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第一章
第33話 オフェリアさんはすごいのです
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オフェリアさんの飛ばした檄に反応してあたし達の前を歩いていた騎士たちが入れ替わる様にあたし達と親玉ゴブリンの前に出ました。
「どうやらこいつの目的は女のようだ。ブラジェナ、ローザを連れて下がれ」
「はっ」
「え? あ」
でもこいつはあたしを追いかけてきたんだから、あたしが逃げたら追いかけて来ちゃうんじゃ?
「ほら、行くよ! ローザちゃん!」
そう考えますが、ブラジェナさんに手を引っ張られて想わず走り出します。
「グガー」
あいつはあたしを追いかけようと雄たけびをあげて動き出します。しかしその隙を見逃さなかった騎士たちが周りを囲むと流れるような動作でその体に剣を突き立てます。
やった!
今度こそあの親玉ゴブリンを倒した!
そう思ったのですがあたしの予想は裏切られました。ブスっと刺さる音ではなく、まるで金属でも叩いたかのような硬い音が辺りに響きます。
「なっ?」
「馬鹿な」
「剣が通らない?」
騎士たちがあまりの事に言葉を失っています。
「ガァァァァ!」
親玉ゴブリンは叫び声をあげると棍棒を一閃し、剣を突き立てようとした騎士たちを吹き飛ばされます。
「これが変異種の力か。シルヴィエ! 出し惜しみは無しだ。魔術を使って一気に仕留めるぞ!」
「はっ」
それからオフェリアさんとシルヴィエさんはすっと集中したのか、纏う空気が変わりました。そしてすぐに魔力が高まり、オフェリアさんの頭上には巨大な炎の槍が、シルヴィエさんの頭上には巨大な岩の槍が出現しました。
「撃つぞ!」
オフェリアさんのその声に合わせて騎士の人たちがさっとどいて射線が確保されます。そしてオフェリアさんとシルヴィエさんの炎と石の槍がものすごいスピードで飛んでいきます。
親玉ゴブリンはそれに反応して避けようとしますが高速で飛んでくる槍に反応が追いついていません。
爆発音と共に魔法が炸裂し、炎がゴブリンを包み込みます。
「やったか?」
周りの騎士の誰かがそう叫びました。あたし達は全員固唾を飲んで見守ります。
そしてやがて炎が消えるとそこには憤怒の表情を浮かべた親玉ゴブリンがあたし達を睨んでいます。
「ちっ。皮膚が焼けただけか。それにシルヴィエの魔術ですら通らないとはな」
「グガァァァ!」
親玉ゴブリンが雄たけびを上げながらオフェリアさんに突っ込んできました。間にいた男性騎士達がまるで人形のように簡単に吹っ飛ばされて行きます。
「これほどとはな。第七隊はシルヴィエを除いて全員下がれ! 私が直接相手をする!」
そう言うとオフェリアさんは剣を抜き、親玉ゴブリンに向かって駆けだします。
「はっ!」
気合を入れたオフェリアさんの剣に魔力が集中したのが分かります。そして次の瞬間、オフェリアさんの剣が炎に包まれました。
「すごい……」
「でしょう? あれが隊長の魔法剣よ。火属性の魔術でうちの隊長に勝てる騎士はこの騎士団にはいないわ。大陸中を見てもかなりの使い手のはずよ」
そう言ってブラジェナさんがまるで自分の事のように胸を張りながらそう誇らしげに説明してくれました。
オフェリアさんは素早い動きで親玉ゴブリンの棍棒を交わしながらコツコツと攻撃を当て続けています。
ですが、オフェリアさんに斬られているのに親玉ゴブリンが苦しんでいる様子がありません。これはやっぱり効いていないのでしょうか?
