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第四章

第四章第59話 色々やってきました

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 ……あ、あれ? えっと、どうなったんでしょう?

 たしか馬車が横転して、それで座席から投げ出されたと思うんですけど……痛くないですね。

 むしろプニプニしてて気持ちいい……あ! この感覚ってもしかして!

「ピーちゃん?」
「ピッ」

 あたしの耳元でピーちゃんの声が聞こえてきました。

 あ、やっぱりそうです。ピーちゃんがあたしを守ってくれました。

「ピーちゃん、ありがとうございます。大丈夫ですか?」
「ピッ!」

 ああ、良かった。元気そうです。

 えっと、ユキとホーちゃんはどこでしょう?

 キョロキョロと見回してみますが、姿がありません。もしかして、投げ出されて怪我しちゃったんじゃ!

「ユキ! ホーちゃん! どこですか!」
「ミャー」
「ホー」

 あ! 馬車の外から元気な声が聞こえてきました。

 ああ、良かった。二人とも元気そうです。

 えっと、ということは、あたしも馬車から出たほうがいいですね。

 下から出るのは……ちょっと無理そうです。となると、登らなきゃダメですね。

 じゃあ、木登りの要領でここに足を掛けて、それから、手はここですね。

 あとは勢いをつけて……よいしょ!

 あたしはひと息に登り、壊れた馬車のドアから顔を出してみます。

 するとホーちゃんがすぐに降りてきました。

「ホー」
「あ、ホーちゃん。大丈夫ですよ。ピーちゃんが受け止めてくれましたから」
「ピッ」

 ピーちゃんはピョーンとジャンプして、壊れたドアの上に着地しました。

 すごいです。ピーちゃん、いつの間にこんなジャンプ力が……。

 って、今は感心してる場合じゃないですね。

 えっと、どのくらい来たんでしょう? 馬車は結構暴走していた気がしますけど……。

 あたしはそのまま倒れた馬車の上に出て周りの状況を確認します。

 すると、真っ先に目に飛び込んできたのは、馬が馬車に繋がれたまま地面に横たわっている姿でした。

 息はしているみたいですけど、なんだかぐったりしています。

 もしかして、怪我をしちゃったんでしょうか? それなら治療してあげないと……あれ? そういえば御者の人はどこに行ったんでしょう?

 キョロキョロとあたりを見回してみますが、人影はありません。もしかして、どこかで落ちちゃったんでしょうか?

「ミャッ! ミャー!」
「ホー!」
「ピピッ!」

 突然ユキたちが警戒したような声を上げました。三人とも同じ方向を見ています。

「ピー! ピッ!」
「え? 早く降りろってことですか? 分かりました」

 あたしは慎重に馬車から地面に降りました。

 すると向こうのほうからズシン、ズシンという足音が聞こえてきます。

 え? え? な、なんですか?

「ミャッ! ミャッ!」
「ピピッ! ピー! ピー!」
「ホー! ホー!」

 三人ともものすごい警戒しています。

「えっと、逃げたほうがいい、ですよね?」
「ミャー!」「ピー!」「ホー!」

 みんなの声が揃いました。

「あ、でも馬が……」
「ピピッ!」「ミャーッ!」「ホーッ!」
「わ、分かりました。逃げます。逃げますから」

 あたしは音がする方とは反対のほうに歩きだします。ですがズシン、ズシンという音はどんどん近付いてきて、ついにガサガサという音まで聞こえるようになりました。

 あたしがそーっと後ろを振り返ると、なんとそこには見たこともないほど巨大なシロクマの姿がありました。

「ひっ!?」

 お、大きすぎます。ジャイアントマーダーベアのとき、あれより大きな生き物に会うことはないって思いましたけど、あのシロクマはそんなものじゃありません。二階建ての家が動いているみたいです。

 えっと、に、逃げないと。

 えっと、なるべく刺激しないように、そーっと、そーっと……。

 あたしは足音を立てないように慎重に歩き、そのまま大きな木の陰に隠れました。

 そこからそっと確認してみると、巨大なシロクマはもう馬車のところまでやってきていました。

「グルルルル」
「ヒヒーン! ヒィィィィ! ブヒャー!」

 シロクマの唸り声のあと、馬のものすごい悲鳴が聞こえてきました。

 それからすぐに血の匂いと、ものすごい獣臭が漂ってきます。

 あああ! う、馬が……。

 で、でも匂いが漂ってくるってことは、こっちが風下ってことですよね。

 ならきっと匂いで見つかることはないはずです。

 なら今のうちに――

「人がいるぞ!」
「女だ!」
「スライムの従魔を連れてるぞ。あれがターゲットだ!」

 突然、正面から十人ほどの黒ずくめの人たちがやってきました。

「お前がローザだな?」
「え?」

 えっと、もしかしてこいつらが襲撃してきた奴らでしょうか?

 なんであたしたちを襲ってきたんでしょう? あたしたちはマルダキア魔法王国の公式訪問団なのに?

 あ! もしかして、マルダキア魔法王国とカルリア公国が仲良くなるのが嫌な人がいるんでしょうか?

「なんでこんなことをするんですか!」
「……無駄な抵抗はやめろ。大人しく一緒に来い」

 ダメです。答えてくれません。

 ですが、あたしは公王さまの大事なお手紙を預かっているんです。こんな奴らに渡すわけにはいきません。

「ほう? やる気か? この人数相手に勝てると思っているのか?」
「グルルルル」
「「「え?」」」

 黒ずくめの男たちの視線が一斉にその唸り声の聞こえてきたほうに向きました。すると突然ピーちゃんが鋭い声を上げます。

「ピッ!」
「ミャー!」

 するとピーちゃんの声に合わせたかのようにユキが突然黒ずくめの男たちに向けて吹雪を放ちました。

「何!?」
「うおっ!?」
「ピピッ!」
「え? ピーちゃん? ユキ?」
「ミャー!」
「ピピッ!」

 あ、今のうちに逃げようってことみたいです。

 あたしはシロクマと男たちの両方から遠ざかるように全速力で駆けだしました。後ろからはズシンズシンという足音がして、それからすぐに黒ずくめの男たちの悲鳴が聞こえてきます。

 えっと、ご、ごめんなさい!

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 次回更新は通常どおり、2024/01/20 (土) 20:00 を予定しております。
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