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第一章
第32話 またあいつが追いかけてきました
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騎士たちがゴブリンの集落を攻撃しています。元はミツェ村の住民たちが住んでいたであろう木造の家屋に次々と火を放ち、飛び出してきたゴブリンたちを討ち取っていきます。
あのレオシュも態度は悪いですがあれでも一応は騎士のようで、ゴブリンたちを嬉々として斬り殺していっています。ゴブリンは滅ぶべきだとは思いますがあいつがやっているのを見ると何となくモヤモヤした気分になるのは何故でしょうか?
さて、そんな様子をあたし達は集落の入り口から少し離れた場所で見学しています。女にくれてやる手柄はないという事なのか、それとも騎士らしく女性を守ろうとしてくれているのかは分かりませんが、集落の殲滅戦にオフェリアさん達は加わらなくて良いそうです。
あたしもあんな中に入ったらとてもまともに動けないでしょうし、このまま何事もなく終わってくれれば良いですけど。
そんなことを漠然と考えながら膝の上のユキを撫でていると、集落の方から歓声がわき起こりました。
「お、どうやらゴブリンどものリーダーを討ち取ったようだな。後は文字通り、残ったゴブリンどもを処理すれば終わりだ」
よかったです。ようやく帰れるみたいです。
そしてしばらくするとオフェリアさんが呼ばれて何人かの騎士と一緒に集落の中に入っていきました。
オフェリアさんの代わりにシルヴィエさんが今度はあたしについていてくれます。
「ローザちゃん、ごめんなさいね。もう少しで終わるから我慢してくれる?」
「はい」
「うん。いい子ね」
シルヴィエさんはそう言ってあたしの頭を優しく撫でてくれます。
それからしばらくすると、ドーンと大きな爆発音がして集落は炎に包まれました。
「え? 爆発? オフェリアさんは!?」
「大丈夫よ。あれは隊長の魔術だから」
シルヴィエさんがあたしの手をぎゅっと握ってくれて、その温もりのおかげで少しだけ落ち着くことができました。
それからまたしばらくするとオフェリアさんが疲れた表情であたし達の方へと戻ってきました。
「任務完了だ。残念ながら生存者はいない」
「隊長、お疲れ様でした」
そう言ってオフェリアさんを労ったシルヴィエさんは何故か冴えない表情をしていたのでした。
****
今まで姿の見えなかった男性騎士が続々と戻ってきました。もちろん、あのレオシュもですが、ものすごく晴れやかな表情をしているのできっと手柄を立てたという事なんでしょう。
あたし達を盾にして手に入れた手柄っていうのが何ともムカつきますけどね。
そんなレオシュ達はあたし達の前を無言で通り過ぎていきました。こちらに視線を向けることすらしませんでした。
え? なんですかそれ! 普通、労いの言葉くらいはかけるんじゃないですか?
あたしが怒っているのが分かったのか、オフェリアさんがあたしの頭を撫でてくれました。
「気にするな。怒るだけ無駄だ」
「……はい」
ムカつきます。すごいムカつきますけど、どうしようもないんでしょうね。
あたしはため息を一つ吐くと立ち上がって歩き出します。
行きと違い、今回は列の真ん中を歩いて行きます。先頭でゴブリン退治をすることもなく、後ろで追いかけてきたゴブリンに攻撃されることもない比較的安全な場所です。
と言っても、もうゴブリンの集落を全滅させて燃やした後なのでほとんど襲ってこないでしょうけど。
何とももやもやした気分であたしは森の道を歩き続けていた時でした。
突然、あたしが抱っこしているユキが後ろをちらちらと気にし始めました。そして肩にいるホーちゃんも首をぐるりと回して後ろを警戒しています。ピーちゃんは……頭の上にいるのでよく見えません。
「ユキ? ホーちゃん? どうしたんですか?」
あたしの問いには答えずに後ろをじっと見つめています。
「シャーッ」
「ホー」
突然ユキとホーちゃんが後ろを威嚇し、そしてあたし達の後ろを歩いていた騎士が吹き飛びました。
「え?」
「敵襲! 陣形を整えろ!」
オフェリアさんの指示で第七隊はあたしを守る様に隊列を組みます。
「な、何だこいつは! うわぁぁぁ」
また一人吹き飛び、木に体を強かに打ち付けられてぐったりとしてしまいました。
そしてまた一人、また一人と騎士たちがやられていっています。
「何をしている! 囲んで攻撃しろ」
オフェリアさんがそう指示を飛ばしますが襲撃された騎士たちは既に混乱状態になっており、成すすべなく吹き飛ばされていきます。
後ろにいた何十人もの男性騎士達を全員を吹き飛ばし、そしてついにそいつはあたし達の前に姿を現しました。
そいつは棍棒を持った巨大なゴブリンでした。親玉ゴブリンよりも背が高く、普通のゴブリンの倍くらいの背丈があるのでもう大人の男性よりも高いです。
そしてそいつの体のあちこちに丸い何かで刺された様な傷痕があります。そう、まるであたしが蜂の巣にした親玉ゴブリンのような……。
「グゴゴゴゴ」
あたしを見たそいつはニタリと笑いました。
「ま、まさかあいつ……」
確信しました。あいつ、あの時の親玉ゴブリンです。あたしを追いかけてここまでやってきたに違いありません。
「まずいな。あれはゴブリンの変異種だ。誰かがあのゴブリンにきちんとトドメを刺さなかったせいで変異進化してしまったのだろう」
え? あたしのせい? というか、どうしてあの傷で生きているんですか?
「お前たち! あれを放置するわけにはいかん! 何としてもここで討つぞ! 第一隊も協力しろ!」
================
次回更新は 12/28 20:00 を予定しております。
★★★お願い★★★
新作「ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです」の連載を 12/23 より開始しました(※タイトル変更しています。旧題:ガチャに人生全ツッパ)。
ぜひアプリの方は目次に戻って頂き、著者近況からの作品一覧で、ブラウザの方は下のリンクよりどうぞご覧ください。
あのレオシュも態度は悪いですがあれでも一応は騎士のようで、ゴブリンたちを嬉々として斬り殺していっています。ゴブリンは滅ぶべきだとは思いますがあいつがやっているのを見ると何となくモヤモヤした気分になるのは何故でしょうか?
さて、そんな様子をあたし達は集落の入り口から少し離れた場所で見学しています。女にくれてやる手柄はないという事なのか、それとも騎士らしく女性を守ろうとしてくれているのかは分かりませんが、集落の殲滅戦にオフェリアさん達は加わらなくて良いそうです。
あたしもあんな中に入ったらとてもまともに動けないでしょうし、このまま何事もなく終わってくれれば良いですけど。
そんなことを漠然と考えながら膝の上のユキを撫でていると、集落の方から歓声がわき起こりました。
「お、どうやらゴブリンどものリーダーを討ち取ったようだな。後は文字通り、残ったゴブリンどもを処理すれば終わりだ」
よかったです。ようやく帰れるみたいです。
そしてしばらくするとオフェリアさんが呼ばれて何人かの騎士と一緒に集落の中に入っていきました。
オフェリアさんの代わりにシルヴィエさんが今度はあたしについていてくれます。
「ローザちゃん、ごめんなさいね。もう少しで終わるから我慢してくれる?」
「はい」
「うん。いい子ね」
シルヴィエさんはそう言ってあたしの頭を優しく撫でてくれます。
それからしばらくすると、ドーンと大きな爆発音がして集落は炎に包まれました。
「え? 爆発? オフェリアさんは!?」
「大丈夫よ。あれは隊長の魔術だから」
シルヴィエさんがあたしの手をぎゅっと握ってくれて、その温もりのおかげで少しだけ落ち着くことができました。
それからまたしばらくするとオフェリアさんが疲れた表情であたし達の方へと戻ってきました。
「任務完了だ。残念ながら生存者はいない」
「隊長、お疲れ様でした」
そう言ってオフェリアさんを労ったシルヴィエさんは何故か冴えない表情をしていたのでした。
****
今まで姿の見えなかった男性騎士が続々と戻ってきました。もちろん、あのレオシュもですが、ものすごく晴れやかな表情をしているのできっと手柄を立てたという事なんでしょう。
あたし達を盾にして手に入れた手柄っていうのが何ともムカつきますけどね。
そんなレオシュ達はあたし達の前を無言で通り過ぎていきました。こちらに視線を向けることすらしませんでした。
え? なんですかそれ! 普通、労いの言葉くらいはかけるんじゃないですか?
