615 / 625
聖女の旅路
第十三章第42話 不可解な現場
しおりを挟む
エロ仙人の庵を出発して五日後、私たちは戦いがあったらしい場所が見える尾根にたどり着いた。本来は三日で到着できる距離だったにもかかわらず五日もかかってしまったのは、私以外の三人が薄い空気に参ってしまったからだ。
ちなみにエロ仙人は庵に残ると言ったため、同行していない。嵐龍王のところに行けば命の危険があるのだから無理強いはできないし、仕方のないことだろう。エロ仙人が何者なのかは気になるところではあるが、嵐龍王をどうにかすることのほうが今は遥かに重要だ。
さて、そんなわけで雪道をなんとか登ってきたわけだが、尾根の向こう側は惨憺たる有り様だった。よほど激しい戦いがあったのか、一帯の山の上のほうはすべて吹き飛んでおり、最高峰があったはずなのにいま私たちが立っている尾根よりも見るからに標高が低くなっている。
そして一昨日から爆発音が聞こえなくなっていたので薄々感づいてはいたが、やはり戦いはすでに終わっていた。
「何もないでござるな。それにこれほど崖崩れが起きていると、下に降りるのも難しそうでござるな」
シズクさんの言うとおり、激しい戦いのせいでそこかしこに崖崩れの跡がある。しかもまだ落石が起きており、次の崖崩れや雪崩がいつ起きてもおかしくない状況に見える。
「一体誰がこのような戦いを? 炎龍王のときのことを考えれば、フィーネ様も勇者シャルロット様もいない状況で戦うなど……」
「少なくとも、ただ者ではないことはたしかでござるな」
「シズク殿……そうだな。フィーネ様に害を及ぼす者でなければいいのだが」
「クリスさん、シズクさん、それよりも嵐龍王はどうなったと思いますか?」
「む、そうでござったな。ただ、進化の秘術を使って不死となった嵐龍王を倒すことはできないのではござらんか?」
「そうですね。だとすると……嵐龍王は近くの村を」
「っ! 近くで一番人口が多いのはチャーヴァのはずです!」
それはそうなのだが……。
「クリス殿、嵐龍王がもしチャーヴァに向かったのであれば、拙者たちがその姿を目撃しているはずでござるな」
「ですよね」
私は再び向こう側の山に視線を送る。
……ん? あの岩に埋まっている緑色のものは何だろう?
「シズクさん、あそこにある緑色のってなんだと思いますか?」
「緑色……どこでござるか?」
「ほら、あの向こう側の山のあそこです。大きな岩の左下あたりにある――」
「んん? ……ああ、あれでござるか……ん? あれは、もしやドラゴンの尻尾ではござらんか?」
「え? ……あ! 言われてみればたしかに! ……ええと、ちょっと行って見てくるので卵をお願いします」
私はホーリードラゴンの卵をクリスさんに手渡すと防壁で足場を作り、空中を走っていく。
「フィーネ様!? お待ちください!」
「高山病が再発するかもしれないですし、そこで待っていてください」
「そんな!」
クリスさんの悲鳴が聞こえてくるが、歩くだけで辛そうにしていたのだからあまり無理をするべきではない。それにもし崖崩れが起きても私は少しの間なら空を飛べるので問題ない。
こうして私は足場を伝い、緑色の何かがあった場所にやってきた。
うん。これはたしかにドラゴンの尻尾に見える。腐っても干からびてもいないということは、死んでからまだあまり時間が経っていないということなのだろう。
私は積み重なった瓦礫を収納に入れては次々と崖下に捨てていく。するとその下からは潰れた巨大な緑色のドラゴンの死体が出てきた。
……ええと、これってもしかして嵐龍王だったりするのだろうか?
ドラゴンの死体は瓦礫の下敷きになったせいもあってかかなりぐちゃぐちゃになっているが、切り傷らしきものも多数あるようだ。
うーん。嵐龍王だとすると、瘴気をたくさん持っているはずだ。これが今一気に広がるのは問題がありそうだし、種を使って浄化しておいたほうがいい気がする。
よし!
私はリーチェを召喚した。
「リーチェ、あの嵐龍王らしいドラゴンの死体を浄化したいんですけど、種を貰えますか?」
するとリーチェは嵐龍王をじっと見つめた。リーチェはものすごく真剣な目で嵐龍王を見ており、なんというか、やはりとてもかわいい。
そんなリーチェを観察しているとリーチェは私のほうに向き直り、首をふるふると横に振った。
「え? どういうことですか? え? 必要ない?」
リーチェはこくこくと頷いた。
「でも嵐龍王は瘴気を……って、え? もしかして瘴気が残っていないんですか?」
するとリーチェは再びこくこくと頷いた。
「そうですか。ありがとうございます」
するとリーチェは手を振り、そのまま帰っていった。
うーん? 進化の秘術を使っているはずなのに瘴気が残っていないというのはどういうことだろうか?
すると突然私の足元に拳大の石が転がってきた。
「ん?」
私がふっと上を見ると、巨大な岩がゆっくりと動き始めている!
