192 / 261
第四章
第四章第42話 退会しました
しおりを挟む
2023/10/03 名前の間違いを修正しました
================
翌日、あたしはカルミナさんに呼び出され、料理研究会の調理室へとやってきました。そこにはカルミナさんだけじゃなくジェニカさんもいて、なんだか少し深刻な表情をしています。
「あの、お話ってなんでしょうか?」
「昨日、生徒会に行って入会希望者の件を相談してきたわ」
「はい」
「結論から話すわね。ローザさんに一度料理研究会から退会してもらうのはどうかという話になったわ」
「えっ? なんであたしが辞めなきゃいけないんですか?」
あたしは思わずカルミナさんに聞き返してしまいました。
だって、おかしいじゃないですか。どうして後から、しかもマレスティカ公爵家の養女にしてもらったからって寄って来た人たちのために辞めなきゃいけないんでしょう。
「ローザさん、最後まで落ち着いて話を聞いて。これは生徒会からの、いえ、レフ公子殿下からの提案なのよ」
「えっ?」
公子様がどうしてそんなことを……?
「入会希望者たちの目的はおそらく、ローザさんと繋がりを持つことよ。でも、やっぱりこのままでは理由がないから入会を断れないって言われたわ。それでローザさんが退会したとしても料理研究会に入りたいのかどうか、確認してみればいいって話になったの」
「えっと、つまり退会したふりをするんですか?」
「そうね。でも、実際に退会してもらうわ」
「えっ? でも何かのクラブに入らないといけないんじゃ……」
「そこは生徒会が受け入れてくれるそうよ」
「えっ?」
じゃ、じゃあ、もしかして王太子様と毎日顔を合わせるってことですか?
「あら? 他に入りたいクラブでもあるのかしら?」
「い、いえ……ただ、ちょっと、その、王太子様が……」
「え? ……ああ、そういえば」
カルミナさんは困ったような表情であたしの胸にちらりと視線を向けました。
「レフ公子殿下はほとぼりが冷めるまで活動を自粛してもらって、その後は料理研究会の活動を毎回視察すればいいと仰っていたわ。だから少しの間、我慢してもらえないかしら」
「そ、それなら……!」
「ローザ、本当にそれでいいんだな?」
険しい表情で見守っていたジェニカさんが突然口を挟んできました。
「え? えっと……はい。それで上手くいくなら」
「……」
ジェニカさんはじっとあたしの目を見つめてきましたが、しばらくすると小さくため息をついて表情を崩します。
「わかったよ。ローザがそれでいいならあたしは何も言わない。変な連中のせいでウチの大事な仲間が辞めなきゃならないっていうのは気に食わないけどな」
それはそうですけど……でも皆さんに迷惑をかけるよりはきっとこのほうが丸く収まりますよね?
「ではローザさん、今から生徒会室に行くけれど時間は大丈夫かしら?」
「は、はい」
王太子様に会うのはちょっと気が重いですけど、仕方ないですよね。
「ではジェニカさん、戸締りをお願いできるかしら?」
「ああ」
こうしてあたしは料理研究会の退会届を書き、カルミナさんと一緒に生徒会室へと向かいました。そしてノックをして生徒会室に入るとそこには公子様と知らない一年生の生徒の二人がいて、公子様がすぐに優しい笑顔であたしに声を掛けてきます。
「ローザ嬢、この度は災難でしたね」
「い、いえ。今回も助けてくださったそうで、ありがとうございます」
「いえいえ。クラブが目的に沿った活動ができるように支援するのも生徒会の仕事ですから」
そう言って公子様は再び爽やかに微笑みました。
「レフ公子殿下にご挨拶申し上げます」
カルミナさんが公子様に礼を執りました。
あっ! いけない! あたしもやらなきゃ!
