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第一章

第1話 奴隷はイヤなので脱走します

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2020/12/05 誤字を修正しました
2020/12/06 誤字を修正しました
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 あたしはローザ。ベルーシ王国のラポリスクっていう小さな町の孤児院に住んでいる 11 歳の女の子です。特技は読み書きができることと計算ができることで、夢は……毎日お腹いっぱい食べることです。あとは、そうですね。優しくて誠実で頼りがいのある素敵な男性と結婚することかなぁ。あたしは孤児だからかなり難しいとは思いますけどね。

 あ、あと、よく変な子供って言われます。

 あたしは小さい時から夢をよく見るんです。見上げると首が痛くなるほどの高いビルっていう建物がたくさん立ち並んでいる光景とか、その間を魔導ドローンっていう空飛ぶ乗り物がブーンって蜂のようなうるさい音を立てながら飛び交っていたりとか。

 もちろんそれは夢だって分かってるんですけど、何だかものすごくリアルでまるであたしが体験してきた事みたいに思えるすごく不思議な夢なんです。

 それで小さいころは先生によくその夢の事をお話してたんですけど、そうしたら妄想の激しい子だって思われちゃったみたいなんです。それにほら、口調も何故か他の子たちとは違ってこんな丁寧な口調でいつも喋っているから余計にそう思われたみたいなんです。

 あ、それでも先生は優しくしてくれましたし、先生には感謝してるんですよ?

 それに、あたしが聖書に興味を持った時に読み聞かせをしてくれたおかげで文字も読み書きできるようになりましたし。

 それでですね。そんなあたしなんですが実は今ものすごく大きな問題に直面しているんです。

 あたしは今年で 12 歳になるんです。それで今日、あたしと同い年の子が全員教会に集められて洗礼を受けたんです。この洗礼っていうのは教会で神様に成人しました、って報告する行事らしいんですけど、この時にたまに神様からスキルを貰う子供がいるんですよ。

 はい。そうです。あたしです。貰っちゃったんです。しかも二つも。

 貰ったのは【鑑定】と【収納】っていう、商人だったら喉から手が出るほど欲しいスキルをです。

 【鑑定】っていうのはその名の通り色んなものが見ただけで分かるようになるスキルです。例えばあたしの今座っている椅子を鑑定すれば、こんな感じに分かるんですよね。

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名前:椅子
説明:杉の木で作られた簡素な椅子
────

 神父様が言うには、慣れれば品質とか効果効能とか、もっと色々分かるようになるんだそうです。

 あ、ちなみに他の人を鑑定するとですね。

────
種族:人族
性別:男性
────

 こんな感じです。名前を知っている人ならここに名前も追加されるんですけど、あんまり意味ないですね。

 それから【収納】っていうのは、生物以外なら何でも入るすごいスキルです。これも慣れれば入れられる量が増えたりするらしいです。

 でもこんなすごいスキルを貰っちゃったってことはですね。はい。そうです。残念ながらあたしは売られることになりました。

 うちの孤児院はどこかの偉い人の持ち物らしくてですね。当然、オーナー様のご意向にはあたしのようなただの一孤児は逆らうことなんてできないんですよ。

 ああ、でもやだなぁ。

 だってあのオーナー様、あたしたち孤児の間ではすごく評判が悪いんですよ?

 あたしを含めた女の子の事はジロジロといやらしい目で見てきて気持ち悪いし、それに孤児院の卒業生たちは売られた子達が奴隷のような扱いを受けてるって言って怒っていました。

 もちろん昔は先生も抗議してくれたらしいんですよ。でも、オーナー様が処罰されることはなかったそうです。それどころか逆に孤児院の運営費用を減らされてしまって大変だったと言っていました。

 そんなわけで哀れなあたしは孤児院の他の子供達のため、オーナー様のところへ奴隷として売られていくことになってしまいました。

 というわけでですね。あたしは今から脱走しようと思います。

 善は急げって言いますからね。

 そもそも、大して仲が良いわけでもない他の子供達のために犠牲になんかなりたくありませんからね。

 それにほら、奴隷になったらきっと夢も叶いませんから。

 そんなわけであたしは数少ない自分の荷物を貰いたてほやほやの収納に入れると見つからない様にこっそり孤児院の裏口に向かいます。

 本当はお別れをしてから行きたいんですけど、そんなことをしたら逃げるのがすぐにばれちゃいますからね。

 あたしはそーっと扉を開けると、抜き足差し足忍び足で音を立てない様に廊下を抜けて裏口を目指します。

「ローザ? 何しているんですか? オーナー様のお迎えが来ていますよ?」
「あっ」

 先生に見つかっちゃいました。こうなったら!

 あたしは裏口に向かって全力で走ります。

「待ちなさい! ローザ!」
「イヤです。あたしは奴隷になんかなりたくないです!」

 あたしが走りながらそう言うと、先生は走るのをやめたみたいです。今がチャンス!

 そして無我夢中で駆け抜けて裏口の扉を開けようとしたところで突然襟首を捕まれました。

「お前がローザか。手間かけさせんなよ」

 知らない男の人の声が頭上から聞こえてきました。どうやらそのオーナー様のお迎えの人に捕まってしまったようです。

 そしてあたしはそのままその人の腰に抱えられてしまいました。

「イヤっ! 離してくださいっ!」
「いいから来い」

 あたしは必死に抵抗しますが大人の男の人の力の前になすすべはありません。あっさりと脇に抱えられると、そのまま孤児院の表玄関に運ばれていきます。

 あ、途中で先生が泣きながら蹲っているのが見えました。

 そう、ですよね。先生だって好きであたしをオーナー様に売ったりしているわけじゃないですよね。

 はぁ。どうやらもうこれまでかもしれません。

 こうしてあたしの脱走作戦は失敗に終わり、無理矢理馬車に乗せらると生まれ育ったラポリスクの町を後にしたのでした。
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