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第四章
第四章第64話 パドゥレ・ランスカ村に着きました
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あたしたちは森とは反対側にある村の出入口にやってきました。森のほうにも出入口はあったんですけど、門が閉まっているうえに誰もいなかったのでこちらに回ってきたんです。
こっちには見張りのおじさんがいて、道も伸びているのでここがメインの出入口なんだと思います。
「すみません」
「ん? ああ、どうしたんだい? お嬢ちゃん」
「えっと、冒険者です。ギルドに行きたいんですけど……」
「え? ああ、その毛皮はそういうことか。じゃあ、冒険者カードを見せてくれるかい?」
「はい」
あたしはバッグから取り出したふりをしてから、冒険者カードを手渡します。
「ほうほう。ローザ・マレスティカちゃん、十三歳ね。ん? マレスティカ……どこかで聞いたような?」
見張りのおじさんは小さく首を傾げましたが、あたしのほうをじっと見てきて……うっ、このおじさん、あたしの胸を……!
あたしは制服のマントの前を閉めて体のラインを隠しました。するとおじさんはバツが悪そうな表情を浮かべます。
「あ、その……ごめんね。ええと、じゅ、従魔が三匹で、スライムと白猫とフクロウは……ちゃんといるね。問題なし。それじゃあ、これは返すよ。どうぞ」
「はい……」
あたしは冒険者カードを受け取り、バッグに入れるふりをしながら収納に入れます。
「それじゃあ、ローザちゃん。パドゥレ・ランスカへようこそ」
おじさんはそう言って道を開けてくれました。
聞いたことのない村です。それと、村の名前がちょっと変わっていますね。パドゥレって森のって意味ですけど、もしかして森の近くにあるからそう言う名前になったんでしょうか?
「冒険者ギルドは中央広場にあるよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
あたしはこうして村の中に入りました。
村の中は……ほとんど木造の小さな家ばかりです。それに家も数えるほどしかなくて、もしかしたらあたしが今まで行ったことがある町の中で一番家の数が少ないかもしれません。
ただ、柵の内側に畑があるので、村はかなり広いです。普通は柵の外側に畑があることが多いんですけど、やっぱりそれって魔物がよく出るってことなんでしょうか。
あっと、そうじゃないですね。早く冒険者ギルドに行かないと。
たしか中央広場って言っていましたよね。
少し歩いて行くと、すぐに冒険者ギルドの看板が出ている家を見つけました。とても小さな家で、明かりもついていません。扉は開いているので多分営業中だと思うんですけど……。
「すみません……」
あたしは恐る恐る外から声を掛けてみましたが、返事がありません。
そーっと中を覗いてみますが、真っ暗なギルドの中には誰もいません。
えっと、これってどういう状況なんでしょう?
でも扉が開いているってことは、営業中ってことですよね?
……もしかしてお客さんも冒険者もいないからって、職員の人がサボっているんでしょうか?
あたしが困っていると、誰かが走ってくる足音が後ろから聞こえてきました。
振り返ってみると、泥だらけでいかにも農作業をしていたという感じのおばさんが、茶色の髪を振り乱しながらものすごい速さでこちらに向かって走ってきています。
えっと、なんだか腿が地面と平行になるくらい高く上がっていて、よく分からないですけどなんだか迫力がすごいです。
「お待たせしましたー!」
「あ、えっと、はい」
「冒険者ギルド、パドゥレ・ランスカ支部へようこそ! 私はアンナと申します」
そう言いながらおばさんは家の中に入ると慣れた手つきでランプに火を灯し、流れるような動作で受付の席に座りました。
す、すごい! ものすごい早業です。あんなに走ってきたのに息がほとんど切れていません。
「魔法学園の生徒さんですね。今回は当ギルドにどういったご用件でしょうか?」
「あ、はい。えっと、買い取りと――」
「買い取りですね! かしこまりました! そちらの毛皮でしょうか?」
「は、はい」
「拝見しても?」
「はい」
アンナさんは席を立ち、慣れた手つきでマーダーウルフの毛皮を確認していきます。
「これは! マーダーウルフの毛皮ですね! さすが魔法学園の生徒さんです。まだお若いのに素晴らしい腕前ですね!」
「あ、えっと、ありがとうございます……」
「冒険者カードはお持ちですか?」
「は、はい」
あたしは冒険者カードを手渡しました。
「ありがとうございます。ローザ……マレスティカ!? ええっ!? まさかマレスティカ公爵家のお嬢様でらっしゃいますか!?」
「えっと、はい……」
「大変失礼いたしました!」
アンナさんはものすごい機敏な動きで、一瞬のうちに跪きました。
「え、えっと……」
「私めは冒険者ギルドの職員でもありますが、ここパドゥレ・ランスカ自治領の領主の妻でもあるのです」
え? 自治領? 自治領ってなんでしょうか? 聞いたことがないんですけど……。
「今すぐに夫をお呼びいたしますので、どうかあちらの椅子にお掛けになってお待ちいただけませんでしょうか?」
「え? あ、はい……」
あたしは言われた席に座りました。
「しばらくお待ちくださいませ!」
アンナさんはそう言うと、あの迫力のあるフォームで走っていったのでした。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/24 (土) 20:00 を予定しております。
こっちには見張りのおじさんがいて、道も伸びているのでここがメインの出入口なんだと思います。
「すみません」
「ん? ああ、どうしたんだい? お嬢ちゃん」
「えっと、冒険者です。ギルドに行きたいんですけど……」
「え? ああ、その毛皮はそういうことか。じゃあ、冒険者カードを見せてくれるかい?」
「はい」
あたしはバッグから取り出したふりをしてから、冒険者カードを手渡します。
「ほうほう。ローザ・マレスティカちゃん、十三歳ね。ん? マレスティカ……どこかで聞いたような?」
見張りのおじさんは小さく首を傾げましたが、あたしのほうをじっと見てきて……うっ、このおじさん、あたしの胸を……!
