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聖女の旅路
第十三章第34話 再びの襲撃
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ルーちゃんが私の分のライスも食べ終わったころ、再びあのけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「え?」
「また?」
お祭りムードだったヴィハーラの町は一気に緊張に包まれる。
「聖女様、こちらへ」
「わかりました」
混乱を避けるため、私たちは一旦護衛の兵士たちに従って避難を開始する。兵士たちも町の人たちもどうやら慣れているようで、誘導に従って整然と避難していく。
「またシーサーペントですか?」
「おそらくは。この鐘の音は海から魔物の襲撃があったことを意味しております」
ゴーンゴーンゴーン!
突如別の鐘の音が鳴り響く。
「っ! どうやら森からも来たようです」
「え? 陸からもですか?」
「はい。今の鐘は北にある森から魔物がやってきているという合図です」
「森ならば私たちも力になれます」
「ですが、我々は聖女様を安全にお守りするように仰せつかっておりますので……」
「それはそうでしょうけど……でもそんなことを言っている場合じゃないですよね? ルドラさんには私からきちんとお話しますから」
「……かしこまりました。では、どうぞこちらへ」
こうして私たちは森のほうからやってきているという魔物の解放へ向かうのだった。
◆◇◆
「何っ!? 聖女様をお連れしただと?」
私たちは北門にやってきているのだが、集まっている兵士の中で偉そうな人が大声を上げた。おかげで兵士たちの視線が一気に私たちに集まる。
「馬鹿なことを言うな! 危険な前線に聖女様をお連れするなど!」
「ですが……」
「治癒や結界でお手伝いもできますし、私の騎士たちも魔物と戦う力は十分にあります」
「ぐっ……ですが……」
さすがに私に対して怒鳴ったりはしてこないが、私たちを前線に出すことには難色を示している。
「隊長殿でござるな? 拙者と一番の手練れで一勝負するでござるよ。それでもし拙者が勝てば、参加を認めてもらうでござるよ」
するとそれを聞いた兵士たちの目の色が変わった。
「ならば俺が! 聖騎士に勝ち、俺がアルパラジタに認められなかったことが間違いだったと証明してやる!」
一人の男が進み出てきた。
ええと、アルパラジタって、たしかこの国の聖剣だよね? あれれ? ヴェダで会ったっけ?
まったく記憶にないので【人物鑑定】をしてみたが、やはり初対面のようだ。
「手早く終わらせるでござるよ」
「何を!」
兵士の人は曲剣を構え、それを確認したシズクさんが一気に距離を詰める。
キキーン!
一瞬の間に二度の金属音が鳴り響き、次の瞬間シズクさんは兵士の首にキリナギを突きつけていた。それからやや遅れて宙を舞っていた曲剣が十メートルほど離れた地面に突き刺さる。
「バ、バカな……」
「中々でござったよ。よもや最初の一撃を受けられるとは思っていなかったでござる」
兵士の男はがっくりと膝をつき、周囲からはどよめきが起こる。
「お、おおお……」
「まさかアサーヴがこうもあっさりと……」
どうやらあの人はアサーヴさんというらしい。
「さあ、これで問題ないでござるな?」
「ぐっ……わかりました。ではどうぞこちらへ」
先ほどの偉そうな人は渋々といった様子ではあるものの、私たちの防衛戦への参加を認めたのだった。
◆◇◆
街壁の上へと登ってきた私たちの目に飛び込んできたのは、森を抜けてこちらへと迫ってくる向かってくる百匹ほどのオークの群れだ。
「任せてくださいっ!」
ルーちゃんが光の矢を番え、次々とオークたちを撃ち抜いていく。
「すげぇ」
「オークどもがああも簡単に……」
「すさまじい命中率だ」
周囲にいるヴィハーラの兵士たちからそんな声が聞こえてくる。
「おい、あれってもしかして常に『必中』を使っているんじゃないのか?」
「それなのに誤射しないなんて、さすが聖女様の従者だけはあるな」
「ああ」
おや? ああ、そういえば……うん。最近は減ってきたけどたまにこっちに飛んでくるよ。今はなんとなく大丈夫な気がするけれど。
そうこうしているうちにルーちゃんはこちらに向かってきていたほぼ全てのオークを退治してしまった。ここからは見えないところに向かっていったオークにも別のところから矢が雨あられのように降り注いでいたし、多分どうにかなるだろう。
「やりましたっ!」
ルーちゃんが自慢気に胸を張った。まだささやかではあるものの、いつの間にか私よりも少し大きくなっている胸が強調されてなんとも複雑な気持ちになるわけだが、それを脇においてルーちゃんを褒めようとしたそのときだった。
森のほうからイヤな存在がこちらに向かってきているのが目に入った。
「シズクさん!」
「分かっているでござるよ」
「フィーネ様? シズク殿? 一体何が?」
「トレントでござる。しかも大群でござるな」
「えっ? トレント!?」
ルーちゃんは嫌悪感をあらわに森のほうをじっと睨みつけるのだった。
「え?」
「また?」
お祭りムードだったヴィハーラの町は一気に緊張に包まれる。
「聖女様、こちらへ」
「わかりました」
混乱を避けるため、私たちは一旦護衛の兵士たちに従って避難を開始する。兵士たちも町の人たちもどうやら慣れているようで、誘導に従って整然と避難していく。
「またシーサーペントですか?」
「おそらくは。この鐘の音は海から魔物の襲撃があったことを意味しております」
ゴーンゴーンゴーン!
