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第三章

第三章第64話 踏んでしまいました

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 次の曲はコンラートさんに誘ってもらって踊りました。コンラートさんもダンスの下手なあたしを気遣ってくれて、なんとか踊ることができました。ちらちら胸を見られていましたけど、あまり見ないようにしようとはしてくれていたのが分かったので大丈夫でした。

「ローザさん、ありがとう」
「はい。こちらこそありがとうございました」

 そうしてコンラートさんと別れると、今度はマリウスさんがやってきました。

「ローザ、一曲踊ってくれ」
「は、はい」

 いつもどおりの態度でマリウスさんに誘われました。ただ、今日は制服ではなく正装をしているので、普段よりも近づきがたい貴族って感じがします。

 マリウスさんは貴族ですから、平民のあたしが断れるわけはありません。

 マリウスさんも公子様やコンラートさんと同じように手の甲にキスをする仕草をし、ダンスを始めようと向かい合います。

 するとすぐに曲が流れ、ダンスが始まりました。今までの二曲よりもちょっとテンポが早いので大変です。

 間違えないようにこうして、ひぇっ!?

 いきなりぐいと引っ張られてバランスを崩し、よろめいてしまいました。

「おい、ステップが違うぞ」
「あ……ご、ごめんなさい」
「しっかりしろ。習った内容だろう」
「は、はい」

 たしかに授業で習った曲ではあるのですが、ダンスは苦手なんです。

 だから今度こそミスをしないように……あっ!

 間違えました。

「おい」
「ご、ごめんなさい」
「ちっ」

 舌打ちをされてしまいました。

 ど、ど、どうしましょう?

 頭が真っ白になってしまって上手く体が……。

「あっ!」
「ぐっ!?」
「す、すみません。すみません」

 よろめいてしまい、マリウスさんの足を思い切り踏んでしまいました。

「ごめんなさい」
「……」

 あたしがミスをして不機嫌になっていたマリウスさんの表情がまるで怒っているかのようなものに変わってしまいました。

 あ、えっと、もう失敗しないように……あ、あれ? 次のステップはなんでしたっけ?

「あいたっ!」
「あ……」

 痛い!

 マリウスさんに足を踏まれてしまいました。

「す、すまない」

 謝ってはいますが、痛くて立てません。

 あたしは思わずその場にへたり込んでしまいます。

「ロ、ローザ……」

 頭の上から申し訳なさそうなマリウスさんの声が聞こえてきます。わざとじゃないんでしょうけど……。

 踏まれた左脚の甲を抱えてそのままうずくまり、痛みが引いていくのを待ちます。それから少し落ち着いてきたところで怪我を治療しました。

 ふぅ。やっと痛くなくなりました。

 それと同時くらいに曲が終わり、マリウスさんとのダンスも終わりました。

「ローザ、すまない。わざとではないんだ」
「い、いえ。あたしも踏んでしまってすみませんでした」
「大丈夫か? 医務室に……」
「あ、えっと、治したので大丈夫です。ありがとうございました」
「あ、ああ」

 こうしてあたしはマリウスさんと別れました。するとゼノさんとパヴェルさんがやってきました。

「ローザさん、せ、拙者と次のダンスを踊ってほしいでござるよ」
「いや、俺と踊ってほしい」
「え?」

 二人とも正装をしていますが、こんなときにもあたしの胸ばかり見ているなんて最低ですよね?

「えっと、ごめんなさい」
「「え?」」

 断られると思っていなかったのか、キョトンとした表情を浮かべています。

「あ、えっと、えっと、その、さっき足を怪我してしまったので、その、ごめんなさい」

 あたしはそう言うと、返事を聞かずにその場を離れたのでした。

◆◇◆

 あたしはそのままテラスにやってきました。外はいつの間にか雪が降っています。かなり本降りになっていますから、明日の朝はきっと一面銀世界になっていると思います。

 今年は雪が降るのが遅いそうですが、これから春までたくさん雪が降るのだそうです。

 オーデルラーヴァだとそこまで雪が降ることはありませんでしたけど、ここはかなり北にあるのでたくさん積もるのだと思います。孤児院のあった町もそんな感じでした。

 それにしても雪が降っている屋外にいるのに寒くないなんて、やっぱりこの制服はすごいです。

 そんなことを考えながら、あたしは今日のことをぼんやりと思い返します。

 やっぱり、男の人も人それぞれですよね。

 王太子様やゼノさん、パヴェルさんみたいに胸ばかり見ている人もいれば、公子様やコンラートさんみたいに紳士的な人もいます。

 マリウスさんは……なんだったんでしょう?

 授業でも怒られましたし、演習のときは……あれ? そういえばアレックさんの姿を見ていません。

 試験のときは教室にいたと思うんですけど……。

 なぜか怖がられてしまうのであたしから話しかけることはしていません。ただ、なぜかアレックさんはちらちらとあたしのほうを盗み見てきていたんですよね。

 アレックさんから見ると、もしかしてあたしが怖い魔物か何かに見えるんでしょうか?

 それともあたし、何かすごく失礼なことをしてしまったんでしょうか?

 そう考えるとなんだか申し訳ない気分になってきて、つい大きなため息が出てしまいました。

 ため息は白い息となって降りしきる雪と混ざり、闇に消えていきます。

 その光景がなんだかとても綺麗で、あたしはふぅっと息を吹きました。すると、後ろから不意に声を掛けられました。

「ローザ嬢」
「え?」

 あたしが振り返ると、そこにはなんと公子様の姿があったのでした。
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