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第四章
第四章第38話 命令書が届きました
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「えっと、お、お義父さま?」
「いや、いいんだ。大人の事情だからね」
お義父さまはふっと表情を崩してそう言いました。
えっと?
「ローザは優しい子だから、従魔の子たちも君を慕っているんだろうね」
「……」
お義父さまは何を言いたいんでしょうか?
「君には思いもよらないことだろうけど、これは半分縁談でもあるんだ」
「え? えん、だん?」
なんのことでしょう? まさか炎弾のことじゃないでしょうし……。
「縁談だよ。つまり、ローザをうちの息子のお嫁さんにしたい、という下心があるんだ」
「えっ? お嫁さん!?」
「そう。お嫁さんだよ」
どうして病気の治療依頼でそんな話になるんでしょうか?
「依頼のほとんどは、未婚の男がいる貴族家からだったよ。しかも、病人や怪我人がいないはずの家からのものもある」
「……」
「おおかた、ローザが向こうに行ったらそこで婚約者候補の男と面会させるつもりだろう。そして何かと理由をつけて家に返さないようにして、醜聞をばら撒くつもりだろうね」
「え? 醜聞ってどういうことですか?」
「それは……まあ、純潔ではなくなったということをほのめかす感じだよ。そんな噂があるだけで、貴族の女性は結婚が難しくなるからね」
「そうなんですか? でも、あたしは冒険者もしてて、一人で野宿とかもしてましたけど……」
するとお義父さまは困ったような表情になりました。
「まあ、そうだね。でも治療のためとはいえその男性の家を訪れて、実際に泊まったとなると噂の信憑性はまったく違うんだ。分かるかい?」
……えっと、よく分かりません。
「あまり腑に落ちていないみたいだけど、そういうものだよ。貴族の女性はそういった醜聞を嫌うからね。それで、ローザも同じと考える者も多いのさ」
「そう、なんですね」
「それに、実力行使をされるかもしれないだろう? 昨日も治療に行ってひどい目に遭ったじゃないか」
「あ……はい。そうですね」
「だから、そうした依頼はすべて断っておいたよ。子供の安全は親の務めだし、それに何より、君が幸せになれない結婚を無理やりさせるつもりはないよ」
お義父さまは優しい表情でそう言ってくれました。
あ……親がいるって、こういうことなんでしょうか?
「ありがとうございます」
あたしは気付けば自然にお礼の言葉を口にしていました。
「うん。ただね。ローザが優しい子で、できれば治療してあげたいと思っていることも分かっているつもりなんだ」
「はい」
「だから、どうしても受けたい依頼があればまずは私に確認を取りなさい」
「えっと、お義父さまの許可があればいいんですか?」
「そうだね。あともう一つ、ツェツィーリエ先生に授業の一環として付き添ってもらいなさい。私が問題ないと判断した依頼主のところへ、ツェツィーリエ先生と一緒に行くのであればいいよ」
「わかりました」
「うん。いい子だ」
お義父さまはそう言うと、あたしの頭を優しく撫でてくれたのでした。
◆◇◆
それから少し経ったある日、冒険者ギルドからまた一通のお手紙が届きました。
指名依頼はお義父さまが断っているはずなんですが、今度はなんでしょうか?
とりあえず、中身を見てみましょう。
……え? 帰国命令書?
差出人がオーデルラーヴァ王国?
ど、どういうことでしょうか?
えっと、こういうときは……そ、そうです。お義姉さまに相談です。
あたしは慌ててお義姉さまのお部屋に向かい、扉をノックします。
「あ、あのっ!」
「あら? ローザですわね?」
「は、はい。ちょ、ちょっと相談が……」
「ええ、入りなさい」
部屋の中に入ると、お義姉さまは机に向かっているところでした。
「あ……お、お勉強の邪魔をしちゃいましたか?」
「ええ、構わないわ。どうしたんですの?」
「実はこんな手紙が……」
「手紙?」
あたしが差し出した手紙を見たお義姉さまは眉をひそめ、深いため息をつきました。
「ローザ、こんなものは無視なさい。今のオーデルラーヴァは貴女の知っているオーデルラーヴァではないことは理解していますわね?」
お義姉さまは真剣な表情でそう問いかけてきます。
「はい」
「我が国も、我がマレスティカ公爵家もオーデルラーヴァ王を名乗る無法者を認めていません。ですから、マレスティカ公爵家の養女である貴女もこんなものに従ってはいけませんわ。このようなものは常に無視なさい」
「は、はい」
するとお義姉さまは表情を緩めます。
「でも、きちんとわたくしに相談したのは良いことですわ。あとは、これをきちんとお父さまに報告なさい。できますわね?」
「はい。手紙で送ればいいんですよね?」
「ええ、そうですわ」
「わかりました。えっと、相談に乗ってくれてありがとうございました」
「ふふ、可愛い義妹のためですもの。構いませんわ」
お義姉さまはそう言ってふわりと笑ってくれたのでした。
「いや、いいんだ。大人の事情だからね」
お義父さまはふっと表情を崩してそう言いました。
えっと?
