16 / 268
第一章
第16話 食事を横取りされました
しおりを挟む
2020/12/12 誤字を修正しました
2020/12/23 誤字を修正しました
================
「ほら、ユキ。薬草だよ」
マイホームに帰ってきたあたしはユキを急いで毛皮の上に寝かせました。そして途中で見つけた薬草を急いですり潰すとユキに舐めさせてあげます。
「ミャー」
弱々しい鳴き声で答えたユキはペロペロと薬草を舐めますが、半分ほど舐めたところでユキの力が突然ガクッと抜けてしまいました。
「ユキ! しっかりして!」
これしかしてあげられないのが悔しいです。
あたしは毛皮の上で浅い息をしながら苦しそうに眠るユキの頭を優しく撫でました。その手にはしっかりとユキのぬくもりが伝わってきますが、その苦しそうな表情があたしの胸を締めつけます。
これ、全部あたしのせいですよね。
だって、あたし達があのゴブリンに気付いた時、あいつはまだ遠くにいたんです。だから、あたしが怖がらないで最初から魔法弾でちゃんと倒せていればこんなことにはならなかったはずです。
「ごめん、なさい……」
この感情の行き場が無くて、どうしたらいいか分からなくて。気が付けば目の前が滲んで、そしてあたしは嗚咽を漏らしていました。
「ピピ~」
ピーちゃんが心配そうな声をあげると腕のようなものであたしの頭をポンポンとやさしく叩いてくれます。
「う、うわぁぁぁぁぁん。ユキがっ! ピーちゃん! ユキがっ!」
あたしはピーちゃんに抱きついてわんわんと泣いてしまったのでした。
****
気付けばすっかり日が傾いてきてしまいました。ユキは相変わらずの状態ですが、浅い呼吸が少しだけ深くなっているようですのでもしかしたら快方に向かっているのかもしれません。
少しだけホッとしたところであたしのお腹が大きな音を立てました。
そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけませんね。
って、しまった。今日狩った鹿の血抜きをちゃんとしていませんでした。
あたしはピーちゃんにユキの看病をお願いすると、慌てて川沿いのいつも血抜きをしている場所まで行って急いで血抜きをします。ただ、もしかすると時間が経ちすぎていてもう美味しくは食べられないかもしれません。
だからといって捨てるなんて贅沢なことはしませんけどね。
川の上にシカ肉をつるしたまま少し待ちます。それにしてもこんなことができるのも【収納】のおかげです。だって、あたしの力じゃ木の上になんて持ち上げられないですからね。
【収納】スキルで収納した物を取り出す時は、思った場所に思ったように出現させる事ができるんですよ。もちろん、あんまり遠かったりすると無理ですけどね。
でもそのおかげで、吊るすのも回収するのも毎回収納経由でやれば力のないあたしでも簡単にこういった力仕事ができるんです。
そうしてしばらく待っている間にいつもの作戦で川魚を二匹捕まえたあたしは血抜きの終わった鹿を回収してマイホームへと戻ったのでした。
****
マイホームに戻ったあたしはまず最初にユキの様子を確認します。
「ああ、よかった」
あたしが出掛けた時と変わらない様子です。容態が急変していたりしなくて本当に良かったです。
すっかり暗くなったマイホームの前でたき火の明かりを頼りに先ほど血抜きした鹿肉を解体しては焼いていきます。収納で保存しないといけませんからね。
「あ、ピーちゃん。毛皮をきれいにしてください」
「ピピッ」
ピーちゃんはマイホームから出てくると地面に置いてた毛皮に纏わりついています。きっと余計な油とかも食べてくれるでしょうから、あたしが頑張って川の水で洗うよりもきっと上手くいくに違いありません。
あっと、お魚もあったんでした。
あたしは体内で魔力を練り上げると指先に小さな魔力のナイフを作り出します。そしてそのナイフで鱗を剥ぎ、そしてお魚のお腹を切って内臓を取り出します。かなりの集中力が必要になりますが、自分のことながら随分と器用なことができるようになった物だと思います。
さて、これであとは適当な枝に刺してたき火の近くに刺しておけばそのうち焼けるはずです。これもあまり火に近づけすぎないのがポイントですね。
しばらく待っているとお魚から油がポタポタと地面に零れ落ちます。そろそろひっくり返し時ですね。
お魚の串をひっくり返して反対側を焼いていきます。ついでにお肉もひっくり返しておきましょう。お肉からも肉汁が零れ落ち、火に落ちてジューっという食欲をそそる音がします。
そうしてじっとお魚とお肉を見つめて空腹を我慢しているとお魚が焼き上がりました。
あたしはお祈りをするとお魚にかぶりつきます。
うん。美味しい! お肉も良いですけどお魚も美味しいですね。
孤児院ではお魚も出ましたが塩漬けばかりで、新鮮なお魚なんてほとんど食べられませんでした。やっぱりサバイバル生活のおかげでグルメになっている気がします。欲を言えばお塩が欲しいところですけど。
あとはみんなの分もあげなきゃいけませんね。ピーちゃんは残った骨と、それから鹿を少しでいいですね。
「はい、ピーちゃんどうぞ」
「ピピッ」
それからユキは……まだ寝ているから明日にした方が良さそうですね。
それじゃあ、このお魚は収納にしまって明日食べさせてあげることにしましょう。
そう思って収納しようすると、突然音もなく目の前を影が過ぎり、そしてユキの分のお魚をつかんで飛び去って行きました。
「え? 今のは……鳥?」
あたしはあまりの急な出来事に呆然として飛び去った影を見送ったのでした。
