テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第二章

第62話 お料理をしました

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あれからリリアちゃんと合流したあたしは料理研究会の調理室にやってきました。眠っているホーちゃんはお留守番ですが、ユキとピーちゃんは一緒です。

「こんにちはー」

 リリアちゃんが勢いよく扉を開けると声を掛けました。

「あら、いらっしゃい。見学かしら?」
「はい。普通科一年のリリアです」
「えっと、ローザです」
「そう。よろしくね。私はフロレンティーナ・ニクラエ。普通科の三年で、この料理研究会の会長よ」
「よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いします。えっと、その……」

 リリアちゃんは元気よく挨拶したのでそれに続きますが、何となくあたしは偉い人に苦手意識があるんですよね。

「よろしくね。それから、私は子爵家の娘だけど気にしなくていいわよ。そんなに誇るような家柄でもないもの」
「あ、はい」

 もしかしたらこういう風な態度を取られ慣れているのかもしれません。

「あら? ローザちゃんは普通科なのに従魔を連れているのね。しかも二匹もだなんて。特にそっちの子の毛並みはすごいわ。これほどの手入れができるなんて……」
「あ。えっと、この子はユキで、この子はピーちゃんです。あと、ホーちゃんもいるんですけど今は眠ってて……」
「そうなの。ユキちゃんにピーちゃん、よろしくね」
「ミャー」
「ピー」
「あら。まるで言葉が分かっているみたい。すごいわね」

 先輩はニッコリと笑うとユキを軽く撫でてくれました。

「ただ従魔の子は調理室には入れられないからそっちの控室にいてもらえる?」
「あ、はい……」
「ごめんね。でも、料理をしているときにそこの可愛い猫ちゃんの毛が飛んできて入ったりしたらまずいでしょう?」

 そうなんですね。サバイバルのときは気にしたことありませんでした。

「わかりました。あ、でもピーちゃんは料理の時に出た食材の残りを食べてくれます」
「ああ、そうね。じゃあ、ピーちゃんだったかしら? その子には後でお片づけを手伝って貰いましょうね」
「はいっ!」

 良かったです。連れて帰れって言われたらどうしようと思っていましたけど、二人ともここにいて良いみたいです。

「はい。それじゃあ二人とも早く中に入って。今日はクッキーを焼くわよ」
「はい」

 こうしてあたし達のはじめてのクラブ活動が始まったのでした。

◆◇◆

 それからしばらく待って新しい人が来なくなったのでクッキーなるものを作ることになりました。あたしはクッキーという食べ物を食べたことがないのでよく分からないのですが、一体どんな食べ物なんでしょうね?

 あたしは借りたエプロンと三角巾をつけて早速調理台の前に立ちました。今日は先輩がマンツーマンでついて指導してくれるそうで、あたしの指導担当は副会長のザビーネ先輩です。赤い髪が特徴的な従魔科の三年生の女性で、平民の出身だそうです。

「そんじゃあ、ローザ。よろしくな」
「はい。よろしくお願いいたします」

 さて、いざ調理しようと思うのですが、一体何をすればよいのでしょうか?

 あたしの目の前には小麦粉、卵、バター、お砂糖と目も眩むような高級食材が並んでいます。

「ん? ローザ、どうした?」
「あ、えっと。ものすごく高級食材ばかりが並んでいて、その、一体何をどうすればいいか分からなくって……」
「はぁ? ああ、そうか。悪かったな。そういやあたいも料理研究会に入るまではほとんど砂糖なんて食べられなかったもんな。よし、じゃあ、クッキーを焼くのもはじめてか?」
「はい。食べるのもはじめてです」
「そっか。じゃあ、よく見て覚えな。クッキーに限らず、お菓子作りはしっかり量を測って手順通りにやるのが大事だからな」

