テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第三章

第三章第58話 野菜の収穫を手伝います

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 翌朝、あたしたちは馬車に乗って森を後にしました。

 夜の間に何回かゴブリンの襲撃があったようですが、すべてゲラシム先生のゴーレムが退治してくれたそうです。

 それから騎士団によってどうしてあれほどのゴブリンが襲ってきたのかという調査が行われたのですが、原因は不明でした。

 だからあの襲撃はゴブリンの集団が流れてきて、たまたまあたしたちを発見したということになりました。

 本当に、ゴブリンってイヤですよね。早く滅んでくれればいいのに。

 あ、そうそう。それとこれは後から聞いたんですが、あたしたち以外の班はキャンプ地をあんな風に要塞化していなかったそうです。

 ですから、襲われていたらひとたまりもなかったはずです。

 なので、あんな数のゴブリンに襲われて気持ち悪かったですが、それでもあたしたちのところだけを襲ってくれたのは不幸中の幸いでした。

◆◇◆

「今日の授業はこれまでだ。今日の内容はテストに出るので、よく復習しておくように」

 ゲラシム先生はそう言うと、足早に教室から出ていきました。

「ローザ、リリア、また後でね」
「はい」
「またね」

 ヴィーシャさんはいつもどおり剣術部の練習に参加するため、荷物を持ってすぐに教室から出ていきました。同じ剣術部のヴァシリオスさんやアイオネルさんもヴィーシャさんの後を追うように教室から出ていきます。

「ねぇ、ローザ。これから料理研究会でしょ?」
「あ、はい。ベティーナさん」
「なら、ちょっと園芸同好会の畑に寄っていって」
「どうしたんですか?」
「私の畑にね。ちょうど収穫期のほうれん草とニンジンがあるのよ。だから料理研究会で料理してもらおうと思ってね」
「いいんですか?」
「もちろん。リリアさんもどう?」
「いいの?」
「もちろん。さ、行きましょ?」
「はい」

 こうしてあたしたちは料理研究会に向かう前にベティーナさんの畑へと向かうことになりました。

 それからベティーナさんに案内されてグラウンドを抜け、一度も来たことのない場所までやってきました。

 学園の敷地内のようですが、見知らぬ建物が建っています。

「さ、この建物の裏が畑よ。回ると遠いから、中を通るわよ」
「はい」

 建物の中は薄暗いです。

「あの、この建物って……」
「ああ、ここはね。園芸同好会専用の研究室なの。魔法大学の魔法薬科の先輩に指導してもらって、魔法薬の原材料を栽培しているの。畑は魔法薬科で研究されている魔法肥料の実験用なのよ」

 えっと、よく分からないですけど、なんだかすごそうです。

 そのまま建物を通り抜けると、そこにはものすごく広い畑が広がっています。

「私の畑はあっちだから、もう少し歩くけど我慢してね」
「はい」

 それからさらに十分ほど歩き、ベティーナさんの畑に到着しました。

「そこのほうれん草と、あとそこのニンジンね。収穫するから手伝って」
「はい」
「収穫のやりかたは分かる?」
「いえ……」
「なら、ニンジンは手で持って、こうやって引っ張るの。よっと……」

 ベティーナさんはニンジンを引っこ抜いて収穫しました。

「さ、やってみて」
「はい」

 あたしはベティーナさんの真似をしてニンジンを引っこ抜こうと力を入れますが、なかなか抜けません。

「か、固いです」
「え? そんなに?」
「はい」
「そう。じゃあ見てみるわね」

 ベティーナさんと交代します。すると、ベティーナさんはいとも簡単にニンジンを引っこ抜いてしまいました。

「あれ?」
「……」

 どういうことでしょうか?

「わ、本当だ! ニンジンの収穫って、楽しいね」

 リリアちゃんも楽しそうにニンジンを引っこ抜いています。

「あ、あたしも!」

 あたしは別のニンジンを引っこ抜こうと、茎の部分を持ちます。

 うう、固い……。

 やっぱりダメです。

「ピッ」

 ピーちゃんが体の一部を伸ばしてきて、あたしの手の上からニンジンを掴んでくれます。

「あ、ピーちゃん。ありがとうございます」

 あたしはピーちゃんと一緒にニンジンを引っ張ります。

 するとあっさりニンジンが引っこ抜けてしまいました。

「わっ! やったぁ! やりました! ピーちゃん、やっぱり力持ちですね。ありがとうございます」
「ピピッ!」

 ピーちゃんは自慢気な様子です。

「やっぱりこの子、賢いよねぇ」

 ベティーナさんはピーちゃんを見て顔をほころばせています。

「うん。それにすごいきれい好きなんだよ」
「知ってる! 演習のとき、すっごいキレイにしてもらったの」
「でしょ! あたし、演習のときピーちゃんがいなくて困ったもん」
「わかる~。なんならこっちに帰ってきてからピーちゃんいなくて困ってるよ」

 ……えっと?

「そうだ! ねぇ、ローザちゃん。ベティーナさんもピーちゃんにお願いしてきれいにしてもらうのってできる?」
「え?」

 あたしはちらりとピーちゃんを見ます。

「ピッ」

 ピーちゃんは体の一部を人の腕のような形にして、力こぶを作るような仕草をしました。まるでどんとこい、とでも言わんばかりです。

「大丈夫みたいだね」
「うん。ピーちゃん、ローザさん、よろしくね」
「はい」
「ピッ」
「きゃあ! やっぱり賢い!」

 ベティーナさんは返事をしたピーちゃんを見て、再び顔を綻ばせたのでした。
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