになりました。
あ! あいつも氷漬けになっていますね。
……えっと、はい。びしょ濡れで大きな水たまりができていたのってユキがこうして助けてくれたからなんですね。
「えっと、ユキ、ありがとうございます」
「ミャー」
ユキは気にするなとでも言わんばかりに小さく鳴いたのでした。
================
次回更新は通常どおり、2024/03/30 (土) 20:00 を予定しております。
地下牢にやってきたエミールたちが牢屋の中のディミトリエたちに声を掛ける。
「おお! エミールではないか! ヴァシレたちも! おい! 早く俺をここから出せ!」
「はい! ……あ、でも鍵が……」
「鍵はそこの引き出しだ」
「え? ここですか?」
「そうだ」
「ええと……あ! これですね」
エミールは近くの引き出しから鍵を取り出し、地下牢の鍵を開けた。
「ちょっと! なんてことを!」
「アンナ! よくもこの俺を地下牢なんぞに閉じ込めやがったな!」
「あなた! あなたはマレスティカ公爵家のお嬢様にあんなことをしたんですよ! しかも国王――」
「黙れ!」
ディミトリエは大声で怒鳴り、アンナはビクンとなって言葉に詰まる。
「エミール! このバカ女を牢屋に入れろ!」
「はい!」
「ちょ、ちょっと! エミール! やめなさい!」
「うるせぇな! 領主様の命令だ! とっとと牢屋に入りやがれ」
「あっ!?」
エミールは乱暴にアンナを牢屋の中に押し込むと、外から鍵を掛けてしまった。
「ちょっと! 出しなさい! こんなことをしている場合じゃ――」
「女のくせに余計な口出しをするからこうなるんだ。黙ってそこで反省していろ」
「あなた!」
だがディミトリエはアンナを無視し、そのまま牢屋から離れていく。
「ああ、そうだ。ヴィルヘルム」
「はい、なんでしょう? 父上」
「バルバラも地下牢に入れておけ」
「分かりました! あいつも俺たちを馬鹿にしていましたもんね」
「そうだ。女など結婚して子供を産むことだけが仕事だ。それなのに父と兄に逆らうなどバカにもほどがある。しっかりと反省させるように言い聞かせておけ」
「はい!」
「ああ、そうだ。バルバラを地下牢に入れたらあのお嬢様を部屋に軟禁しておけ」
するとヴィルヘルムは先ほどまでの威勢はどこへやら、急に曇った表情になった。
「大の男が女を恐れるなど恥を知れ」
「で、ですが……」
「分かった。何人か連れて行け。それと、あのスライムはきっちり殺しておくんだぞ」
「わ、分かりました」
こうして地下牢から出てきた二人は別れ、ヴィルヘルムはバルバラの部屋へと向かう。
一方、ヴィルヘルムを見送ったディミトリエにエミールがおずおずと切り出す。
「あの、領主様」
「ん? なんだ? 俺を救出した褒美なら弾もう」
「あ、その、そうじゃなくってですね。指示を……」
「指示? なんのだ?」
「は、はい。実はゴブリンが森から大量に出てきたそうでして――」
「何ッ!?」
ディミトリエは目を見開き、大声を上げた。
「何故それを早く言わない!」
「も、申し訳ありません。ただ、アンナさんが仕切ろうとしやがって、それで俺らは領主様じゃないとダメだってなって、それで……」
ディミトリエは眉を顰め、小さく舌打ちをする。
「ええい! 広場には集まっているんだろうな!」
「はい!」
「よし。ならお前たちは正門に直行しろ! 何としてでも正門で食い止めるんだ!」
「は、はい!」
こうしてアンナが指示したヴァシレ、アハロン、ステファンの三名が正門に向かって駆けだした。
「エミール、お前も行け! 三人と一緒に正門の周囲を固めろ」
「分かりました!」
こうしてエミールも駆けだすのだった。
◆◇◆
なんだか窓の外に人が集まってきました。
ただ、集まってきた人たちは剣じゃなくて農具を持っています。
外での会話からするとゴブリンがたくさん来ているみたいなんですが、あんな武器でゴブリンをやっつけられるんでしょうか?
女の人と子供たちも続々とやって来ますが、彼女たちはこの家に避難するみたいです。
そうですよね。ゴブリンが女の人を見たら大変なことになりますしね。
だからきっとバルバラさんもあたしにこの部屋から出ないように言ったんだと思います。
ただ、気になるのはさっきから誰も戦いに行かないことです。もしかして、ゴブリンに入られてもいいからそこの広場で戦う作戦なんでしょうか?
この村の壁は結構しっかりしているので、門のところで退治したほうがいいと思うんですけど……。
そんなことを思って見ていると、突然部屋の扉が開きました。包丁や鎌を持った男の人がぞろぞろと入ってきます。
「えっ? だ、誰ですか?」
「若様、いました! スライムです」
「よし。やれ!」
「はい!」
えっ? この声、もしかしてあいつですか? あいつは牢屋に閉じ込められているはずじゃ?
「死ね!」
「ミャッ!」
ユキが小さく鳴くと、押し入ってきた男の人たちが一瞬で氷漬けになりました。
あ! あいつも氷漬けになっていますね。
……えっと、はい。びしょ濡れで大きな水たまりができていたのってユキがこうして助けてくれたからなんですね。
「えっと、ユキ、ありがとうございます」
「ミャー」
ユキは気にするなとでも言わんばかりに小さく鳴いたのでした。
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