テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第四章

第四章第60話 昔に戻ったみたいです

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 そのまま必死に走って、息が切れても頑張って歩いて、そうして気が付けば足がくたくたになっていました。

 もう、しばらく歩けそうにありません。

 あたしは立ち止まり、周囲の様子を確認します。

 ……えっと、ここはどこでしょう?

 なんだか、森の様子が全然違います。なんだか鬱蒼うっそうとしていて薄暗くて、今にも魔物が出そうです。

「あ、あの、ここ、どこでしょう?」
「ミャ?」
「ピ?」

 あ……そ、そうですよね。あたしが歩いたんですもんね。二人が知っているわけないですよね。

 あれ? ホーちゃんは?

「ホーちゃん?」

 あれれ? 返事がありません。

 もしかしてはぐれちゃったんでしょうか?

「ホーちゃん? ホーちゃーん!」

 あたしが必死にホーちゃんを呼ぶと、遠くのほうから微かにホーちゃんの声が聞こえます。

「ホーちゃん! ホーちゃん! ここですよー!」
「ホー!」

 あ、戻ってきました。

 あれ? ホーちゃんがウサギを捕まえています。

 あれれ? それってもしかして?

「ホー!」

 どうやら夜ご飯を捕まえてきてくれたみたいです。

「ホーちゃん、いきなりいなくなって心配したんですよ」
「ホー! ホー!」

 ホーちゃんはあたしたちの前に大きく太ったウサギを置くと、片方の翼だけ広げてもう一度「ホー」と鳴きました。

「分かりました。ありがとうございます。でも、いきなりいなくならないでくださいね」
「ホー」

 なんだかちょっと不満そうですけど、分かってくれたみたいです。

「ホー」

 ホーちゃんはもう一度鳴くと、再び森の中に飛び立っていきました。もう一度狩りに出てくれたみたいです。

 えっと、そうですね。それじゃあ、あたしたちは食事の準備をしちゃいましょう。

 あ! でも、あの巨大なシロクマも出たくらいですし、もしかしたら血の匂いで魔物をおびき寄せちゃうかもしれません。

 できればどこかに川があるといいんですけど……。

◆◇◆

 その後、幅二メートルほどの川を見つけました。ちょうど暗くなってきたので、今日はこのまま川辺で野宿をしようと思います。

 みんなで野宿だなんて、なんだか出会ったころに戻ったみたいですね。

 あ! もちろん冒険者として使っていた道具はちゃんと収納の中に入っているので、あのときよりもはるかに過ごしやすいですよ。

 えっと、寝床の場所は……そうですね。木の上にしましょう。魔物が来たら大変ですし。

 あとはたき火をして、ホーちゃんが捕まえてきてくれた三匹の野ウサギを処理して、それから……。

 こうしてあたしたちは森の中で一夜を明かしたのでした。

◆◇◆

「ホー!」

 東の空がほんの少しだけ明るくなりかけたころ、あたしはホーちゃんの鋭い鳴き声で目を覚ましました。

「ううん、ホーちゃん?」

 眠い目をこすりながら、なんとかホーちゃんに返事をしました。

 なんだか、ちゃんと寝られた気がしません。

 寝袋を木に結び付けて落ちないようにしたんですけど、やっぱり不安定で落ちないか心配だったんですよね。だから上手く眠れなかったのかもしれません。

「ホー!」

 あ、でもホーちゃんがこんなに言ってくるってことは、きっと何かがあったんだと思います。

 頑張って起きないと。

 あたしは落ちないように気をつけながら、ゆっくりと寝袋から体を出しました。

「ホー、ホー」

 ホーちゃんが片方の翼で必死に北のほうを指し示しています。

 えっと、何が……ひっ!?

 ゴ、ゴ、ゴブリンです!

 やっぱりこの森、ゴブリンがうじゃうじゃいるみたいです。

 しかもあいつら、真っすぐこっちに向かってきているじゃないですか!

 ああ! もう! なんでいつもいつもゴブリンが来るんですか!

 あたしは狙いをつけ、魔力弾で先頭のゴブリンの頭を撃ち抜きました。

 ですがゴブリンはあたしたちのほうに向かって一直線に歩いてきます。

 気持ち悪い! ゴブリンなんて絶滅すればいいんです!

 あたしは次々とゴブリンの頭を撃ち抜いていきますが、途切れる気配がありません。

 えっと、もしかして、前の演習のときみたいにたくさんいるんでしょうか?

「ミャッ!」

 すると突然ユキが小さく鳴き、木から駆け下りていきました。

「え? ユキ?」
「ミャー」

 心配するなとでも言わんばかりにユキは小さく鳴き、ゴブリンのほうへと走っていきます。

「ユキ! 危ないです!」
「ミャー!」

 しかしユキがそう鳴くと、突然猛烈な向かい風がゴブリンたちを襲いました。しかもその風を受けたゴブリンたちがパキパキパキと音を立て、凍り付いていきます。

 え? もしかして今の、ユキがやったんですか?

 す、すごい!

 じゃなくて、あたしも攻撃しなきゃ!

 と、思ったのですが、なんと西のほうからズシン、ズシンという足音が聞こえてきました。

 ……まさか!

 西側に移動し、木の間からそちらを確認してみます。

 やっぱり!

 あいつです。あの巨大シロクマです。

 に、逃げたほうがいい、ですよね?

 あたしは急いで寝袋を収納に入れ、急いで木から降りました。

「ユキ! あいつが来ました! 逃げましょう」
「ミャッ」

 ユキが猛スピードでこっちに戻ってきました。

 は、早く逃げなきゃ。

 あたしは一目散にシロクマとゴブリンたちから遠ざかるように駆けだします。

 ですが、ズシンズシンという足音が小刻みになり、どんどん近づいてきます。

 木々をなぎ倒しているんでしょう。バキバキという音も聞こえてきます。

 ああ! もう! どうしてあたしを追いかけてくるんですか!

 ちらりと後ろを振り返ると巨大なシロクマがこちらに向かって走ってきていて、どんどん距離が縮まっています。

 ひっ! は、早く逃げなきゃ!

 ちらちらと振り返りながら全力で走っていると、ふと目の端にゴブリンの姿が映りました。

 ああ! もう! なんでゴブリンまであたしを追いかけてくるんですか!

 もう! いい加減にしてください! こっちはあのシロクマにも追われているのに!

「ユキ!」
「ミャッ!」

 ユキがもう一度あの凍る風でゴブリンを止めてくれました。そこにあたしは魔力弾を撃ち込み、先頭の二匹を倒しました。

 ですが……。

「グルルルル」

 ズシンという足音がものすごく近くまで来てしまい、唸り声まで聞こえてきます。

 あ! シロクマが……!
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