テイマー少女の逃亡日記

一色孝太郎

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第一章

第38話 旅立ちます

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 それからレオシュがお姉さんたちに嫌がらせをしてきたり気持ち悪い視線を向けてくる以外は何の問題もなく日々は流れ、新しい年を迎えました。

 そう、あたしはついに 12 歳となり成人したのです。

 ちなみに洗礼は二回目なので当然何かのスキルを授かることもなく、神父様のありがたいお話を聞いておしまいになりました。

 大きな町なので何百人もの子供が洗礼を受けていましたが、儀式が終わってから残されたのは二人だけだったのでやっぱりスキルを貰える確率ってものすごく低いんですね。

 あの場で残された子達がこれからどうなるのか気がかりではありますが、あたしも自分の身の安全の方が大事ですからね。わざわざ首を突っ込んだりはしません。

 さて、そんなわけで早速ですがあたしは冒険者となってマルダキア魔法王国へと旅立つことにしました。

 本当はまだあと二か月女子寮にいられるんですが、成人した以上レオシュが何か仕掛けてくるかもしれませんし、二月になれば雪が降って馬車が出ないなんてこともあるらしいですからね。

 オフェリアさんにマルダキア魔法王国に行くと言ったときは心配されましたが、ベルーシの出身と言ったら「そうか」とだけ言って少し恥ずかしそうにしていましたがすんなりと納得してくれました。

 あ、でも、出身はオーデルラーヴァだと釘を刺されちゃいましたよ。

 それと、冒険者登録自体は成人する前にオーデルラーヴァの支部で済ませてあるので、あたしはもう既に新米冒険者です。

 登録の時はブラジェナさんが一緒について来てくれましたし、特に何の問題も無く登録できましたよ。そもそも書類を書いたら終わりですからね。それにあたしくらいの年齢の子供が登録するのなんて珍しくも何ともないんです。

 職業はテイマー、従魔はスライムのピーちゃんと白猫のユキとミミズクのホーちゃんです。ユキとホーちゃんを登録してほしいと言ったら苦笑いされちゃいました。でもちゃんと登録してもらえたのであたしの従魔で、冒険者カードにもきっちりと記入されています。

 冒険者カードっていうのは冒険者ギルドの発行する身分証明書のようなもので、出身国や名前、職業なんかが記入されています。そこにテイマーの場合は従魔の事も記入されていて、入国の時に見せると手続きがスムーズなんだそうです。

 あたしはこの冒険者カードの他にオーデルラーヴァのパスポートも持っています。

 これはオフェリアさんが発行してくれたもので、あたしの魔力パターンも登録されているペンダント型の魔道具です。

 もちろんこれを発行するにはものすごいお金がかかるんですけど、オフェリアさん達があたしの成人祝いだって言ってプレゼントしてくれました。

 そして今日、旅立つあたしのお見送りにお姉さん達が来てくれているんです。

「ローザちゃん。その服も似合ってるわよ。しっかりね。元気でやるのよ!」
「はい! ブラジェナさんも。ありがとうございます」

 あたしの今着ている服はブラジェナさん達がプレゼントしてくれました。駆け出しのテイマーらしく、そして顔を見られて余計なトラブルにならない様にフード付きのしっかりしたローブです。

「ローザちゃんならできるわ」
「がんばるのよ」
「はい!」

 エリシュカさんにテレザさんがぎゅーっと抱きしめてくれます。

「ローザちゃん。これはお弁当よ。持って行ってね」
「ソニャさん。ありがとうございます」

 そういって渡してくれた籠の中には白パンのサンドイッチが入っていました。きっと、これからはこんな柔らかいパンを食べるのは難しいはずですからじっくり味わって食べようと思います。

「ローザちゃん。私からはこのセーブルのコートをあげるわ。マルダキアの冬は冷えるからね。風邪をひかないようにね」

 シルヴィエさんがくれた包みを開けると、中から見るからに仕立ての良い毛皮のコートが出てきました。

「ありがとうございます」
「いいのよ。元気でね」

 シルヴィエさんもぎゅっと抱きしめてくれました。

「ローザ。私達の力が無いばかりにすまない」
「そんなこと……」

 オフェリアさんもぎゅっと抱きしめてくれたのであたしも手を回して抱き返します。

「代わりと言っては何だが、これは私の推薦状だ。これがあれば一度だけ、ある程度の便宜を図って貰えるはずだ。どこで使うかはローザが考えて決めると良い」
「ありがとうございます」
「ローザ。どんな形でもいい。成り上がれ! レオシュなどでは手も出せなくなるくらいにな」
「はいっ!」

 そうしてあたしはマルダキア魔法王国へと向かう二週に一度の乗合馬車に乗り込みます。車内には向かい合うように木の板で作られた椅子がありましたので空いている席に腰かけると荷物を下ろします。

 ガタリと揺れると馬車はすぐに動き始めました。どうやらあたしが最後のお客さんだったようです。

「いってきまーす!」

 あたしがそう言って馬車から手を振ると、オフェリアさん達も大きく手を振り返してくれたのでした。

================
お読みいただきありがとうございました。これにて第一章完結となります。

本作は次章での完結を目指して執筆して参りますが、執筆ペースの問題から、今後は週に1~2回を目標とした不定期更新とさせていただきます。何卒ご了承ください。
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