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第四章
第四章第21話 従魔ってなんなんでしょう
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ラレス先生に呼ばれたジョエルさんは顔だけこちらに向けてきました。なんだかちょっと疲れていそうな感じです。
「あ、ラレス先生……今日もまたダメでした。これだけ力の差を示しているんですが……」
ジョエルさんは悔しそうにしていますが、あたしの姿に気付いたのか舐めるように全身を見てきました。嫌悪感をおぼえ、思わずマントで体のラインを隠します。
「ジョエル君、彼女は普通科新二年生の見学者デース」
ラレス先生に言われ、ジョエルさんはバツが悪そうにあたしから視線をそらしましたが、まだちらちらとあたしのほうを見てきます。
「ジョエル君、もう一度最初からやり直してみなサーイ」
「……はい。分かりました」
ジョエルさんはようやくあたしから視線を外し、立ち上がりました。するとその足元には術式がびっしりと書き込まれた大きな紙と……え? 黒ウサギ、ですか?
あ、違います。一本の尖った角が生えているので、ウサギじゃなくてホーンラビットでした。
そのホーンラビットはすぐに立ち上がり、よろよろと部屋の隅のほうへと逃げていきます。
……えっと、あのホーンラビット、きっと怪我してますよね。なんだか右の後ろ脚をかばっているように見えます。
そんなホーンラビットをジョエルさんは追いかけ、両手で押さえつけてそのまま持ち上げます。もちろんホーンラビットはバタバタと暴れているのですが、ジョエルさんを振りほどくことはできていません。
ジョエルさんはホーンラビットを持ち上げ……え!?
なんとジョエルさん、ホーンラビットをそのまま牢屋の地面に叩きつけたではありませんか!
なんてひどいことを!
あたしはラレス先生を見ますが、平然としています。
え? え? なんであんなひどいことをしているのに放っておいているんですか?
ラレス先生に何度も視線を送って訴えますが、やはり止める気配はありません。その間にジョエルさんは二度三度とホーンラビットを持ち上げては叩きつけるのを繰り返し、ぐったりとなったところでホーンラビットを紙の上に乗せました。
そして呪文を詠唱し、魔術を発動させると紙に書かれた術式が光を放ち、ホーンラビットの体を包み込みます。
「ピキー!」
しかしホーンラビットは苦しそうな鳴き声を上げると体を捩り、紙の上から逃げ出しました。
「ああ! くそっ! どうしてだよ! こんなに力の差を示しているのに!」
ジョエルさんは怒りに任せ、ホーンラビットを蹴とばしました。
「あっ! ひ、ひどい……」
「ああん!?」
あたしの呟きが聞こえてしまったのか、ジョエルさんはあたしのほうを睨んできました。
ひっ!? こ、怖い……。
「ジョエル君、八つ当たりはイケマセーン」
「うっ、で、ですが……」
「このままではソレを殺してしまいマース。今日はここまでデース」
「……はい」
ジョエルさんはがっくり肩を落とすと、そのままホーンラビットの手当てもせずに檻の中から出てきてしまいました。
ホーンラビットは……ああ、やっぱりそうですよね。ジョエルさんのことを憎悪たっぷりの目で見ています。
「チッ」
ジョエルさんはあたしに聞こえるように舌打ちをすると胸を舐めまわすような目で見てきました。それからすぐにラレス先生のほうを見ます。
「ラレス先生、あの、俺は……」
「次は少し時間を置いたほうが良さそうデース」
「分かりました。失礼します」
「ハーイ」
ジョエルさんは牢屋の鍵を外から閉め、そのまま出口のほうへと歩いていってしまいました。
「どうデースか?」
「え? えっと……」
あたしはあまりにも酷い状況にどう答えたらいいのか分からなくなってしまいました。
「デスから、授業を受けたいデースか?」
「あ……えっと、受けたくないです。あんなひどいことしなくても、お友達になってもらえばいいだけだと思います」
「そんなやり方で従魔を従えた人間はイまセーン」
「で、でも……あの子、怪我しているじゃないですか。そのままにしちゃうなんて……」
「後遺症が残ったとシテも、それはいい経験デース。ソウならないようニー、手早く従えられるのが一流デース。そのタメには、練習あるのみデース」
「そんな……」
ショックです。ユキたちはお友達なので怪我をしたらすぐに治してあげたいですし、暴力を振るうなんて考えられません。
「いずれローザさんにも分かるときが来マース。それと、三年次の授業は必ず受けてくだサーイ」
「……」
あたし、こんなことをさせる人たちに習いたくないです。
あたしはラレス先生の言葉に返事をできず、そのまま怪我をしているホーンラビットをじっと見つめるのでした。
◆◇◆
ラレス先生と別れ、寮の部屋に戻ってきたあたしはすぐさま窓際の陽だまりで丸まっているユキに近づきます。
「ただいま」
するとユキはこちらを見ずに尻尾をぺしんぺしんと振って返事をしてくれました。
そうですよ。ユキたちはお友達になってくれましたし、これまでずっと一緒にいてくれたんです。だからきっとこれからだって!
「ユキ、ずっと一緒ですよ」
そう呟き、そっとユキの背中を撫でます。ふわふわしていて本当に気持ちがいい、ずっと撫でていたくなる素敵な毛並みです。
「ピ?」
声がしたほうに顔を向けると、あたしのベッドの下からピーちゃんが顔をのぞかせていました。
「あ、ピーちゃん。ただいま」
「ピッ」
ピーちゃんはピョンとジャンプしてあたしの足元にくると、左のふくらはぎにすりすりと体をこすりつけてきました。
あれ? もしかしてこれ、慰めてくれているんですか?
「ピーちゃん、ありがとうございます」
「ピッ!」
あたしがお礼を言うと、ピーちゃんは気にするな、とでも言わんばかりに短く返事をしてくれたのでした。
「あ、ラレス先生……今日もまたダメでした。これだけ力の差を示しているんですが……」
ジョエルさんは悔しそうにしていますが、あたしの姿に気付いたのか舐めるように全身を見てきました。嫌悪感をおぼえ、思わずマントで体のラインを隠します。
「ジョエル君、彼女は普通科新二年生の見学者デース」
ラレス先生に言われ、ジョエルさんはバツが悪そうにあたしから視線をそらしましたが、まだちらちらとあたしのほうを見てきます。
「ジョエル君、もう一度最初からやり直してみなサーイ」
「……はい。分かりました」
ジョエルさんはようやくあたしから視線を外し、立ち上がりました。するとその足元には術式がびっしりと書き込まれた大きな紙と……え? 黒ウサギ、ですか?
あ、違います。一本の尖った角が生えているので、ウサギじゃなくてホーンラビットでした。
そのホーンラビットはすぐに立ち上がり、よろよろと部屋の隅のほうへと逃げていきます。
……えっと、あのホーンラビット、きっと怪我してますよね。なんだか右の後ろ脚をかばっているように見えます。
そんなホーンラビットをジョエルさんは追いかけ、両手で押さえつけてそのまま持ち上げます。もちろんホーンラビットはバタバタと暴れているのですが、ジョエルさんを振りほどくことはできていません。
ジョエルさんはホーンラビットを持ち上げ……え!?
なんとジョエルさん、ホーンラビットをそのまま牢屋の地面に叩きつけたではありませんか!
なんてひどいことを!
あたしはラレス先生を見ますが、平然としています。
え? え? なんであんなひどいことをしているのに放っておいているんですか?
ラレス先生に何度も視線を送って訴えますが、やはり止める気配はありません。その間にジョエルさんは二度三度とホーンラビットを持ち上げては叩きつけるのを繰り返し、ぐったりとなったところでホーンラビットを紙の上に乗せました。
そして呪文を詠唱し、魔術を発動させると紙に書かれた術式が光を放ち、ホーンラビットの体を包み込みます。
「ピキー!」
しかしホーンラビットは苦しそうな鳴き声を上げると体を捩り、紙の上から逃げ出しました。
「ああ! くそっ! どうしてだよ! こんなに力の差を示しているのに!」
ジョエルさんは怒りに任せ、ホーンラビットを蹴とばしました。
「あっ! ひ、ひどい……」
「ああん!?」
あたしの呟きが聞こえてしまったのか、ジョエルさんはあたしのほうを睨んできました。
ひっ!? こ、怖い……。
「ジョエル君、八つ当たりはイケマセーン」
「うっ、で、ですが……」
「このままではソレを殺してしまいマース。今日はここまでデース」
「……はい」
ジョエルさんはがっくり肩を落とすと、そのままホーンラビットの手当てもせずに檻の中から出てきてしまいました。
ホーンラビットは……ああ、やっぱりそうですよね。ジョエルさんのことを憎悪たっぷりの目で見ています。
「チッ」
ジョエルさんはあたしに聞こえるように舌打ちをすると胸を舐めまわすような目で見てきました。それからすぐにラレス先生のほうを見ます。
「ラレス先生、あの、俺は……」
「次は少し時間を置いたほうが良さそうデース」
「分かりました。失礼します」
「ハーイ」
ジョエルさんは牢屋の鍵を外から閉め、そのまま出口のほうへと歩いていってしまいました。
「どうデースか?」
「え? えっと……」
あたしはあまりにも酷い状況にどう答えたらいいのか分からなくなってしまいました。
「デスから、授業を受けたいデースか?」
「あ……えっと、受けたくないです。あんなひどいことしなくても、お友達になってもらえばいいだけだと思います」
「そんなやり方で従魔を従えた人間はイまセーン」
「で、でも……あの子、怪我しているじゃないですか。そのままにしちゃうなんて……」
「後遺症が残ったとシテも、それはいい経験デース。ソウならないようニー、手早く従えられるのが一流デース。そのタメには、練習あるのみデース」
「そんな……」
ショックです。ユキたちはお友達なので怪我をしたらすぐに治してあげたいですし、暴力を振るうなんて考えられません。
「いずれローザさんにも分かるときが来マース。それと、三年次の授業は必ず受けてくだサーイ」
「……」
あたし、こんなことをさせる人たちに習いたくないです。
あたしはラレス先生の言葉に返事をできず、そのまま怪我をしているホーンラビットをじっと見つめるのでした。
◆◇◆
ラレス先生と別れ、寮の部屋に戻ってきたあたしはすぐさま窓際の陽だまりで丸まっているユキに近づきます。
「ただいま」
するとユキはこちらを見ずに尻尾をぺしんぺしんと振って返事をしてくれました。
そうですよ。ユキたちはお友達になってくれましたし、これまでずっと一緒にいてくれたんです。だからきっとこれからだって!
「ユキ、ずっと一緒ですよ」
そう呟き、そっとユキの背中を撫でます。ふわふわしていて本当に気持ちがいい、ずっと撫でていたくなる素敵な毛並みです。
「ピ?」
声がしたほうに顔を向けると、あたしのベッドの下からピーちゃんが顔をのぞかせていました。
「あ、ピーちゃん。ただいま」
「ピッ」
ピーちゃんはピョンとジャンプしてあたしの足元にくると、左のふくらはぎにすりすりと体をこすりつけてきました。
あれ? もしかしてこれ、慰めてくれているんですか?
「ピーちゃん、ありがとうございます」
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