「あの、ブラジェナさん。あれって、効いてるんですか?」
「うーん。そうね」
ブラジェナさんは頤に人差し指を当てて少し考えた様子です。
「隊長の一撃一撃は大したダメージを与えられていないわね」
「え! じゃあ!」
「でもね。あれは有効打を与えるための布石なの」
「え?」
「ほら、よく見て。隊長は常に同じところを攻撃しているでしょ? あいつの右脇腹、それから左の膝の上のあたり」
本当です。よく見ると親玉ゴブリンの棍棒をいなしてからのオフェリアさんの攻撃は必ず右の脇腹と左膝のどちらかに当たっています。
「ああすることで、隊長の剣は通らなくても炎は少しずつ確実に皮膚を焼いていっているの。そして炎に焼かれ続けた皮膚はそのうち限界を迎えるわ」
「グガァァァァァ」
ブラジェナさんの解説の直後、親玉ゴブリンが苦悶の叫び声を上げました。よく見ると親玉ゴブリンの左膝から大量に出血しています。
親玉ゴブリンは力まかせに棍棒を振り下ろしてきますが、左ひざに上手く力が入らないからなのか、先ほどまでの鋭い振りとは違い、どこがぎこちない動きになっています。
そこにオフェリアさんはカウンターで素早い一撃を合わせ、左の脇腹を切り付けてそのまま親玉ゴブリンの後ろまで駆け抜けます。
「シルヴィエェ!」
「はっ!」
オフェリアさんの指示に反応したシルヴィエさんが即座に魔法を放ちます。親玉ゴブリンの目の前の地面から突如岩の槍がものすごいスピードで突き出し、大きく空振りしたおかげで無防備になった親玉ゴブリンの顎を完璧にとらえました。
ゴスン、と鈍い音と共に顎に岩の槍を打ち込まれた親玉ゴブリンはそのまま後ろ向きに倒れて大の字になりました。
ピクリとも動かないのでどうやら完全に失神したようです。
それでもオフェリアさんは油断せず、炎を剣を構えたまま慎重に親玉ゴブリンへと近づきます。
しかし次の瞬間、事件が起こりました。
レオシュがすっと近づいて行ったかと思うと大の字になっている親玉ゴブリンの上に乗り、そのまま目に剣を突き立てました。
「爆ぜろ!」
あいつが何か魔法を発動し、親玉ゴブリンの頭がパンと弾けました。
うげぇ。気持ち悪い。
「あいつ! 手柄を!」
「ゴブリンの変異種はこのレオシュ・ニェメチェクが討ち取った!」
ブラジェナさんの非難の声とレオシュの勝ち誇ったような声が同時に聞こえてきたのでした。
「どうやらこいつの目的は女のようだ。ブラジェナ、ローザを連れて下がれ」
「はっ」
「え? あ」
でもこいつはあたしを追いかけてきたんだから、あたしが逃げたら追いかけて来ちゃうんじゃ?
「ほら、行くよ! ローザちゃん!」
そう考えますが、ブラジェナさんに手を引っ張られて想わず走り出します。
「グガー」
あいつはあたしを追いかけようと雄たけびをあげて動き出します。しかしその隙を見逃さなかった騎士たちが周りを囲むと流れるような動作でその体に剣を突き立てます。
やった!
今度こそあの親玉ゴブリンを倒した!
そう思ったのですがあたしの予想は裏切られました。ブスっと刺さる音ではなく、まるで金属でも叩いたかのような硬い音が辺りに響きます。
「なっ?」
「馬鹿な」
「剣が通らない?」
騎士たちがあまりの事に言葉を失っています。
「ガァァァァ!」
親玉ゴブリンは叫び声をあげると棍棒を一閃し、剣を突き立てようとした騎士たちを吹き飛ばされます。
「これが変異種の力か。シルヴィエ! 出し惜しみは無しだ。魔術を使って一気に仕留めるぞ!」
「はっ」
それからオフェリアさんとシルヴィエさんはすっと集中したのか、纏う空気が変わりました。そしてすぐに魔力が高まり、オフェリアさんの頭上には巨大な炎の槍が、シルヴィエさんの頭上には巨大な岩の槍が出現しました。
「撃つぞ!」
オフェリアさんのその声に合わせて騎士の人たちがさっとどいて射線が確保されます。そしてオフェリアさんとシルヴィエさんの炎と石の槍がものすごいスピードで飛んでいきます。
親玉ゴブリンはそれに反応して避けようとしますが高速で飛んでくる槍に反応が追いついていません。