2020/12/23 誤字を修正しました
================
「ほら、ユキ。薬草だよ」
マイホームに帰ってきたあたしはユキを急いで毛皮の上に寝かせました。そして途中で見つけた薬草を急いですり潰すとユキに舐めさせてあげます。
「ミャー」
弱々しい鳴き声で答えたユキはペロペロと薬草を舐めますが、半分ほど舐めたところでユキの力が突然ガクッと抜けてしまいました。
「ユキ! しっかりして!」
これしかしてあげられないのが悔しいです。
あたしは毛皮の上で浅い息をしながら苦しそうに眠るユキの頭を優しく撫でました。その手にはしっかりとユキのぬくもりが伝わってきますが、その苦しそうな表情があたしの胸を締めつけます。
これ、全部あたしのせいですよね。
だって、あたし達があのゴブリンに気付いた時、あいつはまだ遠くにいたんです。だから、あたしが怖がらないで最初から魔法弾でちゃんと倒せていればこんなことにはならなかったはずです。
「ごめん、なさい……」
この感情の行き場が無くて、どうしたらいいか分からなくて。気が付けば目の前が滲んで、そしてあたしは嗚咽を漏らしていました。
「ピピ~」
ピーちゃんが心配そうな声をあげると腕のようなものであたしの頭をポンポンとやさしく叩いてくれます。
「う、うわぁぁぁぁぁん。ユキがっ! ピーちゃん! ユキがっ!」
あたしはピーちゃんに抱きついてわんわんと泣いてしまったのでした。
****
気付けばすっかり日が傾いてきてしまいました。ユキは相変わらずの状態ですが、浅い呼吸が少しだけ深くなっているようですのでもしかしたら快方に向かっているのかもしれません。
少しだけホッとしたところであたしのお腹が大きな音を立てました。
そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけませんね。
って、しまった。今日狩った鹿の血抜きをちゃんとしていませんでした。
あたしはピーちゃんにユキの看病をお願いすると、慌てて川沿いのいつも血抜きをしている場所まで行って急いで血抜きをします。ただ、もしかすると時間が経ちすぎていてもう美味しくは食べられないかもしれません。
だからといって捨てるなんて贅沢なことはしませんけどね。
川の上にシカ肉をつるしたまま少し待ちます。それにしてもこんなことができるのも【収納】のおかげです。だって、あたしの力じゃ木の上になんて持ち上げられないですからね。
【収納】スキルで収納した物を取り出す時は、思った場所に思ったように出現させる事ができるんですよ。もちろん、あんまり遠かったりすると無理ですけどね。
でもそのおかげで、吊るすのも回収するのも毎回収納経由でやれば力のないあたしでも簡単にこういった力仕事ができるんです。
そうしてしばらく待っている間にいつもの作戦で川魚を二匹捕まえたあたしは血抜きの終わった鹿を回収してマイホームへと戻ったのでした。
****
マイホームに戻ったあたしはまず最初にユキの様子を確認します。
「ああ、よかった」
あたしが出掛けた時と変わらない様子です。容態が急変していたりしなくて本当に良かったです。
すっかり暗くなったマイホームの前でたき火の明かりを頼りに先ほど血抜きした鹿肉を解体しては焼いていきます。収納で保存しないといけませんからね。
「あ、ピーちゃん。毛皮をきれいにしてください」
「ピピッ」
ピーちゃんはマイホームから出てくると地面に置いてた毛皮に纏わりついています。きっと余計な油とかも食べてくれるでしょうから、あたしが頑張って川の水で洗うよりもきっと上手くいくに違いありません。
あっと、お魚もあったんでした。
あたしは体内で魔力を練り上げると指先に小さな魔力のナイフを作り出します。そしてそのナイフで鱗を剥ぎ、そしてお魚のお腹を切って内臓を取り出します。かなりの集中力が必要になりますが、自分のことながら随分と器用なことができるようになった物だと思います。
さて、これであとは適当な枝に刺してたき火の近くに刺しておけばそのうち焼けるはずです。これもあまり火に近づけすぎないのがポイントですね。
しばらく待っているとお魚から油がポタポタと地面に零れ落ちます。そろそろひっくり返し時ですね。
お魚の串をひっくり返して反対側を焼いていきます。ついでにお肉もひっくり返しておきましょう。お肉からも肉汁が零れ落ち、火に落ちてジューっという食欲をそそる音がします。
そうしてじっとお魚とお肉を見つめて空腹を我慢しているとお魚が焼き上がりました。
あたしはお祈りをするとお魚にかぶりつきます。
うん。美味しい! お肉も良いですけどお魚も美味しいですね。
孤児院ではお魚も出ましたが塩漬けばかりで、新鮮なお魚なんてほとんど食べられませんでした。やっぱりサバイバル生活のおかげでグルメになっている気がします。欲を言えばお塩が欲しいところですけど。
あとはみんなの分もあげなきゃいけませんね。ピーちゃんは残った骨と、それから鹿を少しでいいですね。
「はい、ピーちゃんどうぞ」
「ピピッ」
それからユキは……まだ寝ているから明日にした方が良さそうですね。
それじゃあ、このお魚は収納にしまって明日食べさせてあげることにしましょう。
そう思って収納しようすると、突然音もなく目の前を影が過ぎり、そしてユキの分のお魚をつかんで飛び去って行きました。
「え? 今のは……鳥?」
あたしはあまりの急な出来事に呆然として飛び去った影を見送ったのでした。
78
お気に入りに追加
976
あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる