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聖女の旅路
第十三章第19話 アーユトール
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毒の湖を浄化した私たちはべクックの町を出発し、狭く曲がりくねった現道を通ってアーユトールへとやってきた。
アーユトールは大きな川沿いに築かれた町で、本来であればこの川と海を利用した水路でセラポンとの間を行き来していたらしい。今はその水路が使えなくなってしまっているため、きっと新道が開通すれば、それはきっとセラポンの人たちにとってだけでなく、アーユトールの人たちにとっても大切な道になるに違いない。
さて、アーユトールの町に入った私たちはまず、太守の館へと案内された。ここはまるで王宮かと見紛うほどの立派で巨大な建物で、真っ白な壁と赤い屋根、そして金の屋根飾りが特徴的だ。
「聖女様、ようこそお越しくださいました」
太守の館の前では、見るからに上質なシルクでできたジャケットのような独特な衣装を着た中年男性と、その彼と顔の似ている二十歳くらいの若い女性が出迎えてくれた。
「私はアーユトールの太守トンテプーと申します」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです。お出迎えいただきありがとうございます」
まずは中年男性が挨拶をしてきた。
「こちらは娘のシーナでございます」
「シーナでございます。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、お会いできてうれしいです」
私はシーナさんに営業スマイルを返す。
「聖女様は女性だけで旅をしていらっしゃるとのことでしたので、滞在中のご案内は娘のシーナが務めさせていただきます」
「それはそれは、わざわざお気遣いいただきありがとうございます」
「いえいえ。聖女様をお迎えできたこと、大変光栄でございます。さ、どうぞこちらへ」
こうして私たちはトンテプーさんたちに案内され、太守の館の中へ入るのだった。
◆◇◆
その日は晩餐会を開いてもらうことになった。開始までは今最初の料理を用意しているところだそうなので、場を繋ぐためにも私は両隣に座っているトンテプーさんとシーナさんに道中でのことを話した。
「まあ、ハイディンはそのようなことに……。お父さま、アーユトールも何か手助けをしたほうが良いのではありませんか?」
シーナさんはハイディンの状況に心を痛めているようで、私を挟んで反対側に座っているトンテプーさんにそう訴える。
「そうだな。聖女様、我々もできる支援を考えてみます。シーサーペントさえいなければすぐにでも動けるのですが……」
「シーサーペントですか……」
どうにかしてやりたいが、海の上となると戦うのも一苦労だ。
「そういえば、そのシーサーペントは港を襲ってくることはないんですか?」
「ございますが、群れからはぐれた個体が一匹、たまにやってくる程度です。奴らは動いている船を狙いますので」
「そうですか」
となると、やはり退治するのは難しそうだ。それこそシャルの【雷撃】でも使えば海中に潜むシーサーペントたちをまとめて解放してあげられそうだけれど……。
「聖女様、よもやシーサーペント退治を……?」
トンテプーさんは期待するような表情で私の顔をじっと見つめてきた。私は申し訳なさで一杯になりながら首を横に振る。
「できればそうしたいのですが、ちょっと私たちには難しそうです。陸上に上がってきてくれるなら話は別ですけれど」
「左様でございますか……」
トンテプーさんはがっくりとうなだれる。
「お父さま、海の中のシーサーペントを退治することは至難の業です。シーサーペントに船を壊され、海に落ちてしまってはいくら聖女様といえども助かりません」
「……それもそうだな」
シーナさんはそうトンテプーさんを窘める。
「ええと、船は結界で守れるんです。ただ、海の中にいるシーサーペントに攻撃することができないんですよね。だからやられることはないと思いますけど、解放はしてあげられないんです」
「まあ! シーサーペントに攻撃されても壊れない結界ですか? さすが、歴代最高の【聖属性魔法】の使い手ですね!」
「ありがとうございます」
私が適当に相槌を打つと、シーナさんはキラキラした目で私のほうを見てくる。
「あの!」
「なんですか?」
「聖女様って、やっぱり昔は治癒師だったんですか?」
「はい、そうですね」
「そうなんですね」
シーナさんは何かを噛みしめているようだ。
「それがどうしたんですか?」
「あの……実は私、職業が治癒師なんです」
「ああ、そうなんですね」
「はい。それで、どうやったら聖女様のようになれるんですか?」
「それは……」
さて、どう答えたものか。まさかハゲた神様から設定用のタブレットを奪い取って割り振りました、なんてことは言えるはずもないし、言ったとしてもなんの助けにもならない。だからシーナさんでもできることを教えてあげたいのだが、治癒師は序盤のレベルの上げづらさがはっきり言って嫌がらせの領域だ。
もちろん職業システムを作った理由を考えれば、きっとそれは狙いどおりなのだろうが……。
「聖女様?」
「え? あ、はい。どう伝えようか悩んでいたんですが、やはりレベルを上げることが重要です」
「でもレベルは……」
「そうですね。ですからまずはなるべくたくさん【回復魔法】を使ってください。それこそ、毎日MPが空になるくらいまで使うんです」
私はそうやって【付与】などのスキルレベルを上げてきた。
「空になるくらいまで……そう、ですよね……」
「あとは少し危険ですが、大勢の信頼できる人と一緒に魔物と戦ってください」
「なっ!? シーナ! お前がそんな危険なことを!」
「お父さま! 黙っていていください!」
「う……」
トンテプーさんが話に割り込んできたが、シーナさんがそれをピシャリと遮った。
「聖女様、続きを教えてください」
「え? あ、はい。そうですね。あとは弱らせた魔物にトドメを刺して、解放してあげればレベルが上がりやすいと思います」
「魔物にトドメを……」
「はい。そうすれば経験値が獲得できますから」
「そう、ですよね……」
シーナさんは真剣な表情でそう呟いたのだった。
アーユトールは大きな川沿いに築かれた町で、本来であればこの川と海を利用した水路でセラポンとの間を行き来していたらしい。今はその水路が使えなくなってしまっているため、きっと新道が開通すれば、それはきっとセラポンの人たちにとってだけでなく、アーユトールの人たちにとっても大切な道になるに違いない。
さて、アーユトールの町に入った私たちはまず、太守の館へと案内された。ここはまるで王宮かと見紛うほどの立派で巨大な建物で、真っ白な壁と赤い屋根、そして金の屋根飾りが特徴的だ。
「聖女様、ようこそお越しくださいました」
太守の館の前では、見るからに上質なシルクでできたジャケットのような独特な衣装を着た中年男性と、その彼と顔の似ている二十歳くらいの若い女性が出迎えてくれた。
「私はアーユトールの太守トンテプーと申します」
「はじめまして。フィーネ・アルジェンタータです。お出迎えいただきありがとうございます」
まずは中年男性が挨拶をしてきた。
「こちらは娘のシーナでございます」
「シーナでございます。お会いできて光栄です」
「こちらこそ、お会いできてうれしいです」
私はシーナさんに営業スマイルを返す。
「聖女様は女性だけで旅をしていらっしゃるとのことでしたので、滞在中のご案内は娘のシーナが務めさせていただきます」
「それはそれは、わざわざお気遣いいただきありがとうございます」
「いえいえ。聖女様をお迎えできたこと、大変光栄でございます。さ、どうぞこちらへ」
こうして私たちはトンテプーさんたちに案内され、太守の館の中へ入るのだった。
◆◇◆
その日は晩餐会を開いてもらうことになった。開始までは今最初の料理を用意しているところだそうなので、場を繋ぐためにも私は両隣に座っているトンテプーさんとシーナさんに道中でのことを話した。
「まあ、ハイディンはそのようなことに……。お父さま、アーユトールも何か手助けをしたほうが良いのではありませんか?」
シーナさんはハイディンの状況に心を痛めているようで、私を挟んで反対側に座っているトンテプーさんにそう訴える。
「そうだな。聖女様、我々もできる支援を考えてみます。シーサーペントさえいなければすぐにでも動けるのですが……」
「シーサーペントですか……」
どうにかしてやりたいが、海の上となると戦うのも一苦労だ。
「そういえば、そのシーサーペントは港を襲ってくることはないんですか?」
「ございますが、群れからはぐれた個体が一匹、たまにやってくる程度です。奴らは動いている船を狙いますので」
「そうですか」
となると、やはり退治するのは難しそうだ。それこそシャルの【雷撃】でも使えば海中に潜むシーサーペントたちをまとめて解放してあげられそうだけれど……。
「聖女様、よもやシーサーペント退治を……?」
トンテプーさんは期待するような表情で私の顔をじっと見つめてきた。私は申し訳なさで一杯になりながら首を横に振る。
「できればそうしたいのですが、ちょっと私たちには難しそうです。陸上に上がってきてくれるなら話は別ですけれど」
「左様でございますか……」
トンテプーさんはがっくりとうなだれる。
「お父さま、海の中のシーサーペントを退治することは至難の業です。シーサーペントに船を壊され、海に落ちてしまってはいくら聖女様といえども助かりません」
「……それもそうだな」
シーナさんはそうトンテプーさんを窘める。
「ええと、船は結界で守れるんです。ただ、海の中にいるシーサーペントに攻撃することができないんですよね。だからやられることはないと思いますけど、解放はしてあげられないんです」
「まあ! シーサーペントに攻撃されても壊れない結界ですか? さすが、歴代最高の【聖属性魔法】の使い手ですね!」
「ありがとうございます」
私が適当に相槌を打つと、シーナさんはキラキラした目で私のほうを見てくる。
「あの!」
「なんですか?」
「聖女様って、やっぱり昔は治癒師だったんですか?」
「はい、そうですね」
「そうなんですね」
シーナさんは何かを噛みしめているようだ。
「それがどうしたんですか?」
「あの……実は私、職業が治癒師なんです」
「ああ、そうなんですね」
「はい。それで、どうやったら聖女様のようになれるんですか?」
「それは……」
さて、どう答えたものか。まさかハゲた神様から設定用のタブレットを奪い取って割り振りました、なんてことは言えるはずもないし、言ったとしてもなんの助けにもならない。だからシーナさんでもできることを教えてあげたいのだが、治癒師は序盤のレベルの上げづらさがはっきり言って嫌がらせの領域だ。
もちろん職業システムを作った理由を考えれば、きっとそれは狙いどおりなのだろうが……。
「聖女様?」
「え? あ、はい。どう伝えようか悩んでいたんですが、やはりレベルを上げることが重要です」
「でもレベルは……」
「そうですね。ですからまずはなるべくたくさん【回復魔法】を使ってください。それこそ、毎日MPが空になるくらいまで使うんです」
私はそうやって【付与】などのスキルレベルを上げてきた。
「空になるくらいまで……そう、ですよね……」
「あとは少し危険ですが、大勢の信頼できる人と一緒に魔物と戦ってください」
「なっ!? シーナ! お前がそんな危険なことを!」
「お父さま! 黙っていていください!」
「う……」
トンテプーさんが話に割り込んできたが、シーナさんがそれをピシャリと遮った。
「聖女様、続きを教えてください」
「え? あ、はい。そうですね。あとは弱らせた魔物にトドメを刺して、解放してあげればレベルが上がりやすいと思います」
「魔物にトドメを……」
「はい。そうすれば経験値が獲得できますから」
「そう、ですよね……」
シーナさんは真剣な表情でそう呟いたのだった。
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