上 下
104 / 261
第三章

第三章第20話 治癒は難しいのです

しおりを挟む
 それからリリアちゃんが問題を解いている間、あたしはツェツィーリエ先生に光属性の魔術を見せてもらいました。ですが、残念なことにあたしが使えた光属性の魔法は光を出すだけでした。

 イメージをしたらできると思ってツェツィーリエ先生の治癒の真似だってしてみましたけど、発動すらしてくれなかったんです。

「リリアちゃん」

 問題を解き終わったリリアちゃんにツェツィーリエ先生が声をかけました。

「はい。なんですか?」
「ちょっとローザちゃんにあなたの簡易治癒を見せてあげてくれる?」
「わかりました」

 リリアちゃんはそう答えると自分の指先に持っていた針を平然とした様子で突き立てました。

「ひっ!?」

 ツェツィーリエ先生もやっていましたが、やっぱり治癒魔法の修行をする人は平気で自分の指を刺しちゃうんですね。

 ううっ。あたしはちょっとこれが苦手です。痛そうでちょっと……。

「ローザちゃん、よく見ててね」

 それからリリアちゃんは詠唱をすると簡易治癒を発動させました。するとリリアちゃんの指先にできた小さな傷はみるみるうちに治っていきます。

「どう?」
「えっと、はい。すごいです」

 でも、リリアちゃんの簡易治癒とツェツィーリエ先生の治癒の違いがさっぱりわかりません。

 そもそもこれって、どうして治るんでしょうね?

「すごいじゃなくて、ローザちゃんもやるんだからね? それにローザちゃんならきっとすぐにできるようなるよ。だって、すぐに使えた閃光のほうが簡易治癒よりも難しいんだから」
「はい……」

 そうなんでしょうか?

「それじゃあローザちゃん。今度はきちんと術式を使って魔術として発動してみましょう」
「えっと、はい。ただ、あたし今まで術式で発動できたことがないんです」
「ああ、そうなのね。とすると、魔法と魔術は全く別の原理ということなのかもしれませんね。ちょっと試してみてくれるかしら?」
「はい」

 今度は習ったとおりに詠唱で簡易治癒の魔術を発動しようとしてみます。ですが、やはり何かができる気はまったくしません。

「ああ、そういうこと。ローザちゃんの詠唱に魔力が反応していないのね……え? そんなことが!?」

 ツェツィーリエ先生は自分で言ったその答えに驚いています。

「あの、やっぱり普通は詠唱すれば使えるようになるんですか?」
「詠唱しただけでは使えません。ただ、その詠唱に適切な魔力を乗せることで魔術は発動します。このことはゲラシム先生から習いましたね?」
「はい」
「でもローザちゃんの場合は今まで詠唱をせずに魔法を使っていた。だからきっと、詠唱に魔力を乗せるという感覚が分からないのかもしれないわ」
「えっと、はい。授業で言われていた意味がさっぱり分かりませんでした」
「そう。そうね……」

 ツェツィーリエ先生はそう言ってしばらく考え込むような素振りをしています。やっぱりツェツィーリエ先生も魔法を教えたことがないようですから、大変そうです。

「あ、えっと、あたしもその詠唱の練習をしたほうが……」
「いえ、止めておきましょう。ローザちゃんが詠唱による魔術を覚えると今度は魔法が使えなくなってしまう恐れがあるわ。それに魔法は魔術よりも多くのことができるの。だから、魔術を見て魔法として発動する方法を見つけるようにしていきましょう」
「はい」

 でも、それってできるんでしょうか?

 あたしもリリアちゃんみたいに他の人の怪我を治せたらいいなって思っていたんですけど……。

「さあ、今日の授業はこれまでです。次のクラスに遅れないように移動してちょうだい」
「はい」

 こうしてツェツィーリエ先生の最初の授業を終え、あたしたちは次の授業を受けるために教室へと向かうのでした。

◆◇◆
 
 その日の授業を全て終えたあたしは、ユキとピーちゃんを連れて少し学園内をお散歩することにしました。ホーちゃんはまだ寝ていたのでお留守番をしてもらっていますが、多分あと一時間くらいしたら目を覚まして食事をねだってくると思います。

「ねえ、ピーちゃんはどうやって治癒の魔術を覚えたんですか?」
「ピ?」
「だって、誰にも習ってないのにヴィーシャさんの治療をしていたじゃないですか」
「ピー?」
「あたし、全然治療が上手くできなくて……。光らせるだけなら上手くできるのに」
「ピピ? ピッ」

 ピーちゃんは手のように体の一部を伸ばしてフリフリとしています。もしかして元気づけようとしてくれているんでしょうか?

「ピピッ。ピッ、ピッ!」
「えっと……」

 やっぱり元気づけようとしてくれているみたいです。

「ミャー」
「ユキも……ありがとうございます。あたし、がんばりますね」
「ミャッ」
「ピッ」

 魔法が上手くできなかったせいで憂鬱な気分になっていましたが、ユキとピーちゃんのおかげでちょっと元気が出てきました。

 そうですよ。このくらい、今までの辛い経験に比べればなんともありません。

 よーし! 森でのサバイバルのときのように頑張って工夫して、きっと治癒ができるようになってやりますよ!

 がんばりましょー、おー!

================
次回更新は通常どおり、2022/1/1 (土) 20:00 を予定しております。皆様、どうぞよいお年をお迎えください。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...