上 下
102 / 261
第三章

Side. マレスティカ公爵

しおりを挟む
 その夜ローザが眠りについたころ、アロンとレジーナ、そしてシモーナはマレスティカ公爵邸の一室に集まっていた。

「やれやれ、とんでもないことになったね」
「はい。ですが、成り行きとはいえわたくしたちの側に引き込めていて幸いでしたわ」
「そうだね。レジーナ、よくやってくれた。変な連中に目をつけられる前で本当に良かったよ。本当ならどこかの片田舎で目立たないように過ごさせてあげるのが一番なのだろうけれど……」

 アロンはそう言って一度言葉を切ると小さく息を吐いた。

「でも、ローザちゃんはもう世に出てきてしまったからね」
「はい」
「とはいえ、オフェリア殿がなんと言うかはまだ分からないけれど」
「あなた、オフェリア様は信頼できるお方ですわ。きっとオフェリア様はローザちゃんの魔法に気付いていて、だから国から出したに違いありません。何しろあの国は……」
「……そうだね。平民しかいないはずなのにあの国の上は選民意識の塊のような連中ばかりだからね。それに……」
「……」

 アロンの言葉にシモーナはため息を吐き、レジーナは不愉快そうに眉をひそめた。

「ところでレジーナ」
「なんですの?」
「ローザちゃんは【収納】と強力な魔法、そして普通では従えられないはずの魔物を従魔として従えられているね?」
「ええ、そのとおりですわ。お父さま」
「しかもその従魔が見たことを自分の目で見たかのように把握する能力を持っているよね」
「ええ。何を仰りたいんですの?」
「いや、ローザちゃんはまだ何かを隠しているんじゃないかと思ってね。レジーナは何か心当たりは無いかい? 何かが普通ではないレベルで得意だとか」
「え? そう、ですわね……」

 アロンにそう問われてレジーナは少し考えるような素振りを見せる。

「ローザはかなりキノコに詳しいようでしたわ」
「キノコ?」
「ええ。素人には見分けにくいはずの毒キノコをいとも簡単に見分けていましたわ。それこそまるで【鑑定】でも持っているかのように一目見ただけで。ローザは否定していましたけれど」
「……」

 レジーナの返事にアロンは腕組みをし、シモーナと顔を見合わせた。

「あなた、【収納】だけでなく【鑑定】まで持っているというのは……」
「ますます難しくなるね。ただ、その他にも何か感じなかったかい?」
「いえ、わたくしは特に感じませんでしたわ」

 それを聞いたアロンは少しの間何かを考えるような仕草をする。

「そうだ。ローザちゃんは殿下とお会いしたのだよね? 何かなかっ……いや、これは聞くだけ無駄だったね」
「ええ。ご想像のとおりですわ」

 苦笑いをしたアロンにレジーナはため息交じりでそう答える。

「じゃあ、学園ではどうだい? やたらと友達が多かったり、人気があったりしていないかい?」

 そう問われたレジーナは再び考えるような仕草をする。

「いえ、そんなことはありませんわ。むしろ、ローザはあまり他人とのコミュニケーションが得意ではない様子です。現に殿下とエルネスト様のことを極端に怖がっていましたもの。ローザと仲がいいのは……そうですわね。寮で同室のコドルツィ騎士爵令嬢ヴィクトリア、それから光属性に適性がある平民のリリアくらいですわ」
「そうかぁ。だとすると今日会ったときのあれはなんだったんだろうなぁ」
「え? ローザが何かしていましたの?」
「そんな素振りはなかったんだけどね。ただ、なぜかは分からないけれどローザちゃんが妙にいい子に見えたんだ」
「いい子?」
「そうなんだ。ローザちゃんはかなり怯えていた様子だったし、冷静に考えればこういった印象を受けることはないはずなんだ」
「あなた、わたくしのローザちゃんに対する印象は貴族に対して必要以上に怯えている平民の女の子ですわ」
「そうだよなぁ」

 アロンは納得が言っていないといった様子で首をひねっている。

「あなた、ローザちゃんはこのまま成長すればとんでもない美人に成長しますわ。しかもあの年であのスタイルですもの。あなたも男性ですから、そういった女の子にはどうしても甘くなるんじゃなくて?」
「ううん、そうかなぁ? 上手く説明できないけれど、そういうものとは少し違うような気がするんだよなぁ」

 アロンはそう呟いてはしきりに首を傾げている。

「ああ、そうだ。護衛につけた騎士たちの様子はどうだった? 何か変なところはなかったかい?」
「え? ええ、そうですわね……。特におかしな様子はありませんでしたわ。ああ、そういえばローザの水着姿はいやらしい目で――」

 そこまで言いかけてレジーナはハッとした表情を浮かべた。

「お父さま? まさかローザが【魅了】のスキルを使っていると仰いますの?」
「いや、【魅了】とは明らかに違うよ。それに私たちが【魅了】を受けたならすぐに分かるというのはレジーナも知っているだろう?」
「そうですわね。では、お父さまはなんだと仰いますの?」
「それが分からないから困っているんだ」
「……」

 それを聞いたレジーナとシモーナは顔を見合わせると、やれやれ、といった様子で笑みを浮かべる。

「あなた、それはきっと単にローザちゃんを気に入ったということですわ。ローザちゃんが義娘になってくれるといいですわね」
「そう、なのかな?」
「ええ、きっとそうですわ」

 そう笑顔でシモーナに言われたアロンはまだ納得していない様子ではあるものの、小さく頷いたのだった。

================
次回更新は通常どおり、2021/12/18 (土) 20:00 を予定しております。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...