 そう言うとザビーネ先輩は鮮やかな手つきで混ぜていきますが、手際が良すぎてさっぱりわかりません。

 そしてそのまま無言で混ぜ終わるとあたしの方を自慢気な表情で見てきました。

「どうだ? こうやるんだぞ?」
「え、えっと。その、すごい鮮やかな手つきで、その、すごいなって思いました」
「ん? そうだろうそうだろう。あたいももうクッキー作りは長いからな。このくらいお手の物だよ。じゃあローザ。真似してやってみな」
「え? えっと……」
「ん? さっき見せた通りにやるだけだぞ?」
「えっと、その、すごすぎて何だか分からなくって……」
「ん? あっ! わりぃ。またやっちまった。いつもあたいはこうなんだよな」

 それからあたしはザビーネ先輩に一緒にやってもらって何とか生地なるものを作ることができました。あとはこれを形に整形してオーブンで焼くのだそうです。

「おう。好きな形にしていいからな。最初は色々とやると楽しいもんだ」
「好きな形、ですか……」

 難しいです。あたしが好きなものと言えば、そうですね。ユキとピーちゃんとホーちゃんでしょうか? リリアちゃんも好きですけど、ちょっと人の形は難しそうですし、ユキ達の形にしてみましょう。

◆◇◆

 クッキーが焼き上がりました。あたしのクッキーも熱々に焼き上がって何だかとても良い匂いが漂ってきます。

「ローザちゃん、どうだった?」

 リリアちゃんが自分のクッキーを持ってあたしのところにやってきました。

「えっと、頑張りました」

 あたしは自分のクッキーをリリアちゃんに見せました。

「あ、えっと、これは、何の形だろう。うーん? あ、これはお猿さんかな?」

 ホーちゃんのつもりで作ったクッキーを指さしてリリアちゃんはそう言います。

「それでこっちのがテーブルで、これは……えっと、ごめん。わかんない」

 残念です。一つも正解してもらえませんでした。

「えっと、ホーちゃんと、ユキとピーちゃんです」
「えっ? あ、ああ、確かによく見れば、ホーちゃんとユキとピーちゃんだね。特にこのピーちゃんとかよくできていると思うよ。特徴を捉えているし、うん。そっくりだね」
「ううっ……」

 ちなみにリリアちゃんのクッキーはきれいな丸や四角や星型でとっても上手にできています。

「ほら、食べちゃえば一緒だし。ね、食べよ?」
「はい……」

 リリアちゃんがそう言って慰めてくれました。

 そうですよ。早く食べてしまいましょう。

 あたしはお祈りをするとクッキーを口に放り込みます。

 えっと、すっごく甘いです。ちょっと固くてぼそぼそしていますけど、先輩が紅茶を振る舞ってくれたのでそれと一緒ならすごく美味しいかもしれません。

「あ、ローザちゃん。取り替えっこしよ! はい、あーん」

 リリアちゃんがあたしにきれいな丸型のクッキーを食べさせてくれました。

 するとどうでしょうか!

 リリアちゃんのクッキーはサクッと滑らかな口当たりで、まるで舌の上でとろけていくようです。

「んー、おいしい」

 あたしが両手で自分の頬を抑えてその味を噛みしめていると、リリアちゃんがあたしのユキちゃんクッキーをつまんで口に入れました。

「ん゛……固い……」

 知ってました。リリアちゃんの顔が少し引きつっています。

「これはあれだよ。粉を入れてからきっと練りすぎたんじゃないかな。次はもうちょっと少なめで良いと思うよ」
「うん……」

 こうしてあたしのはじめてのクッキーはちょっと微妙な結果に終わったのでした。

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お読み頂きありがとうございます。諸般の事情により明日の更新はスキップさせて頂き、次回の更新は 2021/4/3(土) 20:00 とさせていただきます。何卒ご了承ください。

また、先週ご案内いたしましたアルパ閣下先生によるイラスト作成は順調に進んでおります。ラフの段階ですら鳥肌が立つほどの美麗なイラストとなっておりますので、どうぞご期待ください。

本作の進退をかけて臨むたいあっぷ様のオープニングコンテストもついに日程が決まり、6月からは読者様の投票が開始されるそうです。それまでにはきちんと作品として仕上げられるように作業を進めて参りますので、今後とも「テイマー少女の逃亡日記」をどうぞよろしくお願いいたします。
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