勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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聖女の旅路

第十三章第39話 エロ仙人の修行

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 こ、このエロハゲジジイが天空老師!?

「なんじゃ? 何を驚いておるのじゃ?」

 天空老師を名乗るエロハゲジジイがニヤニヤしながらそう言った。サングラスをしているが、あれはきっとものすごいドヤ顔をしているに違いない。

「潜在能力を開花させたいということは、ワシの弟子になりたいんじゃろう? んん?」

 なんというか、ものすごくウザい。だがシズクさんとクリスさんを翻弄し、私の結界をすり抜けるほどの人物だ。どう考えてもただ者ではない。

「ふーむ。驚きすぎて声も出んようじゃのう。じゃが、お主たち二人はダメじゃな」

 天空老師は頼んですらいない私とルーちゃんの弟子入りを断ってきた。

「ワシは子供には興味がないでのう。もっと成長してから出直してくるがよい」

 はい!? 私が子供だって!? な、な、な、なんということを! そ、そりゃあ胸はささやかだけど……。

「ふーむ。お主もダメじゃな。今修行をしても成果は得られんじゃろう」
「なっ!?」

 いつの間にかクリスさんの背後に立っていた天空老師、いや、エロ仙人がクリスさんのお尻を触りながらそう言った。

「貴様っ! 誰が貴様の教えなぞ!」

 クリスさんは頬を目掛けて平手打ちをするが、エロ仙人はひらりとかわしてシズクさんの真正面に立った。

「お主は……ふーむ。いいじゃろう。合格じゃ。いいものを持っておるのう」

 エロ仙人がそう言ってシズクさんの胸に手を伸ばしたが、シズクさんがそれをピシャリと振り払う。

 しかし次の瞬間エロ仙人はシズクさんの背後に回りこんでおり、シズクさんの尻尾をひとでした。

「ひゃんっ!?」
「ふぉふぉふぉ。この尻尾の手触りも中々じゃのう」

◆◇◆
 
 シズクさんは散々に悩んでいたが、最終的にエロ仙人の教えを受けてみることにしたため、私たちはしばらくその様子を見守ることにした。

 そうして修行が始まったのだが……。

「シズクよ。良いか? ワシが授けてやるのは強くなる方法ではない。ワシの教えを理解することによってお前はどんな物事にも動じない強靭な心を手に入れることができるじゃろう。まずは煩悩を捨てるのじゃ。そうすることで初めて、力を正しく使うことができるようになるじゃろう」
「は、はい」

 そう言ってうなずいたシズクさんの表情は当然のごとく強張っている。

「表情が硬いのう」

 エロ仙人は一瞬でシズクさんの背後に回り込み、シズクさんのお尻を撫でた。

 ……完全なるセクハラだ。そもそも煩悩を捨て去れと教えている本人があれほど煩悩まみれというのはいかがなものだろうか?

 それにあのエロ仙人、見たところは普通の人間のようだ。ということはあの煩悩のせいで瘴気を生み出しているような気もするのだが……。

 とはいえ、シズクさんが教えを受けると決めたのだ。しばらくは様子を見てみよう。

「さて、最初の修行は掃除じゃ。ワシの庵とその周りをきれいに掃除するのじゃ」
「はい」

 シズクさんは文句も言わず、庵の周りのき掃除を始めた。

 うーん。まあ、テッサイさんのところでも道場の掃除は修行の一環だと言っていたし、共通するものがあるのかもしれない。

 そうして見守っていると、エロ仙人は掃除中のシズクさんにときおり声をかけてはセクハラをし、シズクさんはそれをグッとこらえて掃除を続ける。

「フィーネ様、あんな者が本当に仙人なのでしょうか?」
「そうですね。私もどうかと思いますが、シズクさんが試しに習ってみると言っていますし」
「シズクさん……」

 ルーちゃんも心配そうにシズクさんのほうを見ているが、シズクさんはせっせと掃除を続ける。

 ううん。しかし本当に大丈夫なんだろうか?

◆◇◆

 シズクがエロ仙人のセクハラ被害にあっているころ、魔大陸にあるベルードの居室にヘルマンがやってきた。

「ベルード様、こちらをご覧ください」
「なんだ? これは? なんの種だ?」
「はい。こちらは聖女が世界で植えて回っているという瘴気を消し去る植物の種でございます」
「なんだと!? 瘴気が消える?」
「はい。聖女を尾行した結果、グリーンクラウド王国のべクックという町の近郊で聖女が植物を使って瘴気を浄化していることを確認しました。そしてこちらはヴェダにてグリーンクラウド国王に聖女が渡した種で、たくさんありましたので三つほど拝借して参りました。瘴気を与えるとこの種が取り込むことを確認しております」
「なるほど。だがなぜ歴代の聖女はこのような方法があるのに瘴気の問題に対処できなかったのだ?」
「どうやらこの力は聖女自身の力ではなく、精霊の力のようです。聖女は種を使う際、必ず自身の契約精霊を呼び出しておりました」
「そうか。ということは瘴気を消し去る鍵は聖女ではなく精霊、か」
「左様でございます」
「ということは、エルフであれば瘴気を消し去れるかもしれないということだな?」
「はい。ただ、聖女の精霊は広く知られる六種類のいずれとも違います。聖女ならではの特別な精霊の可能性もあります」
「そうか……そうだな。やはりあの聖女は何もかもが特別だ。今一度、あの聖女の安全を徹底するように伝えろ」
「ははっ!」

 ヘルマンが恭しく敬礼し、それとほぼ同時に部屋の扉が開かれたのだった。
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