「あっ!」
私は慌ててジャンプするとすぐさま【妖精化】を発動し、宙に舞い上がった。すると大規模な崖崩れが発生し、嵐龍王の死体を飲み込んでいく。
ふう。間一髪だった。
ちらりとクリスさんたちのほうを見てみる。するとクリスさんたちが顔面蒼白になってこちらを見ていた。
ああ、うん。そうだよね。そりゃあ心配するよね。
私はすぐに防壁で足場を作り出し、【妖精化】を解除してその上に立った。そして浄化魔法で光を作り、無事を知らせるのだった。
================
更新が滞って申し訳ございません。急に気温が下がったせいか数年ぶりに風邪をひき、寝込んでおりました。
回復しましたので普段どおりのペースで更新を再開いたします。
今後とも応援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
ちなみにエロ仙人は庵に残ると言ったため、同行していない。嵐龍王のところに行けば命の危険があるのだから無理強いはできないし、仕方のないことだろう。エロ仙人が何者なのかは気になるところではあるが、嵐龍王をどうにかすることのほうが今は遥かに重要だ。
さて、そんなわけで雪道をなんとか登ってきたわけだが、尾根の向こう側は惨憺たる有り様だった。よほど激しい戦いがあったのか、一帯の山の上のほうはすべて吹き飛んでおり、最高峰があったはずなのにいま私たちが立っている尾根よりも見るからに標高が低くなっている。
そして一昨日から爆発音が聞こえなくなっていたので薄々感づいてはいたが、やはり戦いはすでに終わっていた。
「何もないでござるな。それにこれほど崖崩れが起きていると、下に降りるのも難しそうでござるな」
シズクさんの言うとおり、激しい戦いのせいでそこかしこに崖崩れの跡がある。しかもまだ落石が起きており、次の崖崩れや雪崩がいつ起きてもおかしくない状況に見える。
「一体誰がこのような戦いを? 炎龍王のときのことを考えれば、フィーネ様も勇者シャルロット様もいない状況で戦うなど……」
「少なくとも、ただ者ではないことはたしかでござるな」
「シズク殿……そうだな。フィーネ様に害を及ぼす者でなければいいのだが」
「クリスさん、シズクさん、それよりも嵐龍王はどうなったと思いますか?」
「む、そうでござったな。ただ、進化の秘術を使って不死となった嵐龍王を倒すことはできないのではござらんか?」
「そうですね。だとすると……嵐龍王は近くの村を」
「っ! 近くで一番人口が多いのはチャーヴァのはずです!」
それはそうなのだが……。
「クリス殿、嵐龍王がもしチャーヴァに向かったのであれば、拙者たちがその姿を目撃しているはずでござるな」
「ですよね」
私は再び向こう側の山に視線を送る。
……ん? あの岩に埋まっている緑色のものは何だろう?
「シズクさん、あそこにある緑色のってなんだと思いますか?」
「緑色……どこでござるか?」
「ほら、あの向こう側の山のあそこです。大きな岩の左下あたりにある――」
「んん? ……ああ、あれでござるか……ん? あれは、もしやドラゴンの尻尾ではござらんか?」
「え? ……あ! 言われてみればたしかに! ……ええと、ちょっと行って見てくるので卵をお願いします」
私はホーリードラゴンの卵をクリスさんに手渡すと防壁で足場を作り、空中を走っていく。
「フィーネ様!? お待ちください!」
「高山病が再発するかもしれないですし、そこで待っていてください」
「そんな!」
クリスさんの悲鳴が聞こえてくるが、歩くだけで辛そうにしていたのだからあまり無理をするべきではない。それにもし崖崩れが起きても私は少しの間なら空を飛べるので問題ない。
こうして私は足場を伝い、緑色の何かがあった場所にやってきた。
うん。これはたしかにドラゴンの尻尾に見える。腐っても干からびてもいないということは、死んでからまだあまり時間が経っていないということなのだろう。
私は積み重なった瓦礫を収納に入れては次々と崖下に捨てていく。するとその下からは潰れた巨大な緑色のドラゴンの死体が出てきた。
……ええと、これってもしかして嵐龍王だったりするのだろうか?
ドラゴンの死体は瓦礫の下敷きになったせいもあってかかなりぐちゃぐちゃになっているが、切り傷らしきものも多数あるようだ。
うーん。嵐龍王だとすると、瘴気をたくさん持っているはずだ。これが今一気に広がるのは問題がありそうだし、種を使って浄化しておいたほうがいい気がする。
よし!
私はリーチェを召喚した。
「リーチェ、あの嵐龍王らしいドラゴンの死体を浄化したいんですけど、種を貰えますか?」
するとリーチェは嵐龍王をじっと見つめた。リーチェはものすごく真剣な目で嵐龍王を見ており、なんというか、やはりとてもかわいい。
そんなリーチェを観察しているとリーチェは私のほうに向き直り、首をふるふると横に振った。
「え? どういうことですか? え? 必要ない?」
リーチェはこくこくと頷いた。
「でも嵐龍王は瘴気を……って、え? もしかして瘴気が残っていないんですか?」
するとリーチェは再びこくこくと頷いた。
「そうですか。ありがとうございます」
するとリーチェは手を振り、そのまま帰っていった。
うーん? 進化の秘術を使っているはずなのに瘴気が残っていないというのはどういうことだろうか?
すると突然私の足元に拳大の石が転がってきた。
「ん?」
私がふっと上を見ると、巨大な岩がゆっくりと動き始めている!
「あっ!」
私は慌ててジャンプするとすぐさま【妖精化】を発動し、宙に舞い上がった。すると大規模な崖崩れが発生し、嵐龍王の死体を飲み込んでいく。
ふう。間一髪だった。
ちらりとクリスさんたちのほうを見てみる。するとクリスさんたちが顔面蒼白になってこちらを見ていた。
ああ、うん。そうだよね。そりゃあ心配するよね。
私はすぐに防壁で足場を作り出し、【妖精化】を解除してその上に立った。そして浄化魔法で光を作り、無事を知らせるのだった。
================
更新が滞って申し訳ございません。急に気温が下がったせいか数年ぶりに風邪をひき、寝込んでおりました。
回復しましたので普段どおりのペースで更新を再開いたします。
今後とも応援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる