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第四章
第四章第14話 氷穴釣りに挑戦します
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「ああ、もう。ローザ、治癒魔法をかけるなら止まってからにしてよね」
「は、はい。ごめんなさい」
元気になったワンちゃんたちがものすごいスピードで走り回り、疲れてきたところでようやく止まりました。
「あ、あの、ごめんなさい。あたしが勝手に……」
「ローザお嬢様、問題ございません。こいつらは暴走していたわけではなく、きちんと私の指示には従っておりました。ただ、少々スピードが出過ぎていただけです」
「でも……」
「不測の事態が起きたとしても護衛対象の安全を確保するのが我々の仕事です。それができるようにきちんと訓練しておりますのでご安心ください」
「は、はい。ありがとうございます」
えっと、騎士さん、すごく頼もしいです。
「それよりも、次の遊びの場所に到着していますよ」
「え? えっと……」
周囲を見回しますが、何もありません。氷だけです。
ここは多分、湖の真ん中くらいだと思うんですけど、こんなところで一体何をするんでしょうか?
スケートは無理ですよ?
「少々お待ちください。予定よりもかなり早く到着してしまいましたので」
「は、はい」
冷たい風が吹きすさぶ中、しばらく待っていると五台ほどの犬ぞりがやってきました。
「あ! レジーナさん! リリアちゃんも!」
「あら、先に来ていたんですのね?」
「はい。えっと、あたしが余計なことをしちゃって……」
「余計なこと?」
「はい」
犬ぞりから降りてきたレジーナさんにあたしは顛末を説明しました。するとレジーナさんは途端に難しい表情で額に手を当て、大きなため息をつきました。
「お前たち、分かっているとは思うけれど、良いと言うまで他言無用ですわ」
「はっ!」
「え?」
「ローザ、犬が速く走ったということは、回復しただけではありませんわね?」
「え? えっと、わからないです。たた、疲労がなくなって筋肉がちゃんと治るようにって……」
「……筋肉を強化した、ということですわね?」
「え? えっと……そう、かもしれないです」
するとレジーナさんは再びため息をつきます。
「ローザ、他人の肉体の能力を向上させる魔法なんて知れ渡っただけで大変な騒ぎになりますわ。特に今はオーデルラーヴァとハプルッセンが危険な状況ということは分かっていますわよね?」
「は、はい」
「そんなとき、国として兵士たちの能力を向上できるなどということが知られたら、どうなるか分かっていますの?」
「え? えっと……」
レジーナさんはまたため息をつかれてしまいました。
えっと……。
「その様子だと分かっていないようですわね。いいこと? そのまま軍に連れていかれ、兵士たちに延々とその魔法を使わされるかもしれないとは思わなかったんですの?」
「あ……」
「それにもしそれが永遠に効果があったりすれば……」
「す、すれば……?」
「最悪、そのまま誰かに誘拐されるなんてことにもなりかねませんわ」
「え? そ、そんな……」
「イヤですわよね?」
「はい」
「なら、しばらくその魔法は使わないことですわ。ただでさえローザは光属性に適性があるんですもの。もしこれが噂として広まればルクシア教会や裏家業の連中が出てきてもおかしくないですわよ?」
う……そ、それはイヤです。
「分かりました」
するとレジーナさんは神妙な面持ちで頷きました。それからすぐに表情を和らげます。
「さあ、それじゃあ始めますわよ」
レジーナさんが合図すると、騎士さんたちが犬ぞりに積まれていた荷物を降ろし、テキパキと準備をしていきます。
えっと、一人の騎士さんはなんだか変な形をした金属の道具を氷に当てました。それからぐりぐりと道具を回して……え? なんだか氷に穴を開けています。
うわ、あんなに氷、分厚かったんですね。
……あれ? 穴なんて開けて大丈夫なんでしょうか?
その様子を見守っていると、騎士さんはそのまま穴を三つ開けました。すると別の騎士さんが椅子をその手前に並べます。
別の騎士さんはその椅子と穴の上に天井を作るような感じでテントの骨組みのようなものを張りました。
えっと、これは何になるんでしょう?
気になって見ていると、なんと騎士さんの一人が魔術で氷を骨組みに吹き付け始めます。骨組みは段々と太くなっていき、気付けば氷でできた透明のテントが完成していました。
「わ、すごい!」
「恐縮でございます」
騎士さんはそう言うとすっと離れていきました。
「お嬢様、準備が完了いたしました。さあ、どうぞこちらへ」
「ええ。さ、ローザ、リリア、始めますわよ」
「は、はい」
あたしたちはレジーナさんに言われて氷のテントの中に入り、着席します。
「こちらが道具でございます。エサはすでに取り付けてあります」
「そう。ありがとう」
レジーナさんは別の騎士さんから差し出された棒を受け取りました。
あれ? 棒の先に何かついていますね。糸と……その先に何かついているような?
あ、レジーナさん、糸を穴に入れましたね。
「さあ、ローザお嬢様もどうぞ」
「えっと、これってなんですか?」
持ってきてくれた騎士さんに質問すると、意外そうな顔をされてしまいました。
「こちらはワカサギ釣り用の釣竿でございます。ローザお嬢様はこういったことは初めてでらっしゃいますか?」
「は、はい。こんな凍った湖を見るのも初めてです」
「左様でございますか。これは氷穴釣りといいまして、このようにすることで、氷の下にいる魚を釣り上げることができます。重りから氷の下に入れて、じっとお待ちになってください。ワカサギが食いつけば竿が引っ張られますので、そうしたらリールを巻いて釣り上げてください」
「は、はい」
あたしは言われたとおり、穴の中に糸を垂らしました。
……こんなので本当に魚が釣れるんでしょうか?
「は、はい。ごめんなさい」
元気になったワンちゃんたちがものすごいスピードで走り回り、疲れてきたところでようやく止まりました。
「あ、あの、ごめんなさい。あたしが勝手に……」
「ローザお嬢様、問題ございません。こいつらは暴走していたわけではなく、きちんと私の指示には従っておりました。ただ、少々スピードが出過ぎていただけです」
「でも……」
「不測の事態が起きたとしても護衛対象の安全を確保するのが我々の仕事です。それができるようにきちんと訓練しておりますのでご安心ください」
「は、はい。ありがとうございます」
えっと、騎士さん、すごく頼もしいです。
「それよりも、次の遊びの場所に到着していますよ」
「え? えっと……」
周囲を見回しますが、何もありません。氷だけです。
ここは多分、湖の真ん中くらいだと思うんですけど、こんなところで一体何をするんでしょうか?
スケートは無理ですよ?
「少々お待ちください。予定よりもかなり早く到着してしまいましたので」
「は、はい」
冷たい風が吹きすさぶ中、しばらく待っていると五台ほどの犬ぞりがやってきました。
「あ! レジーナさん! リリアちゃんも!」
「あら、先に来ていたんですのね?」
「はい。えっと、あたしが余計なことをしちゃって……」
「余計なこと?」
「はい」
犬ぞりから降りてきたレジーナさんにあたしは顛末を説明しました。するとレジーナさんは途端に難しい表情で額に手を当て、大きなため息をつきました。
「お前たち、分かっているとは思うけれど、良いと言うまで他言無用ですわ」
「はっ!」
「え?」
「ローザ、犬が速く走ったということは、回復しただけではありませんわね?」
「え? えっと、わからないです。たた、疲労がなくなって筋肉がちゃんと治るようにって……」
「……筋肉を強化した、ということですわね?」
「え? えっと……そう、かもしれないです」
するとレジーナさんは再びため息をつきます。
「ローザ、他人の肉体の能力を向上させる魔法なんて知れ渡っただけで大変な騒ぎになりますわ。特に今はオーデルラーヴァとハプルッセンが危険な状況ということは分かっていますわよね?」
「は、はい」
「そんなとき、国として兵士たちの能力を向上できるなどということが知られたら、どうなるか分かっていますの?」
「え? えっと……」
レジーナさんはまたため息をつかれてしまいました。
えっと……。
「その様子だと分かっていないようですわね。いいこと? そのまま軍に連れていかれ、兵士たちに延々とその魔法を使わされるかもしれないとは思わなかったんですの?」
「あ……」
「それにもしそれが永遠に効果があったりすれば……」
「す、すれば……?」
「最悪、そのまま誰かに誘拐されるなんてことにもなりかねませんわ」
「え? そ、そんな……」
「イヤですわよね?」
「はい」
「なら、しばらくその魔法は使わないことですわ。ただでさえローザは光属性に適性があるんですもの。もしこれが噂として広まればルクシア教会や裏家業の連中が出てきてもおかしくないですわよ?」
う……そ、それはイヤです。
「分かりました」
するとレジーナさんは神妙な面持ちで頷きました。それからすぐに表情を和らげます。
「さあ、それじゃあ始めますわよ」
レジーナさんが合図すると、騎士さんたちが犬ぞりに積まれていた荷物を降ろし、テキパキと準備をしていきます。
えっと、一人の騎士さんはなんだか変な形をした金属の道具を氷に当てました。それからぐりぐりと道具を回して……え? なんだか氷に穴を開けています。
うわ、あんなに氷、分厚かったんですね。
……あれ? 穴なんて開けて大丈夫なんでしょうか?
その様子を見守っていると、騎士さんはそのまま穴を三つ開けました。すると別の騎士さんが椅子をその手前に並べます。
別の騎士さんはその椅子と穴の上に天井を作るような感じでテントの骨組みのようなものを張りました。
えっと、これは何になるんでしょう?
気になって見ていると、なんと騎士さんの一人が魔術で氷を骨組みに吹き付け始めます。骨組みは段々と太くなっていき、気付けば氷でできた透明のテントが完成していました。
「わ、すごい!」
「恐縮でございます」
騎士さんはそう言うとすっと離れていきました。
「お嬢様、準備が完了いたしました。さあ、どうぞこちらへ」
「ええ。さ、ローザ、リリア、始めますわよ」
「は、はい」
あたしたちはレジーナさんに言われて氷のテントの中に入り、着席します。
「こちらが道具でございます。エサはすでに取り付けてあります」
「そう。ありがとう」
レジーナさんは別の騎士さんから差し出された棒を受け取りました。
あれ? 棒の先に何かついていますね。糸と……その先に何かついているような?
あ、レジーナさん、糸を穴に入れましたね。
「さあ、ローザお嬢様もどうぞ」
「えっと、これってなんですか?」
持ってきてくれた騎士さんに質問すると、意外そうな顔をされてしまいました。
「こちらはワカサギ釣り用の釣竿でございます。ローザお嬢様はこういったことは初めてでらっしゃいますか?」
「は、はい。こんな凍った湖を見るのも初めてです」
「左様でございますか。これは氷穴釣りといいまして、このようにすることで、氷の下にいる魚を釣り上げることができます。重りから氷の下に入れて、じっとお待ちになってください。ワカサギが食いつけば竿が引っ張られますので、そうしたらリールを巻いて釣り上げてください」
「は、はい」
あたしは言われたとおり、穴の中に糸を垂らしました。
……こんなので本当に魚が釣れるんでしょうか?
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