突如別の鐘の音が鳴り響く。
「っ! どうやら森からも来たようです」
「え? 陸からもですか?」
「はい。今の鐘は北にある森から魔物がやってきているという合図です」
「森ならば私たちも力になれます」
「ですが、我々は聖女様を安全にお守りするように仰せつかっておりますので……」
「それはそうでしょうけど……でもそんなことを言っている場合じゃないですよね? ルドラさんには私からきちんとお話しますから」
「……かしこまりました。では、どうぞこちらへ」
こうして私たちは森のほうからやってきているという魔物の解放へ向かうのだった。
◆◇◆
「何っ!? 聖女様をお連れしただと?」
私たちは北門にやってきているのだが、集まっている兵士の中で偉そうな人が大声を上げた。おかげで兵士たちの視線が一気に私たちに集まる。
「馬鹿なことを言うな! 危険な前線に聖女様をお連れするなど!」
「ですが……」
「治癒や結界でお手伝いもできますし、私の騎士たちも魔物と戦う力は十分にあります」
「ぐっ……ですが……」
さすがに私に対して怒鳴ったりはしてこないが、私たちを前線に出すことには難色を示している。
「隊長殿でござるな? 拙者と一番の手練れで一勝負するでござるよ。それでもし拙者が勝てば、参加を認めてもらうでござるよ」
するとそれを聞いた兵士たちの目の色が変わった。
「ならば俺が! 聖騎士に勝ち、俺がアルパラジタに認められなかったことが間違いだったと証明してやる!」
一人の男が進み出てきた。
ええと、アルパラジタって、たしかこの国の聖剣だよね? あれれ? ヴェダで会ったっけ?
まったく記憶にないので【人物鑑定】をしてみたが、やはり初対面のようだ。
「手早く終わらせるでござるよ」
「何を!」
兵士の人は曲剣を構え、それを確認したシズクさんが一気に距離を詰める。
キキーン!
一瞬の間に二度の金属音が鳴り響き、次の瞬間シズクさんは兵士の首にキリナギを突きつけていた。それからやや遅れて宙を舞っていた曲剣が十メートルほど離れた地面に突き刺さる。
「バ、バカな……」
「中々でござったよ。よもや最初の一撃を受けられるとは思っていなかったでござる」
兵士の男はがっくりと膝をつき、周囲からはどよめきが起こる。
「お、おおお……」
「まさかアサーヴがこうもあっさりと……」
どうやらあの人はアサーヴさんというらしい。
「さあ、これで問題ないでござるな?」
「ぐっ……わかりました。ではどうぞこちらへ」
先ほどの偉そうな人は渋々といった様子ではあるものの、私たちの防衛戦への参加を認めたのだった。
◆◇◆
街壁の上へと登ってきた私たちの目に飛び込んできたのは、森を抜けてこちらへと迫ってくる向かってくる百匹ほどのオークの群れだ。
「任せてくださいっ!」
ルーちゃんが光の矢を番え、次々とオークたちを撃ち抜いていく。
「すげぇ」
「オークどもがああも簡単に……」
「すさまじい命中率だ」
周囲にいるヴィハーラの兵士たちからそんな声が聞こえてくる。
「おい、あれってもしかして常に『必中』を使っているんじゃないのか?」
「それなのに誤射しないなんて、さすが聖女様の従者だけはあるな」
「ああ」
おや? ああ、そういえば……うん。最近は減ってきたけどたまにこっちに飛んでくるよ。今はなんとなく大丈夫な気がするけれど。
そうこうしているうちにルーちゃんはこちらに向かってきていたほぼ全てのオークを退治してしまった。ここからは見えないところに向かっていったオークにも別のところから矢が雨あられのように降り注いでいたし、多分どうにかなるだろう。
「やりましたっ!」
ルーちゃんが自慢気に胸を張った。まだささやかではあるものの、いつの間にか私よりも少し大きくなっている胸が強調されてなんとも複雑な気持ちになるわけだが、それを脇においてルーちゃんを褒めようとしたそのときだった。
森のほうからイヤな存在がこちらに向かってきているのが目に入った。
「シズクさん!」
「分かっているでござるよ」
「フィーネ様? シズク殿? 一体何が?」
「トレントでござる。しかも大群でござるな」
「えっ? トレント!?」
ルーちゃんは嫌悪感をあらわに森のほうをじっと睨みつけるのだった。
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