あたしが怒っているのが分かったのか、オフェリアさんがあたしの頭を撫でてくれました。
「気にするな。怒るだけ無駄だ」
「……はい」
ムカつきます。すごいムカつきますけど、どうしようもないんでしょうね。
あたしはため息を一つ吐くと立ち上がって歩き出します。
行きと違い、今回は列の真ん中を歩いて行きます。先頭でゴブリン退治をすることもなく、後ろで追いかけてきたゴブリンに攻撃されることもない比較的安全な場所です。
と言っても、もうゴブリンの集落を全滅させて燃やした後なのでほとんど襲ってこないでしょうけど。
何とももやもやした気分であたしは森の道を歩き続けていた時でした。
突然、あたしが抱っこしているユキが後ろをちらちらと気にし始めました。そして肩にいるホーちゃんも首をぐるりと回して後ろを警戒しています。ピーちゃんは……頭の上にいるのでよく見えません。
「ユキ? ホーちゃん? どうしたんですか?」
あたしの問いには答えずに後ろをじっと見つめています。
「シャーッ」
「ホー」
突然ユキとホーちゃんが後ろを威嚇し、そしてあたし達の後ろを歩いていた騎士が吹き飛びました。
「え?」
「敵襲! 陣形を整えろ!」
オフェリアさんの指示で第七隊はあたしを守る様に隊列を組みます。
「な、何だこいつは! うわぁぁぁ」
また一人吹き飛び、木に体を強かに打ち付けられてぐったりとしてしまいました。
そしてまた一人、また一人と騎士たちがやられていっています。
「何をしている! 囲んで攻撃しろ」
オフェリアさんがそう指示を飛ばしますが襲撃された騎士たちは既に混乱状態になっており、成すすべなく吹き飛ばされていきます。
後ろにいた何十人もの男性騎士達を全員を吹き飛ばし、そしてついにそいつはあたし達の前に姿を現しました。
そいつは棍棒を持った巨大なゴブリンでした。親玉ゴブリンよりも背が高く、普通のゴブリンの倍くらいの背丈があるのでもう大人の男性よりも高いです。
そしてそいつの体のあちこちに丸い何かで刺された様な傷痕があります。そう、まるであたしが蜂の巣にした親玉ゴブリンのような……。
「グゴゴゴゴ」
あたしを見たそいつはニタリと笑いました。
「ま、まさかあいつ……」
確信しました。あいつ、あの時の親玉ゴブリンです。あたしを追いかけてここまでやってきたに違いありません。
「まずいな。あれはゴブリンの変異種だ。誰かがあのゴブリンにきちんとトドメを刺さなかったせいで変異進化してしまったのだろう」
え? あたしのせい? というか、どうしてあの傷で生きているんですか?
「お前たち! あれを放置するわけにはいかん! 何としてもここで討つぞ! 第一隊も協力しろ!」
================
次回更新は 12/28 20:00 を予定しております。
★★★お願い★★★
新作「ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです」の連載を 12/23 より開始しました(※タイトル変更しています。旧題:ガチャに人生全ツッパ)。
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