「ご、ご挨拶申し上げます」
あたしも慌ててカルミナさんに倣います。
「ローザ嬢、構いませんよ。私から声を掛けたのですから。カルミナ嬢も、どうぞ楽になさってください」
「は、はい」
あたしたちは窮屈なカーテシーのポーズをやめました。すると公子様は一年生の生徒を指し示しながら口を開きます。
「ローザ嬢、彼とは初対面でしょうか?」
「え? あ、はい。そうです」
「そうですか。ローザ嬢、彼はレアンドル・コンスタンティネスク。コンスタンティネスク侯爵の甥で、タルヴィア子爵のご子息です。レアンドル、ご挨拶を」
「え? ああ、はいはい」
レアンドルさんは面倒くさそうに立ち上がると、いかにも投げやりな感じで紳士の礼をしてきました。
「レアンドル・タルヴィア・コンスタンティネスクと申します」
「……ローザ・マレスティカです」
ちょっとムッとしましたが、こんなことで怒っちゃダメですよね。
上手く笑えていたかは分かりませんが、カーテシーをしました。
「では自己紹介も済んだところで、そちらにお座りください」
「はい」
あたしたちは指示されたソファーに腰かけました。
「結論はどうなりましたか?」
「はい。結論は――」
カルミナさんが公子様の提案を受け入れることにしたことを伝えました。
「そうでしたか。ではローザ嬢、料理研究会への退会届はありますか?」
「はい。これです」
あたしが公子様に退会届を渡すと、公子様はざっと内容に目を通し、すぐにサインを書き込みました。
「はい。これでローザ嬢が料理研究会から退会したことを生徒会も確認しました。では続いてこちらの入会届にサインをしてください」
「はい」
あたしは公子様から渡された入会届に自分の名前を記入して、公子様に返しました。
「たしかに受領しました。ではローザ嬢、しばらくの間にはなるでしょうがよろしくお願いします。生徒会の次の活動日は明日の放課後です。全員顔見知りだとは思いますが顔合わせとなりますので、遅れずに来て下さい」
「はい。わかりました」
こうしてあたしたちは生徒会室を後にしたのでした。
……あれ? 明日って、料理研究会の次の活動日ですよね?
あああっ! ジェニカさんのラズベリーパイ!
ううっ、楽しみにしてたのに……。
================
翌日、あたしはカルミナさんに呼び出され、料理研究会の調理室へとやってきました。そこにはカルミナさんだけじゃなくジェニカさんもいて、なんだか少し深刻な表情をしています。
「あの、お話ってなんでしょうか?」
「昨日、生徒会に行って入会希望者の件を相談してきたわ」
「はい」
「結論から話すわね。ローザさんに一度料理研究会から退会してもらうのはどうかという話になったわ」
「えっ? なんであたしが辞めなきゃいけないんですか?」
あたしは思わずカルミナさんに聞き返してしまいました。
だって、おかしいじゃないですか。どうして後から、しかもマレスティカ公爵家の養女にしてもらったからって寄って来た人たちのために辞めなきゃいけないんでしょう。
「ローザさん、最後まで落ち着いて話を聞いて。これは生徒会からの、いえ、レフ公子殿下からの提案なのよ」
「えっ?」
公子様がどうしてそんなことを……?
「入会希望者たちの目的はおそらく、ローザさんと繋がりを持つことよ。でも、やっぱりこのままでは理由がないから入会を断れないって言われたわ。それでローザさんが退会したとしても料理研究会に入りたいのかどうか、確認してみればいいって話になったの」
「えっと、つまり退会したふりをするんですか?」
「そうね。でも、実際に退会してもらうわ」
「えっ? でも何かのクラブに入らないといけないんじゃ……」
「そこは生徒会が受け入れてくれるそうよ」
「えっ?」
じゃ、じゃあ、もしかして王太子様と毎日顔を合わせるってことですか?
