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第一章
第31話 騎士失格だと思います
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「処分は済んだか?」
「はっ。討伐証明部位は回収しました。総数、百二十五です」
「そうか。では燃やしておけ」
「はっ」
「それと隊長。逃げたものと森の茂みの中のものとで頭に穴の開いた死体が合わせて十五ありました。いかがいたしましょう?」
「それもまとめて燃やしておけ。我々が倒したわけではないからな。討伐証明部位は必要ない」
「はっ」
オフェリアさんの指示によっててきぱきとゴブリンの死体が処理されていきます。
あ、これってもしかしてあたしを守るためにオフェリアさんが証拠隠滅してくれているんでしょうか?
十五匹ってことはあたしが倒した数と一緒ですし。
オフェリアさん、ありがとうございます。
****
そしてゴブリンの死体が燃え尽きた頃、レオシュ達がようやく到着しました。
「随分と遅い到着だな。貴殿の部隊は時間通りの作戦行動もできんのか? レオシュ分隊長」
「いえいえ。我々もゴブリンと戦っておりましたので到着が遅れてしまいました」
レオシュは悪びれた様子もなく、ニヤニヤしながらそう答えました。ただ、あいつらの鎧は返り血で汚れていないので絶対嘘だと思います。
「そうか。だが作戦通り誘引した百二十五のゴブリンは全てこちらで片付けたぞ。これで我が隊の役目は終わりだ。後は任せたぞ」
「いえいえ。新たな命令書を受け取っております。こちらを」
「なんだと?」
オフェリアさんが怪訝そうな表情をしながらもレオシュから紙を受け取り目を通します。そしてみるみるうちに表情が険しくなっていきます。
「本気で団長はこのような命令を出したのか? 我が隊は民間人の少女を警護しているのだぞ?」
「ええ、もちろんです。団長と副団長のサインもあるではありませんか」
「……チッ、仕方ない。総員! これより我々はミツェ村の奪還作戦の支援を行う。民間人の少女を守りながらの難しい作戦になるが、誰一人欠けることは許さん。厳しい訓練を耐え抜いたお前たちであれば必ずやり抜けるはずだ」
「「「はっ」」」
ええと? 何であたしがいるのにそんな命令が?
あたしがちらりとレオシュの方を見ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたのでした。
あ、これってもしかしてあたし、嫌がらせに巻き込まれているんですか?
****
それからオフェリアさんが先頭に立ち、ゴブリンの大群を倒しながらあたし達は少しずつ前進しています。
ただ、どうしても納得できないことがあります。どうして後ろでついて来ているあのレオシュの部隊は戦わないんですかね?
もう意味が分からないんですけど!
後ろでニヤニヤしながらあたし達が戦うのを見ているだけで、この人たち何でこんななのに騎士なんてできるんですか?
女性が必死に戦っているのに、男性の騎士が戦わないなんて!
そんなに女性が騎士になるのが気に入らないんですか?
最低な奴らだと思いません? ホントに!
しかもですよ。たまに討ちもらしたゴブリンが茂みを抜けて後ろのあいつらに襲い掛かるとですよ。簡単に倒すんです。そりゃあ騎士なんだし男の人の方が力があるのは分かります。でもですよ?
「おい! 何をやっている第七隊! 後ろに抜けてきているではないか! 遊んでいるのか?」
とか言ってくるんですよ?
もう、ホントに最低です。
それでもオフェリアさん達のおかげで何とかゴブリンの集落まで辿りつくことができました。はい、決して後ろでニヤニヤしながら偉そうにしていただけの奴らのおかげじゃないです。
でもそのせいでオフェリアさんの部隊の人達はもう体力が残っていない感じです。
「それではオフェリア殿、ご苦労様でした。後は我々にお任せください」
「チッ」
オフェリアさんは露骨にイヤな顔をして舌打ちをしましたが、そんな態度には目もくれずにレオシュの部隊はゴブリンの集落に突撃していきます。そしてあいつらが突撃したのを皮きりにあちこちから騎士たちが飛び出してきて村を占領していたゴブリンの群れを攻撃していきます。
「なんなんですか! なんなんですか!? あの人!」
「我々を盾に使って体力を温存したかったのだろう。一番の手柄はゴブリンの群れを率いるリーダーの首を取ることだからな」
「そんな! 同じ騎士団ってことは味方なんですよね? 味方を利用するなんてまるで敵じゃないですか!」
「そんなことは……いや、ここまで見られて取り繕うも何もあったものではないな」
オフェリアさんはそう言って大きくため息をつきました。
「要するに、騎士団の中の権力争いだ。騎士団には私を含めて七人の隊長がいて、同じ発言力を持っている事になっているのだが、その中でも第七隊は目的が目的なだけに人数が少ないのだ。だがその割には発言力が大きいという事もあってな」
オフェリアさんの口調は淡々として、どこか諦めのような物が感じられました。
「ただでさえ良く思われていないところに女が出世するのが気に食わない、という妙な嫉妬心も加わってああも醜い事になっているのだ。だが、騎士の全てがあんなではないという事だけは分かってほしい」
「……はい」
なんだかよく分からないですけど、騎士の人たちも大変なようです。
でも、やっぱり女性を、しかも一般人の子供がいるのにそれを盾にするなんてもう騎士失格なんじゃないですかね?
================
本作をここまでお読みいただいてありがとうございます。
本日まで毎日更新を続けて参りましたが、今後は第一章完結までを隔日更新とさせていただき、その後は第二章での完結を目指し週に 1 ~ 2 回程度を目途とした不定期更新とさせていただきたく思います。
完結を目指して今後も本作の執筆も継続していく所存ではございますがその更新ペースが落ちてしまう事、何卒ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。
なお、次回は 12/26 20:00 更新予定となります。
「はっ。討伐証明部位は回収しました。総数、百二十五です」
「そうか。では燃やしておけ」
「はっ」
「それと隊長。逃げたものと森の茂みの中のものとで頭に穴の開いた死体が合わせて十五ありました。いかがいたしましょう?」
「それもまとめて燃やしておけ。我々が倒したわけではないからな。討伐証明部位は必要ない」
「はっ」
オフェリアさんの指示によっててきぱきとゴブリンの死体が処理されていきます。
あ、これってもしかしてあたしを守るためにオフェリアさんが証拠隠滅してくれているんでしょうか?
十五匹ってことはあたしが倒した数と一緒ですし。
オフェリアさん、ありがとうございます。
****
そしてゴブリンの死体が燃え尽きた頃、レオシュ達がようやく到着しました。
「随分と遅い到着だな。貴殿の部隊は時間通りの作戦行動もできんのか? レオシュ分隊長」
「いえいえ。我々もゴブリンと戦っておりましたので到着が遅れてしまいました」
レオシュは悪びれた様子もなく、ニヤニヤしながらそう答えました。ただ、あいつらの鎧は返り血で汚れていないので絶対嘘だと思います。
「そうか。だが作戦通り誘引した百二十五のゴブリンは全てこちらで片付けたぞ。これで我が隊の役目は終わりだ。後は任せたぞ」
「いえいえ。新たな命令書を受け取っております。こちらを」
「なんだと?」
オフェリアさんが怪訝そうな表情をしながらもレオシュから紙を受け取り目を通します。そしてみるみるうちに表情が険しくなっていきます。
「本気で団長はこのような命令を出したのか? 我が隊は民間人の少女を警護しているのだぞ?」
「ええ、もちろんです。団長と副団長のサインもあるではありませんか」
「……チッ、仕方ない。総員! これより我々はミツェ村の奪還作戦の支援を行う。民間人の少女を守りながらの難しい作戦になるが、誰一人欠けることは許さん。厳しい訓練を耐え抜いたお前たちであれば必ずやり抜けるはずだ」
「「「はっ」」」
ええと? 何であたしがいるのにそんな命令が?
あたしがちらりとレオシュの方を見ると、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたのでした。
あ、これってもしかしてあたし、嫌がらせに巻き込まれているんですか?
****
それからオフェリアさんが先頭に立ち、ゴブリンの大群を倒しながらあたし達は少しずつ前進しています。
ただ、どうしても納得できないことがあります。どうして後ろでついて来ているあのレオシュの部隊は戦わないんですかね?
もう意味が分からないんですけど!
後ろでニヤニヤしながらあたし達が戦うのを見ているだけで、この人たち何でこんななのに騎士なんてできるんですか?
女性が必死に戦っているのに、男性の騎士が戦わないなんて!
そんなに女性が騎士になるのが気に入らないんですか?
最低な奴らだと思いません? ホントに!
しかもですよ。たまに討ちもらしたゴブリンが茂みを抜けて後ろのあいつらに襲い掛かるとですよ。簡単に倒すんです。そりゃあ騎士なんだし男の人の方が力があるのは分かります。でもですよ?
「おい! 何をやっている第七隊! 後ろに抜けてきているではないか! 遊んでいるのか?」
とか言ってくるんですよ?
もう、ホントに最低です。
それでもオフェリアさん達のおかげで何とかゴブリンの集落まで辿りつくことができました。はい、決して後ろでニヤニヤしながら偉そうにしていただけの奴らのおかげじゃないです。
でもそのせいでオフェリアさんの部隊の人達はもう体力が残っていない感じです。
「それではオフェリア殿、ご苦労様でした。後は我々にお任せください」
「チッ」
オフェリアさんは露骨にイヤな顔をして舌打ちをしましたが、そんな態度には目もくれずにレオシュの部隊はゴブリンの集落に突撃していきます。そしてあいつらが突撃したのを皮きりにあちこちから騎士たちが飛び出してきて村を占領していたゴブリンの群れを攻撃していきます。
「なんなんですか! なんなんですか!? あの人!」
「我々を盾に使って体力を温存したかったのだろう。一番の手柄はゴブリンの群れを率いるリーダーの首を取ることだからな」
「そんな! 同じ騎士団ってことは味方なんですよね? 味方を利用するなんてまるで敵じゃないですか!」
「そんなことは……いや、ここまで見られて取り繕うも何もあったものではないな」
オフェリアさんはそう言って大きくため息をつきました。
「要するに、騎士団の中の権力争いだ。騎士団には私を含めて七人の隊長がいて、同じ発言力を持っている事になっているのだが、その中でも第七隊は目的が目的なだけに人数が少ないのだ。だがその割には発言力が大きいという事もあってな」
オフェリアさんの口調は淡々として、どこか諦めのような物が感じられました。
「ただでさえ良く思われていないところに女が出世するのが気に食わない、という妙な嫉妬心も加わってああも醜い事になっているのだ。だが、騎士の全てがあんなではないという事だけは分かってほしい」
「……はい」
なんだかよく分からないですけど、騎士の人たちも大変なようです。
でも、やっぱり女性を、しかも一般人の子供がいるのにそれを盾にするなんてもう騎士失格なんじゃないですかね?
================
本作をここまでお読みいただいてありがとうございます。
本日まで毎日更新を続けて参りましたが、今後は第一章完結までを隔日更新とさせていただき、その後は第二章での完結を目指し週に 1 ~ 2 回程度を目途とした不定期更新とさせていただきたく思います。
完結を目指して今後も本作の執筆も継続していく所存ではございますがその更新ペースが落ちてしまう事、何卒ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。
なお、次回は 12/26 20:00 更新予定となります。
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