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第四章
第四章第46話 レオシュの誤算
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ローザが生徒会に入会してからしばらく経ったある日、オーデルラーヴァの王城にアルノー枢機卿一行がやってきた。クーデターで国王となったレオシュの父をはじめとする国の重鎮たちが揃って王城の前に立ち、アルノーたちを出迎える。
「これはこれは、アルノー枢機卿。本日は遠いところをご足労いただきありがとうございます」
国王が頭を下げると他の者たちも一斉に頭を下げ、アルノーに歓迎の意を伝える。とても一国の王とは思えないほどのへりくだった態度だ。レオシュも頭を下げてはいるものの、伏せたその表情は怒りを帯びている。
「これはこれは、出迎えご苦労様です。皆様に神のご加護があらんことを」
アルノーは柔和な笑みを浮かべ、出迎えた一同を祝福する。
「さあ、どうぞこちらへ」
国王はアルノーを連れ、王城の中へと入る。そして一行は豪華な応接室へとやってきた。
ここでもアルノーは国王の許可を得ず、勝手に着席した。
「いやはや、座り心地のいい素晴らしい椅子ですな。さあ、どうぞ皆さんもお掛けください」
すると国王たちも着席した。
「さて、今日訪れたのはですな。こちらの教皇勅書をお渡しするためです」
「なんと! 教皇猊下が!?」
国王たちは目を見開いて驚き、お互いに顔を見合わせている。アルノーは穏やかな笑みを浮かべたまま懐から封筒を取り出し、それを側仕えに手渡した。
側仕えはそれを国王側の側仕えに手渡し、国王側の側仕えが国王に手渡す。
「さあ、ご覧になってください」
「はい」
国王は何が書かれているのか不安でならない様子だが、アルノーに促されて中身を確認した。すると国王はその内容に心当たりがないのか、困惑した表情を浮かべる。
「……我が国出身の聖女がおり、マルダキア魔法王国に留学している?」
「ええ、そうです」
そのやり取りを聞いたレオシュはピクリと反応し、国王のほうを見た。だが国王もアルノーもそのことには気付いていない。
「ローザ……はて? 申し訳ございません。そのような者がおるとは把握しておりませんでした」
国王は心底申し訳なさそうな表情でアルノーに謝罪する。
「そうでしたか。我々もとある筋からの手に入れた話ですので、ご存じないのも無理はないかもしれません。ただ、問題があり、彼女はなんとマルダキアで邪教に染まり、従魔を持たされているのです」
「なんと! 聖女が従魔を! そのような冒涜が許されるのですか!?」
国王は心底驚いている様子だ。
「ええ。ですが、聖女が従魔を持つなどということは前代未聞の出来事です。もし従魔を殺し、問題が起きてしまってはなりません。そこで教皇猊下は従魔共々保護し、問題が起きぬようにルクシア大聖堂にて浄化の儀を執り行うと仰っております」
「おお! 教皇猊下が直々に。それならば安心ですな」
「ええ。ですので、オーデルラーヴァの皆さんにはローザという聖女と三匹の従魔を傷一つつけずに保護し、ルクシア大聖堂まで連れてきていただきたいのです」
「もちろんです! お任せください。我が国から聖女が出るとなれば、これに勝る栄誉はございません。全力で当たらせていただきます。担当は……そうですな。優秀な我が息子、レオシュに当たらせましょう。レオシュ、必ずや聖女ローザ様と三匹の従魔を保護し、ルクシア大聖堂にお送りしなさい」
レオシュはまさか自分が指名されるとは思っていなかったようで、ポカンとした表情で国王を見た。
「ん? どうした? レオシュ? この程度の任務は簡単すぎたか? ああ、そうだな。お前は行方不明になっている赤焔の戦乙女を超える戦果を何度も残した優秀な騎士だからなぁ」
国王は一人でうんうんと頷き、悦に入る。
「気持ちは分からんではないが、この任務は我が国の栄誉が掛かった大事な任務なのだ。お前のように信頼できる優秀な者にこそ任せたい。引き受けてくれるな?」
「ぐ……かしこまりました。必ずや」
レオシュはなんとかそう取り繕った。
「うむ。任せたぞ。枢機卿猊下、必ずや、そこのレオシュが聖女ローザをルクシア大聖堂まで無事にお送りいたします」
「そうですか。それは頼もしいですな。レオシュ王子とその騎士たちに神のご加護があらんことを」
アルノーは穏やかな笑みを浮かべながらレオシュたちを祝福するのだった。
◆◇◆
アルノーとの会談を終え、自室に戻ったレオシュは扉を閉めるなり叫び声を上げた。
「ああああああああ! ふざけるな! あのガキは俺が先に目をつけていたんだ!」
そう怒鳴ると置かれていた木製の椅子を持ちあげ、思い切りテーブルに叩きつける。
椅子は粉々に砕け散るが、それでも怒りの収まらないレオシュは他の椅子を持ち、何度も何度も叩きつけ、最後はテーブルまで持ち上げては床に叩きつけ、破壊してしまった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。しかもこの俺に出ろだと!? ふざけるな! 俺にマルダキアまで乗り込めっていうのか? 王子たるこの俺に?」
レオシュはそう悪態をつくと、砕けたテーブルの破片を蹴り飛ばした。部屋の向こう側まで飛んでいった破片は壁にぶつかり、空しく床に転がってカラカラと乾いた音を立てる。
「何がルクシアだ。お前らは俺の言うことを聞いていればいいんだ」
レオシュはぶつぶつとそんなことを口走る。