爆発音と共に魔法が炸裂し、炎がゴブリンを包み込みます。
「やったか?」
周りの騎士の誰かがそう叫びました。あたし達は全員固唾を飲んで見守ります。
そしてやがて炎が消えるとそこには憤怒の表情を浮かべた親玉ゴブリンがあたし達を睨んでいます。
「ちっ。皮膚が焼けただけか。それにシルヴィエの魔術ですら通らないとはな」
「グガァァァ!」
親玉ゴブリンが雄たけびを上げながらオフェリアさんに突っ込んできました。間にいた男性騎士達がまるで人形のように簡単に吹っ飛ばされて行きます。
「これほどとはな。第七隊はシルヴィエを除いて全員下がれ! 私が直接相手をする!」
そう言うとオフェリアさんは剣を抜き、親玉ゴブリンに向かって駆けだします。
「はっ!」
気合を入れたオフェリアさんの剣に魔力が集中したのが分かります。そして次の瞬間、オフェリアさんの剣が炎に包まれました。
「すごい……」
「でしょう? あれが隊長の魔法剣よ。火属性の魔術でうちの隊長に勝てる騎士はこの騎士団にはいないわ。大陸中を見てもかなりの使い手のはずよ」
そう言ってブラジェナさんがまるで自分の事のように胸を張りながらそう誇らしげに説明してくれました。
オフェリアさんは素早い動きで親玉ゴブリンの棍棒を交わしながらコツコツと攻撃を当て続けています。
ですが、オフェリアさんに斬られているのに親玉ゴブリンが苦しんでいる様子がありません。これはやっぱり効いていないのでしょうか?
「あの、ブラジェナさん。あれって、効いてるんですか?」
「うーん。そうね」
ブラジェナさんは頤に人差し指を当てて少し考えた様子です。
「隊長の一撃一撃は大したダメージを与えられていないわね」
「え! じゃあ!」
「でもね。あれは有効打を与えるための布石なの」
「え?」
「ほら、よく見て。隊長は常に同じところを攻撃しているでしょ? あいつの右脇腹、それから左の膝の上のあたり」
本当です。よく見ると親玉ゴブリンの棍棒をいなしてからのオフェリアさんの攻撃は必ず右の脇腹と左膝のどちらかに当たっています。
「ああすることで、隊長の剣は通らなくても炎は少しずつ確実に皮膚を焼いていっているの。そして炎に焼かれ続けた皮膚はそのうち限界を迎えるわ」
「グガァァァァァ」
ブラジェナさんの解説の直後、親玉ゴブリンが苦悶の叫び声を上げました。よく見ると親玉ゴブリンの左膝から大量に出血しています。
親玉ゴブリンは力まかせに棍棒を振り下ろしてきますが、左ひざに上手く力が入らないからなのか、先ほどまでの鋭い振りとは違い、どこがぎこちない動きになっています。
そこにオフェリアさんはカウンターで素早い一撃を合わせ、左の脇腹を切り付けてそのまま親玉ゴブリンの後ろまで駆け抜けます。
「シルヴィエェ!」
「はっ!」
オフェリアさんの指示に反応したシルヴィエさんが即座に魔法を放ちます。親玉ゴブリンの目の前の地面から突如岩の槍がものすごいスピードで突き出し、大きく空振りしたおかげで無防備になった親玉ゴブリンの顎を完璧にとらえました。
ゴスン、と鈍い音と共に顎に岩の槍を打ち込まれた親玉ゴブリンはそのまま後ろ向きに倒れて大の字になりました。
ピクリとも動かないのでどうやら完全に失神したようです。
それでもオフェリアさんは油断せず、炎を剣を構えたまま慎重に親玉ゴブリンへと近づきます。
しかし次の瞬間、事件が起こりました。
レオシュがすっと近づいて行ったかと思うと大の字になっている親玉ゴブリンの上に乗り、そのまま目に剣を突き立てました。
「爆ぜろ!」
あいつが何か魔法を発動し、親玉ゴブリンの頭がパンと弾けました。
うげぇ。気持ち悪い。
「あいつ! 手柄を!」
「ゴブリンの変異種はこのレオシュ・ニェメチェクが討ち取った!」
ブラジェナさんの非難の声とレオシュの勝ち誇ったような声が同時に聞こえてきたのでした。
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