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第三章
第三章第44話 ちょっと心配です
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班を決めてから一週間が経ちました。今日は授業で来週の魔物討伐演習本番に向けての打ち合わせとテント設営の練習を兼ねて、学園内の多目的広場にやってきています。
「本番に向けての動きの確認をする。まず、俺たちは野営をしなければならない。となるとゴブリンどもに襲われる可能性が一番高いのは夜だ。基本的な役割は前回に決めたとおりだが、いくつか変更点もある。確認してほしい」
マリウスさんがそう言って一枚の紙を渡してきました。なんだかテントの配置とか見張りの位置だけじゃなくって水場の場所や壁の位置まで書いてありますけど、こんな都合のいい場所って森にあるんでしょうか?
街道沿いの水場とかならあるかもしれませんけど、魔物退治に行くような森にそんな場所があるとは思えないんですけど……。
そんなことを思っていると、マリウスさんが説明を続けます。
「野営だが、経験者ということでローザに責任者をしてもらうことになった。野営について困ったことがあればローザに聞くように。それから配った紙に書いてあるように、野営に関しても役割を分けておいた」
えっと、あたしが責任者なんですよね? でもこの紙、今初めて見たんですけど……。
「設営には土属性の使えるベティーナにも頼む。コンラートは戦闘要員でもあるので、あまり魔力を使いすぎないようにしてほしい」
「はい」
「わかった」
ベティーナさんとコンラートさんは置いてけぼりになっているあたしをよそに、マリウスさんにそう返事をします。
「それからアレック、お前は雑用係だ。ローザ、こいつはどうせ戦いの役には立たない。力仕事ででもこき使ってやれ」
「よ、よろしくお願いいたします」
マリウスさんが冷たく言い放つと、アレックさんはおどおどした様子でそう返事をしました。
でもマリウスさんはフンと鼻を鳴らしただけですぐに視線を外してしまいました。それにヴァシリオスさんはまるで汚いものでも見るかのような表情でアレックさんを見ています。
あれれ? アイオネルさんとコンラートさん、パヴェルさんまで嫌そうな表情をしているような?
なんだか先週も思いましたけど、もしかしてアレックさんって嫌われているんでしょうか?
でも一緒に魔物のいる森に行くんですから、このままじゃ危ないですよね?
「あ、あのっ」
「ん? なんだ? ローザ? お前もこいつは嫌なのか?」
あたしは勇気を振り絞ってマリウスさんに声を掛けましたが、見当はずれの反応が返ってきました。
「え? あ、えっと……」
「気持ちはわかるが、諦めろ。授業で置いていくわけにもいかない」
「あ、あの、ですから……」
「なんだ? 置いていきたいということか?」
「そ、そうじゃなくて……」
マリウスさんは怪訝そうな表情で私を見ています。すると、ロクサーナさんが間に入ってくれました。
「どうしたんですの?」
「えっと、その、アレックさんと皆さんが仲が悪そうなので、その、危ないところに行くんだから、えっと、もうちょっと仲良くしたほうが……」
「あ、それは……」
ロクサーナさんは申し訳なさそうな表情を浮かべ、それと同時にヴァシリオスさんがあからさまに舌打ちをしました。
「え?」
「ローザ、こいつはな。本当に使えねぇんだよ。成績も最下位、ほんのちょろっと火が出せるだけで大した魔術も使えねぇ。そんなお荷物を抱えて俺らはお前たちを守らなきゃいけねぇんだ」
「えっと?」
「男は女を守る。それなのになんで男まで守らなきゃいけねぇんだ、ってことだ。小さいガキならまだしも、こいつは俺らと同じ立場なんだぞ?」
アレックさんは俯いて反論してきません。
「おい! お前、少しは反論してみろよ!」
「ひっ! す、すみませんすみませんすみません……」
ヴァシリオスさんの怒鳴り声にアレックさんは委縮した様子で必死に謝りますが、その声もすぐに消え入りそうなほど小さくなり、ついにはぼそぼそと聞こえないほどの声で何かを呟くようになってしまいました。
「えっと……」
「そういうわけだ。俺たちとロクサーナ様はあれから一度集まって戦闘について確認をしていた。そのときに、どうやっても役に立たないと判断した。まあ、授業でも分かっていたがな」
マリウスさんは呆れたような表情でそう断言しました。ロクサーナさんのほうをちらりと見ますが、小さく頷いています。
「そ、そうですか。分かりました。あの、えっと、じゃあ荷物を運ぶのとか、お願いしますね」
「は、はい……」
アレックさんはそう言うとあたしから顔をそらしました。
「もういいか?」
「あ、いえ。その、あたしも戦っ――」
「お前は最重要の護衛対象だ。ゲラシム先生もそう言っていただろう」
「あ、はい……」
あたしも戦ったほうがいいと思うのですが、にべもなく却下されてしまいました。
「他に質問は?」
「大丈夫です」
「よし。じゃあ、テントの設営の練習をするぞ。おい! アレック! さっさとテントを運んでこい!」
「は、はいぃ……」
マリウスさんに命令され、アレックさんは多目的広場の隅に置いてある借り物のテントのところに走っていくのでした。
えっと、あたしたち、これで大丈夫なんでしょうか?
「本番に向けての動きの確認をする。まず、俺たちは野営をしなければならない。となるとゴブリンどもに襲われる可能性が一番高いのは夜だ。基本的な役割は前回に決めたとおりだが、いくつか変更点もある。確認してほしい」
マリウスさんがそう言って一枚の紙を渡してきました。なんだかテントの配置とか見張りの位置だけじゃなくって水場の場所や壁の位置まで書いてありますけど、こんな都合のいい場所って森にあるんでしょうか?
街道沿いの水場とかならあるかもしれませんけど、魔物退治に行くような森にそんな場所があるとは思えないんですけど……。
そんなことを思っていると、マリウスさんが説明を続けます。
「野営だが、経験者ということでローザに責任者をしてもらうことになった。野営について困ったことがあればローザに聞くように。それから配った紙に書いてあるように、野営に関しても役割を分けておいた」
えっと、あたしが責任者なんですよね? でもこの紙、今初めて見たんですけど……。
「設営には土属性の使えるベティーナにも頼む。コンラートは戦闘要員でもあるので、あまり魔力を使いすぎないようにしてほしい」
「はい」
「わかった」
ベティーナさんとコンラートさんは置いてけぼりになっているあたしをよそに、マリウスさんにそう返事をします。
「それからアレック、お前は雑用係だ。ローザ、こいつはどうせ戦いの役には立たない。力仕事ででもこき使ってやれ」
「よ、よろしくお願いいたします」
マリウスさんが冷たく言い放つと、アレックさんはおどおどした様子でそう返事をしました。
でもマリウスさんはフンと鼻を鳴らしただけですぐに視線を外してしまいました。それにヴァシリオスさんはまるで汚いものでも見るかのような表情でアレックさんを見ています。
あれれ? アイオネルさんとコンラートさん、パヴェルさんまで嫌そうな表情をしているような?
なんだか先週も思いましたけど、もしかしてアレックさんって嫌われているんでしょうか?
でも一緒に魔物のいる森に行くんですから、このままじゃ危ないですよね?
「あ、あのっ」
「ん? なんだ? ローザ? お前もこいつは嫌なのか?」
あたしは勇気を振り絞ってマリウスさんに声を掛けましたが、見当はずれの反応が返ってきました。
「え? あ、えっと……」
「気持ちはわかるが、諦めろ。授業で置いていくわけにもいかない」
「あ、あの、ですから……」
「なんだ? 置いていきたいということか?」
「そ、そうじゃなくて……」
マリウスさんは怪訝そうな表情で私を見ています。すると、ロクサーナさんが間に入ってくれました。
「どうしたんですの?」
「えっと、その、アレックさんと皆さんが仲が悪そうなので、その、危ないところに行くんだから、えっと、もうちょっと仲良くしたほうが……」
「あ、それは……」
ロクサーナさんは申し訳なさそうな表情を浮かべ、それと同時にヴァシリオスさんがあからさまに舌打ちをしました。
「え?」
「ローザ、こいつはな。本当に使えねぇんだよ。成績も最下位、ほんのちょろっと火が出せるだけで大した魔術も使えねぇ。そんなお荷物を抱えて俺らはお前たちを守らなきゃいけねぇんだ」
「えっと?」
「男は女を守る。それなのになんで男まで守らなきゃいけねぇんだ、ってことだ。小さいガキならまだしも、こいつは俺らと同じ立場なんだぞ?」
アレックさんは俯いて反論してきません。
「おい! お前、少しは反論してみろよ!」
「ひっ! す、すみませんすみませんすみません……」
ヴァシリオスさんの怒鳴り声にアレックさんは委縮した様子で必死に謝りますが、その声もすぐに消え入りそうなほど小さくなり、ついにはぼそぼそと聞こえないほどの声で何かを呟くようになってしまいました。
「えっと……」
「そういうわけだ。俺たちとロクサーナ様はあれから一度集まって戦闘について確認をしていた。そのときに、どうやっても役に立たないと判断した。まあ、授業でも分かっていたがな」
マリウスさんは呆れたような表情でそう断言しました。ロクサーナさんのほうをちらりと見ますが、小さく頷いています。
「そ、そうですか。分かりました。あの、えっと、じゃあ荷物を運ぶのとか、お願いしますね」
「は、はい……」
アレックさんはそう言うとあたしから顔をそらしました。
「もういいか?」
「あ、いえ。その、あたしも戦っ――」
「お前は最重要の護衛対象だ。ゲラシム先生もそう言っていただろう」
「あ、はい……」
あたしも戦ったほうがいいと思うのですが、にべもなく却下されてしまいました。
「他に質問は?」
「大丈夫です」
「よし。じゃあ、テントの設営の練習をするぞ。おい! アレック! さっさとテントを運んでこい!」
「は、はいぃ……」
マリウスさんに命令され、アレックさんは多目的広場の隅に置いてある借り物のテントのところに走っていくのでした。
えっと、あたしたち、これで大丈夫なんでしょうか?
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