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第二章

第41話 チンピラは嫌いです

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「それじゃあ、ホーちゃん。よろしくね」
「ホー」

 ホーちゃんがすっかり薄暗くなった夜の草原に飛び立っていきました。基本的に夜行性のホーちゃんは夜の見張り番と寝ている間に狩りをしてもらいます。

 それからあたしは馬車の陰でピーちゃんに体をきれいにしてもらうと寝袋を鞄から取り出し、馬車の隅に適当なスペースを確保して横になります。ツェツィーリエさん夫婦はテントで、グスタフさんと三人組の男はあたしと一緒で馬車の中で雑魚寝です。

 寝袋の中にユキを入れるとピーちゃんを枕にそのまま目を閉じました。

 おやすみなさい。

****

 おはようございます。朝になりました。目を覚ましたらホーちゃんの顔が目の前にあってちょっとびっくりしましたけど朝です。

 それと朝からまたあの三人組があたしのことをジロジロ見ていて気持ち悪いです。胸ばっかり見るの、本当にやめて欲しいんですけど……。

 でも文句を言ってもどうせやめないのはレオシュ達でよく知っているので無視するしかないですね。下手に構うと良くないってオフェリアさんも言っていましたから。

 さて、ホーちゃんの夜の狩りの成果ですが中々です。野ウサギが三羽です。しかも首筋と尻尾を切って血抜きまでしてくれています。

「ホーちゃんありがとう」
「ホー」

 あたしがそう言うとホーちゃんも嬉しそうに返事をしてくれます。これは早速処理して朝ごはんを作るしかないですね。

 まずは毛皮を手早くナイフでぐとピーちゃんに処理してもらいます。ピーちゃんが処理してくれた毛皮は痛みにくくなるなって思っていたんですけど、これはどうやら職人の人がするのと同じ処理がされているみたいなんです。

 その証拠に、鑑定先生に聞くと「なめしたウサギの毛皮」って出るんですよ。

 最初はこれが何のことだか分かってなかったんですけど、鞣すと腐りにくくなってコートとかの材料として使えるようになるらしいんです。おかげで冒険者ギルドに持ち込むと良い値段で買い取ってもらえました。

 あたしのピーちゃん、すごいと思いませんか?

 あっと、話が脱線してしまいました。はい。それで毛皮を剥いで内臓を取り除いてたら今回はきちんと部位ごとにバラしていきます。

 あとは木の串に刺して焼いてしまいましょう。岩塩を鞄から取り出すふりをして収納から取り出すとあたしの分にだけパラパラと振ってあとはそのままです。ユキ達にはあまりお塩は要らないみたいなので素材の味そのままです。

 さあ、どんどん解体していきましょう。

「おはよう。ローザちゃん。そのウサギさん達はどうしたの?」
「この子が夜の間に狩ってきてくれました」
「そう。すごいのねぇ。ねぇ、もしよかったらわたし達のパンと少し交換してくれない
かい?」
「……どのくらいとですか?」
「そうねぇ。その後ろ足二本と黒パン一斤でどうかしら?」
「いいですよ」

 あたしは焼けた後ろ足二つ手渡すと黒パンを一斤を受けとります。

「ありがとう。美味しそうね」
「はい。狩ったばっかりですから」
「うん。ミミズクちゃんもありがとうね」

 ツェツィーリエさんの言葉を理解したのかは分かりませんが、ホーちゃんはこてりと首を傾げました。

「まぁ。まるで言葉が分かっているみたいねぇ。それじゃあまた後でね」

 そう言って焼きたてのお肉を持ったツェツィーリエさんはウキウキと旦那さんのところへと戻っていきました。

 そのやり取りを見ていたのか、三人組の男がニヤニヤと笑いながらこっちに来ました。

「よお、嬢ちゃん。俺らにもその肉、分けてくれよ」
「……代わりに何をくれるんですか?」
「あ? 良いじゃねぇか。同じ馬車の旅をしてる仲間だろ?」
「じゃあ、むね肉三枚で 30,000 レウです」
「なっ! ウサギのむね肉で 30,000 レウとか、舐めてんのか?」
「イヤなら諦めてください。これはあたし達の食事なんですから」
「このっ!」
「おい! やめとけ」

 あたしたちのやり取りを干し肉をかじりながら聞いていたグスタフさんが話に割り込んできます。

「んだと? このおっさんが!」
「俺たちを誰だと思ってんだ?」

 三人組の男がグスタフさんのところにずかずかと歩いて行きました。

「誰って、盗賊相手に嬢ちゃんに戦わせて馬車の中で震えてチビっていた腰抜けだろ?」
「あん?」
「そんで更に嬢ちゃんのペットのミミズクが捕まえてきた獲物をタダで横取りしようとする乞食だな」
「んだと!」

 煽られた三人組のうちの一人が腰の剣を抜きました。しかし次の瞬間立ち上がったグスタフさんの拳が見事にこめかみを捕らえ、その男はその場に倒れます。

「てめえ! やりやがったな!」
「剣を抜いたんだ。反撃されて当然だろう?」
「この!」
「おい! やめろ! 客同士で争うならこの場で降りてもらうぞ!」

 馬車の方から御者の二人が駆け寄ってきました。

「な? やめとけって言ったろ?」
「……ちっ」

 三人組は地面で伸びている一人を担ぐとそのまま馬車の方へと戻っていきました。それを見届けたグスタフさんは再び腰を下ろすと干し肉をかじり始めました。

 これは、お礼をした方が良いですよね?

 あたしは焼けたむね肉を先ほど貰った黒パンを切ってその上に乗せ、お塩を少し振ります。

「あの、グスタフさん」
「ん?」
「あ、えっと、ありがとうございました。その、これ、お礼です」
「お、おう。ありがとうな。でも俺は交換できるものはないぞ?」
「お礼ですから大丈夫です」
「そうか。じゃあありがたく貰っておくぜ」

 そんな様子を三人組が恨めしそうな目で睨んでいたのでした。
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