「ああ、そうだ。こういうときはオフェリアを使ってやればいいんじゃないか。そのためにアレをしてやったんだ」
レオシュはニヤリと醜悪な笑みを浮かべると、入口とは別の扉へと向かっていくのだった。
「これはこれは、アルノー枢機卿。本日は遠いところをご足労いただきありがとうございます」
国王が頭を下げると他の者たちも一斉に頭を下げ、アルノーに歓迎の意を伝える。とても一国の王とは思えないほどのへりくだった態度だ。レオシュも頭を下げてはいるものの、伏せたその表情は怒りを帯びている。
「これはこれは、出迎えご苦労様です。皆様に神のご加護があらんことを」
アルノーは柔和な笑みを浮かべ、出迎えた一同を祝福する。
「さあ、どうぞこちらへ」
国王はアルノーを連れ、王城の中へと入る。そして一行は豪華な応接室へとやってきた。
ここでもアルノーは国王の許可を得ず、勝手に着席した。
「いやはや、座り心地のいい素晴らしい椅子ですな。さあ、どうぞ皆さんもお掛けください」
すると国王たちも着席した。
「さて、今日訪れたのはですな。こちらの教皇勅書をお渡しするためです」
「なんと! 教皇猊下が!?」
国王たちは目を見開いて驚き、お互いに顔を見合わせている。アルノーは穏やかな笑みを浮かべたまま懐から封筒を取り出し、それを側仕えに手渡した。
側仕えはそれを国王側の側仕えに手渡し、国王側の側仕えが国王に手渡す。
「さあ、ご覧になってください」
「はい」
国王は何が書かれているのか不安でならない様子だが、アルノーに促されて中身を確認した。すると国王はその内容に心当たりがないのか、困惑した表情を浮かべる。
「……我が国出身の聖女がおり、マルダキア魔法王国に留学している?」
「ええ、そうです」
そのやり取りを聞いたレオシュはピクリと反応し、国王のほうを見た。だが国王もアルノーもそのことには気付いていない。
「ローザ……はて? 申し訳ございません。そのような者がおるとは把握しておりませんでした」
国王は心底申し訳なさそうな表情でアルノーに謝罪する。
「そうでしたか。我々もとある筋からの手に入れた話ですので、ご存じないのも無理はないかもしれません。ただ、問題があり、彼女はなんとマルダキアで邪教に染まり、従魔を持たされているのです」
「なんと! 聖女が従魔を! そのような冒涜が許されるのですか!?」
国王は心底驚いている様子だ。
「ええ。ですが、聖女が従魔を持つなどということは前代未聞の出来事です。もし従魔を殺し、問題が起きてしまってはなりません。そこで教皇猊下は従魔共々保護し、問題が起きぬようにルクシア大聖堂にて浄化の儀を執り行うと仰っております」
「おお! 教皇猊下が直々に。それならば安心ですな」
「ええ。ですので、オーデルラーヴァの皆さんにはローザという聖女と三匹の従魔を傷一つつけずに保護し、ルクシア大聖堂まで連れてきていただきたいのです」
「もちろんです! お任せください。我が国から聖女が出るとなれば、これに勝る栄誉はございません。全力で当たらせていただきます。担当は……そうですな。優秀な我が息子、レオシュに当たらせましょう。レオシュ、必ずや聖女ローザ様と三匹の従魔を保護し、ルクシア大聖堂にお送りしなさい」
レオシュはまさか自分が指名されるとは思っていなかったようで、ポカンとした表情で国王を見た。
「ん? どうした? レオシュ? この程度の任務は簡単すぎたか? ああ、そうだな。お前は行方不明になっている赤焔の戦乙女を超える戦果を何度も残した優秀な騎士だからなぁ」
国王は一人でうんうんと頷き、悦に入る。
「気持ちは分からんではないが、この任務は我が国の栄誉が掛かった大事な任務なのだ。お前のように信頼できる優秀な者にこそ任せたい。引き受けてくれるな?」
「ぐ……かしこまりました。必ずや」
レオシュはなんとかそう取り繕った。
「うむ。任せたぞ。枢機卿猊下、必ずや、そこのレオシュが聖女ローザをルクシア大聖堂まで無事にお送りいたします」
「そうですか。それは頼もしいですな。レオシュ王子とその騎士たちに神のご加護があらんことを」
アルノーは穏やかな笑みを浮かべながらレオシュたちを祝福するのだった。
◆◇◆
アルノーとの会談を終え、自室に戻ったレオシュは扉を閉めるなり叫び声を上げた。
「ああああああああ! ふざけるな! あのガキは俺が先に目をつけていたんだ!」
そう怒鳴ると置かれていた木製の椅子を持ちあげ、思い切りテーブルに叩きつける。
椅子は粉々に砕け散るが、それでも怒りの収まらないレオシュは他の椅子を持ち、何度も何度も叩きつけ、最後はテーブルまで持ち上げては床に叩きつけ、破壊してしまった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。しかもこの俺に出ろだと!? ふざけるな! 俺にマルダキアまで乗り込めっていうのか? 王子たるこの俺に?」
レオシュはそう悪態をつくと、砕けたテーブルの破片を蹴り飛ばした。部屋の向こう側まで飛んでいった破片は壁にぶつかり、空しく床に転がってカラカラと乾いた音を立てる。
「何がルクシアだ。お前らは俺の言うことを聞いていればいいんだ」
レオシュはぶつぶつとそんなことを口走る。
「ああ、そうだ。こういうときはオフェリアを使ってやればいいんじゃないか。そのためにアレをしてやったんだ」
レオシュはニヤリと醜悪な笑みを浮かべると、入口とは別の扉へと向かっていくのだった。
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