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第三章
第三章第28話 アロンさんとお話します
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結局その日は決められず、次の日レジーナさんに相談してみました。するともう一度しっかり話をしたほうがいいと言われ、マレスティカ公爵家の大きなお屋敷に呼ばれてやってきました。
「やあ、よく来たね」
「お邪魔します」
そうしてお屋敷に行くと、アロンさんとシモーナさんがこの前と同じように優しい笑顔で迎えてくれました。
「娘から、相談があると聞いたよ」
「あの!」
「うん、なんだい?」
「オフェリアさんに、オーデルラーヴァにいるオフェリアさんに相談したんです」
「ああ、この間言っていたね。なんだって?」
「えっと、はい。あの、貴族には矜持があるって。それで、戦争に行かなきゃいけないって……」
「それは、オフェリア殿の言いそうなことだね」
アロンさんは優しい笑顔を浮かべたままですが、少しだけ真剣な雰囲気になりました。
「いいかい? ローザちゃん。私たち貴族が戦うことは当然なんだ。どうしてだかわかるかい?」
「えっと、オフェリアさんは領民を守る義務があるって……」
「うん。そうだね。貴族には領民を守る義務があるよ。じゃあ、どうして義務があるかはわかるかい?」
「えっと……わかりません」
「それはね。王や貴族というのは民の代表だからだよ。つまり国や領地の顔であり、指導者である。それが私たち貴族なんだ。民を代表しているからこそ、民は貴族に税金を払うし、私たちに裁かれることだって受け入れるんだよ」
えっと?
「ピンと来ていないかな?」
「はい。すみません……」
「いいよ。それじゃあ、ローザちゃんは自分が剣で刺されそうになったら反撃するだろう?」
「はい。すると思います」
「それじゃあ、ローザちゃんの大切な従魔の子たちが殺されそうになったらどうするかい?」
「炎弾で攻撃して守ります!」
ユキたちが殺されるなんて、考えたくもありません。
「そうだよね。私たち貴族にとって戦争に参加するのは、君が従魔の子たちを守るのと同じくらい自然なことなんだ」
「あ……」
なんとなくわかりました。
でも、なんだかあたしの知っている貴族と違う気がします。
だって奪っていくだけの貴族だってたくさんいますよね?
あたしの育った孤児院は子供たちが売られていくような場所でした。オーナー様が貴族だったのかは知りませんけど、そんなに大切な民が売られているをどうして許していたんでしょうか?
それとも孤児院の子供たちは民じゃないってことなんでしょうか?
「そうだね。全ての貴族がそんな誇りを持っているわけではないよ」
アロンさんがまるであたしの心の中を読んだかのように答えてくれました。
「マルダキアは私のような考え方が主流だけれど、もちろんそうでない貴族だってたくさんいる。帝国のほうではかなり強権的な政治をしているし、ベルーシ王国も帝国に近い地域だと専横な貴族が多い印象はあるね」
ベルーシといえば、孤児院のあるラポリスクもベルーシですね。
「ただね。もしローザちゃんが私たちの子供になったとしても、戦場に出ることはまずないと思うよ」
「え?」
「だってローザちゃんは女の子で、しかも希少な光属性の使い手じゃないか」
えっと、どういうことでしょうか?
「女性が捕虜になったら、死ぬよりも辛い目に遭うからね。そのくらいは分かるだろう?」
「う……」
そうですね。捕まった盗賊やゴブリンたちのこと、オーデルラーヴァでのレオシュたちのことは思い出すだけでイヤな気分になります。
「ああ、ごめんね。でも本当のことなんだ。だから、女性を前線で戦わせるということはまずあり得ないんだよ」
……でも、オフェリアさんたちはひどい目に遭っていました。
「それに、ローザちゃんのような光属性の使い手はみんなの希望になるからね。戦争で傷ついた人の治療をお願いされることはあるかもしれないけど、前線に出すなんてことはよほどの非常事態じゃないとあり得ないよ」
「えっと、非常事態ですか?」
「そう。たとえばどこかの国が攻めてきて、この王都が包囲されたとかかな?」
「それは……」
「そう。そんな状況だったら冒険者にも強制動員が掛けられるだろうからね。結局同じだと思うよ」
そうかもしれません。
「えっと、でもユキたちは……」
「従魔は主人の所有物という扱いだからね。ローザちゃんの同意なしに連れていかれることはないよ。たとえローザちゃんが平民のままでもね」
「平民なのに、ですか?」
「そうだよ。もし取り上げられるとしたら、オーデルラーヴァと戦争になったときくらいかな」
「え?」
「そうなると、ローザちゃんは敵国からの留学生ということになるからね。とはいえ、戦争になったらローザちゃんは拘束されるか強制送還されるかになると思うけれど」
「あ……」
そうでした。あたしはオーデルラーヴァの平民として留学していることになっていたんでした。
「大丈夫だよ。オーデルラーヴァと戦争なんてまずあり得ないよ」
「え? そうなんですか?」
「オーデルラーヴァは言うなれば各国の緩衝地帯だからね。戦力的にオーデルラーヴァから戦争を仕掛けてくることはないし、我々からオーデルラーヴァを攻めるなんて馬鹿なこともしないよ。そんなことをしたら仲の悪い国と国境を接することになるからね」
「え? え?」
すごく難しくて、何を言っているのかよくわかりません。
「つまり、心配するような状況にはならないってことだよ。ローザちゃんが養女になってもならなくても、従魔の子たちとは引き離されたりはしないよ」
「あ、はい」
それは良かったです。安心しました。
あとの不安は……そうですね。
結婚、でしょうか?