「あら? 他に入りたいクラブでもあるのかしら?」
「い、いえ……ただ、ちょっと、その、王太子様が……」
「え? ……ああ、そういえば」
カルミナさんは困ったような表情であたしの胸にちらりと視線を向けました。
「レフ公子殿下はほとぼりが冷めるまで活動を自粛してもらって、その後は料理研究会の活動を毎回視察すればいいと仰っていたわ。だから少しの間、我慢してもらえないかしら」
「そ、それなら……!」
「ローザ、本当にそれでいいんだな?」
険しい表情で見守っていたジェニカさんが突然口を挟んできました。
「え? えっと……はい。それで上手くいくなら」
「……」
ジェニカさんはじっとあたしの目を見つめてきましたが、しばらくすると小さくため息をついて表情を崩します。
「わかったよ。ローザがそれでいいならあたしは何も言わない。変な連中のせいでウチの大事な仲間が辞めなきゃならないっていうのは気に食わないけどな」
それはそうですけど……でも皆さんに迷惑をかけるよりはきっとこのほうが丸く収まりますよね?
「ではローザさん、今から生徒会室に行くけれど時間は大丈夫かしら?」
「は、はい」
王太子様に会うのはちょっと気が重いですけど、仕方ないですよね。
「ではジェニカさん、戸締りをお願いできるかしら?」
「ああ」
こうしてあたしは料理研究会の退会届を書き、カルミナさんと一緒に生徒会室へと向かいました。そしてノックをして生徒会室に入るとそこには公子様と知らない一年生の生徒の二人がいて、公子様がすぐに優しい笑顔であたしに声を掛けてきます。
「ローザ嬢、この度は災難でしたね」
「い、いえ。今回も助けてくださったそうで、ありがとうございます」
「いえいえ。クラブが目的に沿った活動ができるように支援するのも生徒会の仕事ですから」
そう言って公子様は再び爽やかに微笑みました。
「レフ公子殿下にご挨拶申し上げます」
カルミナさんが公子様に礼を執りました。
あっ! いけない! あたしもやらなきゃ!
「ご、ご挨拶申し上げます」
あたしも慌ててカルミナさんに倣います。
「ローザ嬢、構いませんよ。私から声を掛けたのですから。カルミナ嬢も、どうぞ楽になさってください」
「は、はい」
あたしたちは窮屈なカーテシーのポーズをやめました。すると公子様は一年生の生徒を指し示しながら口を開きます。
「ローザ嬢、彼とは初対面でしょうか?」
「え? あ、はい。そうです」
「そうですか。ローザ嬢、彼はレアンドル・コンスタンティネスク。コンスタンティネスク侯爵の甥で、タルヴィア子爵のご子息です。レアンドル、ご挨拶を」
「え? ああ、はいはい」
レアンドルさんは面倒くさそうに立ち上がると、いかにも投げやりな感じで紳士の礼をしてきました。
「レアンドル・タルヴィア・コンスタンティネスクと申します」
「……ローザ・マレスティカです」
ちょっとムッとしましたが、こんなことで怒っちゃダメですよね。
上手く笑えていたかは分かりませんが、カーテシーをしました。
「では自己紹介も済んだところで、そちらにお座りください」
「はい」
あたしたちは指示されたソファーに腰かけました。
「結論はどうなりましたか?」
「はい。結論は――」
カルミナさんが公子様の提案を受け入れることにしたことを伝えました。
「そうでしたか。ではローザ嬢、料理研究会への退会届はありますか?」
「はい。これです」
あたしが公子様に退会届を渡すと、公子様はざっと内容に目を通し、すぐにサインを書き込みました。
「はい。これでローザ嬢が料理研究会から退会したことを生徒会も確認しました。では続いてこちらの入会届にサインをしてください」
「はい」
あたしは公子様から渡された入会届に自分の名前を記入して、公子様に返しました。
「たしかに受領しました。ではローザ嬢、しばらくの間にはなるでしょうがよろしくお願いします。生徒会の次の活動日は明日の放課後です。全員顔見知りだとは思いますが顔合わせとなりますので、遅れずに来て下さい」
「はい。わかりました」
こうしてあたしたちは生徒会室を後にしたのでした。
……あれ? 明日って、料理研究会の次の活動日ですよね?
あああっ! ジェニカさんのラズベリーパイ!
ううっ、楽しみにしてたのに……。
34
お気に入りに追加
974
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる