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第三章
第三章第20話 治癒は難しいのです
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それからリリアちゃんが問題を解いている間、あたしはツェツィーリエ先生に光属性の魔術を見せてもらいました。ですが、残念なことにあたしが使えた光属性の魔法は光を出すだけでした。
イメージをしたらできると思ってツェツィーリエ先生の治癒の真似だってしてみましたけど、発動すらしてくれなかったんです。
「リリアちゃん」
問題を解き終わったリリアちゃんにツェツィーリエ先生が声をかけました。
「はい。なんですか?」
「ちょっとローザちゃんにあなたの簡易治癒を見せてあげてくれる?」
「わかりました」
リリアちゃんはそう答えると自分の指先に持っていた針を平然とした様子で突き立てました。
「ひっ!?」
ツェツィーリエ先生もやっていましたが、やっぱり治癒魔法の修行をする人は平気で自分の指を刺しちゃうんですね。
ううっ。あたしはちょっとこれが苦手です。痛そうでちょっと……。
「ローザちゃん、よく見ててね」
それからリリアちゃんは詠唱をすると簡易治癒を発動させました。するとリリアちゃんの指先にできた小さな傷はみるみるうちに治っていきます。
「どう?」
「えっと、はい。すごいです」
でも、リリアちゃんの簡易治癒とツェツィーリエ先生の治癒の違いがさっぱりわかりません。
そもそもこれって、どうして治るんでしょうね?
「すごいじゃなくて、ローザちゃんもやるんだからね? それにローザちゃんならきっとすぐにできるようなるよ。だって、すぐに使えた閃光のほうが簡易治癒よりも難しいんだから」
「はい……」
そうなんでしょうか?
「それじゃあローザちゃん。今度はきちんと術式を使って魔術として発動してみましょう」
「えっと、はい。ただ、あたし今まで術式で発動できたことがないんです」
「ああ、そうなのね。とすると、魔法と魔術は全く別の原理ということなのかもしれませんね。ちょっと試してみてくれるかしら?」
「はい」
今度は習ったとおりに詠唱で簡易治癒の魔術を発動しようとしてみます。ですが、やはり何かができる気はまったくしません。
「ああ、そういうこと。ローザちゃんの詠唱に魔力が反応していないのね……え? そんなことが!?」
ツェツィーリエ先生は自分で言ったその答えに驚いています。
「あの、やっぱり普通は詠唱すれば使えるようになるんですか?」
「詠唱しただけでは使えません。ただ、その詠唱に適切な魔力を乗せることで魔術は発動します。このことはゲラシム先生から習いましたね?」
「はい」
「でもローザちゃんの場合は今まで詠唱をせずに魔法を使っていた。だからきっと、詠唱に魔力を乗せるという感覚が分からないのかもしれないわ」
「えっと、はい。授業で言われていた意味がさっぱり分かりませんでした」
「そう。そうね……」
ツェツィーリエ先生はそう言ってしばらく考え込むような素振りをしています。やっぱりツェツィーリエ先生も魔法を教えたことがないようですから、大変そうです。
「あ、えっと、あたしもその詠唱の練習をしたほうが……」
「いえ、止めておきましょう。ローザちゃんが詠唱による魔術を覚えると今度は魔法が使えなくなってしまう恐れがあるわ。それに魔法は魔術よりも多くのことができるの。だから、魔術を見て魔法として発動する方法を見つけるようにしていきましょう」
「はい」
でも、それってできるんでしょうか?
あたしもリリアちゃんみたいに他の人の怪我を治せたらいいなって思っていたんですけど……。
「さあ、今日の授業はこれまでです。次のクラスに遅れないように移動してちょうだい」
「はい」
こうしてツェツィーリエ先生の最初の授業を終え、あたしたちは次の授業を受けるために教室へと向かうのでした。
◆◇◆
その日の授業を全て終えたあたしは、ユキとピーちゃんを連れて少し学園内をお散歩することにしました。ホーちゃんはまだ寝ていたのでお留守番をしてもらっていますが、多分あと一時間くらいしたら目を覚まして食事をねだってくると思います。
「ねえ、ピーちゃんはどうやって治癒の魔術を覚えたんですか?」
「ピ?」
「だって、誰にも習ってないのにヴィーシャさんの治療をしていたじゃないですか」
「ピー?」
「あたし、全然治療が上手くできなくて……。光らせるだけなら上手くできるのに」
「ピピ? ピッ」
ピーちゃんは手のように体の一部を伸ばしてフリフリとしています。もしかして元気づけようとしてくれているんでしょうか?
「ピピッ。ピッ、ピッ!」
「えっと……」
やっぱり元気づけようとしてくれているみたいです。
「ミャー」
「ユキも……ありがとうございます。あたし、がんばりますね」
「ミャッ」
「ピッ」
魔法が上手くできなかったせいで憂鬱な気分になっていましたが、ユキとピーちゃんのおかげでちょっと元気が出てきました。
そうですよ。このくらい、今までの辛い経験に比べればなんともありません。
よーし! 森でのサバイバルのときのように頑張って工夫して、きっと治癒ができるようになってやりますよ!
がんばりましょー、おー!
================
次回更新は通常どおり、2022/1/1 (土) 20:00 を予定しております。皆様、どうぞよいお年をお迎えください。
イメージをしたらできると思ってツェツィーリエ先生の治癒の真似だってしてみましたけど、発動すらしてくれなかったんです。
「リリアちゃん」
問題を解き終わったリリアちゃんにツェツィーリエ先生が声をかけました。
「はい。なんですか?」
「ちょっとローザちゃんにあなたの簡易治癒を見せてあげてくれる?」
「わかりました」
リリアちゃんはそう答えると自分の指先に持っていた針を平然とした様子で突き立てました。
「ひっ!?」
ツェツィーリエ先生もやっていましたが、やっぱり治癒魔法の修行をする人は平気で自分の指を刺しちゃうんですね。
ううっ。あたしはちょっとこれが苦手です。痛そうでちょっと……。
「ローザちゃん、よく見ててね」
それからリリアちゃんは詠唱をすると簡易治癒を発動させました。するとリリアちゃんの指先にできた小さな傷はみるみるうちに治っていきます。
「どう?」
「えっと、はい。すごいです」
でも、リリアちゃんの簡易治癒とツェツィーリエ先生の治癒の違いがさっぱりわかりません。
そもそもこれって、どうして治るんでしょうね?
「すごいじゃなくて、ローザちゃんもやるんだからね? それにローザちゃんならきっとすぐにできるようなるよ。だって、すぐに使えた閃光のほうが簡易治癒よりも難しいんだから」
「はい……」
そうなんでしょうか?
「それじゃあローザちゃん。今度はきちんと術式を使って魔術として発動してみましょう」
「えっと、はい。ただ、あたし今まで術式で発動できたことがないんです」
「ああ、そうなのね。とすると、魔法と魔術は全く別の原理ということなのかもしれませんね。ちょっと試してみてくれるかしら?」
「はい」
今度は習ったとおりに詠唱で簡易治癒の魔術を発動しようとしてみます。ですが、やはり何かができる気はまったくしません。
「ああ、そういうこと。ローザちゃんの詠唱に魔力が反応していないのね……え? そんなことが!?」
ツェツィーリエ先生は自分で言ったその答えに驚いています。
「あの、やっぱり普通は詠唱すれば使えるようになるんですか?」
「詠唱しただけでは使えません。ただ、その詠唱に適切な魔力を乗せることで魔術は発動します。このことはゲラシム先生から習いましたね?」
「はい」
「でもローザちゃんの場合は今まで詠唱をせずに魔法を使っていた。だからきっと、詠唱に魔力を乗せるという感覚が分からないのかもしれないわ」
「えっと、はい。授業で言われていた意味がさっぱり分かりませんでした」
「そう。そうね……」
ツェツィーリエ先生はそう言ってしばらく考え込むような素振りをしています。やっぱりツェツィーリエ先生も魔法を教えたことがないようですから、大変そうです。
「あ、えっと、あたしもその詠唱の練習をしたほうが……」
「いえ、止めておきましょう。ローザちゃんが詠唱による魔術を覚えると今度は魔法が使えなくなってしまう恐れがあるわ。それに魔法は魔術よりも多くのことができるの。だから、魔術を見て魔法として発動する方法を見つけるようにしていきましょう」
「はい」
でも、それってできるんでしょうか?
あたしもリリアちゃんみたいに他の人の怪我を治せたらいいなって思っていたんですけど……。
「さあ、今日の授業はこれまでです。次のクラスに遅れないように移動してちょうだい」
「はい」
こうしてツェツィーリエ先生の最初の授業を終え、あたしたちは次の授業を受けるために教室へと向かうのでした。
◆◇◆
その日の授業を全て終えたあたしは、ユキとピーちゃんを連れて少し学園内をお散歩することにしました。ホーちゃんはまだ寝ていたのでお留守番をしてもらっていますが、多分あと一時間くらいしたら目を覚まして食事をねだってくると思います。
「ねえ、ピーちゃんはどうやって治癒の魔術を覚えたんですか?」
「ピ?」
「だって、誰にも習ってないのにヴィーシャさんの治療をしていたじゃないですか」
「ピー?」
「あたし、全然治療が上手くできなくて……。光らせるだけなら上手くできるのに」
「ピピ? ピッ」
ピーちゃんは手のように体の一部を伸ばしてフリフリとしています。もしかして元気づけようとしてくれているんでしょうか?
「ピピッ。ピッ、ピッ!」
「えっと……」
やっぱり元気づけようとしてくれているみたいです。
「ミャー」
「ユキも……ありがとうございます。あたし、がんばりますね」
「ミャッ」
「ピッ」
魔法が上手くできなかったせいで憂鬱な気分になっていましたが、ユキとピーちゃんのおかげでちょっと元気が出てきました。
そうですよ。このくらい、今までの辛い経験に比べればなんともありません。
よーし! 森でのサバイバルのときのように頑張って工夫して、きっと治癒ができるようになってやりますよ!
がんばりましょー、おー!
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