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第三章

第三章第18話 狙われるそうです

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「む、むすめ、ですか?」
「そうだよ。レジーナからローザちゃんは家族がいないと聞いていたからね。それなら、我がマレスティカ公爵家の養女になってもらったらどうかと思ったんだ。うちの娘であれば、そう簡単には手出しされないよ」
「えっと……」

 それって、あたしが貴族になるってことですか?

 でも礼儀とかはよく分からないですし、ものすごい迷惑をかけちゃうんじゃ……。

「お父さま、急にそんなことを言ったらローザだって戸惑ってしまいますわ。もっときちんと説明してくださいませ」
「ああ、そうだね。ローザちゃん、オーデルラーヴァとは違ってこの国には貴族がいるんだ。私たちのようにね」
「はい」

 それは知っています。それに、あたしの本当の故郷であるベルーシにだって貴族はいます。いい印象は全くありませんけど……。

「だからね。貴族になれば平民から何もされなくなる。それにうちは我が国でもかなり力があるからね。他の貴族たちだってそう簡単には手出しされないよ」
「えっと、はい。でも、あたしなんかが……」
「いいかい、ローザちゃん。【収納】を持っているというだけでも狙われるんだ。商人たちもそうだけど、登録されていない収納持ちは違法な品物の密輸に利用されることだってあるんだ」
「え! そんなこと! あたし……」
「そうだね。ローザちゃんがそんなことをするとは思わない。でも世の中には薬や魔法で洗脳するような連中もいるし、家族や恋人を人質に取って強要するような連中だっているんだ。悪いことをしようとしている人間にとって【収納】というのはそれだけ価値のあるものだからね。もしかしたら聞いたことがあるかもしれないけれど、オーデルラーヴァの西にあるベルーシという国ではね。少し前に収納持ちの孤児が人身売買の末、ゴブリンに殺されるという凄惨な事件もあったくらいなんだ」
「え?」

 それってもしかして……!

 ど、ど、どうしましょう。もしかしてあたしのことがバレているんですか?

「大丈夫だよ。この国では人身売買は禁止されているからね。少なくとも我がマレスティカ公爵家が目を光らせている間は大丈夫だよ。ただ、国外に出た場合はどうなるかわからないんだ。特にローザちゃんには今、身寄りがないんだろう?」
「は、はい」

 これは、バレていない……ですよね?

「それに加えて、アサシンオウルを従えるだけでなくその子と視界を共有できる。しかもその視界を利用して離れた場所から正確にゴブリンの小さな頭を狙撃できる魔法使いの可愛い女の子だ。どんな組織だってローザちゃんを利用したいと考えるに決まっている」
「う……」
「ただ、それは我が国だって例外じゃないよ」
「え?」
「お父さま?」
「レジーナ。こういうことはきちんと話しておいたほうがいいんだ。養女になってもらった後で色々と要求するよりは、今きちんと全てを話しておくべきだ」
「それは……」

 えっと? えっと?

「いいかい? 私も我が国も、ローザちゃんに暗殺者として働いて欲しいと思っているわけじゃあないんだ。ローザちゃんのような子が酷い状況に置かれそうなのを放っておくわけにはいかないだけだよ。特におかしな連中に利用されるようなことになれば、我が国としても対処をせざるを得なくなってしまうんだ」
「は、はい……」
「だからね。そうなる前にうちの娘になって貰えると私たちとしては安心なんだ」
「……あの、あたしは何をすれば?」
「まずは今までどおり魔法学園で卒業を目指してもらうことになるかな。それから先は……そうだね。魔術師団に入ってもらうか、もしくは魔法学園に残ってそのまま研究者になるのもいいかもしれないね。ローザちゃんが結婚したいというなら私がきちんとした男性を紹介するよ。もちろん義理とはいえ我がマレスティカ公爵家の娘ということになるから好きな相手なら誰でも、というわけにはいかなくなるけれど」

 えっと、どうしましょう?

 あたしの夢は毎日お腹いっぱい食べることと、優しくて誠実で頼りがいのある素敵な男性と結婚することです。お腹いっぱい食べるのは最近できるようになっていますけど結婚は……。

 あたしが迷っていることが伝わったのか、アロンさんは優しそうな微笑みを浮かべました。

「そうだね。すぐには決められないだろうから、少し考えてみてはどうだい? ただ、あまり他人には相談しないほうがいいかな。うちがローザちゃんを養女にしようとしていることが他人に知られると勘ぐられてしまうからね。それこそ、何かあると思って誘拐しようとする輩だって現れるかもしれない」
「ゆ、誘拐ですか?」
「そうだよ。ローザちゃんを人質にしてうちに身代金を要求したり、あとは弱みを握るために拷問を受けたりするかもしれない」
「ひっ」

 そう言われてゴブリンに捕まったときのことを思い出し、思わず身震いしてしまいました。

「だから、相談するのはよほど信頼のおける人だけにしておきなさい」
「はい」

 信頼のおける人、ですか。

「あの、じゃあオフェリアさんに相談してもいいですか?」
「オフェリア? その人は学園のお友達かい?」
「いえ。えっと、オーデルラーヴァの騎士団で隊長をしている人なんですけど、その人があたしのことを保護してくれていたんです」
「オフェリア隊長? それってまさかあの天才魔法剣士のオフェリア・ピャスク殿のことかい? 第七隊の隊長の」
「えっと、はい。女の人だけの部隊の隊長さんです」
「ああ、そういうことか。うん。そうだね。オフェリア殿にはきちんと相談しておいたほうがいい。それに彼女とはお会いしたことがあるからね」
「えっ? オフェリアさんとお知り合いなんですか?」
「そうだよ。前にオーデルラーヴァを訪問したときは妻の護衛をしてくれたんだ」
「ええ。わたくし、オフェリア様には大変お世話になりましたの。それに正義感が強くて、とても信頼できる方ですわ。今はどうされているのかしら」

 シモーナさんはそういって昔を懐かしんでいる様子です。

「そんなわけだからね。私からも手紙を送っておこう。しかし彼女がローザちゃんをわざわざこちらに送り込んできたとはね。やはり状況は……」

 そう言ってアロンさんは難しい顔になりました。

 えっと、あの?

「お父さま、今日のところはこれでよろしいですわね?」
「え? あ、ああ。そうだね。ローザちゃん、長旅で大変だったろうから今日はうちに泊っていったらどうだい?」
「え? え? あ、えっと……」
「ローザ、今晩泊る場所はありまして?」
「えっと、学園の寮に……」
「それなら今日はもう遅いし、うちに泊っていきなさい」
「は、はい……」

 こうしてあたしは引き続きレジーナさんのお世話になることとなったのでした。
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