上 下
88 / 261
第三章

第三章第5話 レジーナさんがやってきました

しおりを挟む
 鍛練を終えたヴィーシャさんと一緒にお庭を散歩していると、なんだかお屋敷のほうが慌ただしくなってきました。

 何かあったんでしょうか?

「お客様。お嬢様が到着なさいます。どうぞお戻りください」

 あ、なるほど。そういうことですね。レジーナさんがいないとは思っていましたが、どうやらまだ到着していなかったみたいです。

「さ、こちらへ」
「はい」

 あたしたちはメイドさんに連れられて建物の入口へと向かいました。

 するとそこにはすでにメイドさんと執事さん、それに騎士さんたちまでずらりと並んでお出迎えの準備をしています。

「お客様はどうぞあちらの応接室でお待ちください」

 そうしてあたしたちはずらりと並んだ皆さんの後ろを通ってお屋敷の中へと案内されましたが、中に入ろうとした瞬間に門が開いてとても豪華な馬車が入ってきました。

「あ、もう来ちゃいました?」
「みたいだね」
「だったらここでお出迎えします?」
「いえ、お客様にそのようなことは……」
「「「お帰りなさいませ。お嬢様」」」

 そんなことを話している間に馬車からレジーナさんが出てきてしまいました。

「ええ。皆も元気そうで何よりですわ。それよりも、ローザたちはもう着いているかしら?」
「はい。皆様すでにご到着なさっております」
「そう。あら? どうしてわたくしの客であるローザが出迎えの列にいるんですの? 失礼ではなくて?」

 すっと目を細めたレジーナさんの声は冷たく、執事の人は少したじたじになっています。

「あ、そ、それは……」
「それにリリアとヴィーシャまでいますわね」

 そう言ってレジーナさんがあたしたちのところに歩いてきました。

「あなたたちはわたくしの使用人ではなくてよ? このようなことをする必要はありませんわ。誰ですの? こんな失礼なことを命じたのは? まさかパウラですの? いえ、あなたがそのようなことをするとはとても思えませんわね」
「はい。そのようなことはしておりません」
「じゃあ、誰ですの?」
「それは……」
「あ、あの。ごめんなさい。あたしたち、お庭の散歩をしていたら戻ってくるのが遅くなってしまって。それで、その、中に入ろうとしたらちょうどレジーナ様が帰ってきて。その、だったらここでご挨拶しようかなって……」

 あたしがなんとか状況を説明すると、レジーナさんは困ったような表情を浮かべました。

「そうでしたの。それでしたら挨拶など後でよかったんですのよ?」
「あ、えっと……」
「でも、わたくしの家の別荘を気に入ってもらえたなら何よりですわ。さ、お入りなさい」

 レジーナさんはそう言って中に入るとあたしたちを招き入れてくれたのでした。

◆◇◆

 応接室に入り、ふかふかのソファーに座ったあたしたちはレジーナさんとお話をしています。そこでヴィーシャさんの鍛練の話になったので、あたしとも模擬戦をしたという話をしました。

「そう。ロバートがそんなことを……」

 レジーナさんが少し険しい顔をしています。

「あ、でもロバートさんはあたしたちを護衛するためにどのくらいの力があるのかを知りたかったみたいで……」

 あたしがそう言うと、レジーナさんは呆れたような表情になりました。

「ローザ、あなたはロバートの護衛対象ですのよ? ローザも冒険者なのだからわかるはずですわ。護衛依頼を受けた冒険者が、護衛対象に模擬戦を挑むなどあり得ないのではなくて? 護衛対象が誰であろうとも、護衛対象の手を煩わせずに守り切るのが護衛の務めですわよ」
「あ……」

 言われてみればそうですね。

「わざわざ怪我をするかもしれないようなことをする必要などありませんわ。きっと、ローザが決闘で戦ったという話を聞いて試したくなったのでしょうね。本当にあの男は……」

 そういってレジーナさんは額に手を当てていかにも呆れたといった表情を浮かべます。

「あ、でも、その、怪我もしなかったですし……」
「ええ。それは何よりでしたわ。ロバートにはきつく言い聞かせておくから、どうかそれで失礼を許してくださる?」
「あ、そんな。失礼だなんて。あの、あたし、全然気にしてませんから」
「ふふ。そう。ありがとう」

 レジーナさんが笑顔を浮かべてそう言いました。

「あの、レジーナ様」
「何かしら? リリア」
「あたしたちの他に、誰か来るんですか?」
「明日、わたくしの親友のネダが来ますわ。あとは王太子殿下が来たいと仰っていましたが、きっぱりお断りしましたわ」
「え?」
「だって、あんなに胸ばかりジロジロ見られたら落ち着けませんもの。去年までは毎年ご招待していましたけれど、今年は女だけで楽しみましょう?」
「は、はい」

 えっと、王太子様を無下にしちゃって大丈夫なんでしょうか?

 もしかしてこの国では、あたしの育ったベルーシとは違ってそこまで身分のことを気にしなくてもいいんでしょうか?
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...