「ローザは優しい子だから、従魔の子たちも君を慕っているんだろうね」
「……」
お義父さまは何を言いたいんでしょうか?
「君には思いもよらないことだろうけど、これは半分縁談でもあるんだ」
「え? えん、だん?」
なんのことでしょう? まさか炎弾のことじゃないでしょうし……。
「縁談だよ。つまり、ローザをうちの息子のお嫁さんにしたい、という下心があるんだ」
「えっ? お嫁さん!?」
「そう。お嫁さんだよ」
どうして病気の治療依頼でそんな話になるんでしょうか?
「依頼のほとんどは、未婚の男がいる貴族家からだったよ。しかも、病人や怪我人がいないはずの家からのものもある」
「……」
「おおかた、ローザが向こうに行ったらそこで婚約者候補の男と面会させるつもりだろう。そして何かと理由をつけて家に返さないようにして、醜聞をばら撒くつもりだろうね」
「え? 醜聞ってどういうことですか?」
「それは……まあ、純潔ではなくなったということをほのめかす感じだよ。そんな噂があるだけで、貴族の女性は結婚が難しくなるからね」
「そうなんですか? でも、あたしは冒険者もしてて、一人で野宿とかもしてましたけど……」
するとお義父さまは困ったような表情になりました。
「まあ、そうだね。でも治療のためとはいえその男性の家を訪れて、実際に泊まったとなると噂の信憑性はまったく違うんだ。分かるかい?」
……えっと、よく分かりません。
「あまり腑に落ちていないみたいだけど、そういうものだよ。貴族の女性はそういった醜聞を嫌うからね。それで、ローザも同じと考える者も多いのさ」
「そう、なんですね」
「それに、実力行使をされるかもしれないだろう? 昨日も治療に行ってひどい目に遭ったじゃないか」
「あ……はい。そうですね」
「だから、そうした依頼はすべて断っておいたよ。子供の安全は親の務めだし、それに何より、君が幸せになれない結婚を無理やりさせるつもりはないよ」
お義父さまは優しい表情でそう言ってくれました。
あ……親がいるって、こういうことなんでしょうか?
「ありがとうございます」
あたしは気付けば自然にお礼の言葉を口にしていました。
「うん。ただね。ローザが優しい子で、できれば治療してあげたいと思っていることも分かっているつもりなんだ」
「はい」
「だから、どうしても受けたい依頼があればまずは私に確認を取りなさい」
「えっと、お義父さまの許可があればいいんですか?」
「そうだね。あともう一つ、ツェツィーリエ先生に授業の一環として付き添ってもらいなさい。私が問題ないと判断した依頼主のところへ、ツェツィーリエ先生と一緒に行くのであればいいよ」
「わかりました」
「うん。いい子だ」
お義父さまはそう言うと、あたしの頭を優しく撫でてくれたのでした。
◆◇◆
それから少し経ったある日、冒険者ギルドからまた一通のお手紙が届きました。
指名依頼はお義父さまが断っているはずなんですが、今度はなんでしょうか?
とりあえず、中身を見てみましょう。
……え? 帰国命令書?
差出人がオーデルラーヴァ王国?
ど、どういうことでしょうか?
えっと、こういうときは……そ、そうです。お義姉さまに相談です。
あたしは慌ててお義姉さまのお部屋に向かい、扉をノックします。
「あ、あのっ!」
「あら? ローザですわね?」
「は、はい。ちょ、ちょっと相談が……」
「ええ、入りなさい」
部屋の中に入ると、お義姉さまは机に向かっているところでした。
「あ……お、お勉強の邪魔をしちゃいましたか?」
「ええ、構わないわ。どうしたんですの?」
「実はこんな手紙が……」
「手紙?」
あたしが差し出した手紙を見たお義姉さまは眉をひそめ、深いため息をつきました。
「ローザ、こんなものは無視なさい。今のオーデルラーヴァは貴女の知っているオーデルラーヴァではないことは理解していますわね?」
お義姉さまは真剣な表情でそう問いかけてきます。
「はい」
「我が国も、我がマレスティカ公爵家もオーデルラーヴァ王を名乗る無法者を認めていません。ですから、マレスティカ公爵家の養女である貴女もこんなものに従ってはいけませんわ。このようなものは常に無視なさい」
「は、はい」
するとお義姉さまは表情を緩めます。
「でも、きちんとわたくしに相談したのは良いことですわ。あとは、これをきちんとお父さまに報告なさい。できますわね?」
「はい。手紙で送ればいいんですよね?」
「ええ、そうですわ」
「わかりました。えっと、相談に乗ってくれてありがとうございました」
「ふふ、可愛い義妹のためですもの。構いませんわ」
お義姉さまはそう言ってふわりと笑ってくれたのでした。
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