================
次回更新は通常どおり 2022/02/26 (土) 20:00 を予定しております。
「やあ、よく来たね」
「お邪魔します」
そうしてお屋敷に行くと、アロンさんとシモーナさんがこの前と同じように優しい笑顔で迎えてくれました。
「娘から、相談があると聞いたよ」
「あの!」
「うん、なんだい?」
「オフェリアさんに、オーデルラーヴァにいるオフェリアさんに相談したんです」
「ああ、この間言っていたね。なんだって?」
「えっと、はい。あの、貴族には矜持があるって。それで、戦争に行かなきゃいけないって……」
「それは、オフェリア殿の言いそうなことだね」
アロンさんは優しい笑顔を浮かべたままですが、少しだけ真剣な雰囲気になりました。
「いいかい? ローザちゃん。私たち貴族が戦うことは当然なんだ。どうしてだかわかるかい?」
「えっと、オフェリアさんは領民を守る義務があるって……」
「うん。そうだね。貴族には領民を守る義務があるよ。じゃあ、どうして義務があるかはわかるかい?」
「えっと……わかりません」
「それはね。王や貴族というのは民の代表だからだよ。つまり国や領地の顔であり、指導者である。それが私たち貴族なんだ。民を代表しているからこそ、民は貴族に税金を払うし、私たちに裁かれることだって受け入れるんだよ」
えっと?
「ピンと来ていないかな?」
「はい。すみません……」
「いいよ。それじゃあ、ローザちゃんは自分が剣で刺されそうになったら反撃するだろう?」
「はい。すると思います」
「それじゃあ、ローザちゃんの大切な従魔の子たちが殺されそうになったらどうするかい?」
「炎弾で攻撃して守ります!」
ユキたちが殺されるなんて、考えたくもありません。
「そうだよね。私たち貴族にとって戦争に参加するのは、君が従魔の子たちを守るのと同じくらい自然なことなんだ」
「あ……」
なんとなくわかりました。
でも、なんだかあたしの知っている貴族と違う気がします。
だって奪っていくだけの貴族だってたくさんいますよね?
あたしの育った孤児院は子供たちが売られていくような場所でした。オーナー様が貴族だったのかは知りませんけど、そんなに大切な民が売られているをどうして許していたんでしょうか?
それとも孤児院の子供たちは民じゃないってことなんでしょうか?
「そうだね。全ての貴族がそんな誇りを持っているわけではないよ」
アロンさんがまるであたしの心の中を読んだかのように答えてくれました。
「マルダキアは私のような考え方が主流だけれど、もちろんそうでない貴族だってたくさんいる。帝国のほうではかなり強権的な政治をしているし、ベルーシ王国も帝国に近い地域だと専横な貴族が多い印象はあるね」
ベルーシといえば、孤児院のあるラポリスクもベルーシですね。
「ただね。もしローザちゃんが私たちの子供になったとしても、戦場に出ることはまずないと思うよ」
「え?」
「だってローザちゃんは女の子で、しかも希少な光属性の使い手じゃないか」
えっと、どういうことでしょうか?
「女性が捕虜になったら、死ぬよりも辛い目に遭うからね。そのくらいは分かるだろう?」
「う……」
そうですね。捕まった盗賊やゴブリンたちのこと、オーデルラーヴァでのレオシュたちのことは思い出すだけでイヤな気分になります。
「ああ、ごめんね。でも本当のことなんだ。だから、女性を前線で戦わせるということはまずあり得ないんだよ」
……でも、オフェリアさんたちはひどい目に遭っていました。
「それに、ローザちゃんのような光属性の使い手はみんなの希望になるからね。戦争で傷ついた人の治療をお願いされることはあるかもしれないけど、前線に出すなんてことはよほどの非常事態じゃないとあり得ないよ」
「えっと、非常事態ですか?」
「そう。たとえばどこかの国が攻めてきて、この王都が包囲されたとかかな?」
「それは……」
「そう。そんな状況だったら冒険者にも強制動員が掛けられるだろうからね。結局同じだと思うよ」
そうかもしれません。
「えっと、でもユキたちは……」
「従魔は主人の所有物という扱いだからね。ローザちゃんの同意なしに連れていかれることはないよ。たとえローザちゃんが平民のままでもね」
「平民なのに、ですか?」
「そうだよ。もし取り上げられるとしたら、オーデルラーヴァと戦争になったときくらいかな」
「え?」
「そうなると、ローザちゃんは敵国からの留学生ということになるからね。とはいえ、戦争になったらローザちゃんは拘束されるか強制送還されるかになると思うけれど」
「あ……」
そうでした。あたしはオーデルラーヴァの平民として留学していることになっていたんでした。
「大丈夫だよ。オーデルラーヴァと戦争なんてまずあり得ないよ」
「え? そうなんですか?」
「オーデルラーヴァは言うなれば各国の緩衝地帯だからね。戦力的にオーデルラーヴァから戦争を仕掛けてくることはないし、我々からオーデルラーヴァを攻めるなんて馬鹿なこともしないよ。そんなことをしたら仲の悪い国と国境を接することになるからね」
「え? え?」
すごく難しくて、何を言っているのかよくわかりません。
「つまり、心配するような状況にはならないってことだよ。ローザちゃんが養女になってもならなくても、従魔の子たちとは引き離されたりはしないよ」
「あ、はい」
それは良かったです。安心しました。
あとの不安は……そうですね。
結婚、でしょうか?
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