あたしは制服のマントの前を閉めて体のラインを隠しました。するとおじさんはバツが悪そうな表情を浮かべます。
「あ、その……ごめんね。ええと、じゅ、従魔が三匹で、スライムと白猫とフクロウは……ちゃんといるね。問題なし。それじゃあ、これは返すよ。どうぞ」
「はい……」
あたしは冒険者カードを受け取り、バッグに入れるふりをしながら収納に入れます。
「それじゃあ、ローザちゃん。パドゥレ・ランスカへようこそ」
おじさんはそう言って道を開けてくれました。
聞いたことのない村です。それと、村の名前がちょっと変わっていますね。パドゥレって森のって意味ですけど、もしかして森の近くにあるからそう言う名前になったんでしょうか?
「冒険者ギルドは中央広場にあるよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
あたしはこうして村の中に入りました。
村の中は……ほとんど木造の小さな家ばかりです。それに家も数えるほどしかなくて、もしかしたらあたしが今まで行ったことがある町の中で一番家の数が少ないかもしれません。
ただ、柵の内側に畑があるので、村はかなり広いです。普通は柵の外側に畑があることが多いんですけど、やっぱりそれって魔物がよく出るってことなんでしょうか。
あっと、そうじゃないですね。早く冒険者ギルドに行かないと。
たしか中央広場って言っていましたよね。
少し歩いて行くと、すぐに冒険者ギルドの看板が出ている家を見つけました。とても小さな家で、明かりもついていません。扉は開いているので多分営業中だと思うんですけど……。
「すみません……」
あたしは恐る恐る外から声を掛けてみましたが、返事がありません。
そーっと中を覗いてみますが、真っ暗なギルドの中には誰もいません。
えっと、これってどういう状況なんでしょう?
でも扉が開いているってことは、営業中ってことですよね?
……もしかしてお客さんも冒険者もいないからって、職員の人がサボっているんでしょうか?
あたしが困っていると、誰かが走ってくる足音が後ろから聞こえてきました。
振り返ってみると、泥だらけでいかにも農作業をしていたという感じのおばさんが、茶色の髪を振り乱しながらものすごい速さでこちらに向かって走ってきています。
えっと、なんだか腿が地面と平行になるくらい高く上がっていて、よく分からないですけどなんだか迫力がすごいです。
「お待たせしましたー!」
「あ、えっと、はい」
「冒険者ギルド、パドゥレ・ランスカ支部へようこそ! 私はアンナと申します」
そう言いながらおばさんは家の中に入ると慣れた手つきでランプに火を灯し、流れるような動作で受付の席に座りました。
す、すごい! ものすごい早業です。あんなに走ってきたのに息がほとんど切れていません。
「魔法学園の生徒さんですね。今回は当ギルドにどういったご用件でしょうか?」
「あ、はい。えっと、買い取りと――」
「買い取りですね! かしこまりました! そちらの毛皮でしょうか?」
「は、はい」
「拝見しても?」
「はい」
アンナさんは席を立ち、慣れた手つきでマーダーウルフの毛皮を確認していきます。
「これは! マーダーウルフの毛皮ですね! さすが魔法学園の生徒さんです。まだお若いのに素晴らしい腕前ですね!」
「あ、えっと、ありがとうございます……」
「冒険者カードはお持ちですか?」
「は、はい」
あたしは冒険者カードを手渡しました。
「ありがとうございます。ローザ……マレスティカ!? ええっ!? まさかマレスティカ公爵家のお嬢様でらっしゃいますか!?」
「えっと、はい……」
「大変失礼いたしました!」
アンナさんはものすごい機敏な動きで、一瞬のうちに跪きました。
「え、えっと……」
「私めは冒険者ギルドの職員でもありますが、ここパドゥレ・ランスカ自治領の領主の妻でもあるのです」
え? 自治領? 自治領ってなんでしょうか? 聞いたことがないんですけど……。
「今すぐに夫をお呼びいたしますので、どうかあちらの椅子にお掛けになってお待ちいただけませんでしょうか?」
「え? あ、はい……」
あたしは言われた席に座りました。
「しばらくお待ちくださいませ!」
アンナさんはそう言うと、あの迫力のあるフォームで走っていったのでした。
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次回更新は通常どおり、2024/02/24 (土) 20:00 を予定しております。
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